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「仲良し3人組」

 中学2年生の時、不良との喧嘩によりみんなから避けられていたあの頃が僕の頭を過ぎった。


「ちょっと待ってくれ……」


 今までの(と言っても1カ月しかない)学校生活を思い出す。

 授業も真面目に受けてたし、問題行動も起こしていないし、これといってヤンキーみたいなことをした覚えなんて一度もない。


「ヤンキーなんて言われる覚えないぞ」


「あれ? 不良3人を倒したんじゃないのかい?」


 ……不良3人を倒したことは晴矢やはっちゃんにも言っていない。

 知ってるのはあの場にいた水仙さんたち3人だけのはず……。


 僕は水仙さんたちの方を向く。

 3人とも下を向いたり、横を向いたりと僕と顔を合わそうとしない。


 なるほどな。


「あー、うん。それは事実なんだが、どういった経路でどんな情報が流れてるのか教えてくれないか?」


 僕は再びショートカットの女の子の方を向き聞いてみる。

 だって、3人を助けるために不良を倒した、といった情報が流れているならヤンキーだとは思われないはずだ。


「うーん、まずは紅葉君が始まりだったね」


 日光は名前を出されて肩をビクッとさせた。

 顔は下を向いたままだ。


「入学してから少し経った頃かな、『銘雪は不良3人を一撃で倒す力を持ってる』ってのをみんなに話してたよ」


 うん、大方予想通りだ。


「おい、日光……」


 僕に名前を呼ばれ、日光は急いで顔を上げる。


「ち、違う! 私はただ、不良から助けてくれた銘雪がかっこよかったのをみんなに伝えたくて……」


 その目には少し涙が浮かんでいた。

 こんなことになるなんて考えてもなかったのだろう。


 しかし、まぁ、なんだ……その顔は反則だろ……。


「いや、大丈夫。分かってる。分かってるから」


 僕は泣かれないよう、必死に日光に言い聞かせる。

 元々怒る気は無かったのだ。

 どうせ、この後さらに酷い事実を知ることになるだろうし。

 ただ、『助けてくれた』を付けて欲しかったな……。


「日光の次は?」


 日光が始まりなのは分かった。

 しかし、まだ問題は残ってる。

 ショートカットの子は『まずは』と言ったのだ。

 つまり次がある。

 まぁ、未だに僕から顔を逸らしている2人だろうが。


「陸がヤンキーだという噂が広まったあたりかな。牡丹君が『やっぱり陸さんは顔面草食系の中身肉食系だったわけですよ』ってみんなに広め出したのは」


 ははっ……。

 予想よりも酷かった。


「ち、違うんです! あれは、陸さんは肉食系だとみんなに伝えようと!」


「おかしいだろ⁈ なぜに肉食系であることを広める⁈ 普通そこは助けられたことを広めろよ! 何、余計に事態を悪化させることを言いやがってんだテメェは!」


「いや、陸さんが肉食系であることは認知してもらわないと」


 橘はキリッとした顔で言う。


「変なところに拘るな!」


 はぁ……肉食系の情報はなんのフォローにもならねぇよ……。

 っていうか、肉食系じゃないし。

 橘は今日の晩飯抜きだな。


「で、次は?」


 あとは水仙さんだが……駄目だ、水仙さんが僕に不都合な情報を流すなんて考えられない。


「最後は瑞樹君だね。肉食系の不良だと噂が広まりだした頃に、『りっくんは私たちを守るために、仕方なく不良を倒したんだよ』ってみんなに広めだしたんだ」


 ん? 何も誤解されるようなこともない、一番まともな情報じゃないか。


「ただ、みんながあまり信じないからって、『私たちを助けるために、ナイフを向けられても立ち向かい、ナイフで刺されながらも不良を倒したんだから! りっくんはとても優しい人なの!』っていう説得のしかたはちょっと……」


 あぁ、うん。それは怖いな。

 ナイフに刺されながらも不良を倒すとか普通じゃないよな。

 そりゃあ、助けられたという情報よりもそっちに目がいくわ。


 おおっと、これで頭がいかれたヤンキーの完成だ。


 水仙さんの方を見ると、水仙さんは手を合わしながら頭を下げた状態で固まっていた。


 まぁ、僕の誤解を解いてくれようとしてくれたことには変わりない。


「水仙さんのことも日光のことも、僕は怒ってない。日光は言葉足らずとは言え悪意はないし、水仙さんも僕の誤解を解こうとしてくれたみたいだしな。しかし橘、お前は許さん」


 な、なんでですかー⁈ と橘は叫んでいるが、僕はそれを無視する。


「で、それらの情報ってどこまで広がっているんだ?」


 学年いっぱいに広がっているなら、僕の残りの高校ライフは悲惨なものになるだろう。


「多分、クラス内の女生徒だけだと思うよ。男子には広がってはないかな」


「俺は今初めて知ったぜ」


「俺も」


 ショートカットの子の発言に対し、晴矢とはっちゃんが答える。

 どうやら、本当らしい。


 ……あー、だからさっき委員長から嫌な目をされたのか。

 今さらながらだが、この1カ月間は男と話した記憶はあるが、水仙さんたちいつもの3人以外の女生徒とは話した記憶はない。

 なるほど、そういうことだったのか。

 しかし、このままだと中2のあの時期みたいになってしまうかもしれない。

 ……いや、なりつつある。

 どうにかしないとな。


「でも、どうやら誤解だったみたいだね。実際に話してみて分かったよ」


「え?」


「君は怖いヤンキーなんかじゃなかった。賑やかで面白い人だったんだね」


 ショートカットの女の子は笑いながら言った。


「お、おう。ありがとう……なのか?」


 怖いヤンキーから賑やかで面白い人に変化か。

 悪くはないけど、1人の印象が変わっただけでは、全体の印象が変わらないことを僕は知っている。

 でも、ショートカットの子のように実際に話してみて、印象が変わる子もいるのも事実。

 林間学校で色々な人と積極的に関わってみるかな……。


「肉食系ヤンキーの話はもう終わりにして、そろそろ自己紹介に戻るぞ。次は委員長だな」


 晴矢は委員長を指差しながら言った。


 誰が肉食系ヤンキーだ。誰が。

 そう思いながらも、また話を止めてしまうのは流石に悪いため口には出さない。


「私は(あざみ) 彩芽(あやめ)と言います。部活は水泳部に所属しています。今回の林間学校ではみなさんと仲良くなれたらなと思います。よろしくお願いします」


 自己紹介が終わると委員長はお辞儀をする。

 僕らと違ってなんとも模範的な自己紹介だった。

 流石委員長といったところだろう。


 そんなことを考えていると委員長と目があったが、すぐに逸らされてしまった。

 委員長にはまだヤンキーだと思われているのだろうか……。


「じゃあ次はボクだね。ボクは公孫樹(いちょう) (かえで)。部活は空手部。ボクも今回の林間学校でみんなと仲良くなりたいな。よろしく」


 ショートカットの子は公孫樹という名前なのか。

 それにしても、


「リアルボクっ娘なんだな」


 僕はさっきから思ってたことをついつい口に出してしまった。


「やっぱりおかしいかい?」


 僕の言葉にたいして公孫樹は苦笑しながら言う。


「いや、全然おかしくない。むしろ、新鮮で可愛いと感じるくらいだ」


 ラノベとか漫画とかで、あ、このキャラいいなと思った中で、ショートカットボクっ娘がいたが、公孫樹はまさにそれと一致していた。

 いやぁ、それにしてもリアルボクっ娘か……感動ものだな。


「か、可愛いって……少し照れるな」


 僕の言葉に対して、公孫樹は恥ずかしげに笑う。


「でも、あまり誰かれ構わずそんなことを言ったらダメだよ。中にはセクハラに感じる人だっているからね」


「セクハラだな」


「セクシュアルハラスメント」


「セクハラ」


「セクハラだね」


「セクハラですね」


「セクハラだと思います」


 公孫樹の言葉に続き、僕以外のみんなが口々に言った。


 まさか、委員長にまで言われるとは……。

 僕はただ正直に自分が感じたことを言っただけなのに。


「ま、ボクは嬉しいからどんどん言ってくれて構わないんだけどね」


 ショックを受けていた僕を気遣ってくれたのだろうか。

 公孫樹は笑顔で僕に言った。

 その顔は少しだけ赤く染まっている。


「さ、こんなことで時間も使うのはあれだから次にいこ。次」


 公孫樹は水仙さんを指差す。


「そうだな。いちいち話を止めらたら、自己紹介だけでこの時間を潰してしまうかもしれない。残り3人の自己紹介は続けて聞いて、残りの時間で質問したいことはしようか」


 晴矢は僕を見ながら笑顔で言う。


 晴矢の笑顔はなかなか見れないレアものだが、なぜだろう、すごく怖い。

 これは僕が悪いのだろうか……。


「私は水仙 瑞樹です。部活は手芸部に所属してます。林間学校はみんなと沢山いい思い出を作りたいな。よろしくね」


「私は日光 紅葉。部活は右に同じ。よろしく」


「私は橘 牡丹です。部活は手芸部です。私もみなさんと仲良くなれたらいいと思いますし、沢山いい思い出を作りたいです。よろしくです」


 3人は次々と自己紹介をしていった。

 橘が案外まともな自己紹介をしたことに少々驚きを感じたが、日光は相変わらずだな。


「よし、自己紹介は終わったな。俺もみんなといい思い出を作りたいが……」


 晴矢は言いながら僕とはっちゃんの方をちらりと見る。


「嘘つきと肉食セクハラヤンキーがいるからな……。いなかったら、最高の思い出が作れたのに残念だ」


「誰が肉食セクハラヤンキーだ⁈」


「嘘つきじゃねぇ! この毒舌無個性!」


 僕とはっちゃんは怒鳴りながら席を立つ。


「お前ら落ちつけ。せっかく班員で仲良くする時間なのに争いを起こしてどうする? いい思い出が作れんぞ」


「「誰のせいだ!」」


 僕とはっちゃんは今にも晴矢に跳びかかりそうな勢いである。


「それに毒舌無個性ってなんだ? 毒舌が入ってる時点で無個性ではないだろ?」


「むきー!!」


 晴矢の言葉に限界を突破したのだろう。

 はっちゃんは晴矢に跳びかかろうとした。その時だった。


「ふふっ」


 笑い声がした。

 はっちゃんと晴矢は止まる。

 そして僕たちは笑い声がした方を向く。

 笑ったのは公孫樹ではなく委員長だった。


「ごめんなさい。本当に仲がいいなぁって思って」


 委員長は笑顔で言った。


「今のどこに仲良し要素が……?」


 僕は首を傾げる。


「仲が良さそうに見えますよね?」


 僕の言葉に対して委員長は水仙さんたちに聞いた。


「はい。見えますね」


「見えるというより、実際に仲良しだよね」


「よく3人でいるし」


「どっからどう見ても仲良しだね」


 委員長の問いかけに他の4人は答える。


「ね?」


 そして、その答えを聞き委員長は僕らに向けて笑顔で言った。


 僕らは互いの顔を見合わせ席に着く。

 みんなの言葉で、なぜか少し恥ずかしくなった。

 多分、はっちゃんと晴矢も同じ気持ちだろう。


「おーしっ。今日はここまでだ。明日は係を決めてもらうからな」


 僕らが席に着いて少しして、先生が教室に戻ってきた。

 そして、先生が言い終わってすぐに終了のチャイムが鳴った。


「じゃあ、また明日だね」


「そうだね」


 水仙さんと公孫樹はそれぞれの席に戻る。

 それに続き委員長、橘、日光も戻っていく。


 さあって、僕も帰るか。


 家に帰るために机の横にある鞄を肩にかける。


「なぁ、お前ら」


 声がした後ろを振り返ると晴矢がいる。


「どうした? まだ何か言い足りないのか?」


「俺は早く帰りてぇよ」


 僕とはっちゃんはうんざりとした表情で言う。


「いや、そうじゃなくて……」


 晴矢は頰を人差し指で掻きながら、言いにくそうにしている。


「あー……3人で久々に遊びにいかね? ラーメンとか食べたりさ?」


 晴矢の言葉に僕とはっちゃんは顔を見合わせる。


「仕方ねぇな。僕も今日はラーメンって気分だからついて行ってやるよ」


「はるちゃんの奢りなら俺は行くけど」


「あ、じゃあ翔はいいや」


「嘘嘘嘘! 行きます! 行かせてください! お願いします!」


 はっちゃんは必死に頭を下げる。

 それを見て、僕と晴矢は笑った。

 はっちゃんも顔を上げ、一緒に笑う。

 高校生になってから初めて3人で笑い合ったかもしれない。


「俺、お前らと同じ班で良かったわ」


「僕も」


「俺もだ」


 僕たちは顔を見合す。

 そして3人は再び笑い合った。

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