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「好きな人と同じ班になりたいと思うのは当たり前」

 木々はすっかり緑色になり、陽射しがだんだん強くなってきたと感じる5月の中旬。

 僕はなんとも言い知れぬ高揚感を味わっていた。

 高校に入って初めての中間考査を乗り越え、林間学校を迎えようとしているからだ。

 厳密にいうと今から班を決め、1週間後に行くのだが……まぁ、テストが終わったという開放感は凄い。


 テストの結果なんてそんな無粋な事を聞いてはいけない。

 どうせあと11カ月の命なのだ。

 赤点を取らないことさえ頑張ればいい。

 それよりも大切なのは、今から始まるホームルームで決まる林間学校の班決めだ。

 なんとしてでも水仙さんと同じになりたい。


 結局のところ4月中に告白はできなかった。

 不良との一悶着や、告白ができなかったあれからというもの、何度も水仙さんと遊ぶ機会はあったのだが、必ず余計な者が付いてきて、2人っきりで遊ぶことはなかった。

 しかも、水仙さん、日光、橘の3人は手芸部に入ったため、都合が合う時間も減り、2人の仲が進展することもなく、ずるずると5月を迎え、テストも終わり今に至る。

 だから、なんとしてでも初めてのイベントで一緒の班になりたいのだ。


「おーしっ、お前ら席につけ。今からお楽しみの班決めを始めるぞ」


 休み時間の終わりを告げるチャイムと同時に、無精髭を生やした渋いおっさん感のある我らが担任のカド先こと門田先生が入ってきた。


「「「「イィィエエェェェェェェェェェェェェイイィィ!!!!」」」」


 男子たちの歓声が湧き上がる。

 この1カ月を過ごして分かったことだが、A組の男子たちは良い意味でとにかくうるさい。

 真面目な時は真面目にし、ふざける時はふざける。

 メリハリがしっかりつけれるやつばかりだ。

 だから、テストの時は驚くぐらいに静かだった。

 もう、みんな死にそうな顔をして……あぁ、テンションがただ単に低かっただけか。

 まぁ、その反動であろうか、今はいつも以上にうるさい。


 それに比べて女子の方はおしとやかな人が多く、常に静かだ。

 今だって、男子に混ざって歓声を上げていたのは女子の中でただ1人、橘だけだった。


「カド先! 班はどのように決めるんですか⁈」


「男1の女多数のハーレム構成はあるのですか⁈」


「彼女と一緒の班がいい!」


「林間学校はカップルが出来やすいって本当ですか⁈ 俺にも彼女は出来ますかね⁈」


 男子たちは次々に門田先生へ質問を投げかける。


「おいおい、お前ら少し落ち着け。班決めはくじ引き。班構成は男4と女4の班が4つに、男3の女5の班が1つ。クラスメイトと親睦を深めるための林間学校だ、リア充は爆発しとけ。そして林間学校はカップルが成立しやすいが八手、お前に彼女はできん。以上だ」


 先生は淡々と男子たちの質問に答えた。


「ここに男子用のくじ引きと、女子用のくじ引きがある。出席番号の最初と最後のやつがじゃんけんをして、勝ったやつから引きに来い」


 先生はそう言いながら2つの箱を机の上に置いた。

 出席番号1番の髪型お下げで眼鏡をかけてる我らが学級委員長と、出席番号最後のはっちゃんが席を立ち、じゃんけんを始める。

 勝ったのは、はっちゃんだった。


「じゃあ八手から出席番号の遅い順で取りに来い」


 そう言われてはっちゃんがくじを引きに行く。

 僕は後ろから3番目のためすぐに順番が回ってきた。

 僕は箱の中から一枚の紙を取り出す。

 その紙にはEと書かれている。

 Eか……もしかして男3の女5の班かもしれない。


 僕はちらちらとこちらを気にしている橘に紙を見せながらアイコンタクトを送る。


 水仙さんと一緒の班にできるか?


 橘は神の使いだ。

 もしかしたら、どうにか出来るかもしれない。

 その意図を汲み取ってくれたのか、橘はコクリと頷く。


 そして橘の順番が来た。

 橘はくじを引くと、満面の笑みで僕の方を向いた。

 紙を僕に見せつけ、親指を突き立てる。

 その紙にはEと書かれている。


 いや、そうじゃねぇよ?


 橘は僕が同じ班になりたいとアイコンタクトをしたと思ったのだろう。

 僕は急いでアイコンタクトを送る。

 なんとか水仙さんが引くまでにどうにか伝えなければ。

 しかし、結局は伝わらなかったのか、橘は首を傾げている。

 そうこうしているうちに水仙さんの順番が来た。


 あぁ、もうこうなったら神頼みしかない。

 僕は目を瞑り、手を組みながら願う。

 頼む神様。


『僕と水仙さんを同じ班にして下さい』





「全員引いたな。じゃあ、紙に書かれた班員同士で固まれ」


 先生はそう言ったあと、A.B.C.D.Eと席をそれぞれ振り分ける。

 僕のところが丁度E班にあたるので、僕は動かずに待つ。

 橘は決まっているから、あとは男2人と女4人。


「あれ? ゆっちゃんもE?」


 後ろから声をかけられ振り向くと、2つ後ろの席に、はっちゃんが座っている。


「おう、よろしくな」


 とりあえず仲のいい男友達がいるのは心強い。

 はっちゃんも同じ気持ちなのか、笑顔で手を上げ「よろしく」と言う。


「おいおい、この林間学校は面倒なことになりそうだな」


 そう言いながら僕とはっちゃんの間の席に1人の男が座った。


「マジかよ。晴矢も一緒かよ」


 僕は驚きを隠せずに言った。

 もしこの班が男3人であるなら、この3人で男は決まりだ。

 僕にとっては親友2人と一緒なのは大変喜ばしいことだ。


「よく見るメンツね」


「そうですね。これは神様に感謝しないとですねー」


 そう言いながら、僕の前と左斜め前の席に日光と橘が座る。

 橘は笑顔でこっちを見てくる。


「おぉ! いつものメンバーだ。なんだか安心するね」


 そして僕の隣に水仙さんが座った。

 僕は嬉しさのあまり心の中で発狂する。


 神様……ありがとうございますっ!

 いや、もしかして橘か?


 僕は橘の方を見るが、橘はキョトンとした顔で僕を見つめ返す。


 あ、こいつではないな。


「ここがE班であってる?」


 声がした後ろを向くと、黒髪ショートカットの女生徒が晴矢に話をかけている。


「うん、あってる」


 晴矢がそういうとその女生徒は晴矢の隣に座った。

 あと、1人か。


「私E班です。あの……ここで合ってますか?」


 次は前から声がしたのでそちらを振り向くと、委員長が橘たちに声をかけていた。

 その時、僕と委員長は目があった。

 なぜだろう……嫌な顔をされたような気が……。


「あってますよ」


 橘がそういうと、委員長は早々とはっちゃんの隣に座った。


「よーし、班に分かれたな。今から班に一枚日程を配るぞ」


 みんなが席に着いたのを確認し、先生は各班に一枚ずつプリントを置いていく。

 僕らはプリントに目を通す。

 大まかな日程は次の通りだ。


1日目:カレー作り

   肝試し

2日目:レクリエーション

   川遊び

   肝試し

3日目:山登り

   キャンプファイヤー

4日目:帰宅


 いや、ちょっと待て。


「先生、なんで肝試しが2回もあるのでしょうか? 印刷ミス?」


 僕が疑問に思ったことを先にある女生徒が質問した。


「それはお前、あれだ。お前ら好きだろ? 肝試し」


 先生の返答はさっきの男子たちのに比べ、今回はかなり適当だった。


「いくら好きだと言っても2回はおかしいんじゃ……」


 女生徒の質問に先生はため息を吐く。


「実際のところ、先生も印刷ミスだと思って他の先生に聞いて見たんだが、本当に2回あるらしい。どうやら生徒会が絡んでるみたいだが、先生はよく分からん。聞きたいことは他にもあると思うがそれは次の時間で、とりあえず残りの時間は同じ班のやつと交流しろ。それほど絡んだことがないやつも中には沢山いるだろ」


 先生はそう言うと教室から出ていく。

 多分、他にも色々と質問をされると面倒だからだろう。


「だとさ。じゃあ、とりあえず自己紹介をしていこうか。あまり話したことがない人もいるし」


 一番初めに口を開いたのは晴矢だった。


「うん。いいかもそれ」


「僕も賛成で」


 日光と僕は晴矢の意見に賛成する。

 僕はいつものメンバー以外のクラスメイトの名前をあまり覚えていないからだ。

 現に、一緒の班になったショートカットの子と委員長の名前も分からない。

 自己紹介なら入学式の時にもしたが、はっきりとは覚えていなかった。

 言い訳になるが、あの時は橘に色々と聞くことを考えていてそれどころではなかったのだ。


「私もいいけど……誰からするの?」


 委員長も賛成したが、その一言でみんなが沈黙する。

 普通は言い出しっぺの晴矢からだろう。

 僕が晴矢の方を見ると、丁度晴矢も僕を見てきた。


「陸。お前我先にと言いたそうな顔しているな」


 おい。


 みんなの視線が僕に集中する。


「っ……分かったよ。僕からやるよ」


「じゃあ、陸から時計回りで」


 晴矢は僕が了承すると、早々と順番を決めた。


 こいつ後で覚えてろよ……。


 僕は自己紹介をする前に軽く咳払いをする。


「銘雪 陸です。趣味は読書。部活は帰宅部。よろしく」


 なんだろうか……僕のことを知っている人がほとんどの中で自己紹介をするのって凄く恥ずかしく感じる。


「ありきたりな無個性だな」


「つまらねー」


 そんな僕の自己紹介を聞き、晴矢とはっちゃんは不満をもらす。


「うるせぇ! いきなり自己紹介をしろと言われてユーモアあるものを言えるほど僕の頭は出来ちゃいないんだよ! これでも頑張った方だ!」


「はいはい、分かってる分かってる。次は俺だな」


 晴矢は僕を軽くあしらい、咳払いをする。


「俺は隣にいる無個性の親友、冬木 晴矢だ。趣味は釣り。部活は帰宅部。よろしく」


「お前もほぼ一緒じゃねぇか!」


 何が違うかと言われれば、冒頭部分だけだった。

 晴矢は「うるせぇなぁ」と僕をあしらう。


「はぁ。2人とも自己紹介がなっちゃないな。俺がお手本を見せてやるよ!」


 はっちゃんはそういうと勢いよく席を立つ。


「俺の名前は八手 翔! 趣味は料理! 部活は俺には必要ねぇ! 付き合った女は星の数! 今は絶賛彼女募集中! よろしくね!」


「「ダウト!」」


 僕と晴矢は、はっちゃんに向かって叫ぶ。


「嘘じゃねぇよ! 絶賛彼女募集中だ!」


「それじゃねぇ! 何が趣味は料理だ! 初耳だぞ! モテようとして嘘をつくな!」


「そうだ。何が付き合った数は星の数だ。笑わせるな。お前とは幼稚園からの付き合いだが、そんな話聞いたことない」


「だから嘘じゃないって! 料理はガチな趣味だし、ゲームとか自分の脳内で沢山の女を落としてる!」


 うわぁ……。


「ふっ……あはははは!」


 急な笑い声がし、僕らの視線はそこに集中する。

 ショートカットの女の子が笑っていた。


「いや、ごめんごめん。笑うのずっと我慢してたけど、3人ともコントしてるみたいで、面白くってもう我慢の限界で……」


 ショートカットの女の子は目を擦りながら言った。


「俺らが面白いって……結構変わってるな」


 晴矢は僕とはっちゃんの顔を見渡して言う。


「うっ……なんか傷つくなぁ」


 ショートカットの女の子は晴矢の言葉にダメージを受ける。


「そうよ。こいつらはいつもこんな感じ」


「もう慣れましたね」


「賑やかで私は好きだよ」


 日光、橘、水仙さんは次々に言う。


「へぇ。でも陸のイメージはボクが思ってたのと全く違うくて、少し驚いたな」


 ショートカットの女の子は微笑見ながら僕を見て言った。


「イメージが違うって……どんな?」


 ショートカットの女の子と僕は関わった記憶は1つもない。

 どんなイメージを持っていたのだろう?


「どんなって……ヤンキーかな?」


 …………うぇい?

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