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「生きたい生き方」

 家に帰った僕を待っていたのは、とても綺麗な正拳突きだった。


「もー! どこに行ってたんですか! 帰ってこないから、何回も連絡したのに返信こないし! 今日のこと怒って2度と帰ってこないんじゃないか心配したんですよ!」


 橘は玄関の床で倒れている僕に嵐のように怒鳴り散らした。


「いや、ここは僕の家なんだから帰るに決まっているだろ……。監視が役目なのに僕がどこにいるかとか分からないのか……?」


「分からないですよ! だからこうして心配しているのです!」


 心配してるやつが、帰ってきた瞬間に正拳突きをくらわしてくるか普通……。


「あのな、こっちも心配だったんだぞ」


 僕は体を起こしながら言う。

 橘は首を傾げる。


「何が心配だったんですか?」


「……お前が帰ってくるかどうかだよ。その……昼休みにあんなことを言ってしまったし……」


 橘はあっ、と口を開ける。


「あの件はごめんなさい……私が悪かったです……。わざわざ聞かなくていいことを聞いてしまったので……」


 橘は気まずそうに僕から目をそらす。


「こちらこそ、ごめん。あれから1人で考えて分かったんだ。僕はやっぱり人を助けたい、誰かのために生きたいって。自分自身についていた嘘で、橘のことを傷付けてしまった。本当にごめん」


 橘は驚いた顔で僕を見る。

 そして優しく微笑む。


「良かったです。それを聞いて安心しました」


 僕はその笑顔に少しだけ、本当に少しだけだがドキッとした。


「そろそろ、晩ご飯にしようか」


 僕は急に照れ臭くなり、話題を変える。


「あ、その前にこれを」


 橘は群青色の手の平サイズの巾着袋を僕に向かって突き出す。


「なんだこれ?」


「御守りみたいなものです。天界にいた時に作ったのですが、渡すのをすっかり忘れていました」


 僕はそれを受け取る。

 見た目の割にかなり重たい。


「御守りか……恋愛成就とかか?」


「うーん……陸さんの残りの人生上手くいきますように、ですかね?」


 橘は首を傾げ疑問形で言った。


「絶対今考えただろ!」


 しかも大雑把すぎる。


「作り始めはやる気満々で、完成すると急に何かが冷めていく。よくある話です。私も御守りが完成した途端、急に何かが冷めて、何の効能があるのかを決めるのが面倒になってしまったのです」


 ……なぜそんなことを得意げな顔で言えるのだろうか……。


「いや、まず最初に効能を決めてから作るもんなんじゃないのか……。しかもそんな不完全なものを渡すなよ……」


「まぁ、リアル神の使いが作ったものですし、何か効能はあるでしょう。いや、そこいらの人間が作った御守りよりも絶対にあるはずです!」


「本当、その自信はどこから湧いてくるんだ……」


 一応僕はそれをポケットにしまい込む。


「ふふっ。なんだかんだ言いながら受け取ってくれるのですね」


 橘は嬉しそうに声を弾ませながら言う。


「せっかく作ってくれたんだ。効果があろうがなかろうが、貰えるものは貰っとく」


 それを聞くと、橘はまた笑った。


 誰かからの手作りでのプレゼントはこれが初めてで、少し感動したが、恥ずかしくて言えなかったのを、橘は分かっていたのかもしれない。


 僕はそう思うとさらに恥ずかしくなり、恥ずかしさを紛らわすために台所に向かった。






 結局、大切なことは何も言えずじまいだった。

 晴矢に全てを話したことや、それのせいで願いを叶えるかどうかを迷っていること。

 何度も言おうと思ったが結局は言えなかった。


 僕は敷布団で幸せそうに寝ている橘を見ながらため息を吐く。

 いや、話したところで何も変わらない。

 それが分かっていたからこそ、僕は話さなかった。

 でも、晴矢に伝えたことだけは橘に報告しとかないといけないだろう。

 明日は土曜日で学校は休みだから、じっくり話せる。


 とりあえず今日は寝よう。

 僕は瞼を閉じる。

 僕の意識はそのまま、ゆっくりと深い闇にのまれていった。







 僕には姉がいた。

 「みんなのために」が口癖の10歳も歳が離れていた姉。

 姉は常に誰かのために生きていた。

 自分よりも他人のことを第一に考えて行動していた。

 将来は警察官になりたいと言っていた正義感の塊のような姉は、僕にとって誇りであり、憧れでもあった。

 しかし、僕が小学二年生の時に姉は高校三年生という若さで死んだ。

 誰かのために生きた姉は、最後も誰かのために死んだ。

 道路に飛び出した子どもを助けようとして、車に跳ねられたらしい。

 それを聞いた時、僕もそんな生き方がしたいと思ってしまった。

 誰かのために生き、誰かのために死ぬ。

 そんな生き方を……。


 姉が亡くなったあと、僕は姉のように生きるため、積極的に困っている人に関わった。

 人が嫌がってやらないことも、代わりにやってあげた。


 自分が損をしても誰かの肩代わりになるならそれでいい。誰かが幸せなら、自分も幸せになれる。

 僕が姉に、なんで誰かのために行動するのかを聞いた時に答えてくれた言葉。

 僕は誰かのために行動するたびに、この言葉を思い出した。





 中学二年生の時、僕はいじめに気付いた。


 いじめられていたのは和也というクラスメイトだった。

 和也とは2年生で初めて同じクラスになったが、僕と1度も話したことがなく、誰かと一緒にいるのも見かけたことがなかった。

 いわゆるぼっちだった。

 そんなやつが、悪い噂しか聞かない同じクラスの不良4人組とコンビニ前で一緒にいるのを見ると、おかしいと思うのは当然のことだろう。

 和也だけがコンビニに入ってきて、不良4人組は店の前で待っていた。

 店に入ってきた和也はとても挙動不審で、店員からも明らかに目をつけられていただろう。

 和也は20円のチョコを手に取り、あたりを何度も見回し、ポケットにしまい込んだ。

 僕はそこで和也に声をかけた。


「よっ、同じクラスの銘雪だけど……流石に分かるか。何を買いに来たんだ?」


 和也とはこれが話すのが初めてだったためか、驚いた顔をしていた。


「あ、あぁ、銘雪君。欲しかったお菓子があったんだけど……無いみたい……」


 和也はおずおずと答え、「じゃあ」と手を挙げ、その場を立ち去ろうとする。

 僕は和也の肩を掴み動きを止めた。


「おい。いくら安いものをパチったところで、罪の重さは変わらないぞ」


 僕の言葉に和也の体がビクッと反応した。


「君たち、少しいいかな?」


 後ろから声をかけられ振り向くと、店員が立っていた。


「あいつらにやれと言われたみたいです」


 僕は店の外でたむろしている不良4人組の方を指差す。


「ちょ、銘雪君……」


 和也はおどおどしながら、僕の手を下ろさせようとする。

 そんなことをしていると、不良4人組はこちらの状況に気付いたのか、いそいそと立ち去っていった。


「はぁ。まだ店から出てないから警察とか学校には連絡しないけど、万引きは立派な犯罪だ。たとえ、人からやれと言われても、やった本人が責任を負わないといけない。だから絶対にするな」


 店員はまるで泣いてる子どもをなだめるように和也に注意した。

 和也は目に涙を浮かべ、何度も店員に謝っていた。




 その後、僕たちは店を出て一緒に歩いていた。


「なぁ、なんであんなことをしろと言われたんだ?」


 僕はずっと俯いて歩いている和也に話しかける。


「……中学1年生の3学期から僕はあいつらに目をつけられた……。パシリに使われたり……奢らされたり……暴力を受けたり……今まで色々と酷い目にあわされてきた……」


 和也はポツリ、ポツリと呟くように言う。


「だけど、今日は少し違った。もう飽きたから、これが最後の暇つぶしだと……なんでもいいから万引きしてこいって……」


 和也の目から涙が溢れる。


「本当は嫌だったよ……! でも、最後だって言ってくれたから……。なのに、僕は何もできなくてまた明日から……」


「そんなことはさせない」


 和也は「えっ」と言い、こちらを見る。


「明日、僕と一緒に先生に言いに行こう。行動すれば何か変わるかもしれない」


 僕がそう言うと、和也の目から更に涙が零れた。

 ありがとう、ありがとう、と何度もお礼を言いながら和也は泣いていた。


 次の日、僕は和也と一緒に担任の先生に色々なこと報告した。

 担任の先生はじっくり話を聞いてくれて「他の生徒からも情報を集め、必ず対処する」と言ってくれた。

 これで一件落着、全てが丸く収まる……はずだったのに……。






 その次の日、僕は担任の先生に呼ばれ、生徒指導室にきていた。


「昨日話してくれた和也のいじめの件なんだがな……」


 先生はなかなか次の言葉を切り出さない。

 何か言いづらそうにしている。


「どうしたんですか?」


 僕は何か問題でもあったのかと思いながら、先生に尋ねる。


「その……和也を虐めていたのは、銘雪。お前だったんだな」


 ……は?


「先生は正直がっかりしている。お前みたいな正義感の強い生徒が、まさか誰かに罪をかぶせようだなんて――」


「ちょっと待って下さい!」


 一瞬何を言ってるかよく分からなくなり、呆然としてしまったが、気がつけば我にかえり先生の言葉を遮っていた。


「どういうことですか⁈ なんで僕が⁈」


「あのあと、他の生徒に聞いたら、みんな口をそろえて『知らない』と答えた。結局何の情報を得られないまま、その後、当事者の4人にも話を聞いたんだ。そうしたら銘雪がやっていたと話したよ」


 なんだよ……それ……!


「先生はあっちの言うことを信じるんですか⁈ 虐められていた本人があの4人だと言っているのに!」


「まぁ、待て。この話には続きがある」


 その言葉を聞いた時、なんとなく気付いてしまった。


 あぁ、そういうことか……


「その後、和也を捕まえて話を聞いたら和也はこう言ったよ」


 僕は……


「銘雪に脅されて嘘をついた、と」


 見事に裏切られた……。



 放課後に親と一緒に生徒指導室にきてくれと先生に言われ、解放された僕がまず向かったのは和也のもとだった。

 和也は廊下で1人歩いていた。


「和也!」


 和也はビクッとし、こちらを振り返る。


「なぁ、なんで嘘をついた?」


「…………」


 僕の問いかけに対して和也は黙っている。


 「なんでよりによって僕なんだよ! 他にも罪をなすりつけれるやつなんか沢山いるだろ! なんで僕が! お前を助けて――」


 そこで気付く。

 あぁ、僕が助けたからだ。

 僕が助けてしまったから、僕が標的にされてしまった。


「……なぁ、もう余計なことはやめてくれ……」


 そう言った和也の声は震えていた。


「余計なこと……だと……? お前は助けを求めていただろ? 誰も助けないから僕が助けてやったのに!」


「それが余計なんだ。銘雪君が余計なことをすればするほど僕は苦しまなきゃいけない。銘雪君がやっているのは独善なんだよ」


「お前……!」


 僕は和也の襟首を掴む。

 その時、僕は見てしまった。

 和也の胸の上あたりに、痣のようなものがあるのを。

 よく見ると、口のあたりに怪我をしているのを。


 和也の目から涙が流れる。


「なぁ……。もう僕に構わないでくれ……」






 僕は屋上に来ていた。

 よく不良4人組が溜まり場にしている屋上だ。

 案の定、不良4人組はそこにいた。


「あれ? いじめっ子の銘雪君じゃないですか?」


 1人が僕に気付き、ニヤニヤしながら言った。

 他の3人も笑っている。


 しかし、僕は何も言わない。


「ん? なんだよ? 何も言わず、ジロジロこっちを見やがって」


 1人が僕に近づいてくる。

 僕の目の前まで来ると、そいつは立ち止まり、拳を振り上げ僕の顔を殴った。

 僕は倒れる。

 そして、4人の笑い声が聞こえる。


「……なぁ、どうしてお前らはそうやって簡単に人を殴れる……?」


「あぁ?」


「……お前らが和也を脅したんだろ?」


 僕は体を起こす。


「脅した? 何言ってんだお前? あいつが嘘を言ってたから、本当のことを言うように躾けただけだが?」


「そうか……躾けか……」


「さっきからお前ずっとひと――」


 そいつは最後まで言葉を言えなかった。

 僕が全力で殴ったから。

 そいつは吹っ飛び、他の3人は驚いた顔をする。


 誰かを気付けるのは怖い。

 だけど、こいつらは人の姿をした人ではない何かだ。

 簡単に人に手を出す、こんなやつらが普通の日常を送っていいはずがない。

 誰かを不幸にしてまで自分たちが幸せになろうとするこんなやつらが許せなかった。


「テメェ!」


 不良の1人が凄い剣幕で僕に殴り掛かる。

 僕はその拳をまともに顔面へともらったがなんとか踏ん張り今回は倒れない。

 そんな僕に追い打ちをかけるため他の2人の不良も僕にへ向かって突っ込んでくる。

 僕はそれらを迎え撃つため拳を構えた。


 



 気が付けば全てが終わっていた。

 不良達4人と僕は倒れている。


「お、おい! 何してるんだ! こんなところで!」


 声がした方を向くと先生がいた。


「そこから動くなよ! 今から他の先生も呼んでくるから!」


 先生はそう言うと、急いで屋上から出て言った。

 動くなよ、と先生は言っていたが動けるわけがなかった。

 全身ボロボロで立ち上がることすらできない。

 もし、1対4だったら僕だけがぼこぼこにされて終わっていただろう。


 あぁ、それにしても……


 自分が正義だと思い拳を思いっきり振るった。

 これは間違いなんかじゃない。

 僕がやっていることは正しい、と。

 しかし、僕の中に残っているのは、体の痛みと久々に人を殴った嫌な感触、そしてただの虚無感。

 ただそれだけだった。




 その後、再び生徒指導室に呼ばれ、僕は全てを話した。

 先生は再び、和也やクラスメイトたちから話を聞き僕の無実は証明された。

 しかし、僕は不良達を殴ったため、不良たち共々一週間の停学処分を言い渡された。

 あとから聞いた話によると、1人以外は鼻を折ったり、目を怪我したりと病院に行くことになったらしい。

 自分が思ってる以上に人を傷付ける力があることに気付き、僕は他人を傷付けるのが更に怖くなった。



 停学あけから学校に登校すると僕の噂はだいぶ広まっていた。

 僕がクラスに入ると、賑やかだったクラスが一気に静まり返った。

 なんだろうか?

 僕は不思議に思いながらも、全てを話してくれた和也に礼を言うために近づく。

 もし、誤解されたままだったら、停学一週間では済まされなかっただろう。


「和也」


 名前を呼ばれ、和也はぎこちなくこちらを振り向く。


「全部話してくれてありがとうな。おかげで一週間で帰ってこれた」


「そ、そう。なら、良かった」


 和也はなぜかおどおどしながら返事をする。


「どうしたんだ? そんなにおどおどして?」


「え……いや、ごめん。怒ってないのかなぁって」


「怒るって……何に?」


「いや、だから、その……僕が銘雪君を裏切ったこと……」


 僕はその時気付いた。

 和也の目は明らかに、恐怖していた。

 他のみんなも、僕のことを恐怖感のこもった目で見ている。


「あぁ、全然大丈夫。あ、じゃあ、席に帰るわ」


 僕は席に急いで帰る。

 噂話による、いっときの空気感であることを信じて。




 しかし、それからのクラスメイトの僕に対する態度は変わった。

 気さくに話しかけてくれてたやつは話をかけてくれなくなり、僕と関わろうとすることをみんな避け出した。

 それは、虐めてやろうとか、無視してやろうとかそう言ったものではなく、恐怖心によるものであることはすぐに分かった。


 ある時、プリントを運んでいた同じクラスの女子とぶつかった。

 女生徒は尻餅をつき、プリントはバラバラに散らばった。


「ごめん! 大丈夫?」


 僕が手を出し駆け寄ると、女生徒の目の色が変わった。


「ごめんなさいごめんなさい! 私の不注意です! だから、その……怒らないで……」


 女生徒は急いでプリントを拾い上げ、逃げるようにこの場から立ち去っていった。


 ……なんだよそれ…………。


 僕はただ呆然と佇むしかなかった。




 僕は部屋のベッドに横になっていた。


 人を助けるために努力するのは間違いではないはずだ。

 しかし、どうしても考えてしまう。

 人を助けない方が、自分は幸せな人生を歩めるのではないか、と。

 掃除を代わりにしなければ、汚れることはなかった。

 人を待たなかったら、遅れることはなかった。

 虐めを見て見ぬフリさえしとけば、裏切られることはなかった。

 虐めさえ助けなければ、みんなから避けられることはなかった。


 自分が損をしても、誰かの肩代わりになるならそれでいい。誰かが幸せなら、自分も幸せになれる。

 誰かのために行動するたびに思い出していた姉の言葉は、僕にとってそれが幸せであると言い聞かせるための言い訳でしかなかった。

 本当は僕が傷付いてるだけで、何も得をしないって分かっていたから……。


 誰かのために生きようと思うのは間違いではない。

 しかし、世界は間違いの方を多く認める。

 こんな間違いだらけの世界で、生きてる意味なんてあるのだろうか……。


「姉さん……僕は姉さんのように強く生きれないや……」


 僕はベッドの上で1人呟き、涙を流した。






 今になって、どうして過去のことを夢に見るのだろう……。

 僕はずっと、中学生の頃のあの出来事をぼんやりと眺めていた。

 今は何もない真っ暗な空間にいる。

 まだ夢を見ているのだろう。


「なぁ、お前は本当に後悔しないのか」


 声が後ろから聞こえ、振り向くと中学生の頃の自分がいた。


「何が?」


 僕は分かっていながらも聞く。


「誰かのために生きようとすることだ」


「……あと、一年しか生きられないからな。あと一年なら、一度諦めたあの生き方を、諦めず生きぬくことが出来る気がするんだ」


「お前が人を助けたいって本当に思ってることは認める。でも、人を助けない方が楽だってことも気付いているだろ? あえて、お前は苦しい道に行こうというのか?」


「あぁ、そうだ」


「そこまでしないと、生きていこうと思えないのか?」


「……」


 僕はその質問には答えない。


「まぁ、なんにせよ、お前はきっと後悔する」


「あぁ、そうかもな。それでも、僕は生きたい生き方をする」


 中学生の頃の僕はそれを聞き、軽く笑みを浮かべる。


「そうか……。頑張れよ」






 目が覚め、時計を見ると朝の9時を指していた。

 長い夢だったな、と思いながら隣を見る。

 まだ橘は幸せそうな顔をして寝ている。


 結局、願いを叶えるかどうか決めてはいない。

 しかし、せっかく誰かのために生きようと決心出来たのだから、それはやり遂げたい。

 例え願いを叶えられなかったとしても、誰かのためにこの一年を使おう。

 僕は再び決心する。

 誰かのために生きる。それが今、僕が生きている理由だ。

 今はそれでいい。


 その時、家のインターホンが鳴った。

 こんな時間に誰だろうか?

 僕はパジャマ姿のまま一階に降りる。


「はいはい。どなたですか?」


 玄関のドアを開けながら僕は尋ねる。


「え? りっくん……?」


 そこには水仙さんが驚いた顔で立っていた。

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