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幼児体型の愛しい女性を迎えにいきます

 朝起きて思い出すのは愛しい愛しいミナのこと。

 断腸の思いで伯爵に預け、昨夜は離れ離れとなった彼女は良く眠れただろうか。

 私は眠れた気がしない。

 屋敷に帰ってからどうして私の腕の中にいないのかと悶々とする時間を過ごし現在に至る。

 それでも、もう夜は明けて今は朝。

 やっと迎えに行けると思えば寝不足なんてものはぶっ飛んだ。

 そうと決まればモタモタしている暇はない。

 ミナに会うために身支度も急がねばならないし、食事だって取らなければならない。

 一食ぐらい抜いたところで問題はないが愛しいミナを迎えに行き、腹の虫でも鳴らしてしまったら色々とキマらない。

 ああ、でも、ミナの腹の虫ならば聞いてみたいと思う。

 ミナならば腹の虫さえも可愛いに決まっている。

 それに鳴らしてしまったと恥じらう姿も是非見てみたい。

 きっと、その辺をのたうち回ってしまうほど可愛いに決まっているが妄想だけでは限界がある。

 リアルなミナの色んな面を見せてほしいものだ。

 おっと、いけない。

 妄想に花が咲きすぎて準備が滞ってしまった。

 さらりと前開きの夜着を足元へと落とし、着るのは何が良いだろかと少し考える。

 ミナの好みが解れば合わせるが、残念ながら解らない。

 だからといって何でも良いというわけにもいかない。

 少しでもミナにはいい男に見られたい。

 そんな気持ちで選んだのは黒とも灰色とも言い難い色のジャケットに黒のトラウザーズ。

 タイはそんな色に映えるように淡い紫の物を選んだ。

 服装が決まれば、後は軽く食事を済ませてしまえばミナの元へ行ける。

 逸る気持ちを抑えて、食事はいつも通り優雅に食したつもりだが控える侍女や従者が驚きの表情の私の皿の上を見ている。

 マナー違反をしたつもりは無いが少々早食いすぎたかと苦笑する。

 さあ、食事も済んだ。

 後はミナの元へ行くのみ。

 だが、まだ馬車の用意が出来ていないらしい。

 執事に頼んでおいたのだが、早朝という時間帯に訪問することに難色を示していたから時間稼ぎでもしているのかもしれない。

 おまけに先触れを出すようにとも進言してきた。

 まぁ、真っ当な意見ではあるのだが、あの可愛いらしいミナの事、そんなものを出したら、きっとうさぎのようにぴょんぴょん跳ねてどこかに隠れてしまうに決まっている。

 それもそれで可愛いし、一緒にかくれんぼするのも吝かではないが、先ずは会って抱きしめたい。

 おはようのキスも出来なかったことだし、二人きりでゆっくりとした時間を過ごし、少しスキンシップも堪能したい。

 ふくふくの頬に自身の頬を寄せてもみたいし、あのなだらかな曲線を描くお腹を思う存分撫で回したい。

 小さなおしりを軽くタッチするのも良いだろう。

 ああ、私をこんな風に悩ませるなんて、本当になんて罪作りな女性なんだ!

 まぁ、兎に角、馬車の用意なんてもう待っていられない。

 単身、外に出ると馬番に用意をさせた。

 鞍を乗せるだけのその時間が思いの外長く感じて無意識のうちに足を打ち鳴らしていた。

 そんな私の行動が恐ろしかったのか、馬番の動きが鈍るという悪循環を生み出す。

 そうやって暫し待ち、用意された馬に跨がると直ぐ様走り出す。ミナの、ランスター伯爵家は我がテイラー公爵家からそれほど遠くはない。

 というか貴族家の屋敷なんてものは大体密集している。

 子爵や男爵といった低位の貴族ならば、少し郊外にということはあっても、ミナの家は曲がりなりにも伯爵家。

 一等地と言っても良い場所に構えている。

 当然、我が公爵家からもそれほど遠いわけではない。

 馬で数分走れば直ぐに着いた。

 少し、馬に無理をさせた自覚はあるが、これぐらいの時間であれば特に問題も無いだろう。

 颯爽と伯爵家に踏み込めば門番に身分と訪問理由を伝えた。

 難なく通され、敷地内に入ってからはゆっくりと馬を歩かせる。

 そんな私を先程の門番が追い越して走り去っていく。

 おそらく私の訪問を知らせに行ったのだろう。

 そうして、屋敷まで後少しといったところで後ろからドタドタと複数の蹄の音が耳に入り振り向く。

 予想通りの面々に私は軽く手を挙げた。

 私の配下達だ。

 気を急ぐあまり置いてきてしまったが、私の護衛の任に就くもの達。

 そいつらに事前に告げてあった任務を遂行させるために、目線で行けと指示を出す。

 散々に散っていく彼らはミナの見張りを行う予定だ。

 万が一、ミナが逃げたそうとしても取り逃がさないように、そう指示をした私の配下達。

 ただし、ミナには極力触れるなと伝えてある。

 私以外にミナに触れるなど許されることではないから。

 それでも、役目は立派に果たしてくれるだろう。

 そうこうしていれば、屋敷の前まで着く。

 既に知らせを受けていたのか、扉を開けて執事と思わしき者が待っていた。

「ようこそお出でくださいました。只今、お部屋の準備をしておりますので少々お待ち下さいませ」

 そう言って礼をした執事は何事かを侍女へと伝令し、エントランスに備え付けられたソファへと私を案内した。

 やっとだ。

 やっとミナに会える。

 私をどんな顔で迎えてくれるのだろう。

 にっこり笑顔?

 突然訪れたことによる吃驚した顔?

 それとも、勝手に婚約を結んでしまったことによる怒り顔?

 できれば笑顔が良いが、どんな顔をしていてもミナは可愛い。

 結局、会えさえすればどんな顔であってもいいのだ。

 それにしても、待つ時間がやたらと長く感じて困る。

 部屋の用意ぐらい直ぐに出来そうなものなのに、とイライラしてしまう心を静めるようにミナの事を考える。

 ミナは私の精神安定剤だ。

 しかし、心は平穏を取り戻しても、何やらこの屋敷内の空気が少し可笑しいと感じてしまって内心首を傾げる。

 私が来たことで、騒然としているというなら別に良い。

 だが、もうすでにミナが逃げ出していたら?

 それによって屋敷内が慌ただしくなっているのならば、こんなところでのんびり待っている訳にもいかない。

 さて、どうしようか。

 他家で勝手な行動はあまりしたくはないが、ミナが絡んでいるなら、そんな事も言っていられない。

 パタパタと過ぎ去って行こうとする侍女のような女性を呼び止めて、手短に問う。

「何かあったのですか?」

「い、いいえ。何事もございません」

 慌てた様子の女性はそう言って直ぐ様去っていったが、やはり何かが可笑しい。

 侍女なのかそうではないのか、物腰しや私に対する態度からみれば使用人で間違い無いように思う。

 けれど、服装がちぐはぐだったのだ。

 通常であれば侍女やメイドといった職種には制服があるはずで、当然先程の女性もそれを着ているはずなのに、貴族の令嬢が着るような服装をしていた。

 しかも、顔には泣き痕が。

 一体何が起こっているというのだ。

 ミナに何も無ければいいが………

 そう渋い顔で考えていれば、配下の者が何処からともなく現れて報告する。

「ミナ様が裏口に現れましたが、外に出るのは阻止できました」

 それに重苦しく頷くと、その者は直ぐに持ち場へと戻っていった。

 その者を見送り考えるのはミナの事。

 やはり逃げ出そうとしたかと予想はしていたものの腹は立つ。私はこんなにもミナの事を思っているのに当のミナは私から逃げ出そうとする。

 一体何故なんだ!

 だが、ミナは逃げ出す為だとはしても元気に屋敷内を走り回っているようだ。

 先程の女性と何か関係があるのか解らないがミナが無事なことには素直に安堵できた。

 ミナとは別問題を抱えているだけなのかもしれない。

 ならば、彼女に起きた問題は私には関係ないことと簡単に割り切ることができる。

 どうでもいい女性よりも今は兎に角ミナの事が気掛かりだ。

 無理矢理、私の者となるように気を急いたことがいけなかったのだろうか。

 だが、可愛いミナのことだ。

 放っておいたら、誰かに取られてしまうに決まっている。

 そう思えばこそ、多少無理矢理にでも事を急いたのだ。

 でも、まぁいい。

 ミナの逃亡はひとまず阻止できた。

 有能な配下達は二度目、三度目も問題なく阻止してくれるだろう。

 そうであれば、私はこのまま待てばいいだけだ。

 ミナも諦めて私の元へやってくるだろう。

 そう思えば待つのもそう苦では無くなってくる。

 余裕ができ、何の気なしに周りを見渡せば先程去っていった執事がこちらに戻ってくるのを目に留めてソファから立ち上がる。

 やっとだ、やっと、ミナに会える!

「お待たせ致しまして申し訳ございません。ご用意が出来ましたのでご案内致します」

 抑揚に頷いて、執事の後を付いていく。

 少し歩いて案内されたのはサロンのようだった。

 既にミナの両親、ランスター伯爵夫妻が迎えてくれる。

「ようこそおいでくださいました。ミナは……準備にもう少し時間が掛かるようです。申し訳ありませんが、それまでは私共がお相手させていただきます」

 申し訳なさそうに語る伯爵に苦笑しながら、こちらも無作法を詫びる。

「こちらこそ、このような時間に突然訪問して申し訳ありません。早く、ミナに会いたかったものですから……」

 話ながらも夫人に手振りでソファを勧められ座り、真向かいに同じく座った伯爵夫妻が嬉しそうにカイルを見て微笑む。

「本当にミナには勿体無い御方ですわ。カイル様のような方に貰っていただけるなんてミナは幸せ者です」

 ふんわり笑った夫人にそんな事を言われれば悪い気はしないので、同じく笑顔で返した。

 本当にミナが嫁ぐことには反対はしていないようだ。

 無理矢理頷かせたようなものなので、多少心配していたが、この様子ではそれも杞憂だったのだろう。

「ミナが来るまでに少し時間が掛かると言うならばお庭を見させて頂いてもよろしいでしょうか?先程からテラスの眺めが気になっていたのです」

 テラスの方を見ながらそう言えば「勿論です。自慢の庭なんですよ」と頷く夫妻の同意を得て、そのまま立ち上がってテラスへと進んだ。

 勿論夫妻は案内も請け負ってくれたがミナがサロンに来た際に迎えてやってくださいと言い置いて、遠慮して貰った。

 単身テラスに降り立てば、綺麗に整えられた木々や季節折々の花が迎えてくれる。

 伯爵家自慢の庭だと言っていたことも頷ける庭である。

 だが、庭が綺麗だとかそんなことは正直どうでもいい。

 けれど、ミナもこの庭をこうして今の私のように何度も眺めたのだろうと考えたら、もうそれだけでこの庭は特別なものとなる。

 目を瞑れば、ミナが花摘をする様子が目に浮かぶ。

 摘むのは大小様々な花。

けれど、暖色系の色のものを好んで摘んでいる。

 元気の良いミナにはぴったりだと思い笑った。

 そんな妄想に酔いしれながら過ごす時間は穏やかなものだ。

 けれど、サロンの方が少し騒がしくて気を剃らす。

 夫妻が楽しげに会話しているだけなのかもしれないが、それにしては少しバタバタと騒がしいような気がする。

 とすれば、やっとミナが来てくれたのかもしれない。

 元気一杯のミナならばこの騒がしさも頷ける。

 だから、私は逸る気持ちを抑えてテラスからサロンへと足を進めた。

 サロンに近づけば近づくほど騒がしさは大きくなり、微かだがやはりミナの声も聞こえる。

 他の声は分からなくともミナの声ならばどんなに声色を変えようとも気づいてみせる自信がある。

 そうして、サロンへと舞い戻ってみればミナはやはり居た。

 くるりと私の方を振り向き吃驚しているようだ。

 だが、私も同じく吃驚した。

 それはどうしてかって………ミナが、ミナがとても可愛い格好をしているから!

 侍女の制服をとても可愛く着こなしている。

 うん!いい!

 ご主人様とか呼ばれたら、その場で死ねるかもしれない!

 そんな脳内妄想を繰り広げながらも、きちんと実物のミナも観察する。

 何事かを考えているのか眉間に皺を寄せている。

 そんな顔も可愛いけれど、まずはご主人様と呼んで貰いたい!

 期待を込めてミナを凝視するが伝わらないようで全然呼んで貰えない。

 呼んで貰えないばかりか、ミナはカイルから別方向に走り出そうとする始末。

 やっと会えたのに今更逃がしたくは無くて、素早く動いてミナの手首を取った。

 小さな手首を取って、その勢いのまま引けば意図も簡単にカイルの懐に収まる。

 小さな小さな私の愛すべき人。

 少しでも触れてしまえば更に触れたくなって背中から抱きしめる。

 その際にそっとお腹を確認してしまったのは無意識だ。

 だが、予想通りのぽっこりお腹に歓喜し過ぎて、心の声が漏れでてしまう。

「ぽっこりお腹」

 おっと、いけないと思うよりも早く腕の中のミナが暴れだして、逃がさないように更に力を入れた。

 腕の中で暴れるミナは子猫のようで可愛い。

 決して引っ掻いたりはしないが、本当に猫であれば毛は逆立てているんじゃないかと思うほどふーふー言っている。

 でも、それが少し可哀想にもなって次にミナが暴れたタイミングに離してやった。

 いきなり離したことで、おっとっと、とバランスをとる様子もやはり猫のようで、愛玩動物を見るような気持ちになってしまったことは否定できない。

 だから、蕩けるような笑顔を浮かべてミナを正面から見詰めた。

「昨夜ぶりですね。ミナ」

「ソウデスネ……………」

 棒読みの返事がまた可愛らしい。

 何をしても可愛くてカイルは益々柔らかい笑みを浮かべた。

 けれど、どうして侍女の制服を?

 私の為に着てくれたと言うのであれば大歓迎だが。

 棒読みの返事からも解るようにミナは悲しいことだが私を歓迎している訳ではない。

 ならば、何の為に?

 そしてあることに思い当たる。

 先程呼び止めた泣き痕の残る変わった格好の使用人。

 もしかしたら、彼女の制服を奪ったのではないかと……

 嫌だという侍女から無理矢理奪い自身の服を宛がった。

 そうであれば辻褄が合う。

 では、何の為にそうしたかを考えれば簡単に答えは出る。

 多分、変装して私から逃げる為。

 自然、据わった目をするカイルにミナは目をぱちくりとさせる。

 そんな様子も普段であれば可愛い。

 けれど、ミナは悪戯の大好きなズル賢い小悪魔。

「…………お似合いですね?その格好。侍女の真似事ですか?」

 少し低い声で問うが、ミナは若干狼狽えながらも淀みなく答える。

「そ、そうなんです。花嫁修行の一環で侍女達と一緒に家事の手伝いをしてるんです」

 それが本当であれば頭を撫で回して、ついでとばかりに頭の天辺にキスをしよう。

 だが、ミナは嘘を付いている。

 でも、今はまだミナに合わせてやろう。

 どこまで持つのか、それも楽しみだ。

「そうですか。それは良いことですね。貴女が嫁いでこられるのが楽しみで仕方ありません」

 にっこりそう言うカイルにミナは先程から断続的に引き吊った笑みを浮かべている。

 もう少し苛めよう。

 そう考えるカイルはいつも以上の良い笑顔を浮かべている。

 そんな笑顔にもミナは果敢に立ち向かおうとしているようだが、随分前から気が付いているミナの傍らの鞄に視線をやってミナに問うような眼差しを送れば、見るも無惨なぐらいあたふたした。

「こ、これは!家事に必要な道具を入れてあるのです!」

 カイルはそうなんですね、と抑揚に頷く。

 いまだに必死に言い逃れようとするミナにそろそろ決定打を与えなければいけないだろう。

 ちらり鞄を見て、ミナを見る。

「中身を見せて頂いても?」

 ミナは首を振って拒否をする。

 中々強情な様子のミナにカイルは一歩近づいて耳元で囁くように告げた。

「正直に言ったら許してあげますよ」

 そんな言葉にミナは目を見開く。

 けれど、すーっと大きく息を吸い込んだかと思えばカイルに挑むような眼差しを寄越した。

 そして、言ってはならないことを言ったのだ。

「わたし、貴方の元へは嫁ぎません!修道院へ行きます。ですので、鞄の中身は私の身の回りの物です」

 一息に言い終えたミナは言ってやったぞ!という顔をしているが、私にとってその言葉は地雷と言っても良い。

 伯爵夫妻も悲鳴を上げている。

 だが、実際そんな声は聞こえない。

 さっきからずっと、ミナの貴方の元へは嫁ぎませんという言葉がカイルの耳に何度も何度も再生される。

 そんな言葉をずっと聞いていたら気が可笑しくなってしまう。

 どろり、何か黒いものに支配されていくのが自分でも解る。

 そんな気持ちのままにミナに視線をやれば、ミナは果敢にも睨み付けてきた。

 けれど、カイルはミナから視線を外し伯爵夫妻へと身を傾けた。

 これからミナには色々と解って貰わないといけないことが沢山ある。

 だから、これから夫妻へ問うことはそのことへの第一歩。

「ミナの部屋への入室許可を頂けますか?」

 嫁入り前の娘の部屋に入りたい、そう言ったカイルに対して夫妻勿論です、と返事をしてくれた。

 ミナの親にしては物分かりが良くて助かる。

 許可は得た。

 ならば、あとはミナだけ。

 抗議の為に伯爵夫妻の元へ行こうとするミナの腰を取り少し引き寄せた。

 驚きと恐れの混じった瞳でミナはカイルを見上げる。

 そんなミナにカイルは殊更綺麗に笑って魅せた。

「さあ、両親の許可も得ました。ミナの部屋に案内してくれますね?」

 首をこれでもかというほど振って拒否をするミナに許してやろうという気は僅かも起きない。

 だから、ゆっくりと身を屈めて耳元へ唇を寄せた。

 ミナには無情とも思われる言葉を告げるために。

「お仕置きの時間です」

 途端に顔色を変えるミナの顔を見ても手加減してやろうという気は起きなかった。

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