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幼児体型の好きな変態から求婚されてしまいました

一話目は短編と全く同じですので既読の方は二話目からお読み下さい。

 噂で聞いた彼の好みは、凹凸の無い、いわゆる幼児体型。

 見目麗しい出るとこが出てて引っ込んでいるところは引っ込んでいるナイスボディはお好みではないらしい。

 だったら私は大丈夫、と言えないところが悲しい。

 それは何故かって?

そんなの決まってる。

 彼の好みド真ん中、それがわたし、ミナ・ランスターだから。

 小さな体、ほんの僅かしか膨らんでない胸。

 そして、寸胴な腰回りと小さなおしり。

 更に言ってしまえば、お腹は少々ぽっこりしている。

 そんな体なんですもの、幼児体型であることは事実として受けとめているつもり。

 顔は整ってはいるけれど、将来は綺麗な女性になるんでしょうね、という入らない言葉が必ずと言っていいほどくっついてくるのも否定しない。

 それでも、わたしは大声で叫びたい。

 これでも十七歳、恋人募集中の乙女ですと!

 そう、残念ながら、婚約者は疎か恋人だっていない。

 ついでに言ってしまえば友達以上恋人未満の殿方だって勿論いない。

 おまけに伯爵家の一人娘だというのに婚約の申し込みすらない状態で両親は家が跡絶えてしまうと嘆いてばかり。

 家人までもが心配して次の働き口をこそこそと探している現状だ。

 でも、それも時間の問題かもしれない。

 というよりも、すでに詰んだ。

 だって昨夜の夜会で噂の彼と出会ってしまったから。

 幼児体型が好きだっていう変態野郎に!

 変態野郎こと、カイル・テイラーは社交界にて三本の指に入るほどの美男子で公爵家の跡取り。

 どの夜会でもキャーキャー言われる人気ぶり。

 けれど、残念な噂もあってか未だ独り身の最優良物件。

 噂なんて糞食らえという、上昇思考の高い令嬢ならば涎が出るほど美味しい物件。

 そんな競争率の高い男性に普通であれば見向きもされないミナだけど、彼にとっては少し違う。

 なんといっても冒頭にあるように幼児体型の女性がお好みだから。

 そんな彼の目に留まってなるものかと、彼の出席する夜会は尽く断り、運悪く出くわしてしまった時には友人でバリケードを作る徹底ぶりで回避していたにも関わらず、昨夜は完全に油断してしまっていた。

 開始時間には現れず、もうお開きかという時間帯に突然現れた彼にミナは驚愕のあまり為す術もなく………呆然としたまま目を合わすという失態を犯してしまった。

 そんな失態の後、美女揃いの夜会の蝶達を軽くあしらい、脇目もふらず来た先が壁際でちんまりと佇むミナの元。

 一同驚嘆していたが、楽器の奏者までも驚いて音楽を止めてしまったほどだ。

 音楽も止まり静かになったことで、あちらこちらで囁かれる「噂は本当だったのね……」という言葉がミナの耳にもダイレクトに入ってくる。

 そんな声にミナばかりがおどおどと反応して、目の前のカイルは何も聞こえていないとばかりに無視を決め込んでいる。

 そんなカイルが徐に跪きミナの手を取る。

 思わず引け腰になるミナにショートケーキよりも甘いのではないかという蕩けるような眼差しを向ける。

 そんな笑顔にぞくぞくと鳥肌が立ったミナはずりずりと後ろに下がろうとするのだが、同じくカイルも跪いた状態のままずりずり迫ってきて、いつの間にか背が壁に引っ付いてしまっていた。

 壁ドンならぬ壁ズリで追い詰められたミナは蛇に睨まれたカエルの如くすでに半泣き。

 そんなミナを愛しそうに見詰めたカイルは実に恭しく告げた。

「私と結婚してください」と。

 しーんと静まりかえるホールの一画でぷるぷると生まれたての小鹿のように全身を震わせる幼女が一人。

 それは見た目は幼女だけど勿論幼女ではない。

 正真正銘ミナのこと。

 嫌と言いたい。

 でも、言えない。

 相手は公爵家。

 身分で考えれば否とは言えない相手。

 それでもなんとか回避したい。

 ミナだって年頃の娘、それなりに理想だってある。

 恋愛結婚とはいかなくとも社交界で見初められ、それは勿論変な嗜好を持つ人物ではなくて、顔はそう良くはないとしても優しげで穏やかな人物に望まれて婿入りも了承してもらう。

 それが高望みだって言うなら、御年を召した方の後妻だっていいわ。

 好色で無ければ、という条件付きではあるけれど。

 それでも駄目なら両親はごちゃごちゃ言うでしょうけど貴族じゃなくても構わない。

 貴賤結婚でも何でも受け入れよう。

 兎に角、それほどまでに変態の元には嫁ぎたくないの!

 そんなミナの心中なんて誰も考えてはくれなくて、パラパラと拍手まで鳴り出す始末。

 あの、皆様、まだ返事もしてませんから!

 そんなことを心中で叫ぶミナだけど、そろそろカイルが待ちきれないのか何かを訴える子犬のような顔をしてミナに決断を迫る。

「あなたのたいけ……いえ、姿に一目惚れしました。どうか、私の手を取って下さい」

 今、体型って言おうとしたでしょ!と心で突っ込みを入れる。

 ついでに手を取ってって、もう既に貴方に取られてるから!とは、やはり言えない訳で……

 兎に角、打開策をと思考を巡らせてみるが何も浮かばない。

 幼児体型がお好きなカイルにはミナの体型に関するあれこれは理由にならないし、好きな人がいるなんてお決まりの台詞もきっと直ぐに嘘だとバレてしまうこと間違いなしなので使えない。

 もう思いきって年齢でも誤魔化してしまおうかしら。

 十四、いや十二歳。

 自分で言っていて情けなくもあるけれど背に腹は代えられない。

 これなら流石に言い寄ってはこないだろう。

 でも、それだって簡単に調べられて直ぐにバレてしまう。

 それに「貴女が成長するまで何年でも待ちます」とか言いそうでそれはそれで身の毛がよだつほど恐ろしい。

 やっぱりそう簡単に良案なんて見付からない。

 友人知人は面白そうにこちらを眺めるのみで助けようなんて気は更々無さそうだし、頼みの綱の両親はミナに頷けとばかりの期待に満ちた視線を送っている。

 両親よ……娘が変態に嫁ぐことになっても何とも思わないのか!そもそもミナは一人娘。

 カイルに嫁ぐことになってしまったら本当にランスター伯爵家は跡絶えてしまう。

 そこのところ、きちんと分かっての行動なのかと説教したい気分だ。

 そして、ふと考える。

 そうミナは一人娘。

 それが理由になるではないかと思い当たる。

 我ながら良い考えだと内心でほくそ笑む。

 これで、変態野郎とはおさらばできる!

 そんな妙な意気込みと共に内心のニヤつく顔を隠して、表向きは然も残念そうな顔を作ってみせた。

「あの……大変ありがたいお話ですが、私は一人娘。ランスターを継ぐ人間です。ですので貴方の元へ嫁ぐことはできないのです」

 よし!言い切った!

 これで安心とばかりに、ほっと息を付く。

 視界の縁で両親が首を振っている。

 どうしても娘を変態に嫁がせたいらしいがそうはいかない。

 そんなのはつーんっとそっぽを向いて無視をした。

 一方カイルといえば微動だにしない。

 でも、次の瞬間―――にっこりと微笑んだ。

「そんなことなら問題ありませんよ………私達の子供に継いで貰えば良いのです。ですから二人以上は産んで頂かないといけませんけどね」

 な、なんですって!

 そんなことってないわ!

 折角の妙案だったのに!

 項垂れるミナではあるけれど、ならばと第二作戦に切り替える。そして、なるべく儚げに憂いのある表情を作った。

「ですが………私、このような形でございましょう?子供が産める体であるかも分かりませんし………やはり嫁ぐことは………」

 暗に貴方は公爵家後継ですもの、跡継ぎを産めない女では駄目でしょ?と伝えたのだ。

 でも、カイルの方も顔色を変えないまま、逆に今の現状を楽しんでいるかのような不敵な笑みを浮かべている。

「そのことについても問題ありません。まだ産めないと決まったわけでもありませんし、もし、産まれなければ養子をとればいいのです。ご心配には及びませんよ」

 でも、それでは我が家は……と言おうとしたミナの言葉は続けて話し出したカイルに遮られる形で音になる前に消えた。

「ああ、それに、それほどまでにランスター家がご心配でしたら、私が婿入りしましょう」

 こんな言葉に反応したのはミナではない。

 いや、ミナだって吃驚はした。

 でも、それ以上にカイルのご両親である公爵夫妻、となぜか家の両親が驚愕を通り越して発狂しそうな面持ちでこちらを注視している。

「カイル!それはならんぞ!お前はテイラー公爵家の跡取りだ!婿に入るなど、そんなことは絶対許すつもりはない!」

 高らかに宣言した公爵はふーふーと頭から湯気が出てもおかしくないほどいきり立っているが、カイルがそちらに向かって鋭い視線を送ればしおしおとその場に崩れ落ちた。

 どうやらカイルは視線で人を黙らせることができるらしい………そんな人間離れした人とやっぱり添い遂げたくはない。

 まぁ、とりあえず、両親達は放っておこう。

 ミナの両親が公爵夫妻を慰めにかかっている。

 両親としてもカイルを我が家に迎えることはしたくないのだろう。

 その気持ちは分かる。

 だって、恐ろしいもの!

 それはそれとして、両親を黙らせたカイルは父が失礼しましたと頭を下げた。

「いいえ。公爵様のお気持ちは分かります。我が家なんかより歴史も功績もある家柄ですもの。仕方ありませんわ」

 そうだよ!仕方ない。

 我が家になんか婿入りしなくていいから変態でも嫁ぎたいっていう奇特な人が要るんだから、その中から選んでほしい。

 切実にそう思う。

 いまだ跪くカイルを見下ろす形でそう言って思ったミナではあるけれど………

 どうでもいいことだけど、いつまで跪いているつもりなんだろうと唐突に思った。

 膝、痛くないのかしら………

 別に心配してるわけじゃないのよ!

 ただ不思議に思っただけなんだから!

 いくら求婚の行動だとしてもこんなに長い時間このような姿勢をさせておくのも忍びない。

 そもそも受けるつもりのない求婚。

 まだ、攻防は続くのだろう。

 ならば、ミナよりも高位貴族であるカイルにこれ以上負担を強いるわけにもいかないと、ミナはその場にすとんと座った。

 そして、見下ろす形から見上げる形になったカイルへ微笑する。

「あの、そろそろお立ちになりませんか?その体勢ではお疲れになるでしょ?」

 そんなミナの言葉は突如わっと上がった拍手の波に飲まれた。

 続いて音楽家達による祝いのファンファーレが高らかに奏でられる。

 へ?な……んで?

 わたし、返事なんてしてないし、ただ座っただけよ?

 それがどうしてこうなるの!?

 呆然とするミナにカイルがにっこりと誰もが見惚れるだろう顔で笑った。

 そして――小さなミナをすっぽりと腕で囲んで抱きしめた。

 思わず出るのは、ひっ!という声にならない悲鳴。

 小さな体をより小さくさせてぶるぶると震えるミナの耳元にやけに色気たっぷりの言葉が紡がれる。

「皆さんからは貴女が私の胸に飛び込んだという風に見えるのかもしれませんね。まぁ、勘違いには違いありませんが結果は同じですから構いませんね?」

 いや!構います!本人の気持ちが一番重要ですからね?

 そんなことを目で訴えるミナにカイルは恍惚とした表情で言った。

「あぁ、可愛らしい。泣きそうで泣いていない。そして、何よりそのしっかりとした意思のある瞳。是非とも私の手で泣かせてみせたい」

 なんか、変態発言きたっ!

 幼女趣味だけでも受け入れがたいのに、まさかのサド発言。

 わたしはマゾではありません!

 ぶんぶん頭を振って拒否をするミナの耳元にカイルは唇がくっつくのではないかというぐらいに唇を寄せた。

 その瞬間、ふわっと吹きかけられる吐息に身を竦めるミナ。

 そんなミナの様子にくすりと笑いを溢すカイルの吐息がまたしても耳元に届いて悪寒のようなものが背を走り抜ける。

 その背を慰めるように撫でられて、負けてなるものかと潤んだ瞳で睨み付ければ。

「私が一生をかけて愛でてあげます」

 そんな狂気染みた言葉が発せられ、思わず頭に浮かんだのは………レースをふんだんに使用したふりふりの服を着せられた自分の姿。

 観賞用の人形よりもふりふりのソレにふらりと体が傾きそうになるが、それだけではない。

 カイルの膝に人形のように乗せられ、せっせと菓子で餌付けされる姿。

 ああ、駄目。わたしの人生終わった。

 ある意味、悟りを開いて遠くを見詰めるような虚ろげな表情をしたミナにカイルは眩しいほどの微笑みで言う。

「さぁ、行きましょう」

 本当だったら、何処に行くっていうのよ!と憤るところだけど、既に許容範囲を越えたミナにそう言う気力も体力もない。

 カイルにしっかりと腰を支えられて立ち上がるも、やはり傾いてしまう体をこれ幸いにと抱き上げられる。

 またしても上がる歓声。

 ピューと口笛まで聞こえて、そこでミナの記憶は途絶えた。

 そして、冒頭へ戻る。

 気がつけば、自分の邸の自分のベッドで寝ていた。

 そのままカイルの邸へと連れ帰られても可笑しくない状況下で家に返してもらえたのはありがたい。

 けれど、起き上がろうとしてベッドに手を付いてみればガサッと紙のようなものが触れて、確認してみれば間違うことなき婚約証明書と書かれたソレがミナの手の中に納まっていた。

 震える指で筆跡を探る。

 流暢な筆跡で書かれたカイルの名とミミズがのたくったように書かれたミナの名前。

 意識のないミナに無理矢理書かせたか、両親がカイルに恐れをなしてほぼ脅しに近い形で書かせたのか、それは定かではないけれど恐らくは後者。

 そもそも意識を失った人間は字を書けませんから。

 でも、娘を売った両親に憤りはするけれど仕方ないとも言える。

ビビりな両親は長いものには巻かれろ精神で言われるがまま書いてしまったのだろう。

 同時になぜミナが家に帰されたのかも分かってしまった。

 婚約を正式に成立させたんですもの。

 急ぐことはないと、ゆっくりと攻めればいいのだと、そんなことを考えたに違いない。

 腹立だしいことこの上ないが、過ぎたことは元には戻らないのだし、今考えなければいけないのはこれからのこと。

 ああ、もう、どうしようかしら。

 どうにかして婚約を取り消してもらわないと。

 もう、いっそのこと修道院でも行ってしまおうかしら。

 変態に仕えるよりは神の身元で祈るほうがずっと良い。

 そんな事を考えて、ミナは十七年間の人生で初めてと言っても過言ではない特大の溜め息を溢した。

 そして、婚約者のご機嫌伺いとでも称して今日にでも遣ってくるであろう彼の人を思い浮かべて、どのようにして逃げようかということを眉間に盛大な皺を寄せて思案するのであった。

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