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後編

 そして、三十分後。

 側溝に落ちていた子猫を猫たちが見付け、そこに駆けつけた仁が子猫を無事救出した。

 子猫が助かり大喜びの女の子は、仁たちにお礼を言い子猫と帰っていった。

 仁と結花は事務所に帰り、事務所で子猫を見付けた五匹の猫たちに、報酬の鰹節を皿に入れて与えながら、仁はひとりごちる。

「子猫の捜索に五百円かかっているのに、収入はなしか……。貧乏にはつらい……」

 女の子から成功報酬や経費などは、いっさい貰っていない。

 まだまだ無名な探偵なのと、仁の能力から依頼者の多くは子供なのだが、子供からお金は貰わないことになっていた。

「子供からお金を貰うわけにいかないじゃないですか」

 隣で仁と同じように、猫に鰹節を与えていた結花が、仁の一人言に答える。

「そうだけど……」

「それに子供の口コミ力はなめちゃいけませんよ」

「口コミ?」

「そうです。所長の能力みたいなビックリするようなことは、誰かに話したくなるものです。これが大人だと、不思議な現象になればなるほど信じてもらえないと思って口をつぐみやすくなりますが、子供は不思議であればあるほど、友達や親などいっぱいの人に話してくれます。現に、今日の女の子も友達に聞いたと言っていたでしょう?」

「そういえば……」

「報酬を貰うより、無意識の宣伝をしてもらう方が、何倍もいいです。うちの事務所は、お金をかけて宣伝する余裕もないですから」

「なるほど」

 結花の説明を受けて納得した仁は、あごに丸めた指を添えてウンウンと頷いた。

「結花ちゃんは頭が良いね。僕は子供が宣伝になるなんて、全然気付けなかったよ」

 そう言って、仁は結花の頭を撫でた。

 すると、結花は口をパクパクとさせながら、顔を真っ赤にした。

「そ! そんなことないです! これぐらい誰でも思い付きます!」

「そうかな? でも、僕は結花ちゃんがいて良かったよ」

 仁がそう言うと、結花はさらに真っ赤になり、黙りこんだ。

 そして、ちょうど静かになったところで、鰹節を食べ終わった一匹の猫が、仁の靴に手をかけてニャンと鳴いた。

「え? 鰹節をもう一袋食べたい? ダメだよ。鰹節は一日一袋までって言ってあるだろ? 報酬の残りの四袋は、君の鰹節貯金としてしっかり貯蓄しておくから」

 ちなみにこの鰹節貯金は、貯めれば他のものと交換することも出来る。

 とある猫は、貯めに貯めて牛肉と交換した。

 その日の仁の夕食が、メザシとなったのは言うまでもない。

 項垂れて残念そうな猫の頭を撫でながら、仁はため息を吐いた。

「けど、やっぱり、ハードボイルドな探偵になって、どんな難事件もバシバシ解決して、一躍有名ってのもいいよね……」

「所長……」

 さっきまで赤い顔をしていた結花は、一転して呆れた顔になった。

「ハードボイルドなんて絶対に無理ですから」

「そんなことないよ」

「そんなことあります。所長は所長に向いている仕事をしていけばいいんです」

「えー」

 仁は不満げに口を尖らせた。

「えー、じゃありません」

 その後、しばらく押し問答を繰り広げた仁と結花だったが、今度は猫からの依頼が入ってうやむやとなった。

 猫と子供の依頼者ばかりで、仁の貧乏な日々はまだまだ続く。

 しかし、子供の口コミは確実に広がり、そこからお金に繋がる仕事が入るようになるのだが、猫を使って事件を解決する“猫魔人探偵”として有名になるのは、もう少し先の話である。




 end

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