第三話 ダンジョンコア
意識が現実に浮上してくる奇妙な感覚を肌で感じながら一真は目を覚ました。
そこは先程の教室ではなく、岩の中をくり抜いただけのような無骨な空間だった。
だが、ここにも先程の教室のようにおかしな点が存在した。
「なんだ……これは? 」
それは、空間のちょうど真ん中にひとつ、綺麗な正八面体の『クリスタルの様なもの』が浮かんでいる点である。
目の前の『クリスタルの様なもの』が何か確かめるために足を踏み出そうとするも先程と同じ様にその場から動けなかった。
だが、幸い上半身は動くようで体に物理的な異常が無いかの確認は取る事はできた。
【転移完了を確認しました。それでは早速『ダンジョン運営』について説明させていただきます】
『クリスタルの様なもの』から聞こえてきたそれは人間の声とは違い恐らく機械音か何かだろうと、一真は考える。
【申し遅れました私はこのダンジョンの『コア』でございます。以後、お見知り置きを。貴方様の情報はもう既にいただいておりますのでご安心ください。黒田一真様】
ここはダンジョンであり『クリスタルの様なもの』の正体はこのダンジョンの『コア』だという。
それらの事を、自分の名前を知っている事や先程の事などから信じ、口を挟まず黙って『コア』を見つめ続ける。
【それではまず、このダンジョンという存在と、このダンジョンが存在する世界について説明させていただきます】
『コア』がそう言うと突然目の前の何も無かった空間に大小二つの立体的な球が映し出された。
それは、くるくると回っており青が目立つそれはまるで地球のようだ、と一真は感じた。
そんな一真の予測は当たらずとも遠からず、と言ったところであった。
【今、貴方様の目の前に映し出させていただいたのはこの世界の3Dモデルでございます。見ていただければ分かるように地球と同様に海があり、空気があり、大陸があり、そして太陽も近い……と、いうのは偶然の産物では無く『神』が意図的に創り上げたものです。
『神』は様々な世界を創造されてきましたがこの世界はその中でも上位に食い込む『完成度』を誇っております。名を『フォリア』地球とは違い科学の代わりに魔法が発達した地球とはまた違う方向性での素晴らしさを持った世界です】
「続けて」
【了解しました。『フォリア』でのダンジョンの扱いは賛否両論です。片やモンスターを生み出す人類にとって必要のない『異物』。片や人類の届き得ない性能を誇る『遺物』がが眠る宝の山とされております。
前者は貴族などに多く、宝の山と称す集団には一般的に『冒険者』と呼ばれる存在が多いです】
「『冒険者』というのはどういった活動をしているんだ? 」
【冒険者というのは簡単に言えば傭兵のような者共の集まりです。その仕事範囲はモンスターの討伐や薬草の収集、貴族や商人の護送からダンジョンの攻略まで様々です。これ以上の情報は貴方様自身でお集めください】
「この世界にそんざ魔法とやらと、俺の知る『魔術』は同じものなのか? 」
【違います。これ以上の情報は貴方様自身でお集めください】
どうやら、一定以上の情報は引き出せないらしい。
その事を早々に悟った一真は本当に必要だと感じた情報を『コア』から自らに取り入れる。
言語は? 通貨は? 宗教は? 崇拝している神は?
などといった世界の常識的な質問には全て答えられた。
だが、モンスターの種類は? 近隣の国の名前は? この土地の名前は? といった常識とも思える事でもダンジョンへ深く関わる事には答えが返ってこなかった。
だが、その事に関しては既に予測済みであったのか一真は特に気にする事も無く次々と『コア』からこの世界の情報を収集した。
【では、次にダンジョンの運営方法について説明させていただきます。まず、ダンジョンを運営するいかなる時にも必要となる『Creative Point』略して『CP』についてです。この『CP』はダンジョンの改造や拡張、トラップの設置やモンスターの召喚や日用品や武器の製作まで可能とする、ダンジョン運営に必要不可欠なポイントです。このポイントを獲得するにはダンジョンの名声アップや、貴方様自身のレベルアップやダンジョンのレベルアップなど様々な事から得る事ができます】
「日用品や武器……というのはどの範囲までが日用品なんだ? 」
【日用品はベットや布団といった寝具はもちろんの事、ポイントはかさばりますがパソンコやネット環境まで交換する事が可能であり。大抵のものは手に入ります。武器に関しましては剣や槍はもちろんの事、小銃から機関銃まで、色々な銃器も交換可能です】
「ありがとう、説明を続けて」
【では、次にダンジョン運営の基本について説明させていただきます。ダンジョン運営は基本的に『待ち』が多くなると思われます。モンスターを配置し侵入者を撃退、又は殺害するも良し、宝を持ち帰らせ噂を広げさせるも良しと、『待ち』の中にも様々な選択肢がございます。それをどうするかは貴方様次第です】
「『待ち』があるという事は『攻め』もあるという事か? 」
【はい、存在します。ですが、これは後ほど説明させていただきます】
「了解、続けて」
【はい、それではこれより『チュートリアル』を行います。これ以上の説明は実際に行いながらの方が理解し易いからです。そしてこの瞬間外部への接続、並びに移動が可能となりました】
『コア』の言う通り、移動が可能となった事に気がつき、軽く歩くが違和感は無く『コア』に話を続けさせる。
【ではまず、貴方様のダンジョンの周囲を見てみましょう】
一真の目の前に一つの映像が現れた。
それは、航空写真のように空高くから撮られており、そこそこ広い範囲を映していた。
【この映像の中心。今、赤い点が現れた場所の地下に貴方様は居られます】
赤い点が現れたのは樹々の生い茂ったジャングルの中心。
そのジャングルは映し出されている映像の赤い点を中心として大きく広がっており、映像の内の七割をその深い緑が覆っている。
その外側は奇妙な事に木の類いは一本も生えておらず、薄い緑色をした草原が広がっている。
そんな、緑ばかりの映像に一箇所―――一真から見て右上の方向に―――だげ灰色の場所が存在した。
それは何なのか一真は疑問に感じた。
【貴方様から見て右上の方向に街が存在します。街の名前は『アカム』特産品などは特にありませんが冒険者達が多く存在する、そこそこ大きな街です】
一真の疑問を見透かしたかのように答えた『コア』に少し驚きながらも続けるよう促す。
【それでは、周囲の地形を確認した所で初期ダンジョンの形成を行いましょう。私に触れてください】
言われた通りに行動する。
すると、まるでゲーム画面のような映像が三つ空中に映し出された。
【今後のダンジョンのレベルアップや拡張はこの初期ダンジョン形を元に行われますので。しっかりとお考えの末お決めください】
それぞれの映像には『塔型』、『洞窟型』、『神殿型』の三つのイメージ映像が映し出されていた。
そしえ、その三つ全てにはそのダンジョン形のメリットとデメリットが簡単にだが書かれていた。
『塔型』
メリット:
ダンジョンレベルが上がり易い。
入り組んだダンジョンを作り易い。
存在の露見が早い。
デメリット:
ダンジョンの面積が他と比べ狭い。
存在の露見が早い。
『洞窟型』
メリット:
隠密性に長ける。
罠を仕掛け易い。
入り口を複数製作可能。
デメリット:
地形によりダンジョンの形成方法が制限される。
存在の露見し難い。
『神殿型』
メリット:
ダンジョンの面積が他と比べ広い。
地下、地上の両方に製作が可能。
名声が上がり易い。
デメリット:
レベルが上がり難い。
一室一室が広く、細々とした罠を仕掛け難い。
一真は何の迷いも無く『神殿型』を選択した。
理由は単純明白な消去式。
まず、『塔型』。
これは直ぐに存在が露見してしまうという事で一真の考えている作戦には向かないのでボツ。
次に『洞窟型』。
これは隠密性に長けるとあるが既にジャングルの中である。これ以上隠密性に長けた所で意味が無い。
最後まで残った者が勝者なのだから、隠密性に長ければ良い……などという考えは間違っているだろう。
先程の教室で、最後の方に言っていた『戦争』という言葉が一真の頭に引っかかっていた事から隠れるだけではいけないと判断したまでである、
そして決定した『神殿型』。
レベルが上がり難いというデメリットがあるものの、部屋が広いという点に加えて名声が上がり易いという事から一真の考えている作戦に丁度合い、即決に至った。
【では、『神殿型』でよろしいでしょうか? 】
「ああ。構わない」
【かしこまりました。―――――初期『神殿型』ダンジョンが完成しました。このチュートリアルが終了した後、御確認ください。それではチュートリアルを続けます】
了解を得てから完成まで約十秒でダンジョンが完成したというが一真は別段驚きはせず、話に集中する。
【では、次に貴方様のステータスポイントを振り分けていただきます。これをしていただく事により筋力が増したり、体力が増えたり、素早く動けるようになったり……『スキル』を取得できたり、『魔法』を取得できたりします。一般的にこのステータスポイントは、御自身のレベルアップで増加いたします。では、また私に触れてください。そして『ステータスポイント振り分け』と言ってください。今後もステータスポイントを振り分ける時はこうしていただく必要がござので御注意を。そして、これが一番重要なのですが一度振り分けたポイントを『決定』してしまえば変更は不可能となりますので、細心の注意を払って決定してください】
『コア』の話を一通り聞き終えた後、一真はまたゆっくりと『コア』に触れ口を開いた。
「ステータスポイント振り分け」
すると、一真の目の前に一つの何の変哲も無いタブレット端末が現れた。
おかしな所といえばそれが空中に浮いているという事位だろう。
一真はそんなタブレット端末を何の警戒もなく手に取った。
【そこに映っているステータスは今現在の貴方様の物です】
黒田 一真 Level『1』
STR 『17』
DEX 『14』
INT 『16』
CON『13』
POW『16』
体力『1300/1300』
魔力『1600/1600』
魔法
『』
スキル
『魔術』『アイテムボックス』
残ステータスポイント『100』
【平均的な成人男性の基礎ステータスはオール『11』程度だと考えてください。そして気になるとは思いますがスキル欄に存在する『アイテムボックス』ですが、これは『神』からの贈り物でございます。これの性能につきましてはタッチすると確認できます。
では、早速基礎ステータスにポイント振り分けていきましょう。その基礎ステータスの意味が分からなければその文字をタッチしていただければ閲覧が可能です。『スキル』や『魔法』の取得につきましては基礎ステータスの振り分け後にまた、別のステータスポイントがありますのでご自由にそのポイントを使用してください】
『コア』の話が止まると一真はまず、スキル欄に存在する『魔術』をタッチした。
その理由は今、『コア』から説明が無かった事に加えて見に覚えがしっかりとあった事からの確認のためであった。
すると画面に現れたのは、文字化けした文字の羅列。
マトモに読む事すらできず、止む終えず元の画面に戻る。
そして、次に『アイテムボックス』をタッチする。
『このスキルの所持者が触れている非生物を他空間に収納する事を可能とする。だが、収納している物は実際の十分の一の速さで劣化する。収納量は無制限ではあるが収納する物が大きければ大きいほど魔力を消費する』
つまり、劣化版『四次元◯ケット』だな。
と、一真は判断し元の画面に戻る。
そして、次々と基礎ステータスの説明を読んでいく。
STR
筋力に関わる値であり、上げる事で物理的な攻撃の威力が上昇する。
DEX
敏捷力に関わる値であり、上げる事で回避能力や移動速度が上昇する。
INT
知力に関わる値であり、上げる事で魔力を使用した攻撃の威力や魔力が上昇する。
CON
体力に関わる値であり、上げる事で物理的防御力や体力が上昇すふ。
POW
精神力に関わる値であり、上げる事で魔力への防御力や精神的な攻撃への防御力が上昇する。
一真は『CON』の値が他に比べて低い事から試しに『CON』を一上げてみる。すると隣の数字が『13』から『14』へと変化し残ステータスポイントが『98』となった。
『CON』をまた一つ上げてみると隣の数字が『14』から『15』へと変化し残ステータスポイントが『94』となっていた。
そして実験を兼ねてもう一度『CON』を上げてみる。
隣の数字は先程と同じく一増えるだけだったが、残ステータスポイントは『86』となっていた。
一増やすと『2』、二増やすと『4』、三増やすと『8』、確認のためもう一度上げてみると次は『16』残ステータスポイントが減った。
その事から、増やすごとに減量が二倍になる事に気がついた一真はそれを踏まえてステータスポイントを振り分けた。
黒田 一真 Level『1』
STR 『20』
DEX 『19』
INT 『21』
CON『17』
POW『19』
体力『1700/1700』
魔力『2100/2100』
魔法
『』
スキル
『魔術』『アイテムボックス』
残ステータスポイント『4』
振り分け終えた後、もう一度ざっと確認し『決定』をタッチし、一真の新たな基礎ステータスは完成した。