3.密かなる決意
ー隼人がこの世界にくる数分前ー
カーマル王国場内地下室
石レンガが作られた教室一個分ぐらいであろう部屋には、灯りは壁に掛けられたロウソクしかない。
当然薄暗く、更にこの部屋にいるもの全員がフードを被っているため傍からみれば黒魔術でもしているのでは?と疑われても仕方ない光景だった。
しかし、黒魔術とは違いフードを被った者たちは呪文を唱えるでもなくただ全員足元に設けられた魔法陣にくぎ付けであった…
「この子でよろしいかな?」
一人の男性が問う、歳は30半ばだろうかくっきりとした顔立ちにそれに見合った声の持ち主だ。
「よろしいかと、標的には人並外れた知能、判断力、そして類稀なる努力を持ち合わせております。必ずやこの世界に変革をもたらすでしょう。」
そう答えたのは、男性の向かい側に立っている女性だった。
フードを深くかぶっており、年齢はわからないが男性より若いのは確かであった。
「では、召喚を開始する、ー」
召喚が始まったころーその呪文に重ねるようにして先ほどの女性は別の呪文を編んでいた…しかし召喚呪文はよほど集中しなければならないのか、誰一人として気づくものはいなかった…
★★★★★★★
「すげー…中世かここは?」
無事猫耳少女を見失くことなく、王国に着いた隼人は目の前に広がる、まるで中世のヨーロッパを彷彿させる町並みが広がっていた。
「何そんなとこでつったてるにゃ?早く城に向かうのにゃ!」
猫耳少女に注意され、我に戻る隼人。猫耳少女の後を早歩きで追いながら隼人は言った。
「なぁ、そいえば何て名前なの?俺は影宮隼人って言うんだけど」
チラッっと隼人の方を見て猫耳少女は答えた。
「…スキエンティアにゃ、長いから皆からはティアって呼ばれてるにゃ」
答えるまに少し間があったのを隼人は見逃さなかったが、大して気にすることもなく
「そうか、よろしくなティア」
ティアは特に反応することもなく歩き続けた。
カーマル城ー城内
「召喚科の大臣様はいるかにゃ?」
ティアはまるで行きつけの店のようにくつろいだ様子で案内嬢に話しかける。
「はい、少々お待ちください。」
(おいおい、大臣に会うのに顔パスかよ…何者だ?)
内心驚きながら、しかし表情にはださず平然を装った。
暫くしないうちに案内嬢が答える。
「案内の者が来ますのでその方の指示に従ってください」
ただ平然に、マニュアル通り答える案内嬢、それ笑顔で答えるティア
「了解にゃ」
案内のものについて城内を歩く隼人とティア。
通りすがりの者が皆お辞儀をしているのに違和感を感じた隼人はティアに恐る恐る尋ねてみた。
「ティアってさぁ…もしかしてお偉いさんなの?」
その問いに、振り返らずにティアはそっけなく答える
「まぁ、そんな感じにゃ。」
驚く隼人、言葉を発しようとしたとき案内人が口を開く。
「こちらでございます。では私はこれで」
ティアに一礼し来た道を戻っていく案内人。
ティアはノックもせずに目の前の立派な扉を開けるのであった。
「誰かと思えばティア方伯でしたか」
それが転生科大臣の初めの言葉だった。
「べルイ公爵は、最近はいかがかにゃ?」
(方伯に公爵だと…?どちらも卿の位で最高クラスじゃねえか!…)
そんな隼人の驚きなどわかるはずもなく、二人は会話を続ける。
「さて、本題に移ろうか…」
そう告げた瞬間、べルイと呼ばれる男性の雰囲気が変わったのを感じた。
隼人はこの感覚幾度となく経験している、敵を見つけた時に発する殺気だ。
おもわず息をのむ。
自分は学生服だ、しかし相手はどうだ?鎧こそ着けていないがその腰には立派なソードがある。
いくら隼人に戦闘に自信があるといっても武器を持つものに素手で挑むのは無謀だとわかる。
(下手に動けば確実に殺られる…!!!)
「ティア方爵、後ろに連れている男性はどなたかな?」
表情一つ崩さず聞くベルイ公爵にティアは臆することなく答える。
「王国付近の森で見つけたにゃ、それでそちらが困っていると考えたから¨わざわざ¨連れてきてやったのにゃ。座標指定をミスするとはまだまだにゃ~」
その言葉が気に入らなかったのかべルイは少し考え口を開いた。
「確かに我々はミスを犯した、しかし¨座標指定は故意に変更した¨」
「そもそも我々が転生によって召喚しようとしたのは¨この男ではない…女性¨だ」
「「!?」」
俺はもちろん、ティアでさえ驚きの色を隠せないでいた。
しかしべルイの言葉にウソ偽りが無いと思ったティアは尋ねる。
「それは、どういう意味にゃ?」
しかしべルイはそれに答えることなくこう告げた。
「マールイ国法第一章9条目 対象と違う者が転生によって召喚された場合、その者を拘束し7日以内にー処刑する。またそのものに関わった者も同様に処刑する。それが例え方伯であったもだ」
にやり。と笑みを浮かべるべルイにティアは激しい嫌悪感を抱いた。
「この者達を拘束し、牢屋に入れろ!!」
そうべルイが告げた瞬間入ってきた扉が開き10人ほどの警備兵であろう人物が入ってきた。
なすすべもなく、隼人とティアは捕まってしまう。
連れていかれる瞬間隼人はべルイの顔を見た、小学生のころ自分をいじめた奴らと同じ顔だった。
その時隼人は決心した。必ず生き延びてやる!と。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
先の話ばかり考えが浮かんでそこまでどう導いていこうか…それに悩む日々です、まぁ楽しいのですけれどね。