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第8話 冒険者になっちゃった?

4階まで登るとセイナは受付に話しかけた。


「え、何?セイナさんドラゴン使いになったの?!」

「違うわよ、私は精霊一筋よ」

受付のねーちゃんは私を見て驚いたようだ。

まあ無理も無い。


「じゃあ一体なんなの、ってシノレさんの使い魔なの?」

どうやらのぼりを見て判断したようだ。


この4階にはほとんど人がいなかった。

受付のねーちゃん二人に別の冒険者が4名いるだけだ。

全員こっちを見ていたけど、シノレさんの使い魔かと納得して自分たちの作業に戻った。

シノレってどれだけ有名なんだ?


「ねえねえちょっと聞いていい?」

セイナと受付のねーちゃんは仕事の話をしているみたいなので、暇そうなビットにシノレの事を聞いてみた。


「シノレさんか?そりゃ有名人だよ。刻印魔法の量産化に成功させた人だかな。一般家庭でも刻印魔法が普及しているんだぜ」

自動ドア的なのは見たけど、他にどんな刻印魔法があるんだろう?


「シノレさんの使い魔なのに、そんな事も知らないのか。刻印に触れるとそこにこめられている魔法が発動するんだ」

「それは知ってるけど、どんな刻印魔法があるのか知りたくてさ。ドアを開閉させるのは見たのでそれ以外で」

興味深々にこちらの話を聞いていた受付のねーちゃんが口を挟んできた。

「えっとね、たとえば照明ね。ギルドの天井も刻印魔法の照明が使われているわ」

見上げると天井に光玉がガラスケースに入っている。


「あれは光の魔法の力を借りているのよ。本来ならセイナさんのような精霊使いや魔法使いじゃないと使えないのだけど、刻印魔法がそれを誰にでも使えるようにしてくれたのよ。もちろん刻印魔法を発動させるにはマナが必要だけどね」

丁寧に説明してくれた。

「そうなのよね。便利なのはいいんだけど私の修行は一体なんだったのかって思うわ」

まあ確かにそうだよね。

「他には調理などに使う火力や、床のゴミを吸い上げてくれる風の刻印装置とかね」

へぇー、電気も使わないのに便利な世界だ。

「夏には風と氷の複合刻印魔法、冬は風と火の複合刻印魔法で、部屋の中がすごく快適になるんだぜ」

なるほど、そうやって引き篭もりが量産される訳か。


「そして冒険者にとって最大の刻印魔法はこれよ」

セイナは腕につけている刻印が刻まれているブレスレットを見せてくれた。

「これは神聖魔法のヒールが刻まれている刻印魔法よ。教会の圧力で数も少なくかなりの高額ではあるけど、触れると回復してくれる優れものよ。といっても初級のヒールだから回復量は少ないけどね」

なるほど。

それはすごい。

戦ってる最中でも触れば回復してくれるのって、かなり反則だよね。


「でもそんなのが普及したら魔法使いとかの存在意義がなくなっちゃうんじゃない?」

「そうでもないわよ。仮に上級魔法を刻印できても、それを発動する膨大なマナが必要になるからね」

それもそうか。

修行してマナを増幅させないといけないってことか。


「ところで使い魔君、シノレさんは他にどんな刻印魔法を造っているかを教えてくれないかな?」

「私の名前はナァズだよ。シノレの仕事についてはよくわからない」

「そっか、さすがに口止めされてるか」

どうやら何か勘違いしているようだ。

「違うよ。私は今日の昼前に召喚されたばかりなんで、シノレの事はよく知らないんだ」

4人はさすがに驚いたようだ。


「えええ?今日召喚されたばかりなの?」

「そうだよ」


「なのに…なんでひとりで行動してるの?」

「おつかいを頼まれたのだ」


「召喚されていきなりおつかいなの?」

「そうなんだよね。とても人使いの荒い少年だよ。まったく」


「え!ちょっと待って!?」

「ん、なに?」


「シノレさんって少年なの?」

「そうだけど、知らなかったの?」


4人はまたも驚いたようだ。

「ちょっと待ってよ。シノレさんの刻印魔法って5年前から普及しだしたのよ!」

受付のねーちゃんが絶叫する。

「5年前か。多分10歳とかその位の年齢かな。そう考えるとシノレはとても凄い少年だって事か」

私のセリフに今度は唖然としている。

「信じられない…絶対に壮年の刻印魔術師だと思ってたのに…」

かなりのショックを受けているようだ。

おじ様趣味なのかな?


そうだ。

おつかいで思い出したけど…この人たちなら格安な道具屋とか知ってるかな?


「あのさ、これを買いたいんだけど安い店知らない?」

カバンの中からリストが書かれた紙を取り出して見せる。

セイナがリストを受け取り内容を確認するが、すぐに受付のねーちゃんに渡した。

「さすがに特殊過ぎてよくわからないわ、ミニアはわかる?」

受付のねーちゃんの名前はミニアと判明。


「ああ、これね。でも確かご用達の店があるんじゃなかったっけ?」

「そこはダメ。使い魔に買い物に行かせてるせいでかなり高いんだ。喋れない使い魔相手だからかなりふっかけた値段で取引しているっぽい」

なるほど、確かにねとミニアが納得した。


「ドラゴンの姿に驚かされたけど、ナァズは使い魔なのよね?どうして喋れるの?」

「さあ?シノレもよくわかっていないみたい」

さすがにスキルの事とか話すとまずいのでごまかした。

そうなんだとミニアはとりあえず納得してくれたようだ。


「このリストの品はギルド内で販売されているわよ」

おお!

ここで買えるんだ。

「でもギルドで購入するには冒険者ギルドに加入していないと無理なのよ。他で買うよりはすごく安いけどね」

なるほど、さすがに部外者には売ってくれないか。


「私が代理で買ってあげてもいいけどどうする?」

それは嬉しい提案だけど、それじゃセイナがいない時は買えないよね。

どうしようか。


「ねえナァズちゃん、よかったら冒険者ギルドに入ってみない?」


ミニアがとんでもない提案をしてきた。

さすがに3人も無理だろうって顔をしている。

「さすがに無理か。シノレさんの許可もいるだろうし」

「それは問題ないよ。私は確かにシノレの使い魔だけど、私は私のやりたいことをやってるし」

問題ないだろう。

…多分。


「そうなんだ。だったら後は加入できるかどうかだね。…出来るのかしら?」

ミニアは少し考えた後、ちょっと待っててねと席をはずした。

「でも本当に平気なのか?勝手にそんなことして」

ビットが心配そうにこちらを見るが、まあ問題無いでしょう。


「それにしてもシノレさんが15、6とかの年齢にはびっくりしたな」

「確かにその通りだわ。だとすれば今後もどんどん刻印魔法が増えるわね。便利な世の中になりそうだしいいんじゃないの」

こうやって人間堕落していくんだね。


シノレの事について話しているとミニアが中年の男性を連れて戻ってきた。

「おまたせナァズ。この人は冒険者ギルドマスターのライスーンよ」

ギルドマスタ-?

一番偉い人なのかな?


「これは驚きだ。まさかドラゴンが使い魔として呼び出されるとは。はじめまして、私はギルドマスターのライスーンだ。ギルドに加入したいと聞いたのだけど?」

「そうだけど、使い魔が加入とか出来るのかな?」

ライスーンはまたも驚いたようだ。


「会話をする使い魔と聞いていたが、流暢に喋れるんだね。かなり知能が高そうだ」

「でもドラゴンは知能が高いとよく聞きますけど?」

セイナが疑問に思った事を口にした。

「確かにドラゴン種ドラゴン族であれば知能は高い。しかしこれほど小さいホワイトドラゴンだと、幼すぎて知能はさほど高くないと思ったのでね」

なるほど、やっぱり私はまだ幼いドラゴンなんだ。

「とにかくギルドに登録できるか挑戦してみようではないか」

ライスーンは懐から出したギルドカードをカウンターに置いた。

私はカウンターまで飛び上がりギルドカードを覗いたけど、なにも表示されていない新品のカードだ。


あれ?

なんだか違和感を感じるんだけど。

そうだ、シノレのカードとは色が違うっぽい。


「シノレのギルドカードと比べると色とか違う気がするんだけど」

「ああ、シノレ導師は魔術師ギルドの一員だからね。カードが違うんだよ」

なるほど、ギルド違いなんだ。


「で、どうすればいいの?」

ライスーンはギルドカードを裏返し、ここに自筆で署名すれば自分のカードになると教えてくれた。

クレジットカードのように署名しないとだめって事か。

「問題はナァズ君が署名できるかどうかなんだが」

右手で差し出された羽ペンを受け取る。


むむっ。

どうやって握ればいいんだ。

左手も使って持ち方をいろいろ探る。

…なんとか持つことに成功した。


「なにか試し書きできるものないかな?」

ゴミ箱に捨てられていた紙をミニアが取り出しテーブルの上に置いた。

早速試し書きをするが結構簡単に文字が書けた。


「おおお!」

ビットが驚く。

「さすがはシノレさんの使い魔だ。文字も完璧だな」

俺は覚えるのにすごく苦労したのにとぼやきが聞こえたが、聞こえないふりをして流した。


「では今度はここに書いてみてくれたまえ」

裏側を向けたギルドカードを私の前に差し出した。

よし早速。


ナァズと書いた。


筆を置き、ギルドカードを見ていると、名前の欄が光り出した。

そして私が書いた名前と一緒に名前の欄が消えた。


「どうやらうまくいったようだね」

ライスーンはギルドカードを反対側に向けてそのままカウンターの上に置いた。

おおっ!

何も表示されていなかった新品のギルドカードに、いろんなデータが表示されていた。




名前:ナァズ 種族:ホワイトドラゴン 年齢:17 性別:女


職業:使い魔 冒険者ランク:F 


所属:王都ファレンス支部


筋力:S 素早さ:A 起用:B 頑丈さ:S 


賢さ:S 賢明さ:B 生命力:A 精神力:A


貢献度:0 備考:スキル有り




カードの左側にはステイタス、右側には自身の写真が表示されていた。

シノレは胸から上の顔写真だったけど、私のは身体全体が写っている。

ってかいつの間に撮られたんだ?


「うぉおおお!すげーーー!」

ビッドが絶叫するほど驚く。

よくわからないがすごい能力らしい。

そういやスキルで底上げされてるんだった。


「使い魔とはいえさすがはホワイトドラゴン、能力が高いな。英雄や勇者クラスだ」

そんなに強いの?

全然実感無いんだけど。


「スキルなんてあるの?!」

セイナがすごく興味津々な様子で聞いてくる。

「あるけど…教えない」

さすがに教える訳にはいかない。

「ちぇっ、残念」


「あ、そういえばナァズちゃんお金持ってる?金貨3枚いるんだけど」

なんですと!

「いや今回は特例ってことで入会金は必要ない。ただし更新時の手数料は頂くので、ミニア君から説明を後できいておいてくれたまえ」

私は用事が出来たのでこれで失礼する、と奥に引っ込んでいった。


「ギルドマスター権限で入会金の3金貨は免除になったけど、ギルドカードは1年毎に更新が必要になります。更新の為の手数料は1金貨になります。今日から13ヶ月までの間はギルドカードは効力を持続するけど、13ヶ月を過ぎたら何も表記しなくなるので注意してください。12ヶ月過ぎた後に更新するとさらに手数料が上乗せされます。特別な理由があれば上乗せ分の手数料は必要ありません。13ヶ月過ぎて効力が失った後でも、特別な理由があれば再発行は可能ですが手数料は上乗せされます」

マニュアル通りの説明をしてくれた。


「今5金貨払ったら6年間有効とかになるの?」

「無理です。特殊な装置を使ってギルドカードに魔力を補充するのだけど、最長13か月分しか補充できないの」

なるほど。


「マナと魔力ってどう違うの?」

「マナは人が備えているものだけど、魔力は魔石などから抽出するものなのよ」

「魔石?」

「マナが封じ込められた石よ。鉱山などで発掘できるけど、今は迷宮の魔物を倒す方が効率がいいわ」


迷宮?

そういや2年位前に近くに迷宮が現れたとか。

「そういえば迷宮が出来たとかシノレがいってたけどそれの事かな?」

「そうよ。2年ちょっと前に大地震が起きたのよ。その大地震は迷宮を作り出したときに発生したって言われてるわ。その迷宮はかなり深い階層まであり魔物が徘徊してるの。迷宮の攻略は今の所、冒険者中心で行われてるわ。迷宮の中にいる魔物は魔石から造り出されていて、倒すと魔石に戻るらしいのよ。その魔石は冒険者ギルドの1階で換金する事が可能よ」

魔石で造られた魔物か。

「誰かが迷宮や魔物を造っているのかな?」

「わからないわ。迷宮の最深部に迷宮主がいてそれがすべての元凶だって言うのが今の説よ」

ふむ、いろいろ聞けてよかった。

シノレに聞いてもこんなマニュアル化されたわかりやすい説明をしてくれないだろうし。

なかなかに有意義な時間だった。


「さてそれじゃシノレのおつかいに戻ろうかな」

「がんばってね」

「じゃあ1階の店へ案内してあげるわ」

セイナが案内をかってくれた。

ギルドカードをカバンに入れてセイナの後をついていく。

「また来てね。そこの窓をノックしてくれれば開けるから」

やったね。

ショートカットが可能になった。


3人と一緒に1階のギルド販売所までやってきた。

さすがに1階まで戻ると私の姿はとても目立つ。

みんながこちらを見てくるが、とりあえずその視線は無視した。


「やあミック。この子がいろいろ買いたい物があるそうなんで売ってあげて」

ミックと呼ばれたギルド員は私を見てさすがに驚いた様子だが、ギルドメンバーじゃないと売れないと断ってきた。

私はカバンからギルドカードを出してミックに見せる。

「なんと!使い魔なのにギルドメンバーなのか、驚いたな」

「ギルドマスターが直々に受付してくれたわよ」

「なるほど、だったらちゃんと販売しないとな」


ギルドカードを返してくれた時に購入リストを渡す。

「全部あるよ。結構な量になるが持って帰れるのか?」

「持って帰れるとは思うけど、袋とか売ってないかな?」

「あるよ、じゃあそれにいれて渡すよ」

値段を聞いてお金を渡すが、かなりの金額が残った。


どのくらい多めにくれたのかはわからないけど多分かなり安かったんだろう。

今後はここを贔屓にするか。

3人は外まで一緒についてきてくれたが、またミニアの所に戻るらしい。

…話の途中だったのを邪魔しちゃったよね。


「ごめんね」


謝るとぜんぜん問題ないと笑ってくれた。

そのまま3人と別れた。

この後どうしようか悩んだけど、さすがにこの大荷物で食べ歩きは出来ないだろうし帰ることにした。

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