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第31話 バーキル神殿からの使者

「ナァズは看板娘になるんだ」

「ならないよ!」


竜の翼亭の主人の告白をやんわり断ったら男泣きされた。

困った私はたまに来るからと言ってしまった事にとても後悔している。

来てくれれば食事はタダでいいとか迷宮用の弁当を作るからとか…。

凄く世話焼きでいい人なんだよなー。


「ナァズはいい主夫を手に入れたね」

他人事だと思って言いたい放題だな!

でも行かないと押しかけられそうだし、程々に顔を出すようにするしかないかなぁ。


「それにしてももう40階層の階層主を倒したんだ。早すぎるよ」

うむ、確かにそうかもしれない。

4回潜って40階層突破だし。


「今回は40人くらいの大人数だったけど連携が取れていてかなり楽だったよ」

階層主戦の事を話すとかなりいいパーティだったねとシノレも太鼓判を押してくれた。


「でもこれはさすがにビックリだね」

私のギルドカードを見ながらシノレはため息をつく。

「能力の上限がわからないってある意味恐ろしいよね」

そうなんだよね。

攻撃するとヘイトがすぐに代わるのは非常によくない。


「やっぱりひとりで倒すしかないかな」

「いや。今回のように臨機応変に戦えば問題ないと思うよ」

確かにそうだけど…。

「指揮する人が有能だったらそれで問題ないよ。そうじゃない時に問題が起こるかもしれない」

うーんと唸るけど、シノレは特に問題ないんじゃないってお気楽な様子だ。


「次は50階層だからね。皆のレベルも上がってると思うし、そんなに心配する必要はないと思うよ」

「そうかな?」

「ナァズは4回しか潜ってないからね。そんなスピードで進むから不安になるんだよ。他の人は1年とか2年とか長期間潜ってちゃんと実績を積んでいるんだよ」

考えすぎてたのかな。

「ナァズは強すぎるからね。僕からすればとても頼もしいけど」

「でもどうしてこんなに強いのかな?まだ子供のドラゴンなのに」

「それに関してはいろいろ考えてることがあるよ」

ほう、考えがあるんだ。

やっぱりシノレでも気になるよね。


「勇者召喚で呼ばれる人はね、とても高い身体能力を持っているんだ」

「必ず?」

「そう必ずね」

それはすごいね。

確実に当たりを引いてるんだから。

いや当たりを選別して召喚してるのかも。

ひ弱な勇者を召喚しても無意味だしね。


「ナァズは元の世界では武術とか習っていた?」

「武術はさすがに習ってないよ。体育会系クラブには所属していたけどね」

「体育会系クラブ?」

しまった。

ついうっかり元の世界の事を普通に話してしまった。


「体操をやってたよ」

高校のクラブで体操部に所属していた。

床運動がメインだった。

「体操って…どんな事をやってたの?

「アクロバットがメインだったよ」

「へぇー、そうなんだ」

私を見て意外そうに感心する。

「でもお金を取れるようなレベルじゃなかったでしょ?」

「そりゃ当たり前だ」

高校生のクラブ活動にそんな期待をされてもね。

「もしナァズが元の世界の姿・能力だったとして、迷宮に潜って今のように戦えると思う?」

「絶対無理!」

無理どころか1階層のゴブリンで死んじゃうと思う。

「でもね、ナァズが無理って言う人物でも勇者召喚しちゃうんだよ」

「…へ?」

今一瞬disられた気がしたけど気のせいかな?


「勇者の事を詳しく調べてみたんだけど、今まで召喚された勇者は普通の人が大半だったよ。ナァズよりも運痴な人もいたし」

「そんな人を召喚してどうするのさ?」

役に立たないどころじゃないよね?

あ、でも情報を得るくらいには役に立つか。


「でもね。どの勇者も能力はBとかAとかで、まれにSもあったりする」

「…どういう事なの?」

「考えられるのは、こちらの世界へ召喚した際に能力が底上げされるって事」

「この世界の神様が能力を与えてるのかな?」

「そうなのかもしれないし違うかもしれない」

「どっちなのさ?」

「僕にはわからないよ」

シノレは肩をすくめる。

エルナスさんはわかるかな?


『わかりません』


エルナスさんでもわからないか。

「他の考えもあるよ。もしかしたらこちらの世界とナァズのいた世界では力の差が違うって事。ナァズのいた世界の方がすべてにおいて勝っているんだ」


うーーーん。

それはどうなんだろう。

「私の世界の赤ちゃんがこっちに召喚されたら強いって事?」

私の極論にシノレはさすがに苦笑いになった。

「今の話はすべて僕の妄想だから答えはないよ」

「でもこっちに来てパワーアップしてる事は間違いないんだよね?」

シノレはうなずいた。

「じゃあ私もパワーアップしたって事かな?」

「そうだね。しかもナァズはスキルを含めて2段階パワーアップされてるんだと思うよ」


スキル?

ああ、そうだった。

私は竜族の心得ってので身体能力が強化されてるんだった。


「ナァズがこの世界のドラゴンだったら多分そこまで強くはないと思うよ」

子供のドラゴンだしね。

「だったら私はパワーアップが2回されてるって事になるのか。すごい反則だね」

なんとなくだけど自分の強さがわかった気がする。


さてそろそろ寝るとするか。

話を切り上げてベットの脇で丸くなる。


「あれ、もう寝るの?」

「うん」

「闇に戻る?」

「今日はこのままでいい」

「そう、じゃあおやすみ」

「おやすみ…って忘れてた!」

いきなり大声を上げられてたシノレは少し驚きながらどうしたのと聞いてくる。


「重大な話を忘れてたよ!」

そうクレイジーピエロとか迷宮の主とかだ。

「何かあったのかい?」

その両名の事を話すとさすがにシノレの顔が険しくなった。

「上位悪魔に迷宮の主まで出てきたんだ…」

シノレは本棚から1冊取り出して机に広げた。

その机に飛び上がるとシノレはすごい勢いでページをめくっていた。


「ナァズから聞いた特徴だと…このあたりかな?」

めくっていた手を止めて本を私の方へ向けて見せてくれた。

「うーーーーん」

その本には魔族のイラストが載っていた。

似てると言えば似てなくもないけど…。


考え込んでいるとドアを叩く音が聞こえた。

珍しい。

配給以外でこの部屋のドアがノックされるなんて。

「シノレさーん。お客さんが来てるよ」

レーチェの声だ。

シノレはドアに近づき「誰が来たんですか?」と尋ねる。

「教会の方です。バーキル神殿の司祭様です」

バーキル…どこかで聞いた名前だ。

思い出した。

エルナスさんと共に祀られている戦の神バーキルだ。


シノレは重い溜息を吐いた。

「また厄介な人が来たなー」

そういえばシノレは教会と揉めているんだった。

刻印魔術関連で。

ヒールの刻印具とか、ようするに利権の問題だ。


「わかった。すぐに準備するので応接室で待たせておいて」

会うんだ。

引き篭もりのくせに。

でもデリケートな問題だしちゃんと話し合いしないといけないか。


「ちょっと、勝手に困ります!」

突然レーチェが大声を上げた。

そのレーチェを押しやって2人の男が部屋に入って来た。

「久しぶりですシノレ導師。大変失礼だと思いましたが事は緊急を要しますので、このようなご無礼を押し通して会いに来ました」

「本当に無礼だね」

さすがのシノレも少しキレ気味だ。

別の男が部屋を物色するように見まわし、そして私と目が合った。

「いたぞ!例のドラゴンだ!」

そう叫んで男は鬼気迫る顔でなにやらつぶやき始めた。

つぶやきが終わると同時に私を凝視してくるけど…何なのいったい?


『空間封印の呪文を唱えてきましたがレジストしました』


なにその空間封印って?

「貴方たちはいったい何をしているのですか!」

びっくりした。

まさかあのシノレがあんな大声を上げるなんて…。


「どういうつもりなんですか!事と次第によってはこちらも本気で相手しますよ」

「どうもこうもない!そのドラゴンは異端だ。だから我々が接収する!」

…異端?

私が?

とりあえず悠長に考え事をしている場合ではない事はわかった。

素早くシノレの後ろへ回る。

本来なら逆のポジションだけど、連中の狙いは私みたいだし。

「シノレ導師、おとなしくそのドラゴンを渡してください」

「僕の使い魔をどうして渡さないといけないんだ?」

「それは異端だからです」

「いやだと言ったら?」

「実力を行使するまでです」

…あの2人を相手にして勝てると思う?


『相手の情報が未知数なので断言はできませんが、本気で相手をすれば勝てます』


本気…。

それは殺し合いって事でいいのかな?


『その通りです』


…私に人が殺せるかどうかって事ね。


『殺してもリザレクションを使えば生き返ります』


ならば遠慮は無用って事ね。


もう一人の男がメイスをとりだしてじりじりと近づいてくる。

「渡す気は…無い様ですね」

最後通牒を突きつけてくる。

「では実力行使と参りましょうか」

そういうなり男は呪文を唱え始める。

そしてもう一人の男は武器を振りかざして向かってくる。

私はシノレの足の間から飛び出して向かってきた男の足を切り裂いた。

…手応えが悪い!?


『脛にある金属鎧に阻まれました』


鎧か!

魔物はそんな鎧着てなかったから忘れてた!

薙ぎ払ってきたメイスが体に命中して勢いよく吹っ飛ばされた。


痛っ!


男はさらに追撃の為に私へと一気に詰め寄る。

私は思いっきり息を吸い込んだ。

しかし男の追撃は来なかった。

一瞬だけ駆け寄ってすぐに立ち止まった。

そして体中から血飛沫を上げて膝をついた。


なんじゃこりゃー!

ホーリーブレスを吐くことも忘れて呆然とその光景を見入ってしまった。

「まだやる?」

シノレの声だった。

とても冷たく背筋が凍えるような声だった。

宣戦布告をした男は真っ青な顔をしているが何も喋らない。

しかし戦意は喪失しているようにも見える。


「それまでじゃ!」


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