第30話 サイクロプス撃破
やってきました40階層。
階層主の部屋の前に到達した。
40人規模の団体がそこにいた。
見知った顔はひとつもない。
これからすぐに階層主の部屋に入るようだ。
うーん、しかたがない。
攻略が終わるまでのんびり待つとするか。
その間にいろいろ復習をしておこう。
ここの階層主はサイクロプス。
片目の巨人だ。
10階層のミノタウロスよりも巨漢で3メートルほどあるらしい。
武器はメイスを装備しているらしいけど、徒手空拳の使い手でもある。
握力も強力で掴まれた人は下手すりゃ握りつぶされるとか。
とにかく相手に捕まらないようにしないといけない。
後は範囲スキルの雷を使ってくる。
さほどダメージはないけど感電させられてしまう。
痺れてしまうので要注意だ。
よし、復習は終わり!
遅めの昼食を摂ろう。
カバンから肉焼きを取り出してかぶりつく。
うまー。
すぐに食べ終わり2個目にもかぶりついた。
「やあ。君はシノレさんの使い魔だよね?」
咀嚼中なので喋れないよ。
なので代わりにうなずいた。
「君の事は噂でよく聞いてるよ。かなり強いって」
まあ、それほどでも…あるかな?
「君も階層主を倒すんだろう?よければ一緒に攻略しないか?」
そう来たか。
ひとりで戦うよりは安全かな?
でもこれほどの大規模で戦うのは初めてだからなぁ。
「こちらは問題ないけど私は連携とか不得手だよ?」
「ありがとうございます。攻撃力が高いと聞いていますので中隊B班のアタッカーをお願いします」
アタッカーに任命されたよ!
でもどうやって戦えばいいんだろう?
「前列の守備隊で階層主のヘイトを管理します。その都度合図しますので攻撃や後退を心がけてください」
「わかった。合図通りに動けばいいんだね」
リーダーはうなずいた。
「そうならないように万全の指揮を執りますが、もし緊急時の時は臨機応変でお願いします」
「了解」
「では頑張りましょう!」
…ヘイトって何だろう?
憎悪とか憎むって意味だったかな。
『戦闘中のヘイト管理とは、憎悪をコントロールする事です。憎悪をいかに守備隊に向けさせるのかがポイントです』
なるほど。
守備隊に怒り狂ってくれると、別の人が攻撃を当てても見向きもせずに守備隊に釘付けになるわけね。
『そうです。しかしその怒りを削ぐほどの攻撃をすれば、ヘイト対象が変更される場合があるので気を付けないといけません』
そういや30階層の時は私の攻撃が強すぎてレクサからヘイトを奪ってたね。
『あの時は特殊な状況でしたので仕方がありません』
んー、程々に攻撃すればいいのかな?
『ヘイト管理をするリーダーの腕次第です』
じゃあちゃんと私の能力を伝えた方がいいね。
「ちょっと待って?」
持ち場に戻ろうとしていたリーダーが振り返って首をかしげてくる。
「私の能力を知ってもらった方がいいかなって思って」
「そうですね」
カバンからギルドカードをとりだしてリーダーに渡した。
「なっ!Sなんて初めて見た」
やっぱりSって少ないのかな?
『数名しかいません』
そんなに少ないんだ。
「スキルとかあるんですか?!」
「うん、接触の…回復とか。後ブレスが吐けるけど危険だし控えた方がいいかな?」
リーダーは少し悩んだけど回復もブレスもおまかせしますと丸投げされた。
まあ臨機応変で行こう。
…ただ回復って言っちゃったよ。
リザレクションってちゃんと言っておいた方がよかったかな。
『アタッカーとリザレクションの両立は難しいかと』
だよね。
回復専門じゃないとそんな暇なさそうだし。
リザレクションも臨機応変って事でいいか。
よし、準備万端。
リーダーが扉の前に立ち、剣をかかげた。
「では皆、これから階層主の部屋に入る。我々は絶対に階層主を倒せる!各々、私の指示に従って戦ってくれ!」
おおおーーーー!
怒号が響いた。
やっぱり気合ってのは必要だよね。
今までは特にそんな感情はなかったけど、いつのまにか私もおーって叫んでいた。
部屋はかなりの広さがあった。
40人が入るんだしこのくらいの広さがないと戦えないか。
私はいつものように壁際にカバンとのぼり旗を置いて戦闘準備を完了させた。
部屋の中央に大きな魔石が現れ。すぐに巨大なサイクロプスへと変化した。
「戦闘、開始!」
リーダーの言葉で戦いが始まった。
「まずは守備隊がサイクロプスの攻撃を防ぐ!」
6名の守備隊がサイクロプスを囲むように陣取り、各々攻撃し始める。
守備隊の人…重量級の人ばっかりだ。
「中隊A班並びに魔法隊攻撃開始!」
おっと攻撃が始まった。
でも私は中隊B班なのでまだ待機だ。
うーん…待つのって結構根気がいる。
どうやらシノレが言ってたように戦闘に目覚めてしまったのかもしれない。
「中隊A班後退!B班攻撃開始!」
指示が来た!
守備隊の合間を縫って突撃した。
後ろを向いているサイクロプスの足に爪で数回引っ掻いたけど…。
なんだか思うように攻撃できない。
さすがに混戦過ぎる。
しかも私は小さいから何度も踏まれそうになったり、味方の攻撃が当たりそうになったりとかなり危険。
「中隊B班さがれ!」
おっと。
合図と共に後ろへ後退した。
うーーーん。
どうしよう。
『飛行して攻撃すれば問題ありません』
そうだ、忘れていた。
以前空を飛びながらの攻撃で、一度おもいっきり頭をぶつけたからなー。
あれ以来、ずっと4つ足での攻撃しかしてなかった。
…しかし空中戦はやった事ないから少し不安だ。
『少し勝手が違いますが、すぐに慣れます』
エルナスさんがそう言ってくれるなら…行けそうだ。
しかし守備隊ってのはかなり過酷なポジションだね。
あのメイス攻撃を盾で防いでるけど、それでもかなりダメージ受けてるみたいだし。
「中隊B班攻撃!」
エルナスさんの忠告通りに空中戦で攻撃してみるか。
メイスが守備隊に振り下ろされた瞬間を狙って…。
うりゃりゃ!
でっかい後頭部にツーハンドクロー(たった今命名)を叩きこんだ。
「ぐおおおぉおおおぉおお!」
サイクロプスが叫んだ。
そしてこちらへ振り向いて私を捕まえに来た。
うわっ!
何とか回避したけど…あれ?私にヘイトが来た?
「中隊B班下がれ!」
おっと、下がらないと。
サイクロプスを見据えながら後ろに下がるけど、やっぱり私にヘイトが来てるっぽい。
「中隊A班攻撃!」
リーダーがあわてて指示を出す。
守備隊もシールド攻撃などでヘイトを自分に向けようと必死だ。
頑張ってくれたおかげですぐに守備隊にヘイトが移った…けど私がまた攻撃したらまたヘイトが変わっちゃうかな?
『その可能性は高いです』
「ナァズさん、貴方は一旦待機していてください!」
「了解!」
やっぱり待機命令がきた。
「中隊A班下がれ!B班攻撃!」
でもいい具合に攻撃は出来てるね。
連携もちゃんと機能してるしようだし。
逆に私のせいで少しピンチになっちゃったよ。
『リーダーの判断ミスです』
やっぱり私の力が飛び抜け過ぎかな。
サイクロプスだってひとりで倒せちゃうみたいだし。
『ギルドカードのランク表記が曖昧のせいです』
え、そうなの?
『CからB、BからA、AからSは一定の範囲で分けられますがSには上限がありません』
って事は私はSSとかSSSくらいとかなの?
『そうです』
だったら誘われた時に教えてほしかったよ。
突出し過ぎだから断ったのに。
『他メンバーの能力が不明でしたので検証できませんでした。後すでに了承されていました』
そうだった。
先に聞いておけばよかったか。
ってか戦闘中に何集中切らしてるんだ!
もっと集中!
…サイクロプス戦はかなり安定に戦えてるみたいだ。
さっきも言ったけど待つのが辛いなぁ。
『雷攻撃が来ます』
やばい!
「雷がくる!」
私の叫びでリーダーがすぐに「妨害しろ!」と指示を出したが…遅かった!
守備隊と中隊Aの大半が雷に撃たれた。
『守備隊全員痺れています』
エルナスさんの言葉と同時に私は突撃していた。
左腕を攻撃してそのまま通り過ぎる。
振り返りホーリーブレスを浴びせた。
「ちゅ、中隊B班攻撃!回復隊はリカバリーを早く!魔法隊もそのまま攻撃続行!」
サイクロプスは右腕を大きく薙ぎ払い、手に持っているメイスで私を攻撃してきた。
ブレスを中断して少し後ろに飛び退く。
私の目の前をブゥンと風を切りながらメイスが通り過ぎていく。
さらにサイクロプスは1歩前に出て振りぬけたメイスを振り戻してきた。
──!
モロに右側面に食らってしまい、地面に叩きつけられた。
痛っ!
『次の攻撃が来ます』
痺れてる守備隊を蹴散らしながら近づいてきた。
そして両手で振り上げていたメイスを一気に振り下ろす!
「ナァズさん!」
その強烈な攻撃は地面を陥没させた。
危なかった!
あれを食らってたらかなりやばかった。
自己リザレクションで回復しながらサイクロプスの攻撃を避けて避けて避けまくる。
『守備隊が復帰しました』
よし!
サイクロプスの股の下を一気に駆けて守備隊の横を抜けた。
「よし!守備隊囲め!中隊B班は後退、A班攻撃!」
守備隊が私に向いたヘイトを取り戻すべく攻撃を始める。
サイクロプスは私に近づきたいようだけど守備隊に何度も邪魔をされ、怒りが守備隊に向いたようだ。
すごいな…。
こうやってヘイトを管理するんだ。
改めてパーティ戦の事を理解できた。
そんな中、リーダーがこちらへ寄ってきた。
「ナァズさん平気ですか?」
「大丈夫だよ」
「あの危険な状況でサイクロプスを引きつけてくれて、ありがとうございました!」
そう言って元の場所に戻って行く。
律儀な人だなぁ。
その後、崩れる事は一度もなく、サイクロプスを撃破した。
でも私はあんまり攻撃に参加出来なくて、フラストレーションが溜まり気味だった。
しかし死者を出さずに無事に倒せたのは良いことだ。
「皆、サイクロプス撃破おめでとう!魔石を換金した後、竜の翼亭で撃破記念パーティを開こうと思う。時間のある人はぜひ参加していってくれ!」
おお、宴会かぁ。
ちょっと参加してみようかな。
リーダーが大きな魔石を拾い、そのまま奥の扉を開けた。
そのまま皆で転移ゲートのある部屋まで移動する。
そして転移ゲートの上へと上がる。
これでようやく40階層まで来れるようになった。
皆一斉に1階層へと移動する。
そのまま外に出て冒険者ギルドまで向かう。
こんな大人数で歩くのはこの世界に来て初めての経験かな。
皆がお互いの健闘を称えながら町へと向かった。
換金が終わり一人20銀貨ずつ配られた。
あれだけ楽な戦いだったのに悪くない稼ぎだ。
っていうかあんまり貢献してないように思えるので逆に悪い気がする。
待機の時間が長すぎた。
半数程がその場で解散したけど、残りは竜の翼亭へ移動する。
もちろん私も移動する。
竜の翼亭に入ると各々が席に座り、そしていろいろ注文する。
私はミルクと肉だ。
ウエイトレスが私の姿を見てかなり驚いていたけどね。
「では皆!サイクロプスの撃破を祝して…かんぱーーーい!」
「「カンパーーイ!」」
各々が手に持ったジョッキを掲げて隣のジョッキにぶつけ合う。
さすがにそれには参加できなかったけど、食うぞ!飲むぞ!
…そういやボス前で肉焼き2個食べたんだった。
あまりお腹が減ってない。
「ナァズさん。今回は参加してくれて本当にありがとう」
リーダーが近寄ってきて私に声をかけてくれた。
実のところ私は皆から敬遠されていて、話し相手が居なかった。
ここまで来る道中も二言三言と話しかけては来てくれたけど、竜使いシノレの使い魔ってのがかなり知れ渡っていて敬遠されてしまうのだ。
シノレの名声が凄すぎるせいなんだけどな!
そんなボッチの中、リーダーが気を使ってくれたのか、話しかけてくれた。
「いえ、誘ってくれて感謝してますよ。1人だとやっぱり不慮の事故とかがあるからね」
それが一番怖い。
「あの崩れかかった時はさすがにまずいと思いました。ナァズさんが囮になってくれたおかげですぐに立て直すことが出来ました。あれにはとても感謝しています」
リーダーが私を褒め称えてくれると周りも、そうだ!ありがとう!等といろいろ声が上がる。
「私は私の役目を果たしただけですよ。パーティ戦は役割分担が重要ですから。今日の指揮はとてもよかったと思いますよ」
そうだ!とてもよかったぞ!と合いの手がいっぱい飛んできた。
「いやあ、そう言って頂けたら冥利に尽きます。ありがとうございます」
リーダーは嬉しそうにうんうんとうなずき別の人の席へと移動した。
さて、そろそろ私は帰るとするかな。
って、途中で抜けても平気なのかな?
どうしようかと考えていたら後ろから声を掛けられた。
「シノレさんところの使い魔ですよね?」
振り返ると、この竜の翼亭の主人が立っていた
「そうだけど?」
「よければこの店の看板になってくだせえ!」