第15話 初のパーティ戦へ!
波に漂うような感覚がずっと続いている。
目を開けないと…。
シノレとの約束を…。
約束…?
なぜそんな事を守る必要があるの?
もうこのままここで身を任せればいいよ。
何かの使命があったような気がしたけどこの感覚に逆らえなかった。
──ナァズ。
どこかで聞いたことのある声が聞こえたような気がした。
──闇から戻れ!
なんだか混濁した意識が透き通るように鮮明になる。
あれあれ。
急に何かに引っ張られるかのような感覚の後に目が覚めた。
「ふえ?」
視界に映ったのはシノレの部屋だった。
とりあえずおおきく伸びをして体をほぐした。
「おはようナァズ」
シノレの声が聞こえた。
「おはようシノレ」
「闇の中の事、何かわかった?」
「全然。怠惰に逆らえなくて結局はゆーらゆらしてた」
「あー、怠惰には敵わないよね」
シノレがしみじみと答える。
「今日は何か用事とかあるの?」
「今のところは特に無いけど。何かやりたい事でもあるの?」
やりたい事かぁ。
何か目的を見つけないといけないよね。
元の世界に帰る手段は見つからなかったとシレノは言ってたけど、エルナスさんの意見はどうなんだろう?
『エルナスの知識ではその方法は検索できませんでした』
ですよねー。
じゃあ召喚された勇者はどうやって戻るのかな?
『不明です』
勇者はどこに行けば会えるかな?
『迷宮攻略の為に召喚されたので、迷宮にいけば会える可能性があります』
迷宮かぁ。
とりあえずシノレにも聞いてみるかな。
「勇者ってどこに行けば会えるかな?」
「さあ?迷宮に行けば会えるんじゃないかな?」
エルナスさんと同じ意見か。
「勇者と会ってどうするの?」
「そりゃもちろん帰る方法を聞きだそうかと」
「それは勇者ではなく召喚した者に聞いたほうが早いんじゃないかな?」
確かにそうだよね。
「国王に聞けばいいのかな?」
「勇者を召喚したのはこの国ではないよ」
「え、そうなの?」
「北にある帝国が勇者を召喚してここに送り込んできたんだよ」
ん?どういう事?
「なんで全然関係の無い国が勇者召喚とかしちゃったの?」
「もちろん周辺国や強国に見せつけるためさ」
威光を示して力関係を見せつけてるのか。
「え、今って戦争とかしてるの?」
「今はまだだけど、そういう雰囲気になりつつあるね」
「そっか。戦争とか想像つかないや」
「この国は帝国からかなり離れているし戦争とは縁が無いよ。なにより戦争どころではない状況だしね」
「確かに」
あんな迷宮があったら戦争なんてやってる暇はないか。
私には今のところ関係の無い話だし、とりあえずは勇者とやらを探してみるか。
「とりあえず迷宮に行ってくる」
「どうして?」
「勇者に会いに行く」
「多分ナァズがいける階層には勇者はいないと思うよ」
そりゃそうか。
最低でもビット達に追いつかないといけないか。
「じゃあいろいろ情報収集してくる」
そういって窓から飛び出した。
どこで情報収集するかな。
とりあえずギルドへ行くか。
教えてくれたショートカットを使いミニアのところに着いた。
「どうしたのナァズちゃん」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「何が聞きたいの?」
「勇者の事について」
「…ああ、勇者ね」
あれ、なんだか浮かない顔?
もしかして聞いたら駄目な話だったか?
「えっと…」
「今は迷宮にいると思うけど、ごめんなさい。あまり詳しくは話せないわ」
何だか訳ありのようだ。
せめて名前だけでも聞いておこうかな。
「名前くらいは駄目かな?」
「コウジ・タチバナって名前よ」
…絶対に日本人だな。
それが分かっただけでも十分だ。
「ありがとう」
そう言って窓から退出した。
一度シノレのところに戻ろう。
すぐに帰ってきた私を見てシノレは早かったねと声を掛けてきた。
「勇者はどうやら私がいた国の人だと判明した」
「へえー、そうなんだ」
「100%って訳ではないんだけど、名前のつけ方が酷似してた」
「そっか、いきなりの進展だね。僕としてはナァズには帰って欲しくはないんだけどね。おもしろいから」
いやそんな理由で帰って欲しくないとかありえないから。
「うーん、とりあえず迷宮にでも行こうかな」
「え?」
私の言葉にかなり驚いたようだ。
「もしかして戦闘に目覚めちゃった?」
「そうじゃないよ。深い階層に潜れるようになって、いろんな事が出来るようにしておきたいんだ」
シノレは手を顎に添えて少し考えている。
「そうだね。それも悪くないね。それに試してほしい事もあるし」
「ん?試してほしい事って?」
「ナァズが階層主を倒したら主従一体で僕も倒した事にならないかなってさ」
…この引き篭もりめ!
「ナァズのスキル効果をいろいろ確認するのも悪くないでしょ?」
そう言われると反論しにくい。
「分かった。でもすぐに次の階層主を倒せるとは思わないでよね」
その言葉にシノレはクスクスと笑う。
「そんな事は分かってるよ。一朝一夕で出来る事じゃないからね」
笑いながらシノレは私の準備をしてくれてた。
あれ、待てよ?
10階層の転移ゲートはすでに開放したので、シノレのギルドカードを確認すればいいのではないのかな?
その事を聞いてみるとなんと驚愕な事実が判明!
シノレは自分でミノタウロスを倒したそうだ。
「ナァズと違ってちゃんとパーティを組んで倒したよ」
まさか引き篭もりなシノレがこの部屋を出て迷宮で戦った?
「10階層までは騎士団と一緒に攻略したんだよ。僕はただついていっただけで何もしてないよ」
…デスヨネー。
「お金はこの小さな袋に入れておくね。他にいるものはある?」
いるものか…。
「ライトの刻印具って持ってる?」
「あるけど、ナァズは暗闇では見えないの?」
「見えないことは無いよ。いんじびりてぃって能力があるみたいだし」
「へええ、便利な能力持ってるんだね。でもそれがあるんだったらライトとかいらなくない?」
「パーティ組んでいるんだったらそうかもしれないけど、一人で迷宮を探索してたら敵と勘違いされかねないでしょ?」
「…なるほど。ライト照らしていたら間違いなく魔物ではないからね」
シノレは刻印具をカバンの中に入れて私にカバンを掛けてくれた。
「使い方は分かるよね」
「うん、ありがとう」
「あとのぼり旗はどうする?」
あれか…。
恥ずかしいけど効果絶大だからな。
「とりあえず着けて」
私の言葉を聞いてお腹の辺りにベルトを巻いてくれた。
「出来たよ」
「じゃあ行ってくる」
いらない紙を2枚貰ってから窓から飛び立った。
いつもの屋台に向かい肉焼きを2つ買う。
貰った紙で包んでもらいカバンに入れる。
そして検問を飛び越え迷宮前に降下する。
私の姿を見てまわりでは緊張が走ったがすぐに、ああシノレさんの…という声と共に普段通りに戻った。
…シノレ恐るべし。
早速転移ゲートまで移動する。
「転移10階層!」
そう叫んだら一瞬で景色が変わった。
私を見た10階層の人も、のぼり旗を見てすぐに納得したようだ。
さてここからどうするか。
一人で潜るか誰かと一緒に潜るか。
「20階層主の討伐隊を編成しています。我はと思う方、一緒に討伐しませんか?」
そういう声が丁度聞こえてきた。
討伐隊かぁ。
パーティ戦に慣れないといけないよね。
よし、参加できるか聞いてみるか。
募集している人の場所まで移動すると、何故かモーゼの十戒のように道が出来た。
「あのー。私も参加していいですか?」
募集主は私の言葉に唖然としてしまったようだ。
「え、えっと。君はシノレさんの使い魔なんだよね?」
「そうだけど、だめかな?」
「えっと、シノレさんはいないのかな?」
「あれは引き篭もりだからこんな所には来ないよ」
「えっと、普通使い魔というのは主人の命令しか聞かないんだよね?」
「私は特殊なんだ。ほらドラゴンだし」
「えっと、えっと」
んー、だめっぽそうだ。
「いいんじゃないのか、ドラゴンと一緒に冒険できるなんて普通は有り得ない事だし」
別の男が私の加入に賛成してくれた。
「じゃあ君は一体どういうことが出来るのかを教えて欲しいのだけど」
まあたしかにそうだね。
「爪で攻撃できます!」
「…それだけ?」
「ブレスも吐けます。あとシノレから借りてきたライトの刻印具もあります。あとは接触しないといけないけど回復も出来ます」
「そういえばミノタウロスをソロで倒したって噂が広がっているが本当なのか?」
「倒したよ」
私の言葉におおお!と周りがどよめいた。
「まったく問題なさそうじゃないか」
問題ないと他の人も太鼓判を押してくれた。
募集主はまわりに流されるまま私の参入を許可してくれた。
よし、これで20階層の主を今日倒せるかもしれない。
私の参入が決まってから募集はトントン拍子で20人が集まり、すぐに出発する事になった。
4人パーティを組んでそのパーティ事に役割が決められた。
20階層の主はオークジェネラルとその配下30体とかなりの数がいる。
ミノタウロスほどの攻撃力や防御力は無いみたいだけど、数で囲まれるとかなり厄介らしい。
ミノタウロス同様で魔法は使ってこないが、配下が弓を持っているので遠隔攻撃はある。
作戦は2パーティでオークジェネラルを押さえ込み、2パーティが配下相手に遊撃、残りの1パーティは補助を行う。
私が所属したパーティは遊撃隊だ。
すばやく配下を倒すのが鍵になる。
なので攻撃力の高い人や範囲魔法を持っている魔術師も遊撃隊だそうだ。
私はブレスで焼き払うという役目だ。
後は傷ついた人への回復。
募集主からはあまり勝手な行動はしないようにと釘を刺されている。
まあしかたがない。
役割をちゃんとこなそう。
それがパーティ戦なんだから。
道中は中段に位置していたので敵との遭遇は無かった。
何もないまま20階層の主部屋前までたどり着いた。
私のパーティは剣士と盗賊と魔法使いがいる。
道中、適当な話しかしなかった。
そしてここで一旦休憩を挟んでから階層主戦となる。
楽でいいなー、なんて思いながらカバンから肉焼きをとりだして齧り付いた。
「うまそうな物食ってんな」
剣士がうらやましそうに見つめてくる。
しかし前回の様にあげれるほどの量は買っていないので一人で2個平らげた。
あーおいしかった。
食べ終わるとすぐに階層主戦が始まる。
…さすがに緊張してきた。
そして20人が一斉に部屋に入った。