第10話 初めての迷宮
次の日の朝。
シノレに見送られて迷宮に出発した。
装備はカバンとのぼりだけ。
剣や鎧なんて装備できないので裸のままだ。
しかしカバンは新しいものになった。
同じマジックバックだけどが耐熱耐性や強度がかなり強化されている逸品だそうだ。
ただ容量が少なくなっているけどね。
以前シノレが放浪した時に使い魔に装備させたカバンで、戦闘にも耐えれる優れものだそうだ。
のぼり旗は邪魔になるかもしれないけど、魔物に間違えられるのを回避する為には必須なアイテムだ。
カバンの中にはギルドカードと筆記用具と竜玉2個とリザレクションの竜玉が入っている。
昨日シノレに取り上げられたものではなく、新しく作ったものだ。
昨日のおつかいの後に竜玉をいくつ召喚できるかを実験した。
竜玉は3つまで召喚したけどまだまだ召喚できそうな感じだった。
今度はリザレクションを込めれるのはいくつかなのかを試してみたけど、全部で2個が限界だった。
2個目を作った後、かなり体がだるくなりシノレに闇へ帰された。
契約された使い魔は闇に戻ることが出来るらしい。
召喚主が使い魔に命令して闇に戻すのだ。
使い魔は闇にいる間、回復力がかなり高くなる。
しかし自主的には戻れないし自主的に出てくることも出来ない。
そもそも使い魔というのは基本スキルを覚える事はない。
時間による自己回復すらない。
しかし私はスキルも覚えているし自己回復もする。
でも自主的に闇に戻る事や出てくることはさすがに出来なかった。
再召喚された時に、闇の中はどんな感じなのかを聞かれた。
暗闇ではあるけど波に漂うような浮遊感があった。
意識もあるようなないようなよくわからないような状態だった。
ただ凄く心地いい感じはしていた。
いやなことをすべて忘れて悠久な刻をさまよう感じ。
下手くそな説明だったけど、かなり関心があったのか聞き終わった後に瞑想するように考えてた。
なにか重要な事でもあるのかな?
空を飛びながら今朝のシノレの事を思い出していた。
昨日の肉屋の屋台で昨日の肉焼きを4つ購入した。
少し買いすぎたかな?
シノレから貰ったいらない紙でそれを包みカバンにしまう。
やっぱり買い過ぎたか、カバンはパンパンになってしまった。
これで昼飯も確保した。
そのまま空を飛び南へ目指す。
南の郊外に迷宮の入り口があるらしい。
視線を下に向けると城門が見えた。
朝だというのに結構な人が中にも外にも並んでいる。
冒険者用に入出国待ちの商人とは別の出入り口がある。
その検問所にも結構な列が出来ている。
…並ぶのは時間かかりそうだしいろいろ面倒そうなので無視しよう。
城門を越えた辺りでまずいかなって少し不安になったけど、せっかくの翼を無駄にしちゃいけないよね?
迷宮の入り口を発見したけど、その周りにはかなりの出店があった。
レーションや道具が売られている。
もう肉は買ったのでそのまま入り口前に降りた。
私の姿を見た冒険者たちはかなり慌てたが、のぼり旗の効果がよくでてるようでシノレさんの使い魔か、と皆に納得される。
微妙な納得のされ方ではあるが、トラブルにならないのはいい事だ。
早速1階層に降りた。
そこには祭壇のようなオブジェクトがあった。
登ってみると巨大な魔法陣が描かれていた。
その魔法陣の上に乗ってみたけど何も起こらない。
複数の冒険者もその魔法陣の上にいた。
「転移10階層」
「30階層!」
などと声を出してる人がいきなり消えた。
いったいこれは何なの?
唖然としていると、ナァズじゃないかと後ろから声を掛けられた。
振り返るとビットたち3人だった。
「やあおはよう」
挨拶すると3人も挨拶を返してきてくれた。
「ここ何なの?」
せっかくだし聞いてみた。
「これは転移ゲートよ、10、20、30と10階毎に転移ゲートがあってそこまで飛ぶことが出来るのよ」
へえー、それは便利だね。
「転移ゲートを発動させるには転移する先のゲートの上に立って登録をしなければいけないのよ」
「どうすれば登録できるの?」
「上に立てばいいだけだ。そうすればギルドカードの備考欄に勝手に記載されるよ」
カバンの中にしまっていたカードをとりだして確認すると確かに転移ゲート1階層開放と記載されてる。
「ってことは私はまだこれを使えないって事かな」
「そうね、10階層のゲートまでは歩いて行かないといけないわ」
なるほど。
さすがにそんなに甘くは無いか。
「それに転移ゲートの前の部屋には階層主がいて、それを倒さない限り先には進めないわ」
甘いどころではなかった。
そういえばこのギルドカードで気になっていたことがあったのでついでに聞いておこう。
「このランクってなに?」
「それはね、冒険者としての格付けよ。貢献度ってあるでしょ?それが一定の数値に達したらランクがあがるわ。一番下がFで一番上がAね」
なるほど、私はFだからまだ駆け出しの冒険者って事だね。
「いろいろ教えてくれてありがとう」
どういたしましてとセイナは微笑んでくれた。
ギルドカードをカバンに入れて、じゃあねと歩き出す。
「ちょっと、もしかして迷宮を攻略するの?」
「うん、シノレの命令でしかたなく」
「シノレさんはこないの?」
「あれが来るはずもない。引き篭もりなんだからな!」
「でも普通は主従で冒険するものでしょ?ナァズはやっぱり特別なのね」
まあ確かに特別なのは認めるけど、でも普通は主人も一緒に来るよね。
「あんな足手まといがいなくても十分やっていけるよ。上層なら…多分」
「一緒についていってあげようか?」
え?
「でもそっちも攻略するんでしょ?」
「確かにそうだけど、問題ないよね?」
最後の言葉は後ろ2人にかけた言葉だけど2人も大きくうなずいた。
「大丈夫よ、危険なとき以外は戦闘の邪魔はしないから。じゃあいきましょう」
ついてくる気満々のようだ。
まあ心強いので大歓迎だけどね。