第1話 使い魔として召喚された私
目の前には少年がいた。
いた、というかいきなり現れた。
すごく驚いた。
目の前の少年も私と同じく驚いているみたい。
…ここは一体何処なの?
周りを見ると、見慣れない物がいっぱいある。
そして本もいっぱいある。
でもその本は何の本なのかわからい。
何故なら文字はまったく読めないから。
何処の文字なんだろう?
本を見ていると聞いた事のない声が聞こえた。
目の前にいる少年の少しソプラノな声。
まったく見覚えのない顔。
誰なんだろう、この少年。
少年は小さな声で奏でるかのように言葉を紡いでいる。
綺麗な声だけど日本語ではないので何を言ってるのかがわからない。
少年の言葉が途切れると…今度は別の声が頭に響いた。
──マスターシノレとの主従契約完了
──マスターシノレとの契約によりサーヴァントとしての以下のスキルを習得
──エルナスの知識
──主従一体
──竜族の心得
──聖竜の鱗
──ホーリーブレス
──リザレクション
えっと…。
「一体何なの?」
つい声に出してしまった。
「あれナァズは喋れるの?」
私の声に少年はかなり驚いた様子だ。
いやいや私だってしゃべれるよ?
あれ?
なんで少年の声が理解出来るんだろう?
さっきまで意味不明な言葉を喋っていたはずなのに。
でも言葉が通じるのであればいろいろ問い詰めよう。
この意味不明な状況を。
「君誰?それとナァズってもしかして私の事?」
私の質問に少年は目を見開いた。
「えっと、僕はシノレ。君のマスターだよ。ナァズというのは僕が君に授けた名だよ」
マスター?
主人って事?
ふざけるな!
怒りに任せて掴みかかろうとしたけど…手が届かなかった。
っていうか腕が短かった。
っていうか見慣れた腕じゃなかった。
っていうか人の手ではなかった。
っていうか人の体ですらなかった。
…なんじゃこりゃ?
まるで犬みたな体じゃん!
「なんなのこの体?!」
驚愕してる私に少年はトドメを刺してくれた。
「何ってナァズはドラゴンだよ?たぶんホワイトドラゴン」
な、何だって?!
ちょっと待って…。
「ちょっと…意味がわかんないんだけど?」
「間単に説明すると、使い魔が欲しかったので召喚したら君が現れたんだよ。僕もビックリさ」
「えっと、なに言ってるのかさっぱりわかんないんだけど。使い魔ってなんなの?」
シノレは顎に手を添えて少し考える。
「わかりやすく言えば魔法使いの手足になってくれる存在の事だよ」
ああっ!
それ知ってる。
「テレビで見たよ。魔女が黒猫を連れているあれだよね?」
「テレビってのが何なのかわからないけどそれだよ。黒猫やカラスやフクロウなんかがそうだね」
やっぱりそうだった。
じゃあもうひとつ。
「召喚って何?」
「難しい質問だね。さっき説明した手足になってくれる動物を何処からか召喚するんだよ」
「何処かって何処よ?」
「さっき言った難しいってところがそれなんだ。君のような存在はいったい何処から召喚するんだろうね?」
いや、そんな疑問形で言われても困るんだけど?
そもそも聞いてるのは私の方なんだし。
「今わかっている事実は僕が使い魔を召喚して、君がここに現れたって事だけだよ」
とりあえずいったん落ち着かねば。
そしてこの状況を把握しよう。
この少年の使い魔召喚ってので私はここに呼び出されたって事。
そして召喚された私は、何故か仔犬のような姿のホワイトドラゴンに変化していたって事。
以上の点を踏まえて答えを導き…出せないよ!
この少年はテレビや漫画に出てくる魔法使いとでも言うの?
そんなのはフィクションであって現実じゃあり得ないよ。
でもそう考えないと、召喚されてドラゴンの姿になってる理由が説明つかない。
「要するに君のせいで私はこんな姿になってる訳ね」
頭に怒りマークを浮かべながら問い詰める。
「こんな姿っていうけど、元の姿とかあるの?」
あるの…じゃないよ!
「私は人間だよ!17歳で女!」
「へぇー、そうなんだ。それは驚きだな。僕より年上だ」
「そもそもここどこなの?」
「ここはファレンスにある魔術師ギルド内の僕の部屋だよ」
……。
ちょっと待って?
いま聞きなれない言葉が2つ出てきた。
ファレンス?
魔法ギルド?
なんなのそれ?
「ちょっと意味がわからないんだけど?」
「ぶっちゃけちゃうと、僕も意味が分からないよ」
どないせーちゅうねん!
おもわず大阪弁が出てしまった。
「えっと日本って国は知ってるかな?」
「どこにある国なの?」
「アジアにあるんだけど」
「アジア?」
「ユーラシア大陸の東の端にある島国だけど」
「ユーラシア大陸?」
「…アメリカ大陸は知ってるよね?」
「アメリカ大陸?」
「えっと、地図ある?」
「そうだね、地図見たほうが早いね。すぐ用意するよ」
まさか…。
この少年がただ単に頭の弱い子なんだよね、きっと。
だから地名とかわからないだなんだよね!
「おまたせ」
少年は床に地図を広げた。
「…何これ?」
まったく見たことのない大陸。
「ちょっとこんなドマイナーな田舎の地図じゃなくてさ。大陸地図を見せてよ!」
「ナァズは何気に失礼だね。ここに載ってるのは大陸だよ。それも一番大きい大陸さ」
マジデスカ!
「私の知ってる地図とまったく違う…」
「なるほど、君は異世界から来たのか」
っ!
衝撃的事実をそんなあっけなく言わないでほしい。
「勇者召喚とかまれにやるからね。別の国の話だけど」
頭が混乱してきた。
「勇者召喚ってなにさ?」
「2年ほど前にね、この近くに大迷宮が出来たんだ」
大迷宮?
「地下100層にも及ぶ大迷宮が突如現れて、そこを攻略するために異世界から勇者を召喚したんだ」
何その他力本願は。
自分達で頑張ろうよ!
「そんな事よりさ、ナァズは飛べるでしょ。ちょっと王様のところにこの書状届けに行ってよ」
話の腰をいきなり折って私におつかいに行けと?
「なんで私がそんな事しないといけないのさ」
「君は僕の使い魔だからね。だからこき使うんだけど?」
何か文句ある?
みたいな顔しやがって。
あるに決まってるでしょ!
「勝手に呼んでおいてフザケルナ!」
「いやいや君が勝手に出てきただけでしょ?」
超むかつく。
「いいから早く行って」
私はシノレに抱きかかえられて窓から外に放り出されそうになった。
もちろん大暴れで抵抗したよ!
「ちょっと待って!私飛べないよ!無理無理無理!」
「えー?」
すごい不服そうな顔で見てくるけど、こっちだって不服だよ!
放り出されることなく床に下ろされた。
「ほら、ここに翼があるのわかる?」
ええ!翼とかあるの?
触られた場所を見ると小ぶりながらもかわいらしい翼があった。
「うん、わかるよ」
「じゃあその翼を動かしてみて」
どうやって動かせばいいのかわからない。
人間には翼は生えてないんだよ?
「ここを動かすんだよ。ほらこんな感じ」
少年が無理やり私の翼を羽ばたかせる。
なるほど、そこが翼なのね。
初めての感覚だ。
でも何となく動かせる気がする。
「こ、こうかな?」
ちゃんと動かせているのかどうかわからない。
「よしよし、ちゃんと動いてるよ。」
そうなの?
全然実感がわかないよ。
それでも必死に翼を動かしていると、急に体が浮かび上がった。
「え、わっ、何!」
「おー、浮いた浮いた、すごいすごい」
おおお!
浮いてる。
飛んでる!
すごい!
狭い部屋だったけどぶつけたりはしなかった。
足で歩くのと変わらない感覚で飛べた。
そしてあっさりと飛行をものに出来た。
「ナァズ、これを」
小さなショルダーバックが私の首にかけられた。
「この中に書状とギルドカードが入ってるから王様に渡してきてね」
ギルドカード?
「これは自分の能力が表記されるカードなんだ。便利でしょ?」
へぇーー!
自分の能力とか見れちゃうんだ。
「私の能力も見れるの?」
「このカードは僕だけの物だから無理だよ」
そっか、それは残念。
「これは身分証明書にもなるので一緒に渡してね」
じゃあいってらっしゃい、と有無を言わさず窓から放り出された。
あわててバランスをとったけど…危ないでしょ!
「城はあれね」
はるか向こうにお城らしきシルエットが見える。
少年はそのシルエットに指を差した。
「じゃあ頼んだよ」
その言葉を残して少年は部屋に引っ込んだ。
…この引き篭もりめ。
いきなりこの世界に呼び出されて、説明もほとんど無いままおつかいを頼むとか…。
あの少年鬼畜すぎでしょ。
今すぐ部屋に戻っても、あの様子じゃあすぐに追い出されそうだよね。
だったらおつかいを終らせてから、少年にいろいろ聞き出すしかない。
私は用事を終わせる為に王城へ飛び立った。