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偽典Ⅲ  作者: 萩井灰介
始まり
5/52

発端




 広い屋内を利用して、三〇mの距離をとりライフルを立った姿勢で構える。

 肩、腕、頬でしっかり保持してスコープの下にあるアイアンサイトでマンシルエットに狙いをつけ、力まず滑らかに引き金を絞る。

 オリジナルと同じ7.62㎜×51ライフル弾が爆ぜ、屋内では眩しく感じるほどの発射炎を銃口から出して標的に弾丸が突き刺さる。反動とか色々気になる部分はあるが、今は委細構わず続けて四発撃ち込む。


 五発の弾を撃ち込み、狙った中心からやや左に弾着が集中しているのを確認してアイアンサイトの調整を行う。スコープは距離四〇〇mで零点規正を終えているため、これが終われば一段落つける。

 調整を終えてもう五発。今度は満足できる集弾率だ。本職の狙撃手ならばもっと繊細な調整を行うのだろうが、急場だとこんなものだろう。

 一息ついたところで、耳を保護するために耳穴に詰めた空薬莢を引っこ抜いて薬莢入れに放り込んだ。


 手持ちの銃器の調整と修正はこれで終わった。

 初めて使う銃器には照準をつけるためのサイトの調整作業を必要とする。使う人それぞれの体格、癖、利き目などで照準のつけ方が異なるのが主な理由だからで、カスタムメイドでもなければ必ずやっておきたい事だ。とっさの時に弾が外れました、では笑うに笑えない。


 次に意識を周辺の空間に向ける。ジンに教わった事を思い出し、目に見えないスイッチの感触を確かめ、それ切る感覚で自分の拠点にかかっていた遮音結界を解いた。感触でいったらパソコンでプログラムを終了させる感じだ。


「これで、解けたのか?」

「ああ。耳をすませてみるといい、外の音が聞こえるはずだ」

「――確かに」


 ジンに言われ耳を澄ませれば、外で吹く風の音に枯れ草が地面を擦って舞う音、ほど近いジアトーの街からの音が耳に入ってくる。

 昼間の騒々しさはもう聞こえなくなり、今度は逆に廃墟のように静まりかえったジアトーの街。時折思い出したように銃声や爆発音、紫電が弾けるような音が聞こえて魂切る声がそれに続く。

 嫌な音が耳に入る。『魔法』を使っているという驚きよりもそちらの方が気になり、顔を顰めてしまう。


 あれから数時間が経過している。自分以外の『エバー・エーアデ』のプレイヤー達が暴走している様子を見て取り、しばらくは安全なこの拠点に篭もる事を決めた。街外れで人の注目を集めにくい廃墟を拠点としたゲーム時代の決断を今は心底良かったと思っている。

 もちろんただ引き篭もるだけではなく、自分自身の能力を確認することもこの数時間に充てていた。


 最初に実感したようにこの身体、『ルナ・ルクス』としての身体能力は凄まじい。

 腕力、脚力、腹筋、背筋と基本的な筋肉トレーニングをしてみてその力を計ってみたのだが、計りきれなかった。腹筋や、腕立て、スクワットと一〇〇回以上休まずやっても疲労感を覚えない。単調な運動に嫌気がさしてやめてしまったが、それまでに各三〇〇回ぐらいは回数を重ねて疲労を感じない事からして持久力も常識の外なんだろう。

 垂直跳びをやってみると、危うく天井にぶつかりそうになって鉄骨の梁を掴むことで難を逃れるなんて事もあった。元が廃工場なだけあって天井は高く、一〇mはあった天井にだ。床にトランポリンでも仕込まれているのかと思った。

 さっきまで調整で撃っていた銃器だって重量をほとんど感じないし、反動だってもの凄く軽い。そのお陰かいつもよりも弾の集まりがよかった。


 何よりの怪異で、凄まじいのは『魔法』の存在だ。

 数々の創作物に出てくる『魔法』というもの。一般的に呪文をムニャムニャ唱えて杖から炎の玉を出したりするステレオタイプなイメージが強いが、ゲーム時代ではメニュー画面から目的の魔法を選んで決定したり、戦闘時ではショートカット登録したものをボタン一つで出していた。

 それが今はどうなっているかと思い、試してみた。メニュー画面やショートカット登録というものはない。代わりにどういう魔法を使いたいか頭で思い浮かべると図形と数式で描かれた術式というべきものが脳裏に浮かび、さらに強く願うと意図した場所に魔法が発現する。

 その際にわずかだが体から何かが抜けていく感触があったのはマジックポイントが消費されたということなんだろう。『ルナ』が習得していない魔法に関してはそもそも脳裏に浮かばないように出来ている。

 『ルナ』というキャラクターを自分は魔法使い《マジックユーザー》としてあまり育てておらず、魔法は戦闘を補助することを目的としたサポート系とトラップ系を中心に習得したもので、使うことが出来る魔法も本職の人に比べると地味なものが多い。それでも魔法という今までにないものを扱う感覚は新鮮だった。


 こうして小休止を挟んで数時間、窓の外が暗くなっていくまで自分の能力を把握することに努めたわけだが、分かれば分かるほどに非常識で超常的な力を持ってしまったと思い知らされる。

 この力を他のプレイヤー達も持っていることはまず間違いのない事で、ならば街を見たときのああいった暴走もなるほど頷ける。超人願望が思わぬ形で満たされて制止するべき組織や人物がいなければ、ああいう具合にハジけてしまうのだろう。ただ、頷けるだけで同調などしたくはないが。

 それに驚きはまだ終わらない。


「感覚が広がっている。外は時間からして暗くなるはずなのに明かりなしで平気だし、音も色々と拾える。夜が近付くほど鋭くなっていく感じがする。これが」

「そうだ、主の月詠人ミストレストとしての感覚だ。今夜の月相は三日月だがそれでも主ならかなりの力を感じるはずだ」


 今体で感じている事もジンは的確に察して説明してくれる。

 ゲーム時代では、キャラクターメイキングで選べる種族の一つに月詠人というのがある。俗っぽく言えば吸血鬼のことだ。

 人間のように平均的なパラメーター成長を見せる万能タイプの種族であり、人間よりもパラメーターの伸びが高く設定されて、その上で月相、月の満ち欠けで能力の上昇補正がかかるという特性を持っている強力な種族の一つだ。

 こんな強力なキャラであれば当然短所があるというもので、太陽が出ている間は逆にパラメーターにマイナス補正がかかるようになっている。夜限定の強キャラということで、少々使い勝手が悪いのがゲーム上での月詠人の評判だった。


 自分の場合はそのマイナス面は高レベルパラメーターと装備である程度補える欠点と割り切って、『ルナ』を使い続けてきた。

 それが自分の体になるとこうも実感があるものか、とそう思う。

 昼間とは全然違う圧倒的開放感と全能感が総身にみなぎる。今まで分厚く身動きの取れない拘束服を着ていたものが太陽が西の海に沈むと当時に解き放たれた、などという例えがこの感触に一番近い。

 昼の内にやった体力測定もどきであのような結果を叩きだしたのだ、今やればどんな恐ろしい記録が出来るのやら。

 自分は目を覚ませば女の子になっていたどころか、人間すら辞めていたのだ。


 空薬莢の始末、的の片づけといった射撃の後片付けをそこそこに終わらせると今度はお腹から「くぅ」などと音が漏れてきた。吸血鬼でもお腹は空くらしい。


「空腹か主」

「うん、そうみたいだ。ずっと気を張っていたからかな、今になるまで気付かなかった」

「食料ならそれなりに備蓄がある。シンクの横の床下が食料庫になっている。適当なものでも出して腹を満たせばいい。――ついでに私の分もあるとなお嬉しい」


 少し意外なセリフを耳にして、ジンの顔をマジマジと見てみると少しバツが悪そうに目を逸らした。あ、彼もお腹が減っていると。


「悪いね、今まで気を遣ってくれたんだ」

「別段大して気に病むものではない。私が主を気にかけるのは使い魔として当然だからな」

「そうか、だったら使い魔の体調に気を配るのも主の役目だな。食事はすぐ用意するよ」

「……むむ」


 黙り込んでソファーで丸まった黒猫を横目に、教えられた場所を調べて床板を外してみると床下貯蔵庫となっており、缶詰や瓶詰め、ベーコンに燻製食品、ドライフルーツといった日持ちする食品を発見した。レトルト食品がなく、缶詰や瓶詰めのパッケージが古臭いデザインに感じる。新鮮な野菜や果物が欲しいところだけど、卵があるだけでもありがたい。


 ふと思う。ここまで他人と面と向かって会話するのは久しぶりだな、と。

 最近で一番人と話したのは、アメリカでの射撃トレーニングの時にインストラクターと英語で交わした事務的なやり取りぐらいか。

 いつからか人と関わる事が酷く億劫に感じられるようになってきて、それでも人との関わりを捨てきれずネットゲームに夢中になり、やっぱりそれでも他者との関わりが嫌でチームには入らず一匹狼を気取る。我ながらなんて面倒な性分なのだろうかと思ってしまう。


 今だってここまでマトモに会話が出来ているのも、ジンが見た目黒猫だからだ。喋る猫という非現実さがこの口を軽くしている。これが普通に人と向かい合って言葉を交わすというのなら、自分の口数は今の半分ほどに落ちることが簡単に想像できてしまう。

 ジアトーの街に行かないのも危険を避けるためだが、大勢の人の中にいたくないという感情も数割混ざり込んでいるからだ。


 今後の予定はすでに大まかにはある。もう少し街が沈静化するのを待ってから街を離れるつもりだ。ジンも街を離れることは賛成しているし、数日中にはどこかもっと腰を落ち着ける所に移動していることだろう。移動のツールアイテムもあるしこの場所でも一人暮しだ、荷物は多くない。

 ゲーム時代ではこの廃工場を拠点として二年程過ごしている。今の自分はともかく、ジンには名残惜しい気持ちがあるのだろうか? 本日の夕食にするコンビーフの缶を取り出しつつそんなことを思った。



 ◆



 ――――。


「っ!? なに」


 それなりに腹を満たして後片付けも終わり、シンク近くにあるダルマストーブ似の石炭ストーブに身を寄せて寒さをしのいでいたら、外から異質な音が聞こえてきた。

 傍らに置いたライフルを手元に引き寄せ、立ち上がる。ジンもすでにこの音は聞こえているのか、自分が突然立ち上がったことに驚きはしていない。


「近いな。それにこちらに来る」

「うん。この音はエンジン音、空冷の四サイクル四気筒……オートバイか。それが二台」

「妙に詳しいな主」

「趣味の一つだったからね」


 ジンが妙な感心の仕方をしているが、趣味でバイクをいじっていればエンジン音はそれなりに聞き分けられる。その上に今のこの体の聴覚はかなり良い。確定情報と思っていいだろう。


 それにしても、と些細なことから気付いた事があって傍らの黒猫を見やる。

 この黒猫ジンが自身の主の異変を察しているのは、今更確認をするまでもない。異変の詳細も知っている風で、でなければこちらでの常識を丁寧に教えてくれることはないだろう。

 それでも自分の趣味とかといった詳細なプロフィールまでは彼の知るところではないようだ。

 『ルナ』と今の自分との主従関係といったことで突っ込んだことを聞くのはもう少し事態が安定してからだと自分の中で決めている。狡い考えだが今は味方が欲しい。形だけでも従ってくれるなら今はよしと思っている。


「主、どうした?」

「ううん、何でも。少し様子を見てくる、オートバイの割に妙に遅い感じがして気になるから。ジンは後詰めを」

「承知した」


 訝るジンの視線に誤魔化しで応えて、外へ向かう。ちょっと見のつもりがガン見になっていたようだ。

 それに気になるのは嘘ではない。最初に聞こえた時と今聞こえる時とで距離を考えると、かなりのノロノロ運転でこちらに向かっている。ギアを一速か二速にしてトロトロと走らせている感じが耳に入ってくる。そんな教習所みたいな走らせ方をして何をしているのだろうか。


 扉の前でライフルのチャージングハンドルを握り前後に操作。金属の擦れるどこか澄んだ音とともに弾倉から薬室へカートリッジが装填される。

 これで鉄の塊だったものが人を殺傷する兵器に変わった。

 今までに無く緊張する。手に汗をかいてグローブが湿り始めているのが分かる。木製のストックを握ると汗が中に染み込んでいくような錯覚。心臓の鼓動が速くなり、こめかみ辺りにも血流が脈打っている。

 今両手にもっている武器で人を殺す。猟でやってきた鹿や熊相手とは違う殺人への後ろめたさが体を緊張させている。

 いや、何も殺すとは限らないじゃないか、落ち着け。そう思い直して扉を静かに開けた。


 昼の暑さは嘘の様に消えて、今は逆に刺すような肌寒さが体を包んでいた。吐く息が白い。

 砂漠の気候は昼と夜での激しい温度差が特徴的だ。遮るものや保温するものがないため、太陽が出ればあっという間に熱くなり、沈めばあっという間に冷え込んでしまう。ジアトー周辺の気候もその例に漏れず、ストーブを焚くほどの寒さになっていた。


 音の聞こえる方向はやはり街の方角。身を低くして素早くそちらへ移動した。昼に街を見渡した場所に着いてみれば、すぐにバイクは見つかる。

 明かりがほとんど見えない墓標のような――いや、今は正しく墓標か――ジアトーの街で、バイクが出しているヘッドライトの明かりはとても目立つ。二台のバイクが出している二本の明かりに照らし出されている人影もすぐに見分けがついた。


 背の高い、ガッシリした体格の男性がヨタヨタと頼りない足取りで街外れ、つまりこちらに来ようとしている。それをバイクに乗った二人が阻んでいる様子だが、その二人は明らかに遊び感覚で男性をいたぶっている。

 金属パイプのようなもので叩き、バイクに跨ったまま蹴りを放ち、グルグルと男性の周りを回って威圧する。やっている事は暴走族に近い。

 なるほど、妙に遅い気がしたのは男性の歩調に合わせているからか。

 こちらの所在に気が付いている様子はない。男性がこちらに逃げたのを追っているだけなんだろう。


 なら自分はどうするべきかと少し考える。

 彼らとの距離は直線で一五〇m程。夜闇で身を屈めている姿勢をとっている事もあって、誰もこちらの存在を感知していない。このまま何もしなければライダー二人組が男性をそれなりにいたぶって何処となりへ連行していくのだろう。あるいはこの場でリンチして殺してしまう。

 自分は男性を助けるべきか、それとも自己の保身のために見殺しにするべきなのか? 二つの考えで迷っていたら、ライダー二人の方が早々に結論を出してしまった。


 金属パイプをその場に捨てて、持ち替えるように腰から拳銃を取り出して――撃った。

 バイクのエンジン音とは違う短く鋭い銃声が耳に聞こえた時には、男性が地面に転がりのたうっていた。肩を撃たれたらしく手で肩を押えて地面を転がり、獣のような叫び声を出している。

 一方でライダー二人は「あっれー、頭狙ったのに当たんねー」「下手くそ」などと言いつつ笑い合っている。

 バイクで走りながらの射撃は専門の軍人でも曲芸の一種だ。大抵の場合は停まるか降りるかしてしてから射撃する。それに弾が狙いから外れたのは男性の運の良さもあるのだろう。


 それにしても、あの二人は正気ではない。いや、街の惨状を見た時にそんなことは分かっていたはずだ。あんな事はまともな人では出来ない。

 それを近距離で見せつけられるとこうも気分が悪くなるのか。今度は肉眼でそれを見てしまうのか。

 助ける事は出来る。昼とは違い目撃者は限られるために自分の存在を知られる機会はない。

 屈んだ姿勢から地面にあぐらをかくように座ってライフルを構え、座り撃ちの姿勢をとる。

 夜になると異常なぐらいに視界が開けて一㎞先でさえもスコープは必要なくなる。つくづく恐ろしい視力だ。キャップは外さずに下のアイアンサイトでライダー二人に照準をつける。さっそくサイトの調整をした成果があった訳だ。


 バイクの速度は自転車ほどでリードは難しくない。自分の腕なら必中の確信がある。

 けれど……いや、今は迷いは駄目なんだ。

 あの二人が今も男性に拳銃を向けて撃ちそうで、猶予なんて無い。立っていた時と違って、地面に転がる今度は当たりやすいだろう。迷うのも悩むのも後回しだ。あの二人を二匹の獲物と思えば、いつもの狩猟と要領は変わらない。


 軽く息を吸い、吐き、止める。静かに真っ直ぐ引き金を引いた。

 手元で火薬が爆ぜる自分とってお馴染みの音が耳に響き、肩を蹴りつける反動は想像以上に軽い。ボルトが燃焼ガスで前後して薬莢を吐き出して次弾をくわえ込む。この時にすでにライダー二人の内の一人が頭から血を吹き出している。狙った部位は頭部、それも脳幹。

 次の一人も同じ場所を狙い、撃つ。鼻に命中した弾丸が後頭部に抜けて血の花を咲かせたのが見える。二人とも痛みを感じる間もない即死のはずだ。二発目の空薬莢が地面に転がる時になって、死体になった二つの体はバイクと一緒に崩れ落ちた。


「……はぁぁ」


 やってしまった。人助けとはいえ、二人の人間を殺した。硝煙の臭いがする中で我知らず、ため息が出ていた。


「主」


 いつの間にか後詰めを任せたジンが傍にいる。その視線と声は例の「しっかりしろ」という意味を持っていた。そうだ、まだ完全に終わってはいない。推理小説の犯人だって一番知恵を絞るのは死体の始末だ。事を終えた後の方がむしろメインと考えていいかもしれない。

 ジンの声に気を張り直して、周囲へ目を向ける。街の方角から人がやって来る気配はない。今この瞬間でも暴走したプレイヤー達が街のどこかで悪事を働いていることを考えれば銃声の一つや二つ、注意を引くことはない。皮肉な事にこれは好都合なことだ。

 倒れている男性に目を向ける。一〇〇m以上離れた暗闇でも今なら相手の様子を確認出来る。

 彼は肩に被弾した他に各所に打撃を受けている。そのダメージが表面化したのか、今はぐったりと気絶している。


「ジン、ついてきて。死体の始末とあの男を運ぶから」

「承知」


 ライフルに安全装置を掛けて立ち上がり、二体の死体と一人の男性の場所へ向かう。

 元から口数が少ない自分とジンだが、この間の沈黙は酷く重いものに感じられた。

 もういい加減認めよう。今向き合っているこれは『エバーエーアデ』というタイトルのゲームなどではない。紛れもないもう一つの現実なのだ。お腹も空くし、眠くなるし、痛みを感じるし、殺されれば今見えるライダー二人のように死体になる。フワフワした気持ちじゃ生きていけない。

 心のどこかで認めたがっていない気持ちにケリをつけよう。生きるためにこれからも誰かを殺す。そう割り切ろう。


「ジン」

「なんだ?」

「生きるのも大変だね」

「当然だ」


 生き抜いてやる、ジンに言った気持ちに嘘はない。けれどその困難さが少し自分を弱気にさせていた。


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