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裏現実紅殺戮 表裏の混沌  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫
後編

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25/26

廻る運命


廻り廻って逢う。

必ず出逢う運命。

だから

来世でまた逢う。

だから

今はさようなら。



 様々な騒音が鳴り響く戦場で、コクウは空を見上げながら笑う。


「ウルフが狼化でもしたのかな?」


 建物の中に謎の狼がいる。

怪訝に睨んでいたけど、そんな場合じゃない。

 吸血鬼二人が、ガトリング砲を片手で構えた。銃口の先は、あたしだ。


「あら、ガトリングよ。懐かしいわね、レネメン、アイスピック。今回も死なないようにね」


 ガトリングで撃ち抜かれて死にかけた共通の経験がある二人に声をかければ、二人とも笑った。


「今回も死なないさ。ラッキーガールがいるからね」


 アイスピックはお気に入りのシルクハットを外して武器を構えた。


「それにあの時は直接ガトリングを見ていないから、懐かしさは感じないな」


 レネメンも武器を構えて笑う。


「あれはアンタ用よ。対悪魔武器の弾丸」

「人間も殺せるでしょ」


 ディフォが教えてくれるけど、あたし以外の気休めにはならない。

 あたしごとヴァッサーゴを殺せるガトリング砲。それを喰らっては、ヴァッサーゴもあたしを治癒できない。

吸血鬼のディフォとコクウはともかく、人間であるレネメン達も無惨な死体となる。


「!?」


 いきなりコクウに抱き上げられたかと思えば――――投げ飛ばされた。

壁が崩壊した二階になんとか降り立つ。

 気付くと、ディフォにナヤと遊太も投げ飛ばされて二階へ。ナヤは受け身が取れず中の壁に衝突。

 一息つく時間なんてなかった。


  ドガガガカガガッ!


ガトリング砲の弾丸が襲い掛かる。ナヤの襟を遊太とともに掴み、引き摺るように走らせながら弾丸の雨から逃げた。


「あたしは地下に行きたいのに!!」

「いやそんな暇なくね!?」


 建物の壁を破壊しながら弾丸が追い掛けてくるから逃げるしかない。ナヤが重すぎる。


「やべっ」

「っ! こっちよ!!」


 前方からも弾丸が壁を壊しながら迫ってきた。挟み撃ちだ。

 けど逃げ道はある。上に上がる階段しかないから、上がるしかなかった。ナヤが重すぎる。

 不意にガトリング砲の音が止んだ。外では隕石が落ちるような音がし始めた。吸血鬼vs黒の集団が戦闘を始めたようだ。


「地下に行く!」

「どうやって? 一階はゾンビの溜まり場だぞ」

「ナヤ、アンタなんで来たの? 戦場で死にたい願望があるの?」

「毎回死亡するって黒猫に言われても毎回生還してるからねボク!」


 二階に戻ろうとしたが崩れ落ちた階段は階段とは呼べない。瓦礫で通れそうには見えなかった。

最悪だと叫びながら、二人に八つ当たりをする。

 ただのチクリ屋のくせに、なんだかんだと生き残っているナヤはある意味強い。


「階段なら他に三つある」

「え? 何故知ってるの?」

「この刑務所の見取り図を覚えてきたんだよ。ボク頼れるだろ?」


 自分の頭をつついて、ナヤはにっこりと笑って見せた。流石は情報屋。情報を頭に入れてから来たのか。


「そうね、一ミリくらいそう思う」

「うおおいっ!!」

「冗談よ、意外と頼りになるわ。地下まで案内して。ただし他の情報はいらないから」


 ナヤのことだからどうせこの刑務所の歴史から、どんな素材で建てられているかまで調べてそれを話したがっているだろうから釘をさしておく。

 ナヤをナビがわりに、あたしと遊太は廊下を走った。三階は血痕が見当たらないが、死臭の香りが漂う。破損もあちらこちらにあり、壁がぶち壊された跡もあった。


「!」


 あたしは気配に気付いて、立ち止まる。腕を伸ばしてナヤと遊太も止めた。

廊下の先に、人間の気配が複数。悪魔の気配も一つ。

 その悪魔はあたしに気付いているはずなのに、あたしに攻撃しようとしない。取り込み中のようだ。ただし戦闘中ではない。


「ふざけんなよっ!!!」


 廊下を軋ませてしまいそうなほどの怒声を上げたのは、蓮華だ。

廊下の先に彼女が見えた。怒っている。相手が誰かを確認しようとすれば、双子の兄とセレノが立っていた。

 再会した妹に激しい怒りを向けられ、動揺している。


「な……なんでだよ……蓮……。俺、お前を……お前を一人にできなくって……」

「兄は死んだんだっ!!!」

「っ……俺だよ、蓮っ!」

「アンタは兄じゃないっ!!」

「っ!!」


 蓮華の言葉が突き刺さったかのように、レンマの肩は大きく震え上がった。


「あたしの兄は、悪魔なんかに頼るようなヤワな野郎じゃないっ!! 命の限り全力で生きた奴だった!! あたしの手を引きながら、限りある命で全力で生きる奴だった!! あたしのかっこいい兄だ! そんな兄が、悪魔と取り引きして生き返るはずがない!!」


 蓮華は生き返った兄を否定する。

悪魔と取り引きして生き返えるような兄など、蓮華は認めない。

 生前は潔く自分の死を認め、残される蓮華に言葉を残した。そういう兄だった。


「……蓮……俺だよ……俺なんだよ。お前のそばに……お前のそばにいてやりたくて……お前を独りにできなくて……」

「あたしは弱くない!!」

「俺なしじゃだめだったじゃないか!!」

「アンタが死んで二年だ!!」

「!」


 驚愕した彼はセレノを振り返る。二年も離れていたことに気付かなかったらしい。


「あたしを見ろ!! アンタが望んでいたような仲間とともに、命の限り生きてきた!! 死んだアンタなんか必要ない!!」


 はっきりと拒絶を突きつけられ、彼はまた身体を震わせた。

 家族の中で唯一愛した双子の妹に、もう必要とされていない事実。絶望しているだろう。


「……蓮真」


 蓮華は激情を抑えて、静かに兄の名を呼んだ。


「約束しただろ。来世でも双子として生まれようって。来世でも会おうって。約束しただろ」

「!」


 目を見開いた彼は、涙を浮かべた。


「来世で会おう、蓮真。待っていてよ」


 手にしていた銃を、蓮華は実の兄に向ける。


「……蓮華……」


 彼の赤い瞳から、涙が落ちた。

 よく似た二人は違う。

銃を持つ少女の方が大きく、赤い瞳の少年の方が小さい。

銃を持つ少女の方は見据え、赤い瞳の少年の方は泣いた。


「…………ごめんな、蓮華」


 泣きながら笑ってみせると、彼は蓮華に手を差し出す。


「兄貴なのに、妹に不始末なんてさせられないよ。蓮華」

「……」


 生き返ることを選んだのならば、終止符も自分で撃つ。

妹にはやらせることができず、銃を求めた。

 蓮華は目を閉じてから、銃身を持ち差し出す。

 受け取ると彼は微笑んだ。後ろに立つセレノを振り返る。


「これからも、蓮華をよろしくな。セレノ」

「……」


 笑いかける彼には何も返さず、目を背けるようにセレノは俯き、そして一歩下がった。


「ありがとう、セレノ」


 二人を結んでいた影が切れた途端、瞳が黒に染まる。悪魔との繋がりが切れた証拠だ。


「死に急ぐなよ、生きろ。命の限り生きて、生きて、生きて、生きて。俺は待ってるから」


 彼は涙で濡れたまま頭に銃口を突き付けた。


「来世でまた会おう、蓮華。一緒に楽しもうぜ」


 彼は笑う。まるでまた明日会えるかのように、はにかんだ笑顔はとても明るかった。

心から、また一緒に生まれ変わると信じている。

きっと、そんな繋がりを感じているのだろう。


「また会おう、お兄ちゃん」


 蓮華も笑い返す。

いつもの勝ち気な笑みではなく、愛する兄に見せる最後の綺麗な微笑を向けた。

 一発の銃声が鳴り響く。

蓮華は顔を伏せた。声を殺して泣く。ずっと耐えていたんだ。

 兄が安心して逝けるように、強さを見せて最後まで泣かずに耐えていた。

愛する兄の死を二度も経験したのだ。いくら強くなったとは言え、涙が出ないわけがない。

 壁で見えなかったが、曲がり角には遊太の弟、蓮真くんも見守っていたらしい。

声を殺して泣く蓮華を、後ろから抱き締めた。何も言わず、ただ力強く抱き締める。

 やがて、蓮華は放してと言うように蓮真くんの腕を退かした。

迷うことなく蓮華は、まだ少年の姿を保つセレノを蹴り飛ばす。セレノは抵抗せずに受け、壁に叩き付けられた。


「お前は兄を人質にしんだぞ、わかってるのか!? 兄を縛り付けた! ふざけるなよ、セレノ!! なにが目的だ!!」

「……」


 銃を拾い、突き付ける。

セレノは答えなかった。


「目的は貴女よ、蓮華」


 あたしが代わりに答える。

蓮華も蓮真くんも初めてあたし達に気付いて、振り返った。

蓮真くんは自分の兄を見付けると、途端に泣きそうな顔をする。駆け寄って、抱き付いた。


「よう、蓮真」

「生きてるなら連絡しろよっ!!」

「悪い悪い」


 遊太は泣きそうな弟を笑いながらも、頭をポンポンと軽く叩いて宥める。


「よう、遊太。アンタは本当に生きてたんだ。嬉しいね」


 蓮華はいつものように笑って見せたが、すぐにセレノを睨む。


「まーな。こんな弱い弟を残して死ねないからさ」

「なっ……」


 ニカッと笑って見せて、遊太は蓮真くんの頭を乱暴に撫でた。弱いと言われた蓮真くんは、納得いかないと顔をしかめる。


「結婚式にラチられたような格好だけど、無事でよかった。椿」

「助けに来てくれてありがとう。無謀すぎね、蓮華」

「お褒めの言葉、ありがとう。で? どういう意味?」


 目を合わせないまま蓮華と会話しながら、セレノに歩み寄る。


「あのクソロリビッチがセレノを味方につけるために、お気に入りの人間であるお前の亡き兄を甦らせて人質にしたのさ」


 ヴァッサーゴはあたしの背後に姿を現して、蓮華に話した。ロリビッチは、サミジーナのことだ。


「奴らはセレノと指揮官を手に入れるために、お前の兄を人質にした。だが指揮官にはお前の代わりを見付けられた。お前を守るために代わりを差し出した。全部お前のためだ」

「ほざくなよ、ヴァッサーゴ」


 ヴァッサーゴを黙らせるために、セレノは口を開いて睨み付けた。

ヴァッサーゴは嘲笑う。


「悪魔が考えることは全部はわからないわ。でもヴァッサーゴは余命数秒のあたしを助けるために中に入り込んで、それからいい未来へ導いた。本当のところは悪魔は素直に愛情表現ができな」

「黙れビッチ!!」


 今度はヴァッサーゴがあたしを黙らせるために口を塞いだ。

 ヴァッサーゴは未来も過去も視れる悪魔。未来を見据えてあたしを導いた。

 セレノは運を運ぶ悪魔。事態を好転することが出来る彼は、どうした?


「……これ、全部アンタの能力か?」


 蓮華はあたしとヴァッサーゴが言いたいことを理解して、セレノを見下ろした。


「全ては俺を守るために、セレノの能力で事態を好転させていたと? 俺を守るために、狐月を悪魔に捧げて、よぞらと椿を引き合わせ、俺とも引き合わせて、この戦争に参加させることを導いたって?」


 運命の糸を手繰り寄せたセレノによって、あたし達は出会った。


「ハン、自惚れるなよ。お前のためなものか。言っただろ。貴様など暇潰しでしかない。全部俺様に都合のいいように運を運んだだけだ」


 セレノは心底呆れたように嘲笑い、否定する。

そう言いながら、きっと蓮華のために運を運んだのだろう。


「兄が頭を撃ち抜いたこともか? セレノ」


 蓮華は見据えて静かに問い、セレノは顔を歪ませた。


「予想外か? 俺が兄の甦りを望まなかったことも、兄が死を選ぶことも。お前の力では予想が出来ない展開だったのか? あん?」

「……」


 セレノの頭の横の壁を足を置いて、睨み下ろす。

セレノは目を背ける。


「……これが貴様の最良の現在だ」


 そして告げた。

この結果が、蓮華の最大の幸運。セレノの能力で、最良の未来を招いた。

全ては、蓮華の幸せのためにことを運ばせた。

 裏現実の人間が、ここに行き着くわけがない。

きっとあたしが蓮華と合流したのも、セレノの能力のせいだ。

蓮華は運を味方につけている。


「頼んでねーつーの」


 ため息混じりに蓮華は言うと、セレノに手を差し出した。

セレノはゆっくりと手を伸ばして、蓮華の手を掴んだ。


「……蓮真にお前を頼まれた」


 引っ張り立たされたセレノは蓮華に言う。兄が妹を頼むと言って、逝った。


「……今からだろ」


 蓮華は仕方なさそうに肩を竦めて答える。そばにいてもいいと、許可したようなものだ。

 セレノの仏頂面が、少し和らいだように見えた。


「椿っ!! 首押さえろっ!!」


 ヴァッサーゴがいきなり意味のわからないことを叫んだ。

振り返ると、ヴァッサーゴが吹き飛ばされた。

 目の前に白。長い長い白い髪を持つ吸血鬼が、大きな鎌でヴァッサーゴを吹き飛ばした。

金色の瞳があたしを見据える。吸血鬼のリーダー、ヴァンスト。


  チリン。


 鈴が鳴る。

あたしのチョーカーが切れて、宙を舞った。切ったのはヴァンストの死神のような鎌。

 今、ヴァッサーゴの言ったことを理解する。後ろに下がりながら首を押さえれば既に血が溢れていた。視界の隅にセレノが蓮華を連れて離れる姿が入った。

横目で見るセレノの紅い瞳が、光ったように見える。

 バタリと、あたしは背中から倒れた。白瑠さんと初めて会った時を思い出す。

 生暖かい血が溢れるのを感じる。気管は無事だが深い。ヴァッサーゴが治さないと出血死する。だがヴァッサーゴは吸血鬼のリーダーにに吹き飛ばされた。治癒は難しい。

 繋がっているヴァッサーゴごとあたしを殺そうと、ヴァンストは大鎌を振り上げた。

 そこに雷鳴のような銃声が響き、弾丸を受けたヴァンストは一時引いたのかあたしの目の前から消える。悪魔の近くで気絶はできないのだろう。或いはヴァッサーゴを直接狙ったのかもしれない。


「おい、椿」


 あたしに声をかけるのは、銃声の持ち主だ。

 大きな手で首を押さえてくれるのは、篠塚さん。現実の篠塚さん。久しぶりという余裕はなく、あたしは笑みで挨拶する。

無愛想な篠塚さんは笑い返さず呆れた。


「やっぱりいた、椿。ドクターは? 手当てしなきゃ」


 代わりに笑い返すのは、秀介だ。気さくに笑いかけてくれるが、あたしの怪我で焦っている。


「医者はいらん。あの悪魔が治癒する」

「ヴァッサーゴはどこだよ? 連れ戻すから椿を頼む。椿、コートはここに置くぜ」


 篠塚さんに言われて、秀介はヴァッサーゴを探しに向かった。

コートはあたしの紅いコートのことだ。どこかで見付けたから、あたしがいると知ったらしい。

 あたしはなにもできず、一緒に傷口を塞いでくれる篠塚さんをただ見つめる。

すると篠塚さんが顔を歪ませた。笑っているようだ。


「初めて会った時も、首を押さえて倒れていたな……」


 一体何の話かわからなかった。白瑠さんと初めて会った直後の話だと気付く。

血塗れの電車の中で、篠塚さんがあたしを見付けた。

 でも……その記憶は彼にないはず。


「んもーぉ。世話のかかる奴なんだから」

「放せ、黒野郎! 余計なお世話だ!」


 コクウとヴァッサーゴの声が聴こえた。

コクウがヴァッサーゴを回収したみたいだ。


「上から降ってきたから連れてきたよ。椿」

「余計なお世話だっつーの! どんなに椿のために動いてももう二度とてめぇは抱けねぇぞっ、ぶっ!」


 ヴァッサーゴが余計な悪態をつくから、腹に一発拳を叩きつけた。動いたせいで傷が広がったらしく、自分の血で溺れかける。

ヴァッサーゴは慌てて傷を治した。


「はぁっ……死ぬかと思った」

「死ぬことは諦めろ」


 飛び起きれば、篠塚さんに頭を撫でられる。篠塚さんは笑っていた。

 ピシ、と天井が軋む音がする。

見上げた瞬間に、崩れ落ちてきた。


「ゴフッ、ゴホッ」


 天井とともに落ちてきたのは、血を吐くウルフ。

篠塚さんもコクウもあたしを守るために、前に立った。


「……これはこれは……最強の狩人の番犬と、最強の殺し屋の吸血鬼が揃って悪魔の花嫁を守ってる。モテモテだね、かわい娘ちゃん」


 疲れきったように笑いながら、ウルフはさらりと爆弾発言をした。

コクウの前で、篠塚さんを番犬だとバラしたのだ。

 篠塚さんもコクウも互いを横目で見た。

最強の狩人と謳われた番犬と、最凶の殺戮者と謳われる黒の殺戮者。

二人が視線を交じり合わせた。

 これ以上ないカオスな展開にあたしは息を呑む。


「花嫁ってなんだ?」「花嫁ってなに?」


 同時に二人はあたしを振り返り訊いた。


「そっち!?」


 一触即発かと思いきや、番犬よりも花嫁に食い付くの!?


「そりゃ、宿敵よりも悪魔の増殖相手に選ばれたお前を優先するだろ」


 真横でヴァッサーゴが更に爆弾発言をした。

あたしが繁殖するために連れてこられたと知らなかったのに、余計なことを!!

 嫌悪と怒りを込めて二人はウルフを睨んだ。

敵対するはずの二人が、同じ敵を見据えている。


「返してくれるかな? おれの花嫁なんだよね」

「くひゃあ、いけない子だね。悪魔まで魅了しちゃって」

「してないから。してない!」


 ウルフが言うも、コクウは無視するようにあたしに話し掛けた。苛ついたようにウルフは額を押さえる。

 跳ねるように彼が顔を上げた。崩れた天井から刀を持ったスーツの音が落ちてきて、ウルフの左腕を切り落とす。


「っぐぁ……まったく……フェンリルさん、おれはアンタの怒りを買った覚えはないよー?」


 傷口を押さえながら、ウルフは笑みを浮かべて言う。相手はフェンリルファミリー六代目ボス、シリウス・ヴォルフだ。


「よくもぬけぬけと言うね。私の娘を汚すつもりのくせに」

「未遂だ」

「ファミリーに危害を与える者は処刑する」


 シリウスは刀の先をウルフに向けて、処刑を宣言した。

 ウルフ達は既にシリウスのファミリーを何人か殺している。ヴォルも拉致した。シリウスは許さない。


「それはアンタの可愛い娘の顔を拝んでからがいいなぁ」


 ウルフはシリウスの地雷を自ら踏んだ。

娘を愛するシリウスから殺気が溢れるのを感じた。次の瞬間、上の天井がまた崩れ落ちる。また大きな白を見た気がする。瞬きする間に床を突き抜けて、ウルフもシリウスも消えた。


「……今の、なんなのかわかる人いる?」


 呆気に取られながら、あたしは問う。大きな白い物体がまたウルフを浚っていった。


「……尻尾は狼だな、ありゃ」


 尻尾が見えたらしい篠塚さんが特定する。今のは白い大きな大きな、とてつもなく大きな狼だと。


「白い大きな狼が、ウルフを追いかけている?」

「くひゃあ、いいねぇ。フェンリルファミリーがフェンリルでウルフ退治だぁ」


 コクウの楽しげな発言があたしを更に混乱させる。

どっからシリウスはあんな怪物を連れてきたんだ。カオスだ……。早く終わらないのかな、この戦争。


「気が変わったよ。俺もフェンリルと合流する」

「仲間はどうするの?」

「ガトリングが強烈でね。ゾンビが代わりに相手してくれてるから、俺達は中にいるんだ。まぁ……平気さ。誰も死なないよ」


 コクウはあたしの手を取ると立たせた。他のメンバーは心配ないとあたしに言う。


「ちょっと目を放した隙に……なにがあった?」


 秀介が戻ってきて、穴の空いた天井と床を眉間にシワを寄せて交互に見た。

秀介の後ろにはヴァッサーゴの巻き添えで廊下の隅に飛ばされた遊太達。


「喜べ、ナヤ。フェンリルがいるぜ。大きな狼だ」

「うおーい、何の話だ詳しく! 詳しく!」

「蓮華は? セレノは?」

「あー、廊下の先よ」

「蓮華!」

「あ、待てよ! 蓮真!」


 コクウにナヤは食い付き、蓮真くんは蓮華を捜しに駆け出し、遊太はそれを追う。

 合流したり、はぐれたり。ここは遊園地の迷路か。


「あたしは地下に行くわ」

「一緒に行こう、フェンリルも下に行った」


 一刻も早く白瑠さん達と合流したい。

コクウはあたしの左手を取ると、リードすると微笑みかけた。

 それを秀介が手刀で引き離す。間に割って入り、コクウを睨み上げた。

この距離で黒の殺戮者を睨み上げるのは、秀介らしい。

 あたしは誰の手も借りずに先に穴の中へ飛び降りた。

シリウスもウルフも見当たらない。右は壁が崩れているから進めないが、前と後ろの廊下は先に進める。どっちに進もうかと迷っていたら、真横の壁が突き破られた。咄嗟に避けようとしたけれど、あたしは捕まる。

 ドンッ、と壁に追いやられた。

左右にはじゃらじゃらとアクセサリーをつけた色白の腕。顔を俯かせた白瑠さんだった。

 心底驚いた。死神の鎌を持ったヴァンストが現れた時よりも、心臓に悪い。

どいつもこいつも、壁を突き破って出てこないでほしい。


「は、は……」


 白瑠さん、と名前を呼ぼうとしたけれど、俯いた彼の顔が見えなくてちょっと怖い。上手く声が出せないでいると、白瑠さんがそのまま顔を近付けてきた。


「――んぅ、つぅばぁきぃ」

「んんっ!?」


 甘ったるい声を出して、白瑠さんがあたしにキスをしてくる。

いつもの白瑠さん……とは、ちょっと違う?


「ん、白瑠さんっ、あの……ん、大丈夫ですか? 寝惚けてませんよね?」


 白瑠さんを引き離そうとしながら、あたしは訊いた。白瑠さんは微笑みながらあたしにキスをしたがり顔を近付ける。


「どんな悪夢を……見せられたんですか?」


 ちゃんと話してほしくて、なんとか白瑠さんの顔を引き離す。

最悪な悪夢の反動かもしれない。あたしのように……。


「悪夢? なぁんの話?」


 白瑠さんの大きな手が、あたしのお尻を掴んだ。


「!?」

「いい夢だったよぉ、もうすっごく……すっごくね」

「!?」


 持ち上げたかと思えば、白瑠さんは腰を押し付けてきと壁と挟んできた。


「椿があんなことや、こんなことまで……俺にしてくれたんだぁ……はぁ、もうほんと、いい夢だったぁよぉ」

「どんな悪夢!?」


 興奮した呼吸をしながら言う白瑠さんは一体どんな悪夢を見た!?

 白瑠さんの場合、あたしになにされても喜ぶ。悪魔は悪夢のチョイスを誤ったに違いない。

 夢の中であたしが一体何をしたのか、知りたいような知りたくないような……いややっぱり知りたくない!!

 なんとか降りたかったのに、白瑠さんが腰を押し付けているから、足は床につかずばたばたともがくだけ。それをすると彼のあれが……ああっ!

 白瑠さんは天井上の彼らに気付いているのか、それともガン無視しているのか。お願いだから放してほしい。本当に、本当に。


「椿はねぇ……」


 白瑠さんはあたしを壁に押し付けながら、耳に囁いた。

 悪夢の内容を、それはもう生々しくと語る。あたしにされた拷問から、性的なことまで。あたしがまだ白瑠さんにしたことないことまで、白瑠さんが嬉しそうに言うからあたしの頭は爆発しそうになった。

これこそ拷問だ。


「はぁ、もう、帰るまで待てないよ、椿ぃ……んっ」

「んんっ!」


 白瑠さんは貪るような激しいキスをしてきた。ああだめだ、この人完全にスイッチ入ってる。

 この戦争が終わったら、激しく抱いてなんて言ったのが悪かったのかもしれない。

 あたしの髪を握り締めながら、息もつけないほど激しいキス。このキスはまずい。あたしの理性を崩しにかかる。


「は、あんっ、は、はくっ」

「ん、椿」


 あたしの太股を握り締め、服の中に手を滑り込ませてきた。ああ、この人、本当にここでやるつもりだ。

だめ、だめだめだめっ。

 必死に理性で堪えようとするけれど、手が白瑠さんの髪と服を握り締めてしがみついてしまう。

 ついにはキスを返してしまった。自ら引き寄せるように彼の身体に足を巻き付ける。すると白瑠さんは喜んで笑みを浮かべた。


「これ、いいね」

「はぁっ」

「……いい?」


 この体勢を気に入った白瑠さんが、あたしと目を合わせて問う。

ああもう、とろとろに溶けてしまいそうなほど、してくれて構わない。


「はいはい。見せ付けたいのはわかるけど、時と場所考えなよ。自分の脳ミソ吹っ飛ばしちゃったの?」


 白瑠さんの襟を掴み、コクウはあたしから引き離した。

 解放されたあたしは、壁に手をついて深呼吸をする。

 あたしのスイッチまで入ってしまった。興奮を治めようと息を深く吸っては吐く。治まらない。

額を壁に押し付けて、堪えた。本当に時と場所を考えてあたし。


「……ビッチ」


 誰かの呟きが聞こえたから、振り返って睨むと天井の穴にいるナヤ。彼は咄嗟に口を押さえた。

 そのナヤの隣には、ポカンとしている秀介と篠塚さんがいる。だからあたしは顔を背けて呻いた。


「大丈夫? 椿?」

「黙って。もう触らないで」

「んもぅ、怒らないで。あれ? チョーカーはどうしたの?」


 白瑠さんが近寄るから拒むけど、上機嫌な彼はあたしを後ろから抱き締めて首にチョーカーがないと気付く。


「あ……切られて……」

「そう。じゃあ新しいのあげるから、つけてね?」


 首の傷を指で撫でると、白瑠さんは後ろからそっとそこに口付けをした。

べりっ、とまた白瑠さんをコクウが引き離す。


「……」


 白瑠さんはきょとんとするけれど、天敵のコクウに目を向けないし、怒りも見せない。まるで白瑠さんにはコクウが見えていないような様子。白瑠さんは生きていたコクウをガン無視している。

 コクウは笑顔を保つ。

何を思ったのか、コクウはあたしからジャケットを脱がすと白瑠さんに投げ渡す。それからあたしの紅いコートを着させた。

 白瑠さんの笑みが、流石に強張る。番犬と目を合わせた時よりも最悪な雰囲気だ。


「これ、裏現実史上で最強の修羅場だぜ。あ、アンタも参加する?」


 上でナヤが秀介に向かって言っている。

殺戮者と恐れられている殺し屋の修羅場。楽しんでいるようだから、頭から落ちないだろうか。


「幸樹さんは? ヴォルは?」


 あたしは火花で爆発する前に意識を逸らしてもらうために白瑠さんに訊いた。


「ここにいますよ」


 白瑠さんが突き破った壁から、幸樹さんが出てきた。無事のようで安心する。あとからヴォルも出てきた。


「よかった……大丈夫なんですね? 悪夢は……」

「大丈夫ですよ? たかが夢です」


 幸樹さんも悪夢は何でもなかったかのように話すと、あたしの額にキスをする。

 解せない。白瑠さんも幸樹さんも悪夢にノーダメージなんて……。あたしとヴォルは弱いのか?

 怪訝に顔をしかめたら、ヴォルと目が合った。察したヴォルは「自力で目覚めたんです……お二人は」と答える。


「下手すりゃ永遠に寝たきりもあり得たのに、自力で起きたのか。フン、シスコンの愛情ぱねーな」


 ヴァッサーゴが笑う。

つまりはあたしとヴォルとは違う悪夢に閉じ込められたにも関わらず、白瑠さんと幸樹さんは自力で悪夢から脱出したのか。

……なんて人達だ。


「……」

「どうかしましたか?」


 幸樹さんが悪夢を見たのなら、由亜さんに会ったのではないか。訊こうとしたが、違っていたら……。

「いいえ」とあたしは首を左右に振った。


「……しぶといな。貴様という奴は」


 ズルズルとなにかを引き摺りながら、ラトアさんが廊下の先から来る。視線はコクウに向けている。にこりとコクウは微笑んだ。


「コイツをどうする?」


 ラトアさんが引き摺っていたのは、指鼠だった。起きて早々に彼を捕まえたらしい。

 手の指は全て切り落とされ、手の甲は潰されている。足は膝を潰されて、片方は曲げられていた。上半身には幸樹さんのナイフが何本も突き刺さっているが、どれもわざと急所は外されている。

あたしとはぐれたにも関わらず、しっかり痛め付けたのか、この人達。


「何故……殺さないのですか?」


 首を傾げてみれば、指鼠の瞳が紅ではなくなっていることに気付く。

 ラトアさんの後ろから歩いて近付くのは、蓮華の手を引いたハウンくん。蓮華は悪魔封じのリボンに巻かれたセレノの手を引いている。

 ハウンくんが指鼠の悪魔を始末した上に、セレノを隠してくれたようだ。ハウンくんも無事でよかった。


「お前に決めさせるべきだと思ってな」

「……もう、どうでもいいです」


 指鼠にトドメを刺す前に、あたしの前に連れてきたらしい。

 別にどうでもいい。白瑠さん達に何かあれば怒り任せに首をはねていただろう。

だがもうなにもできないであろう指鼠に、拷問してもなにも感じない。


「俺が殺る」


 そう言ったのは、篠塚さんだ。

狩人が殺し屋にトドメを刺す。あたしの後ろから銃を構えた。


「いや、俺が殺るよ」


 コクウが手を広げて見せる。殺し屋のコクウがトドメを刺すと言い出した。

 本当に誰でもいいのだけれど、そう言えば口論に発展しかねない。

 誰を選ぼうと迷っていれば、指鼠の頭が胴体から切り離された。

手を真っ赤に染めるのは、小さな吸血鬼。ハウンくんだ。

彼は自分の手を見ると、舐めようとした。


「だめだめっ! それは絶対に不味いから!」


 慌てて阻止する。

いくらなんでもそれは口に入れちゃ駄目だ。きっと不味い。

 ぷくー、とハウンくんは膨れっ面をした。血が欲しいらしい。

 あたしの手を引いて、首に噛み付こうとした。それをコクウが阻止して、ハウンくんを突き飛ばす。

ハウンくんは後ろに立っていた蓮華が受け止めて支えた。蓮華の血を求めて、ハウンくんは腕を掴んだ。

引き寄せるその前に、唯一自由な足でセレノはハウンくんを踏み潰そうとした。ハウンくんは腕を盾にして防ぐと、それを引っ張り転ばせる。セレノはキレたのか、蹴り上げた。その足を蓮華が踏み潰す。


「蓮真はどこ?」

「貴女を捜して上の廊下を走っていったわ」

「まじか。セレノのせいだぞ」


 蓮華はハウンくんの頭を撫でて宥めると、セレノを立たせて廊下を歩き出した。


「……蓮真くんと遊太を見付けたら、フェンリルと合流して脱出しましょう」


 あたしもむくれるハウンくんの頭を撫でながら、蓮華のあとを追う。

 蓮華といた方が都合がいい。セレノの能力で、蓮華は運が味方している。

蓮華が脱出を望むなら、あたし達の脱出も成功するはず。

 悪魔が劣勢なのは、セレノの能力のせいだろう。

セレノはきっと、悪魔達を勝たせるつもりは端からなかった。全ては蓮華のためにいいように物事を運ばせたのだろう。

 未来を視るヴァッサーゴとは違う能力。セレノの様子からして、セレノの予想通りにはいかない能力なのだろう。

 蓮華があたしと出会ったことも、直接戦争に関わったことも、セレノの予想範囲外。それでも蓮華の幸福に変わりはない。

全ては蓮華の幸せ。或いは幸せに繋がる過程。

 あたしとの出会いも、この戦争も、蓮華にとって幸福。

 あたし並みに数奇な人生だ。悪魔のお気に入りになったことは、幸か不幸か。

 あたしはどうだろうと考えて、答えが出た。あたしは幸せだ。


「……フン」


 横を歩くヴァッサーゴが、ニヤニヤしながら鼻で笑う。だから脇を殴ってやろうかと思ったが、予測した彼には避けられた。

 周りが破滅しても愛する人間を守る悪魔だからこそ、この現状を招いたのかも。


「フン。だから悪魔と呼ばれるのさ」


 ヴァッサーゴはまたあたしの考えを読んで笑う。

セレノも聞いていたかのように肩を震わせるものだから、顔をしかめた。


「ねー、つぅちゃん」


 後ろから白瑠さんが抱き締めてきた。


「早くここ出て続きしよ?」


 あたしの耳に甘く囁く。


「俺に激しく抱いてほしいんでしょ?」


 両手であたしの身体のラインをなぞり、早くこの戦場から出ることを急かした。

 すぐに白瑠さんは、またコクウの手によって剥がされた。


(はく)。椿がコートを脱がされて、ウェディングドレスみたいなの着せられてるのは、悪魔に拉致られたってことだよね? 椿を奪われたくせに、いい加減発情はやめろよ」


 ギロリ、とコクウは白瑠さんを責める。ウルフが余計なことを言うからだ。


「おい、それどういうことだ!?」


 耳にした秀介が怒鳴り声を上げるから、震え上がった。


「おいおい、こんな戦場で修羅場? 椿って本当に罪な女だな」


 先頭を歩く蓮華が振り返ってあたしを笑う。

そんな蓮華の前に、蠢く死体を見付けた。ゾンビだ。

あたしはコートの中のカルドを引き抜き、右の壁を走り蓮華の前に降り立つと同時に二体の首をはねた。

 まだ四体いる。そのまま首をはねようとしたが、銃声で動きを止めた。

二体のゾンビの頭が撃ち抜かれ、残りのゾンビの頭にナイフが突き刺さる。弾丸もナイフも、あたしを掠めたから苦い顔になった。

 あたしは狭いフィールドが得意。でも……と後ろを振り返る。

 灰色の狭い廊下で天敵同士の殺戮者と殺し屋と狩人と吸血鬼と悪魔。狭すぎる。

白瑠さんとは違う理由で早くここを出たい。


「椿が拉致ってどういうことだよ!?」

「あたしの不注意よ、しゅう。この悪魔が拉致した」

「発情猫の拉致の話はあとででいいだろーが。敵の悪魔を始末しなきゃ、この発情猫も、フェンリルの娘も今後も狙われるはめになるぞー」


 白瑠さんとコクウの間に秀介が割って入っては厄介だから宥めようとしたら、ヴァッサーゴが気を逸らすことを言ってくれた。


「白野郎達は椿の救出にきた。てめぇらは他の悪魔を狩りに来たんだろ、仕事戻れよ」


 ヴァッサーゴの言う通り、白瑠さん達はあたしを取り返しに来た。指鼠も始末したから、あとは皆無事に脱出をするだけ。

コクウと秀介達は悪魔を倒すために戦場に乗り込んだ。こんな団体になって廊下を歩くことはない。


「親玉のウルフはフェンリルが追ってるんだ、椿と目的は同じ」


 フェンリルを理由にコクウは同行すると言い張るから、白瑠さんが不機嫌な顔をする。


「いいんじゃん? 世も末の最終戦争並みの事態なんだから、友だちもいてもいいじゃん」


 蓮華があたしの横を歩きながら言った。

 友だち、ね。

蓮華はあたしと友だちになった。それもセレノの能力が招いたこと。つまりはあたしと友人関係になることは、蓮華にとって幸福。

 逆にそれはあたしにとっても、幸福と言えることなのか。

 不思議な巡り逢い。或いは運命の巡り逢い。

蓮華は兄とまた廻り逢うと約束した。輪廻があるかどうかはわからないけれど、その約束が実現しそうだ思えた。

 あたしは後ろをもう一度振り返る。

不思議な巡り逢いだ。

初めて会った裏現実者は、殺し屋のトップの白い殺戮者。またの名を頭蓋破壊屋だ。彼が居合わせた電車であたしは殺戮。

 担当した刑事は記憶をなくした裏現実の史上最強の狩人、番犬だった。

病院で出逢ったのは、頭蓋破壊屋を狙う若き狩人、ポセイドン。

その病院で働いていたのは、頭蓋破壊屋の仲間で殺し屋であり医者。

彼らに吸血鬼を紹介された。噂が勝手に広まり、頭蓋破壊屋と並ぶ殺し屋と呼ばれて、彼の天敵である黒の殺戮者に目をつけられた。追い回され、捕まり、出会った。

それらを気に入れば、運命の出逢いとも呼ぶ。


「……ありがとう」


 あたしは彼らに向かって、それだけを伝えておいた。

しん、と静まり返る廊下を、あたしだけ歩いていく。

ちょっと逃げたくなり、早歩きになったら、ヴァッサーゴに捕まれて阻止された。

「黒猫がデレた!!」とナヤが叫ぶ。

途端にわぁぎゃあと聞き取れないほど多くの声をかけられた。


「あはは。椿って本当に罪な女だな」


 隣を歩く蓮華だけが、おかしそうにお腹を抱えて笑う。


「蓮っ!」

「蓮真!」


 階段を下りてきた蓮真くんと遊太と合流。

蓮真くんは直ぐ様蓮華に飛び付き抱き締めた。




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