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運ぶ悪魔



 引き金を引かれる前に屈み、銃弾を避けると同時にその手を掴み玄関の中に引っ張り込む。

中に入れればこっちのもんだ。セレノは入って来れない。

 しかし、簡単ではなかった。

早坂狐月の手を引っ張りそのまま下に捩じ伏せようとしたが、その体勢で早坂狐月の蹴りを食らうはめになる。

 長い足が壁に押し付けるようにあたしを蹴り飛ばす。

まずい。肋骨折れた。

なんて威力だ。吸血鬼の蹴りを食らった気分だ。

肺まで達したのか、息をする度痛みがする。

 狭い玄関で体勢を整えた早坂狐月が今度はあたしの首を狙った。首まで折られてたまるか。

 肋骨に響く痛みを堪えながら、その長い足に手をついて飛び上がり背にした壁に一度足をついてから、左足を顔目掛けて振る。

あたしの反撃を、早坂は屈んで避けた。

 あたしは壁の反対側の下駄箱に降り立つ。

すかさず早坂は右腕を振り上げたから、飛び上がり天井に足をついた瞬間にカルドを出して真下の早坂に向かう。

床に足をついたと同時に早坂の首にカルドを突き付けた。だが、あたしの心臓にも早坂の銃口が突き付けられる。

 しまった、しゃがんだ時に拾ったのか。

早坂はまた躊躇いなく引き金を引こうとした。


「狐月さん!」


 そこで聴こえたのは、よぞらの声だ。

早坂の反応は、早かった。

 弾くように、廊下にいるよぞらを振り向く。目を見開いて彼女を見た次の瞬間には、銃を手放していた。

銃が床に落ちるよりも前に、早坂はよぞらを抱き締める。


「ぞらっ……よぞら!」


 力強く抱き締めていることがわかった。彼女が壊れてしまいそうなほど、強く締め付けている。


「無事で……無事で、よかった……」

「狐月、さんっ……!」


 僅かに見えたよぞらは涙ぐんでいた。

ずっと焦がれて待ち望んだ人が、来てくれたのだ。

彼女のために危険を侵して来て、強く抱き締めた。

よぞらを想っているという、証明だ。

 あたしは痛みを我慢しながらも、銃を拾いまだ突っ立っているセレノに銃口を向ける。


「…………」


 あたしを興味ないといった目で一瞥すると、早坂とよぞらにもやはり興味ないといった目を一瞥した。

首をゆっくり傾けて廊下の先を見る。


「……セレノ」


 そこから来るのは、蓮華だ。

彼女は立ち尽くしてセレノを見る。

悪魔の少年は、肩を微かに竦めた。


「蓮華も無傷かよ……来るんじゃなかった……」


 ボソリと呟かれた低い声は、間違いなく蓮華を心配した台詞だ。

一瞬だけ、呆気に取られる。

 だがセレノの背後に、ハウンくんが見えたから動いた。

セレノに突進するように向かい、蹴り飛ばす。

やはり人間の姿を保っている。手応えがあった。

セレノはすぐに踏み留まると、ハウンくんを振り返る。

 ハウンくんは既に始めていた。

細く白い指を立てて宙を切りながら、聞き取れない言葉を唱えている。


「エクソシストのヴァンパイアか……」


 セレノはハウンくんに攻撃しようと向かう。

ハウンくんは唱えながらも、向かってきたセレノの懐に入り、回し蹴りを決めた。

今度は吹き飛んだセレノを真上から振ってきたラトアさんが踏み潰す。

 セレノは吠えた。

ラトアさんもハウンくんも耳を押さえて距離をとるが、ハウンくんは唱えることを止めない。

そのハウンくんに、セレノはまた向かう。


  ズドンッ!!


ハウンくんにセレノの手が届く前に、何か重たいものが降ってきたみたいにセレノが地面に倒れた。

普段通り無感情の顔のハウンくんが、セレノからあたしに目を向けたから、ことが済んだことを知る。

 あたしは早坂狐月を振り返った。

よぞらをその腕に抱き締めたまま、あたしを見ている早坂はセレノの心配はしていないようだ。

 早坂狐月とセレノ、確保完了。




「貴様という女は、つくづく手がかかる。独自の世界を作っておきながら、裏現実まで首を突っ込むのか。貴様の欲は底無しか、蓮華。いくら欲しても満たされないか、貪欲なのか。それとも集った仲間どもには飽きたか?」

「相変わらずだな、セレノ」


 ハウンくんの悪魔退治の術でセレノは拘束した。

リビングで身動きの取れないセレノを運べば、真っ先に蓮華に雄弁に話し掛ける。

ソファに座らせたセレノに向かって、テレビに立つ蓮華は笑って返した。


「何もかも与えてきた礼がこれか」

「頼んだ覚えはない」

「……フン」


 セレノは淡々と言葉を吐き、蓮華はきっぱりと言葉を返す。

微かにセレノが口角を上げた気がするが、幻だったかのように消える。


「なんで、俺に与えた? セレノ。何故俺に会いに来てた?」


 蓮華は疑問をぶつけた。

憑いてもいない相手に、セレノが定期的に会いに行き、幸運を与えた理由。

 するとセレノは身を乗り出して、にやりと三日月のような形に口元を変えた。


「気紛れに決まっているだろうが。貴様のような女に惚れて、幸運を与えてきたとでも? そこの女に憑いたクソ悪魔と一緒にするなよ。俺様は単に暇を潰すために人間で遊んでいるだけに過ぎない。貴様はその一人だったと言うことさ。自惚れるなよ、蓮華。貴様の魅力を最大限引き出したのはこの俺様だが、貴様にほだされる俺様ではない」


 ふんぞり返り、セレノは言い切った。

人を集めて、そして好かれやすい蓮華には、魅力がある。だから蓮華の仲間は彼女を慕う。

そんな彼女に仕上げたのは、セレノ自身。

 隣に立つあたしを見向きもしないで、セレノは蓮華を見下すように見た。


「……貴女の言った通りね」

「だろ?」


 あたしは納得する。

蓮華は笑った。

その反応が気に食わなかったのか、セレノの顔が歪む。

 セレノはヴァッサーゴに似ている。

あたしへの好意を隠して、暴言を吐き捨てるヴァッサーゴに。

 セレノが蓮華の無事を確かめに、早坂を連れて来た時点でもう理解できた。

セレノは蓮華を――…。


「てめぇ、セレノ……なんで参加してやがる? あ? チョロチョロ歩き回って娯楽に浸るてめぇらしくもねぇな」


 あたしから出てきた黒い煙が人間の形になり、ヴァッサーゴは姿を現した。

ニヤリと浮かべた嘲笑で、セレノを見下す。


「フン、貴様の噂を聞いていたぞ、沈黙の悪魔。よく喋るようになったのだな」


 セレノは嘲り返した。

大きな疑問は、ヴァッサーゴのように戦争に興味のなかったはずのセレノが何故参加しているのかということだ。

ウルフになにか秘策でもあるのかと、あたしも疑う。

ヴァッサーゴが警戒する悪魔だ。そんな悪魔を味方につけた切り札を知るべきだと思った。

 ヴァッサーゴは忠告した。

セレノの能力は縛り付けても封じられない。

全て自分にいい方向にことが進むように運を運べる。全てを運ぶ悪魔。

 油断は禁物。

だから対悪魔の武器を手に、白瑠さんも幸樹さんも、そしてラトアさんもハウンくんも立って見張る。


「セレノ。なにがお前を従わせてる?」


 あたしはヴァッサーゴを押し退けて問い詰めた。

しかしセレノはツーンと無反応を示す。

蓮華とヴァッサーゴとしか喋らないのか?


「悪魔側は敗北するわ」

「………………」


 ミリーシャに連絡して、悪魔達の居場所を伝えた。狩人と吸血鬼が総攻撃を仕掛ける頃だろう。

セレノがいなければ悪魔に幸運は起きない。悪魔は敗北する。

 それを告げると、赤い瞳があたしに向けられた。

セレノは、ほくそえんだ。

その意味はなにかと、あたしもヴァッサーゴも眉間にシワを寄せた。

するとヴァッサーゴが振り返る。すると、家の呼び鈴が鳴らされた。


「今日は客人が多いようだな」


 セレノは嘲笑を溢す。

客人の気配は妙だった。

吸血鬼もどきにも思えるが、微妙に違う。吸血鬼の気配でもないが、人間とも違うように思えた。

 あたしはラトアさんとハウンくんに目配せをして、セレノを頼む。

白瑠さんと玄関に向かった。

 ドアを開けば、黒いスーツに身を包んだ男が数人立っていた。


「こんにちは。紅色の黒猫さんのお宅で間違いないでしょうか?」


 呼び鈴を鳴らしたのは、黒髪でオールバックの長身の男。目も黒だが、イタリア人のようだ。

しかし、笑いかける彼は人間の気配とは違う。


「……どなた?」

「これはこれは……うひゃあ」


 あたしが問うと、後ろで白瑠さんが笑った。


「こんにちは。お美しい殺し屋さん」


 中央に立つ男が微笑んで挨拶してきた。

黒髪で青い瞳。ぱっと見ると、優男といった印象を抱くが、彼がリーダーだと言うことがわかった。

周りに立つ男達は、まるで彼を守るように警戒の眼差しであたし達を見据えている。

 スーツに、護衛のような男達。そして首には、同じ刺青。マフィアだ。

青い瞳の男がボス。彼の首には王冠のような大きな首輪がつけられていた。

 刺青の特徴からして、思い浮かんだファミリーの名前がある。白瑠さんに教えてもらった。

アメリカに本拠地を置く、イタリア系マフィア。


「フェンリルファミリーのシリウス・ヴォルフだ。初めまして」


 勢力の強いファミリーの一つ。


「お目にかかれて光栄だな。何の用かな? 君達はあまり裏現実に首を突っ込まないファミリーのはずだけどぉ?」


 白瑠さんは興味津々に身を乗り出す。

裏現実の殺し屋を雇わないマフィアだ。敵が多くとも身内だけで対処してきたらしい。つまりは裏現実の殺し屋とも渡り合えるほどの実力を持っていると言うこと。

白瑠さんには縁のないファミリーだと話していたことを覚えている。

 こんな最中に、あたし達を雇いに来たわけではないだろう。

一体何の用かと警戒を強める。セレノが運んだ敵かもしれない。運が運べる敵は、厄介だ。

 あたしの反応に、アッシュ髪の男が二人警戒を深めた。

ぱき、と手を鳴らす。

やけに爪の長い手は、人間の首を引き裂けそうだ。


「そう警戒をしないでくれ。私達はただ、情報が欲しいだけだ。悪魔達のアジトの場所を教えてくれないだろうか?」


 シリウス・ヴォルフは、右手で仲間を静めるとあたしにそう笑いかけた。

 悪魔のアジトを訊きに来た?

セレノを確保した直後にタイミングよく尋ねるものがいるなんて。

戦闘体制に入ろうとした時。


「客人を入れてもてなせ。いい嫁にならないぞ、ビッチ」

「……」


 後ろの廊下からヴァッサーゴが言ってきた。

未来を視る悪魔は、家に、招いていいと言う。罵声を返してやりたかったけど、真後ろの白瑠さんを押し退けて彼らを家に通すことにした。

 セレノとハウンくんの姿はない。ラトアさんが白瑠さんの部屋の前に立つから、中に移動させたのだろう。

ラトアさんと、アッシュ髪の二人の男が睨み合った。


「元々裏現実の人間とは交流がなくてね、特に狩人とは。だから悪魔と戦う者から情報を得られなくって、困っていたのだが……悪魔憑きの殺し屋がいると聞いてね。情報を貰いに来た」


 二人を引き離して、ソファに座るとシリウス・ヴォルフは簡潔に告げる。

 ス、と掌を上げて、赤みかかった茶髪の若い男に、スーツケースを出すように指示した。コーヒーテーブルに出されたスーツの中には、日本の札束が詰め込まれている。


「悪魔のアジトの場所を、売っていただきたい」


 足を組んで微笑む彼は、マフィアにしては温厚らしい。

だが、少々厄介だ。


「金はいらない。教えて差し上げますが、理由を先に教えてもらいましょうか?」


 あたしはスーツケースを閉じて、シリウス・ヴォルフに悪魔のアジトを買いたがる理由を訊いた。

 下手をしたら、白瑠さんの部屋に閉じ込めたセレノの取り合いになりかねない。

 だから慎重になる。

ラトアさんとアッシュ髪の男二人の睨み合いもいつ爆発するかわからない。


「身内が拉致されてしまったんだ。アジトに監禁されているはずだから、助け出したい」

「身内が? 拉致?」

「ああ、息子同然の部下だ」


 微笑みを絶やさないシリウス・ヴォルフは、細めた瞳に憂いを帯びさせていた。

 部下が悪魔に拉致されたから、アジトまで助け出したい。彼らの目的は理解できたが、悪魔が部下を拉致した理由がわからなくて顔をしかめた。


「何故、拉致などされるのです?」


 何かの間違いではないのか。

マフィアの部下を拉致なんて、悪魔の企みがわからない。


「狙いは私の娘だ。隠し子だから限られた者しか存在を知らないのだが、その一人が悪魔に殺されてしまってね……婚約者の彼から聞き出そうと拉致したのだろう」

「娘?」


 あっさりと隠し子の存在を話すボスを、部下達は一瞥したが口を挟まなかった。

 娘が狙いと聞くなり、あたしは悪魔憑きなのではないかと疑う。

悪魔の最終の目的は、繁殖。あたし以外の花嫁候補か。


「娘は悪魔憑き?」

「いやいや、そんなわけがない。娘は裏の存在すら知らない。何故?」

「……いえ」


 シリウス・ヴォルフは否定した。

悪魔憑きではないなら、何故狙われるのだ。あたしは疑いの目を向けた。


「君は悪魔憑きだから狙われているんだね?」


 ヴォルフは首を傾げて笑いかける。

悪魔が狙っていることを、彼は知っているんだ。

繁殖が目的だと、知っているんだ。

 あたしの真後ろにいた白瑠さんが殺気立つ。

そうすればヴォルフの部下達が懐に手を入れて戦闘体制に入った。


「誤解しないでくれ。美しい殺し屋さんを身代わりに差し出すなんて愚かなことはしない」


 ヴォルフは白瑠さんや幸樹さんも、自分のこちらの警戒を、見抜いている。目敏い男だ。


「娘を汚そうとする連中に、身代わりを差し出すような外道な父親ではない」


 ギリ、と手に爪を食い込ませて、ヴォルフが低い声を出す。

青い瞳が、怒りに燃えている。

 娘を孕まそうとする連中に、身代わりなど考えない。彼らに怒りを抱いている。

白瑠さんも幸樹さんも、激怒した。実の父親ならば、その倍は怒りを感じているはず。

 あたしは白瑠さんの手を掴み、殺気立つのを止めさせた。


「それで……何故、娘さんが狙われるのですか?」


 幸樹さんは人数分のコーヒーを出して、問う。

ヴォルフが答える前に、ヴァッサーゴがあたしの目を塞いだ。

 視界にいたのは――――…大きな大きな白い狼だった。

咄嗟に震え上がった直後に、抜いたカルドでその狼の首を裂こうとした。


  キンッ!


掌が退かされた。

ヴォルフの首にあたしはカルドをつけつけていたが、間に刀が阻んでいる。

 視線を上げれば、ソファの後ろに立つ黒髪のオールバックの男だ。

同じく後ろに立つ赤みかかった茶髪の男はあたしにリボルバーを突き付ける。


「悪魔は噂通り、意地悪だね」

「……?」


 ヴォルフはただ笑う。

ヴァッサーゴが視せたのはなんだ?

未来? 過去? ――――…いや、今だ。


「ヴォルフ。大昔……吸血鬼になりたがった人間よりも先に、悪魔と契約した人間さ」

「!」


 ケタケタと笑いながら、ヴァッサーゴはカルドを退かす。


「狼だったという伝説は、事実か」


 ラトアさんが口を開く。

狼だった伝説?


「フェンリルファミリーの初代メンバーは、悪魔から狼の力を授かった。確か……ファミリーを守るために力を得たかった連中だから、男しか誕生できないんだったな。吸血鬼は感染だが、狼は遺伝で繁殖した悪魔が生んだモンスターさ」



 ヴァッサーゴはスーツケースを押し退けてテーブルに、どっかり座ると彼を見下しながら告げた。

 先祖が悪魔と取引したファミリー。

吸血鬼とは違うモンスター。

狼人間、と呼ぶべきか。


「吸血鬼は存在を知らなかったのは、何故?」

「遺伝は完璧じゃない、力は弱まる。吸血鬼が誕生するより前に力は衰え始めてた。ファミリーの存続が大事な奴らだから、息を潜めてたのさ。今も明かす必要はない。力を持つのはコイツらだけなんだからよ」


 ラトアさんが前に"狼人間に会ったことはない"と言っていたことを覚えている。だからラトアさんを見ながら聞いてみれば、すんなりとヴァッサーゴが言った。


「詳しいわね」


 いつものことか。


「オレが造ったからな」


 とんでもないことをヴァッサーゴが明かした。

ヴァッサーゴの能力で知ったものではなく、ヴァッサーゴが契約した悪魔だから知っていたという。


「おや、君だったのか。お会いできて光栄だね」


 祖先をモンスターにした悪魔を目の当たりにしたヴォルフの反応は軽かった。

手を差し出して握手を求める。

 ヴァッサーゴは平然と握手をしようとするものだから、その間にカルドを降り下ろす。二人はバッと手を引っ込めた。


「聞いてないわよ!?」

「ぶねーなっ! 訊かなかったろ!」

「あら、ごめんなさい。ヴァッサーゴ、貴方が過去に造ってきたモンスターを教えて? って質問が浮かぶわけないだろっ!!」


 呆れた目を向けるヴァッサーゴに猫撫で声を出してから罵倒して蹴り落とす。


「モンスターとは酷いな。せめて超能力を持つ人間に留めてほしいな」

「貴方もっ!! さらりと受け止めてるんじゃないわよ!!」

「うっひゃっひゃっひゃあ!」

「笑わないのっ白瑠さん!!」


 宥めようとするヴォルフにも声を上げれば、白瑠さんのツボに入ってしまったらしく笑い転げた。

オールバックの男も拳を口に当てて笑っている。


「気紛れに力を与えてやった人間の話をいちいちするかよっ!」

「あらそうっ!」


 言い返してくるヴァッサーゴに蹴りを飛ばせば、煙になって逃げた。

 気紛れ、ね。気紛れ。

ヴァッサーゴのことだから、なにか理由があったんだろう。なにか力を授けるほどの、価値が。


「で!? なんで奴らが狙う!?」

「誕生しないはずの女が生まれたからだろうな」


 苛ついたまま問い詰めれば、ヴァッサーゴは煙の姿で漂いながら答えた。

 ヴァッサーゴは強い者が産まれるように仕組んだ。

だが、ヴォルフの子どもは女。


「何故生まれたの?」

「さぁな。よっぽど下手だったんじゃないのか?」

「…………」


 ニヤリと煙で口の形を作り、ヴァッサーゴはヴォルフを見下ろす。

流石にヴォルフはノーコメントだった。


「子を成せないはずの吸血鬼に子ができりゃ、ソイツも狙っただろうな。子を成せないと契約に入れたはずが、異常が生じて成した。その異常が、繁殖したい悪魔達にとっては好機に繋がると考えたんだろうよ。椿以外にも花嫁が欲しいのさ」

「……私の娘の誕生を、異常呼ばわりは止めてくれないだろうか」


 悪魔達は、他の花嫁候補を見つけ出してしまったと言うことか。

 嘲るヴァッサーゴの言葉が気に障り、ヴォルフがまた怒りに燃えた目をした。


「異常は生じるものなの?」

「ああ、魂と引き換えに欲するものを与えられるが…………吸血鬼が増殖したのはミスだ。それと一緒さ」


 悪魔もミスをする。

全てを完璧には出来ないから、何らかの異常が起きる。

 当然だと思った。

それは多分きっと、本来与えてはならないものだ。

神様の真似事なんかした過ちのようなもので、罰のようなもの。

 なんて言ったら、また娘の誕生を悪く言ったとヴォルフに睨まれるから黙っておく。


「……そうね、同じ目に遭うなんて気の毒すぎる。その部下が口を割る前に助け出したいなら、彼から聞いて」


 同じく狙われた彼女が気の毒すぎるから、あたしは幸樹さんに聞くように告げる。

幸樹さん達も同じ考えのはずだ。

 するとグイッと襟を掴まれて、ヴァッサーゴに幸樹さんの部屋に連れていかれた。

そこには蓮華と蓮真、そしてよぞらと早坂がいる。

目を合わせたが、先ずはヴァッサーゴだ。


「なによ?」

「勝手に決めんな。奴らは戦力になる」

「はぁ? 戦力になるからって、アンタに使われる義理はないでしょ。戦力を欲するのは狩人達だし、彼らは仲間を助けるために行くんだから」


 いくら祖先がヴァッサーゴの顧客でも、彼らがヴァッサーゴに従う義理はない。

バカじゃないの、と睨みつつも部屋を出ようとしたが、片腕でドアを押さえられ阻止された。


「知るか、仲間はどうせくたばってるさ。こっちの守備を固める方がいい」

「アンタ……顧客の子孫に冷たすぎない?」

「いつから聖女みたいに見知らぬ野郎に優しくなった? バッカじゃね。悪魔どもに捕まって生還できるわけないだろうが。お前に狙いを定めて、狼小僧はサクッと殺すさ」


 あたしが呆れて見るが、ヴァッサーゴもあたしを呆れたように睨み下ろす。

ヴァッサーゴの優先順位は、あたしだ。他は使い捨ての駒。

 まぁ、白瑠さんも幸樹さんも藍さんも似たようなものだ。

というか、あたしを大事にしてくれる人達は他人に容赦無さすぎて、頭が痛くなる。


「彼らを行かせて、狩人達と一緒に悪魔を殲滅してもらう。あたし達は早坂狐月とセレノを抑えていればいい。そういう作戦でしょ」


 隣の壁を見てから、早坂に目を向けた。

二人を抑えていれば、狩人達の勝利の確率は上がる。

この手でウルフと溝鼠を殺れないのは残念でならないが、全員の命を優先してここで戦いが終わるのを待つ。

 人間の勝利のためにも、狼ファミリーには戦いにいってほしい。


「お黙り、V」

「かぷっ」

「かぷっじゃない!」


 行かせる。それは譲らないと人差し指を出せば、それに噛みついてきたから頭を叩いた。


「そっちは? 早坂狐月の願いは聞き出せた?」

「その件はだんまりさ」


 避けそびれたヴァッサーゴがぐちぐちと文句を言うのを無視して、四人に話し掛けた。

ベッドに寄り添うように座る早坂とよぞらに訊いたが、向かい側で椅子に座る蓮華が代わりに答える。

 悪魔に叶えてほしい願いを、早坂狐月は答えようとしないようだ。

はぁ、と溜め息をつく。


「人類と引き換えに悪魔に叶えてほしい願いとやらを、是非とも聞きたいわね。ちゃんとよぞらを守った報酬として話したらどうなの?」


 あたしが訊いてみたが、早坂は黙ったままだ。

無表情を保ち、ただよぞらの手を握り、あたしを見上げる。


「アンタの優先事項は、よぞら。願いもよぞらに関係してるでしょ?」

「…………狐月さん?」


 愛する者が自分よりも最優先。

早坂狐月が自分よりも、人類よりも優先するのはよぞら。

ここまで来たのだから、それしか考えられない。

 よぞらは顔を上げて、名前を呼ぶ。愛の歌を歌う時のように、優しげな声だ。

早坂はよぞらに目を向けるが、話したくないのか黙りこむ。


「狐月。早く戻らないと貴様の願いが叶わないぞ」


 ゴンと、蓮真くんが背にした壁がなり、セレノの声がした。

早坂はピクリと反応する。

悪魔の誘惑。

 あたしは壁に拳を叩きつけた。


「早坂。次悪魔の元に行くならば、二度とよぞらに会えないと思いなさい」

「…………」


 あたしが忠告すれば、早坂は殺気立ち睨んでくる。


「願いか、よぞらか。どちらを選ぶかは貴方次第よ。貴方が離れていた間、どれだけよぞらが苦しんだか、聞きなさい」


 冷たく吐き捨てたあとに、あたしは部屋を出た。隣を開けば、床にセレノが転がってハウンくんがベッドに座っていた。

どうやら壁から離したみたいだ。


「貴方の優先事項は何かしら……蓮華でしょ?」

「ハン。そこの覗き魔が憑いてるからって、いい気になるなよ小娘。寵愛され過ぎて考えがワンパターンになったか。哀れだな」


 床に転がっているにも関わらず、ふんぞり返った態度のセレノ。

 コンコン、と隣の壁がノックされた。

「図星をつくのが好きなんだ、気にすんな」と壁越しに蓮華が言う。

フォローじゃないわよ、それ。


「床に転がってるくせに、口だけは威勢がいいわね」

「貴様の威勢も長くは続かんぞ。どうせ奴らの愛玩になるのだから」


 言い返せば、セレノは嘲笑う。

するとベッドの上にいたハウンくんが、セレノの腹部に踵を落とした。

呻いたセレノは、恨めしそうにハウンくんを睨み上げる。


「……貴様の喉を噛みちぎってやる」

「……」


 唸るように言うセレノに、微動だにしないハウンくんは無情に見下す。


「なぁ、セレノと話す」

「貴女は早坂を見張って」

「ひゅー。色男揃い、美味しそう」


 蓮華が隣の部屋から来たが、入ることを拒んで隣に戻すために背中を押した。

マフィア達を見て、蓮華は口笛を吹く。

 流石はイタリア系。ヴォルフも黒髪の男も赤茶の男も、にこりと蓮華に笑いかけた。

 恋人の前で止めなさい。

蓮華を幸樹さんの部屋に押し込んでから、ヴォルフの前に戻る。

けれど口を開く前にヴァッサーゴに塞がれて羽交い締めにされた。


「金は要らねぇ、代わりにこっちの要求を呑んでもらう。近辺に悪魔が作った怪物がいる、吸血鬼モドキだ。吸血鬼どもをおちょくり、オレ達に焚き付けるために作られた怪物達を一掃したら教えてやる。てめぇらの鼻なら、簡単に見付けられるだろ」


 あたしを押さえ込みながら、ヴァッサーゴが要求する。

残りのモドキ達の一掃。


「わかった。引き受けよう」


 ヴォルフはあっさりと首を縦に振る。

 悪魔を信じるな。

言いたかったが、ヴァッサーゴに押さえ込まれて起き上がることも出来なかった。

「では終えたら、教えていただこう」とヴォルフは立ち上がり、部下を引き連れて匂いを頼りにモドキ狩りに向かった。


「あれ、色男達行っちゃったんだ?」

「狼マフィアくん達は、灰色狼の手下を抹殺しに行ってくれたんだよぉー」


 また部屋から蓮華が顔を出せば、ヴァッサーゴから白瑠さんが引っ張り出しながら答える。


「……何を考えているんだい? ヴァッサーゴ」


 腕を組んで傍観していた幸樹さんは静かに問う。


「彼らをパシりに使いたいそうですっ!」


 今度はソファに座った白瑠さんに羽交い締めにされて、ヴァッサーゴと向き合うから、あたしは右足を振り上げた。ヴァッサーゴは受け止める。

 いい子いい子と、白瑠さんは頭を撫でてきた。ぎゅうと抱き寄せて、密着。

その温もりで、宥められた。


「パシりっつってもよ、セレノを味方につければとんとん拍子に上手く運んで事態は好転するんだろ?」

「てめぇの言うこと聞かねぇなら、味方につけられねぇ。保険だ」


 ドアに寄り掛かる蓮華に、ヴァッサーゴがニヒルに笑いながらあたしの足を押さえ付けた。

 保険。

それほどヴァッサーゴは、セレノの能力を警戒しているということ。


「幸運を運ぶ悪魔の能力で、あのマフィアが来たのではないのか?」

「そうだと思ったが、違った。だが油断は禁物だ、だから見張っとけ」


 睨むラトアさんに、生意気に言うヴァッサーゴを蹴ってやりたかったが足が動かない。


「セレノを縛ってる術、とけちゃうもんなの?」

「術者になにか起きなけりゃ、手も足もでねぇよ。質問ばっかすんな、疲れる。察しろ」


 続けて問う蓮華に呆れて首を振る。そのヴァッサーゴに放せと足をじたばたさせた。


「……手と足は出ないのか」


 蓮華は意味深に呟きながら、白瑠さんの部屋を見る。

そして口を動かしながらカチカチと歯を鳴らした。

 手と足は出ない。

でも、反撃の術はある。

 あたしの脳裏に、先程セレノがハウンくんに告げた言葉が浮かんだ。


――――…喉を噛みちぎってやる。


術者であるハウンくんを奴と二人きりにするのはまずい。

 あたしは白瑠さんの胸を押し退けて立ち上がった。


  ドタンッ!


白瑠さんの部屋の中で、倒れるような音がした。

一同が注目して、嫌な予感が過る。


「……ハウンの、血?」

「止せ椿っ!!」


 ラトアさんの鼻に、ハウンくんの血の香りが届いたらしい。

ヴァッサーゴの声を無視して、部屋に飛び込んだ。

 部屋には、ハウンくんしかいなかった。セレノは見当たらない。

ベッドの脇に倒れたハウンくんの喉はどす黒い血が溢れていた。


「ぁ……が……」


 小さな口からも血が溢れて、自分の血で窒息しかけている。

悪魔は吸血鬼の自己治癒を弱めてしまう。すぐにハウンくんの手当てをしなくては。

 あたしは駆け寄り、ハウンくんの顔を動かして血を吐かせた。

虚ろな瞳でハウンくんはあたしをじっと見上げる。


「幸樹さん! ハウンくんの手当てを! セレノがいない、皆武器を!!」


 振り返り幸樹さんを呼んだ。そこで天井の方に何かあることに気付く。

 顔を上げれば、そこに――――…セレノがいた。

赤い瞳を怪しく光らせ不敵な笑みをつり上げて、天井にしゃがむセレノがあたしに手を伸ばす。


「椿っ!!!」


 ヴァッサーゴが叫んだが、セレノの手があたしの顔を掴み押し倒した。

途端に、意識はプツリと切れる。





「――――――…ハッ!」


 目を開いて、息を吹き返す。

心臓が、また止まっていたみたい。

 真っ暗だ。

ここはどこだ。真っ暗な視界の中、手掛かりを探すが、見付けられない。

 ヴォルフ達はやはり、セレノの能力で招いたんだ。

ハウンくんの術から逃れるチャンスを、得た。運ぶ悪魔め。

 あたしは目隠しされているから真っ暗だと気付き、手を伸ばして外した。

 目の前に、淡い蝋燭の光が一つ。

その光に照らされた顔が、ある。

あたしを見下ろすのは、美しい顔。


「……蓮華?」


 呼んだけれど、違う声が聴こえた。


「――――…なんで、蓮華を知ってるんだ? アンタ」


 蓮華と全く同じ顔立ちなのに、違う声を発する。

よく見たら、髪は短かった。目の前にいるのは、蓮華じゃない。少年だ。

 そして瞳は――――…血のように鮮やかな赤だ。


「――――――…"蓮真"ね」


 蓮華が事故で亡くしたはずの双子の兄。

悪魔と契約している。

きっと、セレノが憑いているんだ。


「やぁ、可愛い可愛いオレの花嫁」


 その声に反応してナイフを取ろうとしたが、自分が見覚えのない服を着ていることに気付く。

 ウエディングドレスだ。

吐き気が込み上げて、横に座る奴の顔を引っ掻いてやろとしたが、鎖が彼に触れることを阻む。


「とっても綺麗だよ」


 薄い笑みを浮かべて、赤い瞳であたしを見るウルフ。

唸っても、あたしの爪は彼の鼻にかすりもしない。あたしの手首に繋がる鎖が憎い。


  ガシャン!


物音がして目を向ければ、ヴァッサーゴ。大きな鎖が身体を縛り、身動きがとれずにいる。

そのヴァッサーゴの背中に足を置くのは、奴だ。


「よぉ、溝猫。地獄から戻ってきてやったぜ」


 にたりと笑みを浮かべる溝鼠。あたしを不快にする男。あたしの大切な人を奪った男。殺したはずの男。

頭が破裂しそうなほど、血が集まったのを感じた。


「溝鼠ぃいいっ!!!」


 あたしの怒声は、そこに木霊する。

コンクリートで出来た建物のようだ。薄暗いが、広い部屋で、赤い瞳がぼんやりと無数に浮かんでいた。

悪魔の契約者達だ。

 あたしはセレノに、運ばれたんだ。

悪魔どもの巣窟へ――――…。

 純白のウエディングドレスを着せられ、鎖に繋がれたあたしは捕らえられた。

怒りは込み上がるが、なすすべもなくあたしは溝鼠を睨むしか出来ない。


「セレノが連れてきたと思ったら、びっくりしたよ。いきなり心臓止まって死にかけちゃうんだもん。でもすぐにセレノがヴァッサーゴを連れてきて吹き返したからよかった。君、ヴァッサーゴに生かされてるんだね」


 ウルフが横でクスクスと笑った。

一度ヴァッサーゴと離れすぎたせいで、心臓が止まり気を失っていたのか。

その間に、このふざけたドレスを着せられたわけか。

 着せたのは、"蓮真"のようだ。

あたしに白いハイヒールを履かせようとするから蹴って阻止した。

じっと、彼を睨む。

彼も怪訝にあたしを見た。


「蓮真。行くぞ」

「でも、今、蓮華を」

「いいから」


 その"蓮真"の首を掴み、セレノは引き摺って部屋の外に出る。

やはり、憑いているのか。

 じゃあ……セレノが悪魔側に憑いている理由は彼にあるのか。


「レンマ君と知り合いなんだぁ?」


 にっこり、と椅子に座ったウルフが笑う。横目でギッと睨む。


「よくわかんないけど、セレノが甦らせてほしいって頼んだ子なんだよねー。彼、純粋で可愛い子だよ、ああいう子は扱いやすくて助かる」


 ウルフは、薄笑いをしながら彼を利用していることを明かす。


「君も、純粋で可愛い子だろー?」


 青白い手が、あたしの髪に伸びた。

指を噛みちぎろうとかぶり付こうとしたが、避けられる。


「かわい娘ちゃん」


 クスクス、と笑いながらウルフは指揮をするみたいに指を振った。


「君の選択肢は二つしかないんだ。楽しんじゃいなよ、ねぇ? 優しくしてあげるからさ」

「ふざけるなよ、死人ども」


 唸るようにふざけたことを抜かすウルフに言い返す。


「なら、この俺が痛め付けてやるよ、溝猫」

「……また殺してやる」

「ハッ、貴様の頼りの綱はこの悪魔だけ。役には立たねぇよ。いたぶられようとも、犯されようとも、誰も貴様を助けられねぇぜ」


 溝鼠がヴァッサーゴの髪を掴み、伏せていた顔を上げさせる。口にテープがつけられていた。

 目を合わせても、ヴァッサーゴは唸りもしない。

口を封じて、能力まで封じられている。

ぐしゃり、とヴァッサーゴは床に落とされたかと思えば、背中を踏みつけて溝鼠とウルフが部屋を出た。


  ガシャン!!


格子のドアが閉められて、目を見開く。格子だ。ウルフ達は格子の向こうにいる。

闇に慣れた目で部屋を確認すれば、あたしは壁際のベッドにいて、他はコンクリートの壁と格子の狭い部屋。

 否、正しくはそこは――――…牢屋だ。

ウエディングドレスで、奴らに牢屋に閉じ込められている事実に、気持ち悪さが増して吐きそうになった。


「合意の上で快楽に溺れて楽しむか――――…或いは抵抗しながら苦しみ痛め付けられるか。どっちを選ぶか、ゆっくりここで考えてよ。かわい娘ちゃん」


 薄笑いを止めず、ウルフは格子をペロリと舐めながら告げた。

快楽か、苦痛か。

それが捕らえられたあたしの残された選択。

 あたしは――――…鼻で笑ってやった。

それにウルフと溝鼠は、少し顔をしかめる。


「アンタ達、誰を敵に回してるか、わかってないでしょ」


 あたしはあざけてやった。

ヴァッサーゴがヴォルフ達を戦力にしようとしたことは正解だったと今なら思う。

 悪魔達は、狩人やハンター達を敵に回しただけではない。


「あたしの恋人は、頭蓋破壊屋。あたしを汚すと知ってて、彼が黙ってないわよ。アンタ達は、彼を怒らせた。裏現実最強の殺戮者はコクウだけじゃない。怪物を怒らせてただで済むと思わないで、彼がアンタ達をまた殺してあげるわ。アンタ達に選択肢はない、死だけよ」


 あたしは生かされる。

それが唯一の救いだが、必ず助けがくる。

白瑠さんが黙ってはいない。怒り狂い、真っ先に助けに来てくれるはずだ。

幸樹さんも、藍さんも、ラトアさんだって、皆あたしが大事だから悪魔の巣窟にだって、乗り込んでくる。

おまけに狼マフィアを味方につけて迎えにくるんだ。

白瑠さんは、誰も殺せない。

悪魔だって、彼には勝てやしない。


「ヴァッサーゴの代わりに未来を教えてやる。――――…悪魔どもは敗北する」


 毛を逆立てて告げることが、あたしの精一杯の強がりだった。

 白瑠さん以外に触れられてしまう前に、早く早く。

迎えに来て…――――。




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