プロローグ
以前に書き上げたライトな近未来SF冒険物語です。某先行作品と世界観が似ているせいか、とある新人賞の途中で落選してしまった作品を全面的に改稿した物になります。
他のWeb小説と比べると行間が狭く、読みにくい面がありますが、何分Web小説の形式に慣れいないためご理解下さい。
ただ会話の部分は行間を空けた方が良いとか、全体的にどうにかしてほしいという要望を頂きましたら、改善したいです。
読者の方が見やすいのがベストであると思うので。
また少しでも需要がある限り、ちょっとずつ連載の形式続きをアップしていきたいと思いますので、興味があれば一読下さい。
軽く見ての評価や、一言感想など手軽な反応でも大歓迎ですのでどうかよろしくお願いします。
プロローグ――天上の牢獄で
自分の知らないもう一つの世界が存在するのを少女が初めて知ったのは、母が定期的に持ってきてくれる旧時代の書物からだった。
幼い頃からずっとコントロールタワーの一室に幽閉されてきた少女にとって、旧時代の書物は外界を知る唯一の術だったのだ。
自分たちが暮らす防空シティーの遥か彼方には外界と呼ばれる未知の領域が広がっているらしい。少女は興奮を抑えきれなかった。
まだ幼い頃には夢中になり外界ついて、食事時にやって来る母に尋ねた。
――ねぇ、下界ってどんなところなの?
――とても寂しい所よ
そのたびに何故か決まって母親は冴えない顔を浮かべる。外界を詳しく知りたがる少女に困っているようだった。少女がせっつく度に母は外界についてあまり語らなくなる。
それでも少女の知的好奇心は膨らむ一方で、特に外界でしか滅多に拝めないという本物の太陽に対する憧れは強くなっていった。
成長していくにつれ少女は母に迷惑をかけないように、一人で外界の情報を書物の記述から探すようになった。自分の世界が広がっていく感覚だった。
けれども少女が日常的に接する環境は限りなく限定されていた。閉鎖的な八畳の冷たい一室。
それが少女の全てだった。窓はなく床から天上、全てが石材に似せた合成樹脂でガードされた無機質な空間にはカプセル型安眠装置にデスクとチェアーが一対あるのみだ。
デスクに鎮座した小型のラップトップは防空シティーのネットワークにオンラインされているが、得られる情報は少女専用に厳選され何重にもフィルターがかけられている。
だから少女には母が持ち込んでくれる旧時代の書物しかなかった。
ある歳の誕生日。少女は母に頼みこんでアルミ素材の板をいくつかもらう。防空シティーにおいてあらゆる資源は貴重らしかった。
少女は板を組み合わせて本棚という物を自作してみた。旧時代には情報を端末に保存する習慣が定着するまで、書物を本棚に収納していたらしい。お気に入りの文献が並んでいるのを眺めると幸せな気分に浸れた。
こうして重大な問題から少女は目を逸らし続ける。
なぜ自分たちは防空シティーの中に閉じこもっているのか? 外界で何が起こったのか? 嫌な想像をできるだけ排除しようとしても、考えずにはいられない。
自分がこんな狭い空間にいつまでも押し込められている理由。毎日与えられる情報工学系の課題と意味不明な設計の仕事。定期的にしか顔を見せない母。そして姿さえ見せない父――
コントロールタワーの職員たちが自分を何かのエンジニアに仕立て上げようとしているのではと少女は邪推したことも幾度かあった。
それなのに知識を植え付けられると脳が苦も無く吸収し学習意欲が沸き立つ自分がいる。少女はそんな自我を一番不気味に感じていた。
だが都合が悪い状況を直視せず、逃げ惑う毎日に終止符が打たれる。
少女が十五歳を迎えてから母の来訪が極端に減ったのだ。
防空シティーで最も天に近いコントロールタワーからでも外観からは時間の移ろいが判別つきにくい。 けれどあれは夕食時だったと少女は鮮明に記憶している。
部屋に現れた母は青ざめた表情を浮かべていた。
少女は心配になって駆け寄る。
――お母さん、大丈夫?
――ええ、ちょっと疲れただけよ
少女が事情を尋ねても返事もろくにせず、天井の角に設置された監視システムから背を向けて警戒心を滲ませる母。監視カメラの死角になる位置を割り出そうとしていた。
そして電子化が進展した現在において滅多に使用されなくなったメモ用紙とインクペンを懐から取り出し、文字を書き連ねる。原始的手段でどうにかコミュニケーションを取ろうと試みたのだ。記録媒体に残らないように。
少女は母がこっそり差し出すメモ用紙を覗き込んだ。それを受けて少女もメモ用紙に質問を書いて返していった。
母と娘の密やかな筆談の中で、少女は衝撃の事実を知らされる。
少女が近い将来に死ぬ運命にあること。現状では母として何もしてあげられないとこ。混乱する少女。 母は少女にとって一つだけ残されているらしい生き延びる術を小さな紙切れで教えていく。一文字ずつ少女の頭へ刻み込むように。
とても正気とは思えない発案に少女は腰が引けた。それでも母は必死の形相で繰り返し記す。涙を瞳に浮かべながら。
――ごめんね。私たちのせいであなたは……生きて、必ず生きるのよ。外の世界で
少女は母の願いを果たす決意を固めるしかなかった。
母が悲しみを堪えながら去った翌朝、父親だと名乗る男が代わりに部屋にやって来たからだ。残酷な一言だけを携えて。
『君のお母さんは昨晩未明に息を引き取った。これからは私に従ってもらう』
現れたのは白い白衣を纏った細身のシルエットの男。どこか虚ろな仕草。銀縁メガネのレンズ越しから怜悧な瞳を向けられて、少女は根拠もなしに確信する。
この男が母を殺したのだと――
『君は私のキーになってもらう。下準備は整った!』
父親と名乗る男が狂喜の笑みを浮かべて差し出す手を少女は振り払う。完全なる拒絶。
そしてただ少女は母が紙に記した内容を反芻しながらただ自分が外界に出る時を待ち続ける。
母が訪れなくなったこの牢獄で――
読みやすくするために段落を細かく分けました。前書きにあるように会話文を一行開けた方が、さらに見やすくなってとりあえず最後まで読めると思った方は感想抜きにして知らせて欲しいです。
Web小説の行間の取り方がいまいち分からないので、読者が見やすくなるなら改善していく予定です。