祭り前夜の決闘
~52話のこぼれ話★一角の君VS地主~
『人の子というのは脆い。ましてや娘となると……。脆い等といものではないのだぞ!』
森の娘を家に送り届けた後、当たり前のように続こうとする男に体当りを喰らわせた。
男はよろめき、戸口に両手を付いていた。
油断大敵だ、愚か者め!
いい気味だとせせら笑いながら、足を勇んで踏み鳴らす。
『承知している』
『どうだか!』
『そういう貴様こそ、わかっているのか?』
挑戦的な物言いの若造に、全身の血が逆流した。
しかも我々の言葉を操りおる!!
★ ★ ★
こやつ! こやつ! こやつめ!
カンっ! カンッ! カンッ!!
夜の森の中に、渡り合う剣と一角の音が響く。
森の深さに吸い込まれて行く。
ガッ!!
一際強く踏み込んでやった。
全体重をかけて。
我が一角と剣を交えても、ビクともしない男を睨みつけた。
我が愛しの花嫁となるべく娘に無体を働いた男!
ふてぶてしい態度に、固く筋張ったカラダに、低く野太い声。
我の好む乙女らとは、何もかもが全く違う。
これだから男というものは嫌いなのだ。
★ ★ ★
『カルヴィナを脅しているのか?』
『何?』
今、聞き捨てなら無い事を。
どこまで無礼なのだ!
我が一角で散らしてくれる。
『契約とは何だ。カルヴィナは怯えていた。貴様を怒らせると何をするか解らないから、と漏らしていた』
『怯えるだと? 嘘をつくな!!』
男は視線を逸らさない。
真っ直ぐに挑んで、切り込んでくる。
『カルヴィナを傷つけるのは許さない』
『それはこちらの科白だ!』
★ ★ ★
夜が明けるまで、この無礼者との問答は続いた。
※ 地主と一角。やり場のない(有り余っている)エネルギーをケンカで発散。
レオナル、徹夜。 いや、仮眠くらいとった様子。
一角 VS 地主
しょうもない一騎打ちという名の、お互いの八つ当たりで
夜も更けて行きました。
カルヴィナは夢現で 「こんなに夜中に誰か木を切っているのかな?」
と、闇夜に交わる一角と剣の響きを聞き流したようです。