オークの実がみせた夢
※ 40話のその夜
カルヴィナが俺の手のひらに、オークの実をのせた。
白く小さな指先が掠める。
この実は特に大きいからどうぞ。
――等と、カルヴィナが得意げに言う。
いつにない笑顔と共に。
再び実を拾おうと引かれた手を、そのまま掴み引き寄せた。
せっかくの木の実は地面に転がる。
男と二人きりで、無防備にそんな笑顔を見せ付ける方が悪いのだ。
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華奢な身体を腕に閉じ込めるのは、容易い。
ふいにこみ上げた愛しさが、欲望を帯び始める。
愛おしさは苦しいほどで、出口を求めてさ迷った。
オークの木の実の恵みの雨に打たれたいと、無邪気に願った唇を塞いだ。
次いで、口元のほくろに、首筋に、鎖骨の下に、胸元に―――。
口付けの雨を降らす。
すまない、許せ。
俺は男だから……。
どうしたって、こうやって慰めてもらいたいと願う時がある。
震える耳元に吐息ごと囁く。
我ながら何ていういいわけかと思う。
でも彼女を求める気持ちは止まらない。
止めよう、止めなければ彼女を傷つける。
それは嫌というほどわかっている。
だが、止まらないのだ!
彼女のすすり泣きが耳朶を打ち始めている。
それですら心地よくて、彼女の身体を味わう事にのみにしか思考が向かない。
我ながら末期症状だと思う。
このまま彼女を自分のモノにした瞬間に、彼女を失うとはわかってはいても、獣は留まってはくれないのだ。
乾いて乾いてたまらないのだ。
空腹で飢えた獣。
淡雪を口に含むかのごとく、その感触は頼りなく、現実味が無かった。
余計に飢えは募るばかりだ。
だからといって飽きる事も無く、ただひたすらにその淡雪を求め続けた。
耳元で聞こえるすすり泣きに、獣は凶暴さをむき出しにして行く―――。
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眩しさに、無理やり瞳をこじ開けるようにして目覚めた。
朝だ。
気だるさを引き摺りながら、身体を起こした。
寝起きは悪い方ではないはずだが、今朝は違った。
夢見が悪かったのだろう。
眠りが浅かったようだ。
昨日カルヴィナがくれて寄こしたオークの実が、何故か枕元に置かれているのに気がつく。
いつのまに?
夢と同様、記憶に無かった。
オークの実をつまんでみる。
何かひどく甘いものを口に含む夢だったと思う。
そのせいなのか、やたらと咽喉が渇いていた。
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※ 夢って願望が現れるって言うよね、レオナル?
夢オチでした~。