幼い術者たち
『水底の鏡!』
縛られた。
明確な意思をもって命じられたからには、従うより他にない。
おのれ……!
殺意に近い感情を抱えたまま、地に這いつくばる。
ただただ、恨みがましく、全てを見守ることしか出来ない。
我が花嫁。森の娘。我の、我の……!
心の中でそっと呼びかけた。
★ ★ ★
騒ぎが収まり、場に取り残される。
エイメは振り返ってもくれなかった。
『……。』
「おい、この一角獣を捕らえる機会じゃないか?」
「ああ!」
バカ共め。
我を思う通りに出来るのは、ただ一人の術者だけであるというのに。
夜闇をそのまま抜き取ったかのような黒髪が浮かぶ。
――おのれ。
大人しく縛られたふりをしながら、様子をうかがった。
このバカ共は腹いせにちょうど良い贄だ。
もう少し。
もう少し、で、奴らの――。
★ ★ ★
『水底の鏡。』
幼い声音が響き渡る。
『お利口さんにしていてね、水底の鏡の君』
幼いながらも自信と確信を含む響きに、耳を疑ったのは我だけではなかった。
幼い少女たちが、いっせいにこちらに駆け寄ってきたのだ。
『かわいい、水底の鏡』
『かわいい!』
『巫女姫様、すご~いっ!』
「こら、おチビさん達! 危ないだろう」
「危ないのはおじさんたちの方よ?」
「このコは、私たちが引き受けたの! 巫女姫様から頼まれたんだから!」
そう高らかに宣言すると、幼子たちは我を取り囲む。
『水底の鏡! 安心してね!』
おそれもせずに小さな手を伸ばしては、抱きついてくる。
『……。』
我ほどの存在も、ひとたまりもなかった。
実に強力な術者たちである。
『まんざらでもない。』
ちびっちゃくても可愛い女の子にモッテモテ。
やったね! 一角の君!
エイメの気遣いに『ニクいなあ、かなわん。』とか思ってる。