大地主の猟犬たち
「おまえ達。これは大魔女の娘だ。俺に仕えさせている。主の一人として敬うように。
唸ったら拳骨で噛み付いたら永久追放だ。わかったな?」
ある日、突然そんな事を言い出した主人を見上げた。
傍らにはものすごくオレたちに怯えて泣いている女の子がいる。
主は本気だ。
言い出したら聞かない。
子犬の時から、そう学んでいる。
女の子が泣いている。
俺たちが怖いからだ。
……。
あのう、あるじ。
嬢ちゃん、泣いておりますけど。
それなのに今、撫でてやれとか言いました?
あんた、嫌われても俺たちの良さを嬢ちゃんに伝える方を選ぶんですかい。
あ~あ。
俺たちだって傷つきます。
嫌われたら、ね?
誰だって、ねえ?
吠えたらいけないらしい。
嬢ちゃんは泣いちまうからだろう。
ではどうやって、気持ちを伝えたらいい?
くぅーん。
鼻の奥を鳴らしつつ、尻尾を降ってみせる。
★ ★ ★
「こいつらの何が怖いんだ?」
「ほ、吠えます」
よしきた!
吠えません、吠えませんよ、嬢ちゃん。
だから、泣かないでおくんなせえ。
じっと見つめ上げる。
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「オマエは。吠えるな」
静かな制止の声も無視して、トナリは吠えている。
アッシはあたふたと主と、仲間とを見比べた。
「うっぇ、怖い。放して……。」
そう言いながらも、嬢ちゃんは主にしっかりとつかまっている。
おいおいおいおい、どうしたんだよ――!?
拳骨だぞ、鞭だぞ、追放だぞ!
やっとこっちに気がついて、ちらっと見た仲間は顎をそびやかすようにした。
あ――……。
そうか。
そういう事かぁ。
仕方がない。
仲間は放っておけない。
皆に目配せを送ると、よしきたとばかりに皆もいっせいに吠え出した。
――主人に向かって。
★ ★ ★
ワンワンワンワン!
ウォンウォンウォン!
アッシはくぅ~んと鼻を鳴らして、嬢ちゃんの注意を促した。
そっと頭もすり寄せる。
そのついでに、主との間に割って入って、距離を取るようにした。
「オマエたち、いい度胸だな」
俺たちの非難に気がついたのだろう。
主がぽつりと呟いた。
ええ。言いつけ通り、嬢ちゃんも仕えるご主人様っすから!
ご主人様の嫌がることをする、悪~い主には吠えますとも。
★ ★ ★
ささ、嬢ちゃんはこちらへ、こちらへ。
ゆっくり、アッシらには慣れておくんなせえ。
こっちには可愛い子犬もいまさあ!
そう伝えたくて、スカートの裾に噛み付いて引っ張った。
『ワンワンお。』
UPし忘れていた代物です。