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赤ずきんちゃん 後編

 

 ワンス・アポナ・タイム!!


    ★ ★ ★


 いそいそと扉を開けて――。


 村長のせがれは固まってしまいました。


 女の子の後ろに控えているのは、神殿に属する護衛団の男たちではありませんか!


 今日に限って何だって言うのでしょう。


 とんだお邪魔虫(しかもバカでかい。)が付いてくるのでしょうか?


 ―― ば あ さ ん め … … 。


 そう。思い当たるとしたら恐ろしいほど察しの良い、森の大魔女の存在なのでした。


    ★ ★ ★


 固まってしまったのは女の子も一緒です。


 何せ扉を開けたのは優しい村長さんではなくて、いつも何かと絡んでくるせがれの方だったのですから。


 自分の顔を見てから、明らかに彼の表情は苦々しいものに変わりました。


 その事に胸を痛めながらも勇気を振り絞って、籠を差し出しました。


 だいじょうぶ、おばあちゃんが被せてくれたこの赤いずきんがあるもの!


「これをお願いします。軟膏と、同じ薬草でこさえた飲み薬です。お代は1500・ロートになります」


    ★ ★ ★


「ありがとう」


 短くそっけなく礼を述べると、せがれは籠を受け取りました。


「代金を用意するから。あがってくれ」


 扉を大きく開け放って促しましたが、女の子はためらってなかなか動こうとはしません。


 後ろを振り返り男たちの様子を伺うと、首を横に振りました。


「あの、ここで待っています。そんなに時間はかからないでしょう?」


 どうやら男たちを気遣っているようです。


「いや。親父が菓子を用意して待っていたんだが、用事が出来ちまってな。せっかくだから」


 お菓子、という言葉に女の子の顔がぱあっと明るくなりました。


 とんでもない愛らしさです。ノックアウトです。せがれは折れました。何かに。


「入ってくれ――あんた達も!」


 女の子がおずおずと被り物を取りました。


 その途端、ふわりと花の香りが一緒に舞いました。


 続いて上がり込んできた野郎どもがかさ張って、一気にむさくるしさが増したのが残念です。


    ★ ★ ★


 うまうま、もぐもぐと一心にお菓子を口に運ぶ女の子を、せがれはそっと見守りました。


 村長がデッレデレにやにさがって、あれもこれもと勧めていたのも肯けます。


 そんな月一の楽しみを諦めてせがれに気を遣ってくれたというのに。


 いらないオマケがどうして、こうして、今日に限ってついてくるのでしょう!?


 どこからかしわがれた高笑いが聞こえてくるようです。


    ★ ★ ★


「はい、あ~~~~ん?」


「あ? ん?」


 急に間延びした声が近くでしたと思ったら、木のおさじが目の前にありました。


 たっぷりのバターとハチミツの乗っかった、世にも甘いおさじです。


 女の子が呆気に取られているうちに、おさじは口の中。


「ふふ。甘いかい?」


 女の子は何かを言いかけたのですが、それも口いっぱいに広がる甘味の前に忘れました。


 こくこくと頷いて見せます。


「美味しいかい?」


 こくりと頷けば、次のおさじがずいと突きつけられて、女の子は反射的に口をあけてしまいました。


 雛鳥のように。


「はい」


「じひゅ、んで、食べられまぅ」


 次々と差し出され、流石に抗議の声をあげました。


 口いっぱい頬張ったままなので、余りに弱い抗議でしたが。


「まあまあ、いいじゃない」


 何がいいのでしょうか。女の子は困ってしまいます。


「スレン。いい加減にやめてやれ」


「え~? いいじゃない、レオナルだってもっと見ていたいでしょ? そこの君も~」


「「……。」」


 何だか空気が不穏です。


    ★ ★ ★


 村長はチェス仲間の家で時間を存分につぶしてから、いそいそと帰ってきました。


 すると家の前にやたらいい馬が二頭、つながれているではありませんか。


 今日の来客の予定といえば、せがれが密かに想いを寄せる女の子だけだったはずです。


 すごく嫌な予感がします。


 何かもう家路を急ぐ間にしていた妄想(お帰りなさい、お義父さん~by女の子)も消し飛びます。


「戻ったよ!」


 自分の家なのに扉を開けるのを、何故ためらいを感じなければならないのでしょうか?


 風にのって大魔女の、高笑いが運ばれてくるようです。


    ★ ★ ★


 村長さんが帰ってきてくれました。


 女の子はものすごくホッとしました。


「お邪魔しています、村長さん」


「ははは、よく来てくれたね、エイメ。ははははは、それでその、そこの騎士様たちはどちら様かな?」


「えっと?」


「大地主様と、神殿の騎士サマ。エイメの付き添いだそうだ」


「そうそう~付き添いだよ」


「邪魔をした。今、帰ろうとしていた所だ」


 そうだったんだ!


 何の前触れも無かったので、大地主様の言葉に女の子ははっとしました。


 思いのほか長居をしてしまいました。きっと地主様は早く用事を済ませたかったのでしょう。


 慌てます。


「す、すみません! 長居してしまって。お邪魔しました」


    ★ ★ ★


 そんなことないよ、もっとゆっくりしておいき、という村長さんに大地主様は言いました。


「もうすぐ日も暮れる。世話になった」


 終了――!! エイメとのお茶会、終了っ……!


 何かわからんけど、このヒト、我が物顔ではないですか?


 でも地主様だしなあ。涙をのむ村長さんです。


「いやはや、何のお構いもしませんで。ははは。エイメ、お菓子は持って帰っておくれ」


    ★ ★ ★


 たんとお菓子をお土産に持たせてもらって、女の子は何度もお礼を言いました。


 村長とそのせがれは、見えなくなるまで見送ってくれました。


「じゃあ、僕はこれで~」


 森を進む途中で、金の髪の男の人は先に行ってしまいました。


 何だったのでしょう? 飽きたのでしょうか。 


 まあ、どうだっていいですが。


 ホッとした女の子です。


    ★ ★ ★


 スレンが意味ありげに笑いながら、さっさと帰って行くのを見送りました。


 森の中、女の子と二人きりです。


 ブルるるるルル……! あっしも、あっしもいやすゼ、旦那!


 愛馬がいななきます。


「……。」


「……。」


 だからといって特にしゃれた事が言えるわけでもなく。


 二人は黙ったまま、大魔女のすみかを目指しました。


 そうこうするうちに家が見えてきてしまいました。


 ブフフ――! いいんすか、旦那! もう着いちまいましたぜ!


 愛馬が鼻を鳴らします。


    ★ ★ ★


「あの、今日はありがとうございました。どうぞ、これは地主様がお持ちかえり下さい」


 たんと菓子の詰め込まれた籠を、女の子は差し出してきます。


「いや、いい。甘いものはあまり得意ではない」


 やたらと、唇を蜜で濡らしていた女の子ばかりを思い返す地主様です。


 それだけでなんかもう、お腹いっぱいです。


 甘いのは女の子だけで間に合っている、っていうか。


 くれるんだったらそっちがいいな、とか何とか。


「じゃあ、あの。これ」


 女の子がおずおずと差し出してきたのは先程、村長の所で受け取った代金です。


「あの? おばあちゃんから聞いています。少ないでしょうけど」


「……いや」


「?」


「今月分はもう受け取ってある」


 嘘ですが。


「え!?」


 驚いて勢い良く面を上げたせいで、赤いずきんがずれました。


 とても艷やかな髪が風にさらわれて、まるで触れてと誘いかけてくるようではありませんか。


 いや、それ、気のせいだから。


    ★ ★ ★


 小首を傾げて見上げてくる女の子に、手を伸ばしかけた、ま~さ~にその時。


 粗末な小屋の扉が開きました。


『エイメ、おかえり』


『おばあちゃん! ただいま』


 ―― バ バ ア 。


『おや、大地主サマ。どうなさったね?』


 ニヤリと大魔女が笑いました。


『地主様がね、送ってくださったの!』


『そうかい。良かったよ。ここの所、狼がうろつき回っているようだからねえ』


 差し伸べた指先が、空をさまよう地主様です。


    ★ ★ ★


 こうして赤ずきんちゃんは無事に、おばあちゃんの所へ帰ってくることが出来ました。


 他でもない、紳士な狼さん自身のおかげで。


 ~~お付き合いありがとうございました!~~



『めでたし★めでたし』


っとね★


――BY・スレン。


「拍手小話でした。その時のサブタイトルまとめです」


新しくしました★ 12月21日  「赤ずきん。誰が狼だってんだ話し」


 付け足しました★ 12月22日 「まずは狼が一匹。」


 つづき足し足し★ 12月31日 「その狼ときたら。」


 1月5日 ★ 2話と3話 一緒にまとめました そして4話目 UP 「狩人の登場か。いや狼か。」


 1月12日 ★ 5話  「狼の縄張り争い。通りすがりの うさうさ をめぐって。」


1月28日 「ピーターは狼。何それって雰囲気はそれ。」


付けたし★   2月2日  「三匹目。」



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