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赤ずきんちゃん 前編

ふざけております。

 


 ワンス・アポナ・タイム・


 昔、昔。


 ある所に。


 森の家に祖母と二人暮らしの女の子がおりました。


 真っ黒の髪と瞳の彼女を皆、愛情こめてカラス娘と呼んでおりました。


 ――ですが当の本人には、全く伝わっちゃあおりませんでした。


 ええ。


 これっぽっちも。


 そんな自分を恥じている女の子は、すっかり人見知りに拍車をかけておりました。


 ぶっちゃけ、それどころじゃない域にまで達しておりました。


 要は人間不信にまで陥っておりました。


 ええ。


 そんな女の子に、おばあちゃんは言いました。


『これを村長に届けておくれ』


 女の子はそのお使いを、死の宣告をされたにも等しい勢いで黙って聞いておりましたとさ。


 そんな女の子におばあちゃんは、自らこしらえた赤いずきんを被せてこう言いました。


『ほぅら。これでオマエの闇色は誰からも見えなくなった』


 女の子はいたく単純……おっと。


 素直なタチでしたので、それを真に受けて、安心して出かけて行きました。


 おばあちゃんは、大きく声を張り上げて送り出してくれました。


『道草してはいけないよ。それと、くれぐれも狼には気をつけるんだよ!』


『わかったわ! おばあちゃん。行ってきます』


 女の子は赤いずきんの魔法(暗示。)をすっかり信頼しきっているので強気です。


 るんらるんらるんるん。


 ドしょっぱなから、不安要素でいっぱいな女の子です。


 ~つづく。~



 うららかな日差しの中、女の子はたいそうご機嫌で進みました。


 おばあちゃんが作ってくれた、赤いずきんを被っているから私は大丈夫!


 これで堂々と村の中を歩けるからです。


「カラス娘がきたー!」とはやし立てられる心配もないのです。


 ……あれ? 何かずきんを装備しただけで、えっらい強気になってませんか、彼女。


 そら、あなたの黒髪はずきんに隠れるけどさ。


 るんらるんらるんるん。


 調子ハズレの鼻歌を歌いながら、村長さんのおうちを目指す女の子です。


 ★ ★ ★


 しばらく進むと、真っ黒い出で立ちの男の人と出くわしました。


 あまりこのへんでは見ない様子に、直ちに回れ右を仕掛けた女の子です。


 でも、思いとどまりました。


 何せ自分は、おばあちゃん特製のずきんをかぶっているのですから!


 きっと大丈夫。


 そう言い聞かせて、自然な風を装って男の人とすれ違おうとしました。


『お。かわいいねえ、赤ずきんちゃん』


 その金色の髪の男の人は、そう声をかけてきました。


 動揺しまくりの女の子は、思わず叫んでしまいました。


『え? 私の事、見、見えているのですか?』


『何? 見ちゃダメなの』



 さすがは我らの(?)魔女っこです。


『これでオマエの闇色は見えなくなるよ』


 という、大魔女の暗示をものすごく飛躍して解釈しちゃったようです。


 わぁーお。


 どんだけ純粋培養なのでしょうか。


 先行きが危ぶまれます。


 ちなみにまだ、村までは一刻はかかります。


 今はまだ、せいぜいその十分の一くらいしか進んでいません。


 しょっぱなから、つまずいております。


 ~どうなる。





 女の子は言葉につまりました。


『見、見たらダメという訳では無いのですが、あんまり見られたくはありません』


『ふぅん』


 金髪の髪の男の人は腕を組み直し、あまり興味なさそうに呟きました。


『失礼します』


 それ幸いとばかりに、さっさとその場を離れることにしました。


 そそくさと立ち去ろうと、頭を下げました。


 その時です。


 わっしと頭をつかまれてしまいました。


『そんな風に言われたら、余計に見たくなるよね?』


 女の子はあまりに予測不可能な事態に、言葉が出てきません。


 男の人は笑っていますが、その目は笑っていません。


 ニッコリ。


 綺麗に唇を持ち上げる男の人から、目を離すことも出来ません。


 声にならない悲鳴を上げるだけです。


『いいじゃない。その綺麗な髪の毛と瞳をもっとよく見せてよ、子猫ちゃん』


 女の子は声も出せず、身を固めていることしか出来なくなってしまいました。


 男に人の大きな手のひらを、ずきん越しに感じながら。


 ~どうなる!?



 こちらも ワンス・アポナ・タイム。


 むかーし、むかし。


 あるところに大地主がおりました。


 今日も今日とて恒例と化しつつある、税金の取立てに大魔女を訪ねる途中でした。


 ぶっちゃけ、大魔女と話しに行くことで古語を習得する目的が大部分だったりするのですが。


 しかもこの間、初めて「大魔女の娘」を紹介してもらったものですから、地主様。


 ――それから月いちの訪問が二回・三回……今月でもう四回目ですよ。


 わぁーお。週いちの訪問になっている! 自分で気がついている?


 でも残念でした★


 今の所、三週間すれ違いっぱなしのようです。


 毎回訪れる度、大魔女から『エイメはつかいに出しているんでね』と


 尋ねるよりも早く言われてしまう地主様です。


 最近ではこのばあさんの事だから、自分が訪れている事なんて微塵も見せていない確率が高そうだ


 と気が付いた次第です。


(地主の勘。)


 そこで今まで用意した事も無かった、手土産なんかも用意しちゃってますよ。


 甘いお菓子やらパンやら手渡せば自然、二人の食卓にのぼることでしょう。


 そこら辺から自分の存在をアッピールしようという、下心満載の地主様が森の中を進むと


 何やら赤いものが視界の端に映りました。


 ★ ★ ★


 よくよく目を凝らして見ますと、女の子がかぶったずきんの色のようです。


 女の子は一人ではありませんでした。


 良く目にする黒い出で立ちの男と一緒です。


 二人は一緒というよりも頭をわっしと掴まれて、明らかにからまれているようでした。


「何をしているんだ」


 ピィッチチチチ!! (←警戒発令。)


 地主様が発動させた不穏な空気に、小鳥たちがいっせいに飛び立ったようです。



「やあ、地主様。ごきげんよう?」


「ごきげんな訳あるか。」


 疑問形のご機嫌うかがいに、すかさず返す地主様です。


 ブルるるるルル!


 愛馬も「そんなワケあるか。コラァ」と応援するかのように、鼻を鳴らしました。


 地主様の姿を認めたと同時に、この軽薄な金髪の男は女の子を抱き寄せたのです。


 しかも後ろから腰を抱えてしまう格好です。


 自然とこちらに向き合わされる格好となりました。


 そこは女の子の怯える様子が丸見えなので、まあ許せるような気がしますが


 男の腕が腰や胸元といった所に触れそうなので、直ぐ様、気のせいだと気がつきました。


 そもそも、この男が女の子にベタベタしているのが不快です。


 馬から飛び下りると、やめさせようと近づきました。


(というか代われや、ってな話です。)


「私はおつかいの途中です」


 女の子は明らかに自分が「何をしている」と咎められた、と思っているようです。


 かわいそうに怯えています。


 可愛いです。


 誰が怯えさせたんだって話ですが。


 ・。・★・。・★・。・★・。・


 地主様が男の肩を突き飛ばしましたが、びくともしませんでした。


 意外にも芯はあるようです。


「ああ。この子ね。この子は……落ちてた。」


 しん、と一瞬だけ皆(地主・女の子・お馬)、森の静けさに支配されました。


「落ちてた。だから拾った」


「そんなわけあるか。」


 びえーと女の子は泣き出しました。


 本気で怯えていると推測します。


 頬っぺたまで赤くして泣きじゃくる女の子に、地主の圧力は増してゆきます。


 その辺でお控え下せえ、地主様。


 嬢ちゃん、ますます泣いちまいまさあ! とは、愛馬の心の声です。


 愛馬ですら読める空気を読めないのは、何らかのフラグ立者の曇った眼差しのせいでございましょう。


 ご愛嬌~。


「おばあちゃんのおつかいで、村長さんにお届けものに行くのです。だから、落ちていたりなんてしません」


「そうか」


「今日は地主様がみえられるから、私は見られたらいけないからって」


 バ バ ア 。


 やっぱりな、な運びでしたが、真実となると無性に腹立たしいものですね。


 大魔女の高笑いが聞こえてくるようです。


「そうそう~。僕も大魔女に頼まれたんだ。どっかの取り立て屋から魔女っ子を隠してくれってね」


「そうなのですか?」


 おおっと、魔女っこ。


 簡単にスレンの言葉を信じましたよ!


 そんな訳あるかと思いつつ、そうだったらばあさんの目を疑うと思う地主様です。


 ~ 続くんだ……。



「俺も大魔女に頼まれたのだ。村長の家まで送り届けてやって欲しいと」


「ええ!? 本当ですか。おばあちゃんからは何も聞いておりませんでしたが?」


「行き違いになったのだろう。俺も今しがた頼まれたばかりだ」


「そうなのですか!」


 女の子の表情が明るくなります。


 突き刺さるような眩しさです。


 グッサリ。


 え? どこにって? そりゃあなけなしの良心にっすよ。


 何で俺が良心の呵責なんぞ、と思い直す地主です。


 そうそう。何もやましい所なんてないはずですから。


 ないはずですからね? ← 地主、良心とのやり取り完了。この間ワンミニッツ。


「……そういうわけだから、行くぞ」


「は、はい! よろしくお願いします」


 女の子を、このチャラチャラした男の腕から奪い取る事に成功しました。


 あっさり上手く行きましたが、いいのでしょうか。


 素直に両手を伸ばしてくる身体を抱き上げます。


 抱き上げて、馬に乗せた身体は軽すぎて、地主は思わず心配になったほどです。


「わあ、高いんですね。お馬の上は初めてです」


 不安定で怖いのでしょう。女の子は支えてやった自分の腕に頼ってきます。


 ものすごい無防備さです。


「僕も~ご一緒させてもらうよ」


 そう言うといつの間にか現れた白馬にまたがるチャラ男です。


 ★ おお~い、どうなる。★



 ワーンス・ア・ポナ・ターイム。


 むかぁ~し・むか~し。


 赤いずきんをかぶった女の子と、女の子にちょっかい出してくる色男と、通りかかった地主がおりました。


 そんなこんなで一行は、仲良く(?)村長の家へと向かいました。


 ★ ★ ★


 思いがけず、送ってくれる人が現れて楽に村長さんの家に着くことが出来ました。


 村を通り抜ける時も、村人達からジロジロ見られてドキリとした女の子でしたが、そこはそれ。


 持ち前の思い込みの強さで「私はおばあちゃんのずきんを被っているから大丈夫」


 皆が注目するのは、この馬に乗る地主様と男の人だわ!


 ――と、処理していくらか安心していました。


 さて。村長さんの家に無事に着きました。


 女の子は玄関まで支えてもらって、トントンと扉を叩きました。


「ごめんくださぁい! おばあちゃんの、お使いできました」


 ★ ★ ★


 すると、扉を開けて出てきたのは……。


 村長さんではなく、そのせがれでした。


 ★ ★ ★


「今日はエイメがお使いにきてくれる日なんだがなぁ。急な村の寄り合いが出来てしまった」


 ああ、こまった、こまった~。


 村長である父親が、わざとらしく言いながら、自分をチラ見してきます。


 テーブルには菓子だのくるみだの、果物だの。


 そんな、お茶請けの山が出来上がっています。


 村長のせがれは、言われずとも父親がいらぬ気を使っている事くらい察しております。


 それでもわざと気がつかないフリをして、気だるそうに言い放ちました。


「いいよ、オヤジ。俺が家の用事を引き受けるから、行ってくれば?」


「おお! すまんが頼んだぞ。わざわざ森の中から出向いてくれるんだ。よぅくもてなしてやってくれ」


「わかった、わかった」


 そう言って父親を送り出した村長のせがれです。


 自分一人きりになるとそわそわと、客間と玄関を行ったり来たりしました。


 鏡を覗いて髪の毛を手ぐしで整えて見ちゃったりして。


 さり気ない笑顔の練習までしちゃいましたよ――。


 ★ ★ ★


 トントン――。


 ごめんくださぁい! と、可愛らしい声が聞こえました。


 喜び勇んで扉を開けた途端、村長のせがれは固まってしまいました。


 ~ うん。 どうにかしたい。 つづく。



『誰が狼かってんだ話し。』


勝手におとぎ話でパロディシリーズです。


続きは拍手の方にUP済みです。


しばらくしたらこちらにもUPします。


では!

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