はろぅいん?
「カルヴィナ、今日は魔物を迎えるお祭りの日なのよ!」
「ええ? そんなお祭りがあるのですか。初めて知りました、リディアンナ様」
「私もつい最近、弟から聞いたばかりなの。どうやら、どこかの国のお祭りが伝わってきたみたいだわ」
「どこか……。遠い国のお祭りにも色々あるんですね」
「そうみたい。でもとっても楽しそうだと思わない?」
「ま、魔物を迎えるお祭りがですか。ちょっと、物騒なお祭りな気がします」
「そうでもないみたいよ。魔物といっても、可愛らしいイタズラっ子達なんですって!」
「イタズラっ子という事は、魔物の子供という事でしょうか。親の魔物は何しているのでしょうか」
「……そこは気にしても仕方がないような気がするわ、カルヴィナ。もしかして、怖いの?」
★ ★ ★
「いいこと、カルヴィナ。今日は肌身離さず、このお菓子を持っていれば大丈夫だからね」
「お菓子を持っていると、大丈夫なのですか?」
「そうよ。魔物はお菓子をもらったら、悪さなんてしないそうよ」
「え。魔物が訪ねてくるのですか」
カルヴィナが必死の様子で聞いてくるものだから、本当は吹き出しそうだった。
けれどもそこは堪えた。
「そうよ。お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞってね!」
「お、お菓子はもっとたくさん持っておいた方がいいでしょうか?」
「そうねぇ」
★ ★ ★
カルヴィナに籠入りのお菓子を渡したりして、打ち合わせをしていた。
――今晩の。
「やあ! お菓子はいらないからイタズラさせて?」
「?」
スレン様が現れたので、無言でお菓子を振りかぶる。
「わわわわ! ちょ、リディ、待った!」
――待ったなしだ。
★ ★ ★
「お前たち、何を騒いでいる」
地主様が呆れたように仰った。
「特にスレン」
「僕だけじゃないでしょ」
「スレン様の声が一番大きいわ」
「リディ、食べ物を粗末に扱わないように」
「はい、ごめんなさい。叔父様」
リディアンナ様は素直に詫びた。
振りかぶっていたお菓子は手籠へと戻る。
それを見て、何だかホッとした。
「カルヴィナ」
「はっ、はい!」
急に名前を呼ばれて、びっくりしてしまった。
「今日は魔物の暴れる夜らしいな」
「はい。初めて聞きました。でもお菓子をあげると大人しくなってくれるそうです」
「そうらしいな。俺にもひとつくれ」
「はい」
差し出された手のひらに、お菓子を乗せる。
「もうひとつ」
「はい」
「もっとだ」
「はい」
籠の中のお菓子を次々と乗せる。
両手の平いっぱいに乗せ終わった所で、地主様はリディアンナ様への籠に入れてしまった。
「もっとよこせ」
「もうおしまいです、地主様」
籠の中は空っぽだ。
「カルヴィナ」
「はい」
「それでは次の魔物が来たら、どうするつもりだ?」
「え?」
地主様は魔物の役だったのだろうか?
でもこのお祭りは、魔物の子供がイタズラしにくるはずだ。
「カルヴィナ。菓子がないのなら……。」
急に一歩踏み込まれて、慌てて下がった。
傍らにいるはずのリディアンナ様に助けを求める。
「リディ、」
い な い 。
振り返ってみると、スレン様とリディアンナ様はすでに遠く離れていた。
何なのだろう。
二人とも仲良しだが、いつも行動が謎だ。
困って地主様を見上げた。
「お菓子、もうありません」
「そうだな」
「じゃあ、魔物にイタズラされるのでしょうか……?」
怖々尋ねてみた。
「……ああ。……いや」
「地主様?」
地主様は手のひらで、ご自分の顔を覆ってしまった。
「どうかされましたか? 地主様」
一歩踏み込むと、今度は地主様が下がってしまった。
何だろう。
「カルヴィナ。今日は部屋に篭って鍵を掛けて、大人しくしていなさい。いいな?」
「え、どうしてでしょうか?」
今日はまだリディアンナ様と遊ばなきゃ。
それと他にも色々としたいことがある。
魔物だってお迎えしなきゃ。
「もう菓子を持っていないだろう?」
不服そうに口答えする私に、地主様は厳かに告げた。
おしまい。
その後、魔女っこは大人しくしていたでしょうか?
それとも~?
『ハロウィン。』
色々と妄想のふくらむイベントではあります。
そのわりに何の盛り上がりもなく、終了な小話。
皆さんの想像力に丸なげ。