祭りの夜に
「祭りの夜も更けた後」
規則正しい呼吸が心地よくも悩ましい。
カルヴィナ、と諦めながらも呼んでみた。
やはり返るのは小さな寝息だけだった。
このまま、強引に事を進めて奪うことは容易い。
だがそれは、一方的にケダモノが獲物を貪るだけの行為に等しいだろう。
カルヴィナに刻みつけたいのは、そんなおぞましい恐怖ではない。
俺を刻みつけてやりたい事に変わりはないが、間違ってはならない……。
そう何度も己に言い聞かせながら、やわらかな身体から離れる事に成功した。
★ ★ ★
今夜を決めるしかない薬酒のせいで、火照る体を持て余す。
鎮めるためにもと湖へ向かった。
昨晩、カルヴィナが生まれたままの姿を晒していた場所だ。
「…………。」
無心だ。
この湖のように静かな心で、満月を映すごとくであれ。
そう唱えながら、上着を脱ぐ。
下履きだけで湖に足を浸した途端、突風が吹き抜けた。
『む! 何用だ、人の子風情が我の許可なく!』
『一角』
『地主とやら。また貴様か!』
『悪いか』
『おおいに。我の湖に入っていいのは乙女だけだ……こら! 話しを聞かぬか』
無視して湖に身を沈めた。
『カルヴィナに魚を食わせてやりたい。その為に罠を仕掛けに来た』
『許す』
嫌にあっさり許可がおりた。
『しかし、地主とやらは許さぬ。だが、その腕輪を我に寄こすのなら考えてやる』
一角は目ざとく赤い石の飾りを見つめていた。
『やらん』
『寄こせ』
角を振り上げて威嚇する奴を見つめ返した。
『これはカルヴィナが、俺へと想いを込めて作ってくれた物だ』
『だからこそ、寄こせ』
『やらん。虚しくはないか? 一角の』
『……!!』
湖の淵で地団駄を踏む一角をしり目に、罠を仕掛け終える。
『我の湖から上がれ! そして勝負の続きだ、地主とやら!』
『言われずとも、望むところだ』
――そうして昨晩と同じく、一角との渡り合いで夜も更けて行った。
『火照った体を』
祭りの小話。
前後しちゃいましたね。