表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/24

初めて出会った日

 

『エイメ、エイメ』


『おばあちゃ……!』


 大魔女の後に続いて行った先に、居たのは――。


 黒い髪の娘が、大魔女の呼びかけに振り返った。

 そうして見開かれた瞳も黒。

 初めて見る色味を持つ娘だった。


 大魔女のカラス娘。


 良くも悪くもそう呼ばれる娘の存在を耳にしてはいた。

 だが、大魔女は俺が訪れるとなるとそれとなく、娘をどこかに使いにやってしまう。


 こちらから娘の存在を尋ねた事も無かったし、ばあさんからも同じだった。


 そうやって一年以上経った今頃、大魔女が俺と娘を引き合わせるのか大体の察しは付く。


 大魔女が乾いた咳を押し殺すようにしながら、娘に歩み寄った。



『このヒト誰? おばあちゃん?』


 呆けていた娘はゆるゆると小首を傾げると、そう尋ねた。

 俺にではなく、大魔女の方に。


『大地主様だよ。ちゃんと挨拶おし』


『おお、じぬし、さま?』


 娘はたどたどしくそう繰り返した。


 まるで初めてその言葉を知ったかのように。




 きょとんとした表情が、なおのこと娘を幼く見せていた。


「はじめまして、大地主さま。大魔女の娘でございます」


 俺にわかるようにと気を使ったのだろう。


 娘は古語ではない言葉を発した。


 ぺこりと頭を下げる。


 地べたに座り込んだままで。


『エイメや、靴と杖はどうしたね?』


『脱げちゃったの。ねえ、それよりも見て』


 娘は得意そうに籠を差し出した。


『きのこ取ったよ。雨上がりだから、たくさん取れた。今日は火で炙って夕食にしよう』


『あれあれ、エイメ。その雨上がりの場所に座り込んだのかい!』


 見れば娘のスカートの裾は汚れていた。


 娘は構わないタチらしい。


 そう思ったがよくよく見るとどうやら違うようだ。


 転んだから、もういいと諦めたらしい。


 汚すに任せたといった所か。


『エイメ、もう戻るよ。日も暮れてきた』


 その無邪気な様子に何故か、苛立ちを覚えた。


 魔女の娘は大魔女しか目に入っていないようだ。


 祖母と孫娘だけの穏やかな暮らし。


 間に誰かが入るなどと考えもしないのだろう。


『大地主さまは、その……。怒っているの?』


 口調は明らかに大魔女に向けられたものだった。


 だが、俺はすかさず答えていた。


 古語で。


『そうだな。どこかの大魔女が税を納めようとしないからな』


 俺が古語を解するとは思わなかったのだろう。


 俺が反応した事に驚いたようだった。


 古語を解するものは少ない。


 それは失われつつある言葉だからだ。


 それで会話をするという事は、古語を知らぬものは会話に入れないと言っているにも等しい。


 不愉快だった。


 もう少し素知らぬフリをして、この娘に本音を語らせてやれば良かった。


 それから俺が古語を解するのだと明かし、慌てさせてやれば見ものだったろうに。


 娘はそれきり黙り込み、俯いてしまった。


 ☆彡 ☆彡 ☆彡


 いったん大魔女の家へと戻り、暇を告げる。


『じゃあな、ばあさん』


『ああ』


『あのぅ』


 意を決したように娘が口を開いた。


 おずおずと籠を差し出す。


『どうぞ、これをお持ち帰りくださいませ、大地主様』


 驚いたため、反応が遅れた。


 確かそれは二人の夕食になるのではなかったか。


 雨上がりの中、収穫したきのこ。


 差し出された籠に、手を伸ばすのはためらわれた。


 娘をただ、バカみたいに凝視することしか出来なかった。


 手を伸ばしたら簡単に触れ合える距離が、俺をためらわせる。



 この娘を連れ帰りたい。


 そうして森の外の世界を見せたい。


 そうしたら、どのような反応を見せてくれるだろう。



 思わずよぎった考えを、頭の中だけでふり払った。


『エイメ、いいから。着替えておいで』


 間に大魔女が割って入ると、籠を俺には渡さず床に置いた。


 娘は頷くと挨拶もそこそこに、部屋の奥へと引っ込んだ。


 振り返りもしなかった。


 その背を目線で追いながら知らず、拳に力が入っていた。


 ☆彡 ☆彡 ☆彡


『大地主様。エイメはやれないからね。この婆の目が明るい限りは』


 大魔女が厳かに告げた。



魔女っこ 16歳くらい手前。


 自分は長くないと悟ったから。


地主、この時点で既に、借金のかたにしてやろうかと考え始めてるし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ