魔女の食事風景
……に悶える周囲の人たち。
そんな風に続いた仮タイトル。
私は必死に食事を取る子を……。 あとがきに続く。
両手を組み、静かに祈りを捧げる。
食事を前に感謝を捧げるというよりも、決死の覚悟を定めたかのように見える表情だった。
浮かれた様子など微塵も無いとはどういう事か。
いつも咎めたくなるが、黙っている。
そんな事をしたら最後、この娘が全く食事を取らなくなるのは簡単に予想が付くからだ。
自分よりも椅子二つ分向こうの、ななめに席を取る娘を横目で窺いながら杯を呷った。
カルヴィナも、リディに勧められるまま杯に口を付けた。
食前酒は俺には甘すぎる物だが、娘の口には当たりが柔らかろう。
そう思われた。
だが、カルヴィナは僅かに眉をしかめると、すぐに杯を置いた。
申しわけ程度に舐めただけだ。
その時点で訳も無く腹が立った。
もちろん、そんな想いは腹の奥底に沈める。
気を取り直し、目の前の食事に集中しようと決めた。
ナイフに手を伸ばすと、微かに娘の肩が跳ねた。
そんな娘の、僅かな気配にすら反応する自分にも腹が立つ。
俯き加減で小さくなっているカルヴィナが、何故こうも存在を主張してくるのかが解らない。
ただただ、不快だった。
カルヴィナが匙を手に取り、野菜を煮込んだシチュウを口に運んだ。
のろのろと。
娘の口に運ばれる前に、匙の半分以上は元の皿に戻っただろう。
そろそろとシチュウをすくうと、また同じように繰り返した。
もたもた、のろのろと、娘は食事を取る。
何がそうさせるのか、必死の様子だった。
いっその事、俺が食わせてやった方が早いのではないか。
ちなみに俺は、すでにあらかた食べ終えている。
その事に気が付いたのだろう。
カルヴィナが慌て出した。
まだ口いっぱいに頬張ったまま、飲み下せていないのに、次をと口元へと運ぶ。
もちろん、まだ口は空いていないからそのままだ。
もぐもぐやっている間に、匙のほとんどがまた、皿へと滴り落ちた。
それでもカルヴィナは気を取り直し、再び勇んでシチュウをすくった。
今度は開けた口より、匙にのせた具が大きかった。
ぼたぼたとこぼす。
唇の端も汚れた。
困惑顔のまま、必死で咀嚼するカルヴィナに、今話しかけたらどうなるのか。
見ものだろう。
そんなささやかなイタズラ心を押し込めるように、杯を呷った。
「そろそろデザートをお持ちしましょうか? リディアンナ様。……お嬢さま?」
給仕のその言葉が、カルヴィナを追い詰めたらしい。
カルヴィナが困惑を通り越し、絶望的だとでも言い出しかねない悲壮感を漂わせる。
何せ皿には、まだシチュウが残っている。
それにパンと、たどりつけていないがメインの肉料理が並んでいる。
「カルヴィナ。残りは叔父様が食べて下さるわ」
邪魔をしないようにだろう。
黙していたリディが、厳かに言った。
「ねえ、レオナル。フルル、もらって帰っていい?」
同じく珍しく、黙って食事を進めていたスレンが言った。
「ふざけるな」
「いやあ。このコ何でこんなに小動物みたいなのかな。ボクが飼いたい」
まじまじとカルヴィナを見詰めながら、しみじみと呟く。
そんなスレンの足に、迷い無く蹴りを入れた。
★ ★ ★
「叔父様が見すぎるから、カルヴィナは緊張して食べられなくなるの!」
そうリディアンナからなじられた。
『続き。』
何て愛しいのか、と眺めていましたよ。
作者、食い意地がはっておりますから。
幼い頃から食べる、食べる。
給食を食べきれなくて困っている子の分は、引き受けていたし。
御代わりは絶対!
休んだ子のデザート争奪戦のジャンケンは、ふるって参加。
女子はお前だけだ。それがどうした。
ただし、牛乳だけは飲んでもらってました。
必死で食べようと苦しんでいる姿を楽しんでから、恩着せがましくみつな登場!
いい思い出です。
未だに褒められ(けなされ)ます。
少食の子にあこがれます……! きゅん。