椿 8
この雪だと正月休暇中家から出れないかもしれない、もっと積ったら、ほとんどペーパードライバーに近い亜弓は運転する自信はない。
一人暮らしで為日常の買い物は近くの商店街で済ますので、ショッピングセンターへ行くのは久しぶりだった。
休日も家や庭の手入れをする方が好きで、友人からの誘いがないとほとんど自宅で過ごしている。
もちろん、友人と遊びに行くのも好きだが、高校卒業以来仲の良かった皆は、ばらでなかなか会う事が出来ない。
同じ職場の女性は既婚者がほとんどで年上ばかり、独身の男性も何人かいて飲みに誘われたりもしたが、1対1で付き合おうと思う相手はいない。
年末の買い物の為か、店内は混雑していた、ついでに一緒に昼食を取ろうと思っていたが、この時間から、もう知られている飲食店には行列ができかけていた。
その大勢の人が、男も女もこちらを見ている、通り過ぎた後からわざわざ振りかえって見ている人もいた。
エドァルドは今時のイケメンというより綺麗の形容詞の方がよく似合っている、芸能人とはまた違う独特のオーラが目を引くのだ。
亜弓も最初は映画俳優のような存在に思えていたが、困った顔やしゅんとした顔を見ているうちに、一人の人間(本当はドラゴンらしいが)にしか見えない。
「すごいな、祭りでもあるみたいだ。いつもこうなのか?」
子供に気を取られている男性がぶつかってきた、よろけた亜弓の体をエドァルドが支え、手をつないだ。
「大丈夫?」
「大丈夫、今日は年末の買い物客が多いの、それにセールだしね。食料品の前にエドの服を見に行きましょう、それにパソコンも、」
(すまない、)
(いいの、パソコンは古い型だからそろそろ買い換えなきゃと思ってたの。でも、もう壊さないでね。)
(大丈夫だ、パソコンを使わないで直接配線からサーバーにアクセスすることにした。)
(………配線焼き切らないでね。)
(… 気をつける…)
エドァルドの衣料品を買いに行く、着られるものは父親の洋服を着てもらう事にして、歳末バーゲンで下着や服を何枚か買いそろえる。
遠慮していたが、帰るのがいつになるのか分からない以上、それなりの物はいるだろう。
長くいる事になるなら、このままではだめだろう、仕事を探すにも戸籍とかどうしたら、暗くなる考えを端に押しやる。
ショッピングセンターに併設されている電気店へ向かう、パソコンを買って一度車に荷物を置いてから昼食をとって食料品を買おう。
電気店へ入った途端エドァルドの目が輝いた。
家に置いていない空気清浄機や食器洗い機、ジューサーや電気泡だて器まで一つ一つ聞きながら楽しそうに見ている。
年末でお客が多いので、店員がつかないで良かったとほっとした。
床に見本として置かれた自動掃除機の前に着いた時、エドァルドはじっとそれを見ていた。
突然消えていたランプがついて、動き出した、大勢の人の足元をすり抜けて、くるくるとすごい速さで動きまわる。
ほとんどの人は自分の買い物に気を取られて気付かないが、何人かは驚きに目を見張っている、エドァルドは楽しそうに笑っていた。
亜弓は握っていた手にぎゅっと力を入れて、エドァルドの目を見た。
(魔法は、使わないでって言ったのに、)
(ごめん、つい珍しくて、今度から使うときはちゃんと言う。)
(人間に化けてて本当の正体がドラゴンで、魔力が沢山あっても、回復が出来なかったら減っていくだけだから。)
(心配かけてすまない、でも、人間に化けてるわけではない、この姿も私だよ。)
(だって、髪の毛の色が変えたのは、)
(あれは、目くらましをかけただけだ、亜弓には本当の私の姿が見えるはず。)
じっと見ていると、最初見た青みがかった白色に見えてきた。
(あ、本当、)
胸の下あたりまである髪を触ってみようと、そっと手を伸ばした。
手が届かないうちにどんと背中を押される。
「亜弓、何やってんのよ、こんなところで美形と見つめあって、」
振り向くと、幼稚園から親友だった西田里子がにやにや笑ってこちらを見ていた。
周りも遠巻きにこちらを見ている、エドァルドと普通に会話をしているはずだったのに、傍から見れば、黙って見つめあっているように見えていた事に気づいて、亜弓は真っ赤になった。
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ありがとうございます。嬉しいです。
しかし、話が長いです。まだ2日目、、、、