椿 5
昨晩ご飯を炊いていなかったので、朝はパンに食糧庫の中に残っていたわかめスープしかなかった。
今日は大量に買い物をして、掃除をして、と考えながら冷凍していたスライスチーズを乗せて、トースターに入れる。
でも、その前に解決しなきゃいけない事があるのよね、炬燵に座りテレビで朝のニュースを熱心に見ているエドァルドに目を向ける。
昨日の電気の光では灰色っぽい銀色に見えた髪は、朝の太陽の下では青っぽい白色に見えた、世界中の人を知っているわけではないが、こんな色の髪を持った人間っているのだろうか?動物だって見たことがない、鳥や魚にはいそうだが。
仏壇から昨日供えた小さな皿を下してレンジで温める、本当は朝供えるのが正しいらしいが、時間がないので夜供えて、しばらく置いて食べる事にしている。
昨日は食べられなかったが、寒いので傷んではいないだろう、捨ててしまうのは好きではない。
お盆で焼けたパンとスープを運ぶ、テレビは消されてこちらを見ていた。
「買い物に行かなきゃ、これしかないの、」
「ありがとう、」
アクセントが少しおかしいが、はっきりと日本語を話している、理解しているみたいだし、それより何より、触ったら話が通じるって何よ!いけない今は食べよう。
「いただきます。」
手を合わせる亜弓を見て、エドァルドも同じことをして食べ始めた。
自分にはパンを半分と昨日の焼うどん、彼には3枚パンを焼いている。
食べ終わって食器を片づけようと立ち上がると、エドァルドが先に持ってキッチンへと向かった。
「ありがとう、コーヒーを入れるから座って待ってて。」
「いや、ここで見ている。」
セットしたコーヒーメーカーのスイッチを入れてから、スポンジに洗剤をつけ食器を洗うのを珍しそうに見て、そっと泡を触っている好奇心いっぱいのところが、彼に怖れを感じさせないのだろうか。
「コーヒーに砂糖とミルクはいります?」
「飲んだ事がない」
「じゃあ、飲んで必要なら入れてください。」
自分には牛乳だけ入れて、彼にはマグカップにたっぷりコーヒーだけ入れて炬燵に運んだ。
コーヒーを一口飲んで気に入ったのか、そのまま飲み始める。
どこから聞けばいいのか、何を聞けばいいのか分からず、少し沈黙が続いた、幹線道路からも外れているこの家は、時折遠くで車の音がするだけで静かだ。
「最初に、亜弓に謝らなくてはならない。」
すまない、と頭を下げる、何を?とびっくりしてると、彼の手がそっと伸びてきた。
(あの、亜弓が貸してくれたパソコン?を壊してしまった。ネットの世界を追ううちに夢中になりすぎて、電圧?を上げすぎて中を焼き切ってしまった。)
「はあ??中を焼き切ったって、電気はコンセントからだし、どうやって、」
亜弓はパソコンについてソフトはそこそこ使えるが、ハード面は全然明るくない、電気を通しすぎて壊したのは分かったが、どうしてそうなったのか見当もつかなかった。
(私はこの世界の人間ではない、国に帰ろうと転移したんだが途中で空間の歪みに巻き込まれたのか、気が付いたら、ここにいた。)
嘘じゃないよね、だって、触って言葉を伝えるって、この世界じゃ不可能だし、何より私をだましても、何の得もない。
それに、あの魔法、自分の体から離れた水分がふわふわと浮いていたのを思い出す。
(あなたの世界では魔法、みんな使えるの?)
(ああ、皆ではないし、力も同じではないが使える者もいる。私の一族はすべて使える。)
(火とか出せるの?)
人差し指を立てるとその先に小さな火がともる、1mほど噴き上がってふっと消え、上に向けた掌に水が溜まる、水は玉となりふわふわ漂い空気中に霧散する、消えた場所に小さな稲妻が現れくるくる動き風がそれをさっと攫うと消えていった。
「すっごい、イリュージョンだ」
思わずぱちぱちと手をたたく。
「あなたの世界の人ってすごいのね。」
(いや、この世界のほうがすごい、わたしは雷の力がこんなに使えるものとは知らなかった。今まで雷の魔法は攻撃にしか使った事がない、微弱な雷の力がこんなにも世界を作っている事は驚きしかない。)
雷の力って電気よね。そういえば、最初に電気を溜めたのは雷を凧で集めたフラン何とか、(覚えてない)考えてみればこんなに身近に電気があって当然のように電気製品を使っているのって100年くらいしかたってないのよねえ。人間ってすごい、かも。
(今まで、力を大きくすることはしてきたが、微弱な雷の力に意識を乗せる事は初めてだった、力のコントロールに失敗して壊してしまったのだ。)
それって、パソコンを使って、ネットの中に入っていくって事?意味分からない、、
(とにかく、あなたの世界の人間ってすごいのね。)
(いや、私は、人間ではない)
(はあ???)
(竜だ)
読んでくださってありがとうございます。
ネットに入るってのは、昔読んだツインシ〇ナル(懐かしすぎ)って漫画でネットに入っていくイメージです。詳しくは、覚えてません。