椿 4
携帯がいつもと同じ7時に音楽を流し始めた、起きてお弁当を作くらなきゃ、そう思って
目を閉じたままベッドの下に置いたバッグの中に手を突っ込む。
やっと見つけてスヌーズモードを止める、あと5分、、そう呟いて、今日から休みだったことに気付いた。
まだゆっくり眠れると、掛け布団の中に潜り込む、そして、昨日のことを思い出した。
私、男の人を拾った?エドァルド?日本語が分からなくて、でも手が触れたら言葉が分かって、そして魔法!?
夢見たのかな?昨日、自分が何の疑問も持たなかった事が、余計にただの夢に思えてくる。
自分には男の人を拾う願望でもあったのか、イケメンだし体格良かったし、若い人がほとんどいない今の職場だから癒しでもほしかったのだろうか。
でも、焼うどん作ったような?それに、ふわふわと浮いた水の玉、考えていると眠れなくなってごそごそと布団の中から這い出た。
忙しくてストーブに灯油を入れて無いので、暖房が入っていない部屋は寒い、その上にカーテンを閉め忘れたのか窓が半分ほど見える。
カーテンの間から見える外は、少し明るくなっているパジャマの上にガウンを羽織って窓に近づいた。
カーテンが開いているだけで、外からの冷気が伝わってくる、きっちり閉めてエアコンの暖房をつけ、もう一度布団に潜り込もうと窓の前に立った。
外はいつの間にか雪が降っていて庭の木々に積っている、ずいぶん寒いと思ったら年末から正月にかけて天気予報の通り雪になったらしい。
はあーと息を吐くと窓の近くは余計に気温が低いのか、真っ白になる。
亜弓の住むこの街は滅多に雪が積もることはない、自分が子供のころは真っ先に外に飛び出して雪で遊んでいた。
庭を見下ろすと見慣れない人影が、ぽつんと立っていた。
父がよく来ていたグレイのスウェット、長い銀色の髪が昨日の出来事が夢でなかったことを教える。
このままだとせっかく助けたのに風邪をひいてしまう、それに聞きたい事が山ほどある。
あわてて部屋を出て階段を下りる、冷たい板張りの廊下に、スリッパを履いて来なかった事を後悔した。
リビングの雪見障子を開け、庭に面した縁側へと向かう、降りられるように天然石でできた足台に置いたままのサンダルを履いて庭に下りた。
この辺りには珍しい40坪以上ある庭は手前に今は枯れ草のような芝生が敷かれ、奥に母の好きだった花々が植えられている。
盛りの椿の前に、男が立っていてこちらを振り向いた。
「おはようございます。」
日本語が話せないはずではなかったのか?近づいて言葉をかけようと伸ばしかけた手が止まる。
驚いた顔と、返事が返ってこないことに、男は困った顔をして手を伸ばしてきた。
(間違っていますか?朝は、おはようございますではない?)
「いえ、あってます、びっくりして、日本語知ってたんですね?あ、おはようございます。」
「昨日、勉強しました」
「って、昨日って6時間くらいで?」
「得意なんですよ、言語は、それよりこれは何ですか?」
2本の赤い椿の下に、歪なひょうたんの形をしたふちが石でできた、白い砂利の場所がある。白い砂利の上にぽつりと椿の花が落ちていた。
「ここは祖父の生きていたころは池があって、その頃は庭はまだ広くて、この奥に裏山から湧水を引いていたんです。祖父が亡くなった時、相続税を払うために裏山を売って、池も無くなって、でも壊してしまうのは悲しいから、こんな風に残しているのです。」
価値の高い錦鯉を買っていたわけでない、譲ってもらった色鯉を飼っていた。泳ぐ様は優雅に見えるのに、縁日で取ってきた金魚を池で飼おうと、中に入れた途端パクリと食べられて大泣きした事もあった。今の季節は池の中に椿の花が落ちて、祖父と一緒に網ですくっていた、面倒くさいと言いながら結構楽しかった。手をたたくと石の蔭からゆらゆらと餌をもらいによってくる姿を思い出す。
「綺麗だ」
エドァルドの言葉に驚いて触れていた手を押しのけた、触って言葉が分かるって事は、考えていることが伝わっている?
「違う、言葉が、」
もどかし気に言葉を詰まらせて、怖がらせないようになのかゆっくりと指が伸びてきた。
(亜弓が私に伝えたいことだけ言葉の代わりに分かる、さっきは、子供の亜弓とお爺さんがきらきら光る池の水面の前で遊んでいた風景が見えてきた。)
(あなたは、何なの?どこから来たの?)
(私は、)
「待って、先にご朝飯にしよう、そして家でゆっくり聞くから。」
エドァルドの指から身を離し、背中を見せて家へと歩き出した。
要点だけ書けよ、と自分でも思います。でもそうしたら4行くらいで話が終わりそうです。




