神の選択に口出す者は
「今、間違いだと宣ったか?」
低く響く声が、不快そうに聖堂内に満ちた。
圧を伴った音が、その場に居合わせた『選ばれし者達』の身に圧し掛かる。
あーあー…どんな世界も愚か者には事欠かないんだなあ、なんて、溜息をつく。
「……えぇ、えぇそうです…そんな下賤な血のモノは貴方様に相応しくありません」
圧に負けず、豪奢な衣に身を包んだ娘が言い募る。
なるほど、大切に育てられたお嬢さんらしい。
大切に、念入りに、貴き血の概念と、それに見合った傲慢さを刷り込まれて育ってきたのだろう。
神や、他の上位存在との距離が近い世界にはこういうのが一定数居る。そして、我が神はそれを好まない。
だから、ご自分で訪うのは止めた方がいいと申し上げたのに。
「下賤な血…なぁ」
「えぇそうです! ソレはこの場に呼ばれるのもおかしい、貧民街の孤児です、何をして生きてきたかもわからぬモノが神の傍仕えだなんて! 図々しいにも程がございます!」
不快さからの圧を消しながらも嘲笑するような神の声には気付かず、持論を並べる娘の声に、聖堂の前方に座る高貴らしき方々は頷いて同意する。
最後方に座らされているみすぼらしい姿の者達は声なく俯くだけだ。間に挟まれた者達は、居心地悪そうに身動ぎしている。
『選ばれし者達』等と言われても、この場で価値があるのは前方の者達だけだと思っているのだろう。
その認識が、神の意思を軽視している等とは思いもよらない。
まずもって、選ばれてこの場に居る事自体は、さほど特別な事ではないのに。
神とヒトは異なるモノだと、身に染みて貰う必要があるだろうなあこれは。
埒の明かなそうな会話はぶった切って問題なかろうと、一歩前に出る。
「我が神」
「なんだ?」
「まだお続けになられますか?」
「…! なんなんですのあなたは、まだ私が」
「勘違いしているようなので、あえて申し上げますが『お前の発言は許されていない』」
神の後ろに控えていた私を、大半の人間は認識できていなかったのだろう。
驚いたように喚き立てようとする娘の声を、まず奪う。
これ以上、耳障りな高音を発し続けられるのは不快だし、そもそも発言を赦されてないのに無礼を働いている自覚もないのはいただけない。
「この場の最上位者である我が神は、あなた方の誰一人に対しても発言を赦していません」
私の言葉に、全員が息を呑む。
前方に居座っている、高貴らしき方々は、国の最上位者に対する礼もご存知だろうに、神に対しての礼はご存知なかったんですかねと笑ってしまう。
舐めてるのか? 理解が及ばないから軽んじているのかも知れないな。
「今、この場に神罰が下りず、あなた方が無事なのは、我が神の気まぐれですよ」
「それはそうなんだが…なぜお前がそんなに不機嫌なのだ」
「我が神が軽んじられているからですよ」
「そこまでじゃなくないか?」
「そもそも我が神の選択に異を唱える時点で軽んじてるでしょう、意見を求められているわけでもないのに口を出すなんて、何様のつもりなのか、という話ですよ」
弁えない者には相応の対処が必要でしょう?と首を傾げれば、我が神は少し思案した後、頷いた。
後は私の好きにして良いと言う事だ。
目新しい所のない傲慢な娘など、掃いて捨てる程に見ているのだ、長々と相手する必要もない。
「我が神は傍仕えを選んだ、それが全てだ」
先刻選ばれた子供を『選定の泡』で包み、神の元へと移動させる。
みすぼらしい身成の子供は、怯えを見せながらも真っ直ぐ神を見ていた。
その目を見返して、満足の笑みを見せた我が神は、子を包んだ泡を伴って神の社へと戻って行く。
神の姿が薄れるのを見た者達が騒めくが、用は済んだ。
後は、この場に集められた者達に、申し訳程度の祝福を与えれば終了、あと数世紀はこの地を訪れる必要もないだろう。
しかし我が神に無礼を働かれたのは不愉快なので、置き土産を一つして行こうと思う。
聖堂に集まった者達に祝福を振りかけながら、私は口を開いた。
「此度は我が神の満足する傍仕えを得られたので、候補として選ばれた者達にも労いを兼ねて祝福を授けよう」
ついでに娘の声も戻しておく。
やや不満そうに見える者達も居るようだが、ささいな事なので見なかった事にする。
「しかし、我が神の選択に不満を抱いた者がいたので、ここで一つ明言しておこうと思う」
私の声に不穏なものを感じたのか、前方に居座っていた者達が身をかたくする。
なるほど、まるきりの馬鹿ではないようだが、さりとて私を止められるわけではない。
満面の笑みを浮かべて、私はこの地表全てに届く声を出した。
「お前達人間が決めた貴き血や育ちなるもの、神には一切の価値を持たぬモノと知れ」
この世界には、我が神や他の神が選んだ血筋のモノはいない。
他の世界ではもう少し言葉を選ばねばならないが、この世界では遠慮なく価値が無いと断言できる。
「神が価値を見出すのはその魂と、精神の在り様である」
見た目や性別なんかも関係ない。
気にするようなら弄ってしまえばいいだけだし。
「人間の価値基準で以て、神に意見するような無礼を二度は許さぬ」
繰り返すようならまあ覚えとけよ、と言う告知は大事。
次にこの世界を訪う神が、初回見逃しタイプじゃない可能性だってあるわけだし。
なんか前方に座ってる者達がプルプルしてる気がするけど、スッキリしたので〆て帰ろう。
「努々忘れる事の無きように」
言いたい事は言ったので、私も神の社へと戻る。
私が着くまでには、新入りは沐浴と身繕いまで終わってるだろうか。
落ち着いたら教育を始められるように、色々確認しないといけない。
多少不愉快な事はあったものの、良い者が見つかって良かった。人員の定期的な補充は大事。
その後、あの世界に行った他の神の傍仕え仲間から、あちこちで革命が起きて結構な変化があったらしいと聞いた。
人間の世界って忙しないね。




