第45話「戦国時代は女もヤバい」
日曜日なので第45話。
来てくれてありがとうございます。
土田御前は激怒した。
お公家様の前で素を出してはしゃいでいた私を必ずや除かねばならぬと決意したのだ。
土田御前は政治がよくわかる。
尾張の傑物織田信秀の正妻として奥を取り仕切り、家中の安定を図り続けてきたのだ。
だから私が姫らしからぬ有様であることに人一倍敏感であった。
「あきれた嫁だ。生かしておけぬ」
そんな勢いで叱られた。
一応陰陽術やら熱田魔導研究所の設立についても説明したが、それはそれ、これはこれなんだそうな。
ぐうの音もでません。
イナリちゃんがとりなそうと説明しようとしたけど、お市ちゃんをけしかけられてどっかに行ってしまった。
ちょうちょ追いかけて迷子になる幼女かよ。
いや、幼女だった。
そんなわけで、私はすっかり日が落ちて日付が変わるまで正座でお説教を聞く羽目になったのだった。
なんだか最近正座してばっかりだなぁ、とか思ってたらお説教のトーンが上がった。
土田御前は心を読むチート能力持ちに違いない。
そして翌日から熱田女子大学寮で所作や武芸の授業を受ける羽目に。
それはもともとそういう話だったんだけども、ほっといたら碌な事しないとか判断されたようで前倒しだ。
熱田女子大学寮は武家の娘さんや有力者の娘を中心に生徒が集められていて、設立初期メンバーは私とおさき含めて30名だ。
宮廷作法、武家作法、家政はなんだか明治や大正の女学校みたいだな、とか思ったけども、所謂五経と言われてる武士の心得みたいな文書(孫氏の兵法とか、そういうのね)の勉強もある。
そして武芸。
武家の娘としてはなぎなたや剣術はたしなみとして鍛錬するものなので慣れた子も多いんだけど、これに槍とか弓も加わった形。
この時代の兵士訓練ががっつり入ってきている。
織田家の本気が見えてくる気分だね。
ただ、そこは普通の女の子たちなので体力的に厳しいようだ。
レベルアップ済みの私とおさきは余裕でこなすのでやたらと尊敬の目で見られている。
すまん嘘ついた。
私はなぎなたはそれなりだけど、刀や弓、槍はてんでものにならなかった。
運動神経なくてごめんなさい!
でも走るのは早いし持久力は結構あるよ!
あんまりの運動音痴ぶりに土田御前は
「帰蝶殿はなぎなただけでよいです」
とため息交じりに言われた。
ラッキーと言っていいのか屈辱と思えばいいのか。
という訳で私は同期の皆からはミソッカス扱いで生暖かい目で眺められている。
ちくしょう、私は頭脳派なんだからいいんだよ。ふんだ。
対照的におさきは武芸百般がとにかくすごい。
さすが脳筋。
同期の子たちに「おねえさま」とか言われてちやほやされててうらやましい。
私にはどこかよそよそしい感じなのに!
なんだか「美濃から来てこんなところに放り込まれて機嫌悪い気位の高いお姫様」みたいに思われてるみたいで腫れ物扱いだ。
素で過ごせたら仲良くなれると思うんだけどな。
授業の時は土田御前も教室にいてにらみを利かせてるので姫ムーブでいなきゃならないんだよ。
お友達欲しいんだけどなあ。
まあ私って黙ってるとクール系美少女だから、一見冷たく見られてしまうのは仕方がないか。
畜生!私が怜悧な美貌の美少女だからちくしょう!
そんなわけで特に友達もできず、昼は鍛錬、夜は信長たちといろいろナーロッパ構想なんかについて話しながら日々を過ごしていた。
イナリちゃん?ニンジャ部隊の引率と鬼太郎(糞ゴブリン)の通訳のため毎日迷宮行ったりお市ちゃんと遊んだりしてるよ。
私も幼女になりたい。
そして2月ほどたった頃、女子大学寮の皆が迷宮に入る時が来た。
土田御前と彼女の侍女たちもしっかり武装している。
私とおさき以外の女性が初めて迷宮に入るのだ。
準備万端な私たちは列をなして熱田神宮跡の迷宮入り口に向かう。
道中、熱田の町を眺める。
うーん、廃墟だらけだったのが嘘のように活気が出てきているね。
まだまだ完成した建物は少ないけど、まさに建設ラッシュだ。
大工や労働者向けの物売りも多い。
迷宮産小豆が出回っているからか、あんこを使った団子とかも売ってる。
さすがに砂糖は使われてないんだろうけど。
まだまだ潤沢に出るものでもないからね。
熱田神宮跡は簡易な板塀で囲まれているが土塀で囲う工事も進んでいる。
再度魔物の噴出があっても抑え込むため、という名目だけど実際は迷宮入り口の管理のためだ。
織田家の把握しないところで迷宮に入られたら面倒だからね。
塀に設けられた大門(まだ簡易なものだけど)から入って、迷宮入り口までは多くの蔵や兵舎が立ち並び、鍛冶場や診療所もある。
兵たちが食事をとったりする食堂もあって、まるでダンジョンのあるナーロッパの町のようだ。
そのうちここに冒険者ギルドを作りたいなぁ。
慶次と配下の兵たちが護衛についた。
男尊女卑が酷い、というか女は一段下の存在な時代だから護衛の兵たちから下衆なからかいとかいやらしい目で見たりとかあるのかと思ったら、しっかりきりっとしてる。
へえー、と思いながら生徒代表の私が挨拶したら
「尾張の女神様、万歳!!」
とか言っていきなり万歳三唱を始めやがった。
慶次はうんうんと頷いている。
がっつり私への忠誠心を叩き込んだそうな。
いらんのですけどそんなの!?
何勝手な事してんのさ!?
「はて、濃姫様を崇めるのは尾張の者の義務であるはずですが?」
「んなわけないじゃん!いつ決まったのそんな事!?」
「拙者の命を助けられた時からですかな?」
「勝手に決めないでよ!?」
姫ムーブをかなぐり捨てて慶次と口論していると、こめかみに青筋立てた土田御前ににこやかに一喝されて、慶次を問い詰めるのはまた後にすることとして、迷宮に入ることになった。
迷宮の中は相変わらずほの明るいし外は初夏なのにほんのり過ごしやすい空気だ。
女子生徒たちはあらかじめ決められた班に分かれて迷宮内へ散っていく。
これまでの調査で、あまり大勢だとレベルアップの速度が遅いような気がするらしく、そもそも人が3名も横並びになればいっぱいな狭い通路では大人数はかえって危ないので最大6名程度がちょうどよい、という事になってる。
それぞれ槍、なぎなた、弓など各々得意な武器を抱えた女の子たちがおっかなびっくり護衛の兵士についていく。
彼女たちも私が初めて小鬼を斬った時のような葛藤を味わうんだろうか。
そう考えると、こんなことを始めてしまったことが本当に正しいのか、ちょっと胸が痛む。
でも、やるしかないんだよね。
私とおさきは経験者なので、むしろ護衛側として土田御前について歩くことになっている。当然慶次もだ。
土田御前はなぎなたの達人だけど、VIPだからね。
どこか緊張した面持ちの土田御前だけど、油断せず周囲を見遣ってしずしずと歩いている。
すり足のはずなんだけど足音しないんだよねこの人。
これが達人かあ。私にはとてもできそうもないよ。
「姫様、この先に小鬼の群れがおります」
「ひゃあっ!?」
突如耳元から声がかかって悲鳴を上げてしまった。
声の方を見ると久助だ。
ニンジャ部隊が各班に影の護衛として見守ることになっているとは聞いていたけど。
でもいきなり姿現すのはやめてほしい。
久助は前からこうやって私をからかう癖があるのだ。
きっとあの糞ゴブリン(鬼太郎)の影響だろう。
「姫様も鬼太郎様の鍛錬を受けておられるのにちっとも上達しませんなあ」
「私にニンジャは向いてないだけです!
それよりお義母さま!この先に小鬼の群れだそうです。お覚悟はよろしいですね?」
突然現れたようにしか見えないニンジャ(久助)にこわばった顔で瞬きをしている土田御前に声をかけると、すっと顔を引き締めて頷いた。
「当然です」
「結構です。では久助、小鬼どもをつり出せる?」
「勿論」
「おさきは私の隣。前に出てね。慶次はお義母さまについてついでに後方警戒よ。では、はじめ!」
全員が戦闘態勢に入る。
私とおさきで小鬼を抑えて、土田御前にトドメを刺させる予定だ。
まあ私一人でもなんとかなるけどね小鬼程度。
そうしていると、久助3匹の小鬼を引き連れて戻ってきた。
さて、久しぶりに鬼退治だ!!
帰蝶ちゃんの実力を見せつけるターンだよ!
結論から言うと、尾張女子大学寮による初の迷宮鍛錬は何事もなく終了した。
誰もケガすることなく、実にあっさりと小鬼を討ち取りまくったそうだ。
誰も彼もすごい良い笑顔で、「また来ましょう!」「いずれ大鬼も屠ってみせまする!」だのと意気込んでいる。
なんだろう、初めて小鬼を切った時あんだけ崩れた私がバカみたいじゃないか。
土田御前も顔色一つ変えずに小鬼を切り捨てて
「こんなものですか」
とかつぶやいてたし。
最後に大鬼退治を慶次や兵が行うのを見学したときは
「なるほど。膂力はとんでもないですが、技はありませんね」
とか言ってたし。斬る道筋を見つけたみたいだった。おっかない。
私は戦国時代の女性のメンタルを舐めてたのかもしれない。
たくましすぎて帰蝶ちゃんこの先生きのこれるか心配になってきた。
戦国時代ヤバい。
豆腐メンタルじゃ生きていけない時代ですからね。
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