第41話「長く生きてるといろんな知り合いができるもの」
日曜日なので第41話です。
3連休は大好きなので毎週こうだといいなと思った。
なんか胡散臭いどじょう髭のおっさんが熱田に来た。
いかんいかん、官位持ちのお公家様だからきちんと挨拶せねば。
姫ムーブ起動!
「涼風式部少録様、織田三郎信長が室、帰蝶にございまする。尾張女子大学寮にてご指導を賜れる事、まことに光栄にございます」
「うむ!帰蝶殿、混迷極めるこの世にあっても魔物に負けぬ強き女子を育てると言う尾張の考えはまっことあっぱれでおじゃる!吾輩の指導は厳しいやもしれぬが、しっかと身に着けるがよい!」
わっはっは、と高笑い。
お公家様ってこういうのばっかりなんだろうか。
会ったことないから全然わからん。
以前尾張に来た山科言継とは結局合わずじまいだったしね。
まあド田舎尾張の嫡男に嫁いだ嫁になんか偉い高位公家様は興味ないのが当然だよね。
尾張女子大学寮の設立は、私の提案した女子強化策がもとに土田御前がいろいろ考えて関係各所と調整した結果だ。
京を追い出された朝廷は大和の平城京跡に仮御所を築いてなんとか落ち着いたらしいが、ただでさえ困窮していた公家の居場所がなくなってしまった。
高位の家はそれなりに財があったそうだけど、一般の公家はそりゃもう食べるにも困る有様。
そんなわけでそれなりに落ち着いてる尾張に一部の困窮したお公家様を受け入れる事になったんだけど、別に余裕があるわけでもないので何かお仕事をしてもらおう、という事で女子強化の一環として宮廷作法や教養の授業も行う女子大学寮の設立と相成ったそうな。
……よく考えたら女子向け教育機関って日本史上初だったりするんじゃないだろうか。
私としてはそんな大げさな形にするつもりはこれっぽっちもなかったんだけど、現実の問題解消するためにいつの間にかこうなってた。
という訳で、尾張女子大学寮の講師の第一陣、と言うより現場の下見として来たのが涼風様、という事になる。一人だけだし。
式部少録、と言う官職は朝廷の儀式や儀礼を統括する式部省と言うお役所の役人のもので、涼風さまは実務を担う下っ端公務員という事になる。
下っ端とはいえ正式な官位を持った偉いお貴族様なので、ちゃんと対応しないといけないんだよ。
しかし一人称が「吾輩」て。前世含めて初めて会ったよ。
緑色のカエル異星人とか10万年生きてる悪魔閣下とか、そういうのしか思い浮かばないね。
あっ、悪魔閣下10万歳だからもしかしたら今もどこかにいるかも。
魔界にいるのかな?ぜひお相撲普及に力を貸してほしい。
この時代のお相撲って実質総合格闘技みたいでおっかないんだよね。
いやいやそんな事は今はどうでもいい。
京から来たお公家様で朝廷のお役人なのでぜひ聞いておかねばならない事がある。
「あの、涼風様。一つお聞きしてもよろしいですか?」
「うん?何でも聞くがよい!帰蝶殿はすでに吾輩の弟子であるからな!!」
おお、案外とっつきやすい人なのかも!懐の深さが垣間見えるよ!
さっそく聞こうとしたら、輿から降りてきた土田御前がにこやかにしつつ私には笑ってない目を向けて一言。
「まあまあ、涼風さまもお疲れでしょう。帰蝶殿、まずはお部屋へ通して疲れを癒してもらいましょう?(意訳:玄関先で立ち話とかしてんじゃねえよアホか小娘!)」
「は、はひ……」
私は後日の姫ムーブ特訓が厳しくなることを察して震えあがったのだった。
涼風様はお部屋でくつろいで、あんころ餅とおやきに舌鼓を打っているらしい。
それについては褒められた。
おいしいものは歓待の基本で、お公家様のような高貴な方に喜んでもらうのは織田家の格を上げる第一歩なんだとか。
そういうものを作る知恵があるのにどうして初対面のお公家様を玄関にとどめて立ち話をするのか、私はもっとその辺を鍛えねばならないらしい。
尾張女子大学寮では領内武家の子女が集いレベルアップと並行して所作や教養を学ぶ。
やがてお公家さまや他国へ嫁に出しても恥ずかしくない女子の育成機関なんだそうだ。
その先頭に立つべき私がこんな体たらくでどうする。
織田家はしょせん田舎者と侮られて良いとでもいうのか。
信長まで軽んじられることになりかねないのですよ。
そんなお説教を約2時間にわたって聞かされて、全くその通りでございますと土下座するしかなかった私はしびれまくった足に悶絶しながら転がっていた。
土田御前と一緒に熱田に来たお市ちゃんと遊びあきたイナリちゃんがニコニコしながら私のしびれた足をつつく。
やめてぇ!お願いします今度新しいお菓子作るから!
「きちょーはおもしろいのじゃー」
私はおもちゃじゃないですう!
あっそうだ。
「やめろー!人間は神のおもちゃなんかじゃねえ!!」
「いきなり何を言っとるんじゃきちょーは」
一度言ってみたかったセリフだったけどなんとも締まらない。
多分そのあとに続くホビーバトルのネタがないからだと思う。
また別の機会に言うとしよう。
という事はホビーバトルのネタになるものを作らなきゃ。
ビー〇マンとかなら作れるかな。いやビー玉作るのって結構難しいんじゃなかったっけ。
ガラス職人て戦国時代にいたんだったかなあ。
なんかの小説だと失伝してたのを援助して復活させてたような……
うーん。でもガラス窓とかあれば冬でもあったかいよねえ。
戦国時代は現代に比べるとすごい寒いからこの冬はほんと大変だった。
なんとかオフトゥンみたいなのを作ったけど、綿が全然ないから布切れをなんとか集めて布団袋に詰めただけなんだよね。
それでも全然ましだったけど、お金持ちの織田家だからできる事。
一般の民には凍死した人も出たそうだ。
人を無駄にできない状況では避けられる死は避けないといけないのに。
迷宮から綿が出たりしないかなぁ。
やっと足のしびれが取れてきて落ち着いた私はイナリちゃんのおしっぽをもふもふしながらそんなことを考えていた。
あ、そうだ。涼風様も落ち着いたころだろうし、ちょっと話しに行ってみるか。
と思ったときちょうどよく信長が来た。
「よぉ帰蝶、さっそく母さんに絞られたみてえだな」
ニヤニヤして言わないでよもう!しゅき♡
イケメンはいつ見ても良いものなのだ。
しかし良いタイミング来てくれたね信長!
「反論もございません、以後気を付けます!あ、それはそうとノッブ、あの話ってどうなってるのかな?」
「うん?あの話?」
「陰陽師に会いたいってやつ!結構前に言ったから忘れちゃってた?」
「おお、陰陽師か。実はな帰蝶、今回来た涼風殿がその陰陽師らしい」
「……どじょう髭なのに?嘘だぁ」
「髭は関係ねーだろ髭は」
「それはそうだけど。ほんとに?」
「ああ、親父に話したらあの安倍晴明の末裔、土御門さまが来ることになってな。
京が焼けて屋敷がなくて困ってたらしい。もう那古野にご滞在されてる」
土御門!?陰陽師の大家でいろんな創作で陰陽術でバケモノ退治してるあの土御門!
すげえ!これは研究が進む気しかしない!
すると私におしっぽもふもふされて眠そうにしてたイナリちゃんが嬉しそうに声を上げた。
「おお、せーめーの!あ奴の子孫なら間違いないぞよきちょー!」
「し、知っているのかライデン!」
「わらわはイナリじゃが。
せーめーはわらわが子狐のころに世話になっての。あやつの後のおんみょーじは微妙な者ばかりじゃったが、気の鍛錬が足りんので仕方ないのじゃ」
なんだろう、この神様案外すごい子なのかも。
話を聞いた限りポンコツで伏見でも可愛がられるポジションだと思ってたけど。
あれ、でも。
「でも熱田に来たのは涼風様だよね。涼風様につなぎを取ってもらう感じ?」
「ああ、それもあるが……涼風殿の家も陰陽師の家だそうでな。それも含めて熱田に派遣されたんだよ。涼風家は土御門の分家にあたるんだとか。
熱田はまだ噴出の中心、世間的には危険地帯という認識だ。そんなところに来たくなかったんだろ。だから下っ端を寄こした。
だが……」
「私たちにとってはかえって好都合、という事ね?」
「そうだ。こう言っちゃなんだが、下っ端の貧乏公家なら対価はそれほどかからんで懐柔できるだろう。……ま、信秀の言だがな」
「レベルアップとかの話はもう少し秘匿しておきたいからね。さすが信秀!」
「おまえな、俺の事含めて変なあだ名つけるのやめろよ」
「えー、いいじゃんかわいいでしょ?」
おお、イチャイチャのターンでござるねデュフフ、と思ったらイナリちゃんが大声を出す。
「すずかぜ!あーあやつか!!」
「うわびっくりした。知ってるのイナリちゃん?」
「うむ!宮殿で部屋を涼しくする術を使っておった者じゃ!帝から「涼風」と言う名をもらっておったの!」
「えっマジで!?昔の陰陽師ってそんな術も使ってたの!?」
「だからそう言っておるじゃろ。涼風の家はせーめーの……ひ孫?が起こしたのじゃ。確かそうだったはず。んー?自信はないけど多分そうなのじゃ!」
「おお、それはすごい!イナリちゃん!さっそく涼風様に話を聞きに行こう!」
「そうじゃな!せーめーの子孫にあうのは楽しみなのじゃ!」
「待て待て待て!いきなりお公家様の部屋に押しかける気か!?また母さんに怒られるぞ!」
「えー……しょうがない、ご予定を伺ってちゃんとしよう。
ごめんねイナリちゃん。ちょっと待っててね」
「人の子はめんどくさいのう。でも決まったらわらわも呼ぶのじゃぞ!」
という訳できちんとやって涼風様に陰陽師の術について聞く段取りをすることになって。
結局翌日の午後、その時間が取れた。
んで、改めて見せてもらった術は、私たちの想像を遥かに超えたものだったのだ。
一体どうなってるんだこの世界。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
また次回もよろしくね。




