第40話「変人のもとには変人が集う」
土曜日なので第40話。
ついに40話まで来ました。
これも読んでくださる皆さんのおかげです。
イナリちゃんたちが追いついてきた。
道端に山と積まれた魔物の死骸を見て眉を顰める。
侍女や下男たちはビビり散らかしているのに肝が据わった幼女だ。
まあ神様なんだけども。
イナリちゃんの姿を見た信綱はギョッとした表情をしている。
一瞬剣呑な気配を漂わせたけど、私たちの様子を見て危険はないと判断したのだろう、ヤバい雰囲気はあっさりと消えた。
「ほほう、近くで見ると迷宮の中の鬼とはだいぶ違うのう。臭いのがたまらんわ」
のんびりと言うイナリちゃんに信長が言う。
「イナリ、あれ、お前の術で焼けるか?」
おお、なんと賢い。
確かに放置してたら変な病気とか流行りそうだよね。
戦の後始末は実際大事。
私がイナリちゃんの術を使えたら話が早いんだけど、そうもいかないからしょうがない。
お安いご用じゃ、と言ったイナリちゃんは例のメ○ゾーマじゃない○ラを死骸に放つ。
天を突く業火が起こり、臭いも無く魔物の死骸を焼き尽くし、一陣の風が吹いて灰が散って行った。
信長と私はそれを無感動に眺める。
ほんと、なんでこんなことになったんだろう。
私は信長の可愛い奥さんとして内政チートできればそれで良かっただけなんだけどなあ。
「今のは……」
信綱が心底驚いた顔で言う。
そりゃ驚くよね。魔法を初めて見たら誰だってそうなる。
イナリちゃんは信綱に気付いたのか、にっこり笑って曰く。
「おお?なにやら鋭い気の持ち主じゃな!わらわはイナリ!伏見は宇迦さまの眷属である!今はノッブときちょーに世話になっておるのじゃ!」
「イナリ、殿?」
イナリちゃんはおしっぽふりふり。悪い奴ではないと分かるような何かが見えてるのだろう。
信綱は可愛い狐耳もふもふおしっぽ幼女に困惑している。
信長が苦笑して言う。
「そいつは、まあいわゆる神だ。こまけえ事は気にすんな。鬼が出るんだ、神がいたっておかしくないだろ?」
「はぁ」
いやもうちょっと気にしてもいいような気がする。
イナリちゃんは「?」と言う顔でおしっぽふりふり。かわいい。
「で、そなたは何者じゃ?ノッブの新しい家臣かえ?」
「お、おお。これはしたり。拙者は、上泉と申しまする。イナリ……様?よろしくお願いいたしまする」
幼女に深々と頭を下げるイケオジ。
何だかシュール。
「そうか!よろしくなかみーずみ!そなたの刀の腕はすごいのじゃ!よくよくノッブを助けてくりゃれよ!」
「ははっ。……とんでもないところに来てしまった」
聞こえてますよー?でも私もそう思う。
尾張に来てからまだ1か月ちょいなんだけど、わけわかんない状況になってるなぁ。
イナリちゃんが神だと言った時点から平伏している商人とか下男たちを急き立て、とっとと熱田へ行こうと急かしながらそんなことを思っていた。
それから半年たった熱田の町は、なんだか人が増えている。
兵舎や女性屋敷の建設計画が立ち上がり、兵の迷宮内鍛錬も開始したことでドロップ品の集積蔵とかも整理されて、少し賑わいが戻ってきているようだ。
あれから私は迷宮に入ってニンジャ部隊と一緒に迷宮内で糞ゴブリン……鬼太郎の訓練を受ける日々を過ごしている。
なんかこう、目の前で消えられたり気づいたら後ろにいたり、不思議な技ばっかりだけどニンジャたちは徐々にモノにしているようだ。
私はなまじヤツの言葉がわかるのでさんざん馬鹿にされながら毎日泣かされている。
しかしだいぶ強くなったような気がするが、あの鬼太郎が師匠みたいな扱いされているのは本当に理解できない。
当然おさきも常に一緒で、彼女もだんだんニンジャの技を吸収しつつある。
それでいて腕力も上がって、こないだはついに大鬼を一人で殴り倒していた。
こわい。
おさきは一体どこに向かっているんだろう。
信長は信綱と一緒に兵の鍛錬を行う日々。
最初は熱田で訓練する兵たちの身体能力に驚いていたけど、レベルアップについて聞かせたら自身も迷宮に潜って鍛錬を開始した。
初日に大鬼を居合切りでバッサリやってたのは心底驚いたけど。
イナリちゃんが言うには、どうも信綱は刀に「気」を纏わせて切れ味を増す技術を使っているそうな。
そのおかげで普通の刀を壊さずに大鬼も切れるんだとか。
たまにいるんだって、そういう武芸者。こわいね。
当然そんなことしてるつもりはさらさらない信綱は困惑。
是非ともその技を伝授できるよう励んでくれ、と信長に言われて探求が始まっているが、何しろ「気」を見ることができるのがイナリちゃんだけなのでちっともはかどっていない。
とはいえ、史実の剣聖上泉信綱に稽古を付けられた兵たちはめきめきと実力を伸ばしてきている。
今では複数人でなら大鬼を倒せる兵も増えてきているそうな。
信綱の謎の技術の再現はできていないけれど、武具に関しては進展があった。
ドロップ品の金属片はどうも鉄らしく、熱田に鍛冶場が作られて槍の穂先などが急ピッチで製造されているそうだ。一日に出る量結構あるからね。
迷宮産鉄で作った武器は普通より丈夫だそうで、これで尾張北部の奪還は何とかなりそう、と信長は言う。
また、試しに植えてみた小豆や大豆はとっても良く実ったそうだ。
来年はお米や麦も試してみるとか。
尾張の名産品になりそうで私もうれしい。
名産品と言えば、あんころ餅に飽きたイナリちゃんが別のお菓子を作ってくれと騒いだこともあった。
しょうがないのでドロップ品の小麦を小麦粉にして、おやきを作ってあげたら大喜びで、携帯性に目を付けた信長が戦の時の糧食にいいんじゃねえか、と言うので小麦粉づくりが大変だから水車を整備してくれと頼んである。
やがて小麦粉が大量生産されたらパンも作ってあげよう。
あんパン……いや甘味と言えばあんこばっかなんだよねえ。
寒天とか牛乳とかあればもっといろいろ作れるんだけど、牛乳を出す牛がそうそういない。
この時代の牛は農耕用で酷使されてガリガリ。とても人がもらえるほどのお乳は出さないのだそうな。
乳牛とか輸入できないかなぁ。
輸入と言えば、どうも海に魔物はいないようで、海上輸送は何てことなく続いてる。
熱田も桟橋が再整備されて、伊勢から木材がどんどこ入ってきている。
伊勢に逃げた商人も徐々に戻ってきて、建設ラッシュに沸きつつある熱田で商売を始めようとしている。
噴出が起こった熱田に結構な兵が詰めて迷宮に対峙しているという噂が周辺各地に流れ、信長が魔物に備えている事が周知されたことで一定の安心感が醸成されてきているようだ。
尾張北部はまだ魔物が跋扈する危険地帯だけどね。
少なくとも初期の動揺は解消されたように思う。
そんな日々を送っていたら、兵舎が完成し、やがて女子鍛錬屋敷……というか、「尾張女子大学寮」とか名付けられた施設がついに完成した。
つまり、土田御前が熱田にやってくる。
私の安らかな?ダンジョンライフが終わりを告げようとしている。
これは由々しき事態である。
私はレベルアップは果たしたけども、姫ムーブ訓練はあまりしてこなかった。
疲れてたんだもん!しょうがないじゃん!!
おさきに泣きつくと
「御前さまにしかられなさいませ」
と素っ気ない。
そんなぁ!ひどいよおさき!
「さきは何度も申し上げましたよ。所作の特訓をしないとまた叱られますよ、と」
「しょうがないじゃん、あの糞ゴブリンにいじめられてそんな気力のこってなかったんだもん」
「だいぶ「気」の扱いはうまくなったんじゃがのう。なんでわらわの術は使えんのじゃろう。不思議じゃ」
イナリちゃんの説明がポンコツだからだと思います!!
よいよいと泣くとおさきがため息をついて、「しょうがないから付け焼刃でも姫むうぶの特訓をしましょう」と言ってくれた。
さすが私の信頼する侍女!
「でも付け焼刃なんてすぐ御前様にはばれますよ?余計に叱られると思いますけど」
やらない姫ムーブよりやる付け焼刃だよ!
せめて頑張ったで賞くらいは貰えるようになんとかしたい!
「そういえばおいちも来るの。おいしいおやきを一緒に食べるのがたのしみじゃのう」
ほのぼのしてて実にうらやましい!
私も幼女になりたいです!!
そうして3日間みっちりと姫ムーブ特訓に励んだ私は尾張女子大学寮の前で土田御前たちを迎えている。
土田御前は一人のお公家様を伴っていた。
どじょうひげを生やしたなんか偉そうな、でも服のほつれが隠せない感じのお公家様は開口一番、
「吾輩が尾張女子大学寮講師、涼風式部少録晴彦である!」
と大声を出した。
なんだか濃いのが来たなこれ。
またも新キャラ登場。
イケメンではないです。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
また次回もよろしくお願いします。




