第29話「神様(暫定)は曰く」
日曜日なので第29話です。
見に来てくれてありがとうございます。
憤慨する気持ちを抑えてオホホと笑い、鬼太郎に案内させる。
さすが私の姫ムーブ力。
怒りゲージが高止まりしても取り繕う事が可能なのだ。
社殿に入るとすぐ板間が広がっており、奥には祭壇がある。
その前にい草の香る畳が敷かれていて、イナリちゃんは畳の上に座っていた。
「その辺に座っておくれ。鬼太郎がいつも掃除しておるのできれいじゃよ」
促されるままイナリちゃんの前に座る。
座布団が欲しいがないので我慢。
さすがにもう慣れたと言いたいが慣れるもんでもないので早くオフトゥンとザブトゥンを開発しようと心に決めた。
鬼太郎は湯呑に入ったお茶を私たち全員に配ると
「ギャッ」
と鳴いてどこかへ行ってしまった。
まだ掃除する場所があるんだと。
なんだろう、私の中のゴブリン観が崩れる。
真面目で清潔な下男っぽいゴブリンて。
あー、元ネタの妖精さんは人の手伝いしたりする善良なやつなんだっけ?
ナーロッパの害悪ゴブリンさんにイメージを引きずられすぎてるんだろうか。
いやあいつ以外はナーロッパ的ゴブリンなので問題はないはず。
などと自分のゴブリン観を疑いながらうんうん唸っているとイナリちゃんがわくわくした様子で話し始める。
「それで、どうなのじゃきちょー?わらわをここから連れ出してくれるのかや?」
「その前に、改めて名乗りをさせていただきたい。
拙者は織田弾正忠信秀が嫡男、織田三郎信長と申しまする。
こちらは妻の帰蝶。あとは護衛の者たちでございます。
先は伏見稲荷様のご眷属であらせられるイナリ様に対して無礼な態度をとり、誠に申し訳ございませぬ」
きりりとした信長の自己紹介とご挨拶。
私もみんなも一緒に頭を下げる。
相手は神様(暫定)だからね。下手すれば朝廷よりも雲の上の存在なのだ。
頭を下げるときは下げるのが世間を渡るうまいやり方なのだ。
「うむ。くるしゅーないぞよ!あたまをあげよ!」
頭を上げるとすっげえドヤ顔でむふーっと言わんばかりのイナリちゃん。
幼女が楽しそうで何より。
「わらわも先ほどはついうれしくて、あ、いやその、まあとにかく礼を失して居った。
しっかりゆっくりお話ししなさいと宇迦さまに言われておったのを忘れてしまったのじゃ。あいすまぬことであったな」
「なんの。我々もこの異常事態に戸惑っており、イナリ様を妖と疑うなどと愚かな事をいたしました」
信長はお世辞を言う。
実際のところ不思議な力があるっぽい謎の狐耳幼女で、魔物の類かもしれないとはちょっと疑っている。
力が未知数だし、これまで出会った魔物と違っていきなり襲ってくるわけでもないし対話もできるなら情報を引き出せるかもな、と言ったのは信長だ。
どちらにせよ善良な存在なら魔物であっても神であっても使ってやる、とつぶやいた信長は滅茶苦茶魔王みが強かったので少し震えた(私の乙女心が)。
しゅきぃ♡
「では改めて、わらわも自己紹介とするかの。
わらわは伏見の宇迦之御魂神様の眷属で、豊穣を司るお力を補佐するイナリである!
熱田さまへ宇迦さまのお手紙を届けるという偉大な使命を果たすため熱田に訪れていたところ、この迷宮が現れての。鬼どもが出てきて畏れ多くも社を壊し始めたのじゃ。
わらわは加勢すると言うたのじゃが、熱田さまは「あなたは小さいのだからここで待っていなさい」とおっしゃっての。
お世話係の鬼太郎を付けてくれたのじゃが・・・
それ以来誰も来ぬので飽きたのじゃ。
のうきちょー?熱田さまはどうなったか知らんかえ?
まさか熱田さまがあの程度の鬼どもに敗れるとも思えんが、
わらわのこと忘れてるんじゃないかと気が気でないのじゃ。
ここは静かすぎていかん。熱田神宮でまた団子をもらって食べるのじゃ!」
これは・・・
私は信長を見る。
信長は苦々しい顔で絞り出すように言う。
「イナリ様・・・大変申し上げにくいのですが・・・」
「どうしたのじゃ?」
「熱田さまがいかようになったかは我らも存じませぬ。
ですが、熱田神宮は・・・」
「おお、神宮!さすが熱田さまを祀り厚く加護を受ける神域であるな。
静謐で美しい社殿は伏見にも負けず劣らず!
また巫女に面白いお話を聞かせてもらうのじゃ。
だからはよう外に連れ出してくりゃれよ?」
楽しそうに在りし日の熱田神宮を語るイナリちゃん。
・・・残酷な事実を告げねばならない。
逡巡していた信長は意を決して言った。
「・・・イナリ様、鬼の噴出により熱田神宮は破壊されてしまいました。
宮司や巫女も・・・避難できた者はおりませぬ」
「え・・・」
イナリちゃんの顔が青ざめる。
「そんな、馬鹿なことが!熱田さまの加護を受けた神宮であるぞ!!
それがそんな、そんなバカな事!
ははーん、そなたわらわをからかっておるのじゃな?
ノッブよ、そなた人が悪いぞえ?
面白くもない冗談はやめよやめよ!」
信長は押し黙って首を振る。
イナリちゃんは助けを求めるように私に問いかける。
「嘘じゃよな、嘘だと言ってくりゃれきちょー、熱田が、神宮がもうないなど、おうめのお話も、おかるのお団子も、もう、のうなってしまったなど、嘘じゃと言ってくりゃれきちょー・・・」
私は目をそらすしかない。
熱田神宮は、在りし日を想像できないほどの破壊を受けてしまった。
熱田の町自体が廃墟になっている。
魔物の出現地点になった神宮から逃げられた人がいたという話は、聞いていない。
信長が熱田に進攻できたのは、熱田でブラブラしてた久助と慶次が町の端で魔物の噴出を知って即座に那古野の信長に知らせたからだ。
神宮に近いところに住んでいた人たちは・・・
そして、イナリちゃんは大声をあげて泣き始めた。
あまりに哀れで、私は立ち上がりイナリちゃんに近づき、その小さな体を抱きしめる。
幼い女の子が泣いているのに抱きしめてあげることしかできない自分がもどかしい。
私も幼い?まあそうだけど前世の分も入れたらノーカンというものだ!
イナリちゃんは私にひしっとしがみついて泣いている。
もふもふのしっぽが力なく揺れてあまりに痛々しい。
信長も護衛のみんなも悲痛な顔を隠せないでいる。
・・・そうか、皆何度もこんな場面に立ち会っているんだ。
すごいな、みんな。
しばらく泣き続けたイナリちゃんは涙をぬぐって私から離れた。
そしてキリっとして言う。
「ありがとうのきちょー。少し落ち着いたのじゃ。
皆、恥ずかしいところを見せたの。
・・・ノッブ、いったい外はどうなっておるのじゃ?まさか熱田さまが敗れるとも思えぬが、外がどうなっているのかわらわは何もしらぬ」
「・・・イナリ様はどれほど前からこちらに?」
「そうじゃの、熱田に来たのが確か・・・智仁が帝になったころじゃったかの?それから熱田で遊んでいたらこの騒動じゃ。宇迦さまが「そろそろ帰ってこないとお尻ぺんぺんしますよ」と手紙を送ってきたので帰ろうとした矢先の事での。早く帰らぬと宇迦さまに怒られるのじゃ」
「智仁・・・帝・・・?」
今の天皇陛下じゃないか!もう即位して20年は経つんじゃなかった?
神様だから時間の概念が私たちと違うんだろうか?
信長も絶句している。
「では、関東の騒動や各地で魔物があふれ魔境が広がっていることもご存じないと・・・」
「ま、まさか、あの鬼どもが溢れておるのか!?日ノ本中に!?」
信長は神妙に頷き、関東が魔境化して以来、各地で魔物が溢れて大混乱に陥っていることを語る。
「なんと、なんという事じゃ!これはいかん、早く伏見に帰って宇迦さまの指示を受けねばならぬ!きちょー、ノッブ、わらわを早く出してくりゃれ!このままでは日ノ本が危ういのじゃ!」
大層大慌てである。当然か。
監禁されて情報が何も入ってこなければこうもなる。
二つ返事でいう事を聞いてあげたいが、まだ聞きたいことがある。
「イナリ様、それはもちろんわたくしたちもご協力いたしますわ。
その代わりと言っては何ですが、いくつか教えていただきたいのです」
「そんな事は後で・・・いや、いかんな。慌ててどうにかなるものでもないのじゃ。
慌てたときほど落ち着くのですよと宇迦さまもいつも言っておるのじゃ。
・・・きちょー、聞きたいこととはなんじゃ?」
「先ほどイナリ様は女子の身で迷宮に入り鍛錬を始めたわたくしに興味を持った、とおっしゃってましたね。
わたくしはイナリ様がそういう術をお持ちなのかと思ったのです。
千里眼のような。それで・・・」
「のう、きちょーよ。その気持ち悪いしゃべり方はやめてくりゃれ。
きちょーはノッブといる時みたいに話す方がわらわは好きなのじゃ」
「え・・・」
「きちょーの言う通り、わらわは千里眼の術を使えるぞよ。
まあ、まだ修行中なのでこの迷宮の中しか見えなかったのじゃが。
あまりに退屈での。迷宮に入ってきた人を眺めて過ごして居ったら女子が入ってきて、面白く眺めておったのじゃ。
だから、きちょーがいつも話して居った様子も知っておる。
鬼太郎に転がされて泣いているところものう?
だから、いつも話していたように話してくれないとわらわは落ち着かんのじゃ。」
「そ、そうなのね。じゃあ、いつものように・・・」
「姫様!」
「おさきも、固いこと言わんでほしいのじゃ。
わらわ、きちょーに冷たくされたらまた泣いてしまうのじゃ・・・」
しょんもりと言うイナリちゃんにさすがのおさきも何も言えない。
結構策士なのかしらこの子。
しかしこれは良い大義名分を手に入れたね。
私の姫ムーブはイナリちゃんの前では封印である!
いやー残念だなー私の姫ムーブ力を披露するのはやぶさかではないのだけども、神様(暫定)が要らないって言うんだもんなーしょうがないよねー
などと思っているとおさきは私を睨む。
(帰ったら姫ムーブ訓練2倍にしよう)
と思ってる顔だ。
私も心を読む力を手に入れたようだ。わかりたくなかったよ!!
私がひきつっていると信長が話を引き取って言う。
「お話ししたように、我らは魔物どもと戦っております。
イナリ様のご存じの術を我らが使う事は可能でありましょうか?
可能であれば、きっと魔物退治の助けとなるはずです」
「ノッブもきちょーたちと話すように話してくれてよいんじゃよ?
あー、術か。それはできるか否かと言われれば可能じゃよ。
だが普通の人には無理なのじゃが・・・ノッブやきちょーならば大丈夫そうじゃな。
お主らには見えないであろうが、魔物を退治して鍛錬を重ねたお主らはとても充実した「気」をまとっておる」
「気?」
「何といったらいいのかのう。体を覆うようになってるのじゃ。こう、ぎゅいーんと。
昔は京のおんみょーじとかの一部が使って居ったんじゃがな。最近はほとんど使えないらしいの。
気が充実して居らぬものばかりゆえ、仕方がないのだがの」
「なるほど。なるほどなるほど!!
イナリちゃん!ぜひ私に魔法をおしえて!なりたかったの魔法少女!!
テクヤクマヤコン、ムーンプリズムパワーメークアップ!私ってホント馬鹿!
あ、最後のは違う。とにかく、魔法を使えるなら何でもしちゃうよ私!」
「お、おう。急にぐいぐい来るのう。では、外に連れ出してくれるかや?」
「まっかせて!行こう行こう!!
で、どうすればいいの?」
「簡単じゃ、きちょーがわらわと手をつないで鳥居をくぐってくれればよいのじゃ。
外に出れば術の書き換えは何とでもなるのじゃ。
この場所も迷宮内の休憩所にはなるじゃろ。
鬼太郎に管理させれば快適じゃよ」
「うわあ簡単設計。鬼太郎(糞ゴブリン)と一緒には出られなかったの?」
「あ奴はわらわのために熱田さまが寄こした小鬼での。式神のようなものじゃ。迷宮でうろつく小鬼と一緒にしてはならんぞ。帰蝶よりもずっと強いのじゃ」
「う、それは身に染みてるけども。いつか勝つけどね!」
「あのまま迷宮の奥に入ったらきちょーは死んでしまいそうだったのでな、稽古を付けてやるよう言ったのじゃ。ずいぶん笑わせてもらったぞよ」
思い出し笑いをするイナリちゃん。
ちょっと悔しいけど少しは元気になったんだろうか。
幼女がくふくふ笑っているのをみて皆ほっこりしている。
つーか皆、「なるほどやっぱり稽古だったのか」って顔は隠せ!
「きちょーはここに来て鬼太郎に稽古を付けてもらうとよいぞよ」
みんな、うらやましそうな顔しないで!
あいつは強いけど、言ってることがわかるとマジでムカつくんですよ!!
あーあいつの言葉なんてわからない方がよかった。
術を解除してもらえないかな。
そう聞くと
「いやじゃ。鬼太郎とやりあう帰蝶が面白いので解除しとうない」
とか言いやがる。
畜生、神は死んだ!
目の前にいるけどさ!
はたして帰蝶ちゃんは魔法少女になれるのか。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
よろしければブクマ、感想、ポイント等々なにかリアクションしてくださると作者が奮起したりしなかったりします。




