第24話「この侍女、脳筋につき」
3連休最終日なので第24話。
読みに来てくださったことに至上の感謝を。
「あ、ああ、ああああああああ!!」
私は雄叫びを上げる。
命を奪った。
魔物だけど。
人類の敵だけど。
私は、命を奪った。
なぎなたを手放し、手を突いてうずくまる私を、信長が叱責する。
「得物を手放すな!周囲に目を向けろ!殺した直後が一番危ういんだぞ!」
私はあわてて立ち上がり、身構える。
周囲は、静かだった。
護衛の皆が警戒してくれている。
おさきは泣きそうな顔で私を見ている。
私は。
私は・・・
放心状態で陣屋の部屋に座っている。
あの後、何度か小鬼と遭遇し護衛たちが難なく倒していた。
ドロップも出た。
私は放心状態で、それを見ているだけだった。
おさきが一匹の小鬼をサクッと切り捨てていた。
私はそれも無感情に見ているだけだった。
私は、無様だ。
もう外は暗く、月明かりが障子越しに部屋をほんのりと照らす。
私は暗い部屋で一人、今日の殺しを思い返している。
「いやだ」
「ころさないで」
「ゴブをころすなんて、そんな、ひどい・・・」
小鬼がそう言っていたように思う。
頭の中の小鬼が、ゴブリンが私を責め立てる。
迷宮で平和に暮らしていただけなのに、どうして殺した?と。
罪悪感で、ナーロッパとか言って殺しを正当化した自分に吐き気がする。
「異世界に行って殺せないよ~とか言う情けない主人公見るとイラつくよね!」
とか言ってた前世の私をぶん殴りたい。
命を奪うってこんなに重いんだ。
なのに私は・・・
と、思考の沼に沈み込んでいると部屋の外から声がかかった。
「姫様、入りますよ。」
おさきだ。
返事をする間もなく、おさきは部屋に入ってくる。
そして起きている私をみて、ため息をついた。
「やっぱり。寝られないのですね?」
私は無言でうなずく。
「そういう時は呼んでくれて良いのですよ。お話相手でも、何でもするのがさきの務めでございます。」
「・・・でも、おさきも疲れてるのに。」
「姫様がつらく苦しい思いをしているのに、さきが寝ていられるはずもございません。それに、あの程度で疲れるようなやわな鍛え方はしておりませんよ。」
「・・・おさきはすごいねえ。小鬼を殺しても、平気なの?」
そういうと、おさきはきょとんとして
「ええ、平気ですよ。あれは人に害なす敵。敵を屠ってどうして気に病むことがあるのです。」
と言う。
私はいたたまれなくて、どうしてもつらいのだと訴えた。
「私、わたしね、初めて生き物を殺したの。こんなに重いものだなんて思わなかった。ゲームみたいに思ってた。絶対、絶対にそんな風に思っちゃいけないのに。なのに、私は・・・」
「そうですか・・・確かに初めて生き物を殺すのは、心にきますね。さきも、初めて人を殺したときは3日ほど寝られませなんだ。今の姫様と一緒ですね。」
軽くすんげえことブッコんで来たなこの子!
とても驚いていると。
「故郷は美濃の田舎でございましてね。野盗崩れは多うございました。たまたま父も兄もいない時に家に押しかけてきた足軽崩れどもがおりまして・・・まあ大したことない農民崩れどもで、敵ではなかったのです。母が3人、さきは2名を切り殺しました。」
「は・・・マジで。やべえ。」
「ええ、それはヤバい状況でございましたよ。殺さねば、今ここにさきはおりませぬ。」
「・・・それは、確かにそうだね。」
「姫様。姫様の志はこのさきめも理解しております。女子が強くならねばならない理由も。ですが、姫様がこんなになってまで、先頭に立たずとも良いと思うのです。・・・命じてくださればこのさきが世の女子の先駆けとなってみせましょう。どうか、どうかご自愛くださいませ。」
「・・・」
「こう言っても、姫様がご自身を曲げられる方でないというのは理解しています。そこを何とか曲げて、さきのお願いを聞いてはくださいませんか・・・?」
懇願。いつも冷静なおさきが私に。
声は心なしか震えている。
こんなおさきは初めて見る。
私は・・・
「・・・おさき、心配かけてごめんね。でも今は、やめるわけにはいかないんだ。
おさきに戦わせて、私は奥で守られるなんて嫌なの。それをしてしまったら、私は一生ノッブの隣に立てなくなる。本当の意味でただのお飾りのお姫様になっちゃう。」
「姫様・・・」
「お姫様でいられたら良かったのになぁ・・・小鬼を殺すことが、こんなに辛いなんて・・・」
私がため息をつくと、おさきは居住まいをただして頭をさげ、言った。
「・・・姫様のお覚悟はわかりました。
このさきも、姫様とともに世の女子の先駆けとなりとうございまする。」
「おさき?」
「姫様はなぎなたがへたくそでございますからね。なんですか今日の体たらくは!あれほど鍛錬に付き合ったさきまで弱いと思われては心外でございます!」
「あ、あうう、それは申し訳のしようもなく・・・」
「敵に情けをかけてはなりませぬ!あれは小鬼。人に害なす敵です!いちいち心を痛める必要などございません!」
「そうは言うけどさ、生きてる命を奪うんだし・・・」
「死んだらあっという間に消えるモノが命であってたまりますか!あんなもの、さきは命ある生き物などと認めたくありませぬ!」
「は?」
おさきの言葉にはっとする。
そうだ、そうだよ。
・・・あれは、本当に生命か?
人を見ると襲ってきて、死ぬまで戦って、死ぬと消える。
時にはアイテムまでドロップする。
あまりにも、あまりにもゲーム的ではないだろうか。
あの小鬼に意思はあるのだろうか?
輿入れ行列(外)の襲撃で見た小鬼たちとはどうも様子が違った。
あの時の小鬼どもは私をみていやらしく笑っていた。
腰蓑の一部は膨らんでいた。
何より臭かった。
血も緑色で、ひどい臭いだった。
迷宮のなかの小鬼とは明らかに違う。
迷宮の中の小鬼は、臭いがしなかった。
風呂に入るきれい好きかと思ったけども。
こちらを憎々し気に睨んではいるけど、あの表情は動いていたか?
腰蓑は膨らんでいた?
血を流していたか?いなかった。
あんなに近くで胸になぎなたを突き刺して殺したのに、返り血を浴びていない。
護衛たちも、昨日慶次が自分の血で汚れた以外、返り血を浴びてはいなかった。
どういう理屈だろうこれ。
もしかして迷宮の中の小鬼は、ゲーム的な存在でしかない?
突然黙って考え始めた私におさきが訝しげに声をかける。
「姫様?どうされました?」
「うーん、考えてもわからん!でもありがとうおさき!私、これからは安心して小鬼ぶっ殺せそう!」
「姫様!お言葉使いにはお気を付けくださいといつもあれほど・・・なんだか元気になられたようですね。」
「うん。私、小鬼が命ある生き物なのかと思って気に病んでたんだけど、よく考えたら別にいいかなって!おさきのおかげだよ!」
笑ってごまかす。
今は考えても仕方がない。生き延びられるようになってから考えることにする!
外にいる魔物と迷宮の中の魔物、なにがどう違うのかはわかんないけど、あれはゲーム的にレベル上げできたり資源集めできるダンジョン!
それでいい!
もうどうにでもなあれ!
「それはようございました。明日は体を休めて、那古野に帰りましょう?鍛えるにしても、姫様はまずなぎなたをもっと磨く必要がございまする。」
「いやいや、また明日も潜って小鬼を倒すよ!レベルアップしたほうがなぎなたも強くなるはず!多分!めいびー!」
「意味の分からない言葉を使って煙に巻こうとしてもダメでございますよ!では、明日から朝起きたらなぎなたの鍛錬でございます!小鬼退治はそのあとですからね!」
「ひょええ、ほどほどにしてくださいましぇ!」
「そもそも、あんな小鬼に恐れをなしてどうします!
今日殺してみましたがさきの細腕でも殴り殺せますよあんなもの。
今は大鬼にはちょっと分が悪うございますが、私も鍛えて殴り殺してみせますとも!」
おさきが脳筋であることが分かった。
薄々そうなんじゃないかな?と思っていたがこれで確定。
どうりで鍛錬が厳しいはずだ。
これからもっと厳しくなるんだろう。
私は頭脳派のはずなんだが。
魔法があったら魔法少女になるぞ。絶対にだ!
あっ最近の魔法少女は肉弾戦メインであった。
つらたん。
最近の魔法少女って魔法でみんなを笑顔に、とかあんましないよね(偏見)
おさきもまた、残念な人ではあるのです。
今話も最後までお目通しいただき、誠にありがとうございます。




