第23話「お前がやれ」
3連休の最終日なので第23話です。
見に来てくれて感謝いたします。
翌日の昼過ぎ、私は再び迷宮の前に立っていた。
侍女たちにはもうこれ以上ないってくらいに止められて、私になにかあったら後を追いますると白装束で正座待機を始めそうだったのでなだめるのに苦労した。
尾張の英雄織田三郎さまがそばにいるのに何かあろうはずもないとにっこり笑ったら
「それもそうか」となったのはちと思うところがないわけでもない。
でもやっぱり英雄のネームバリューは半端ない。
説得力が段違いだ。
一応姫なんだけども、やっぱり奇行を繰り返す私の信頼度はあんまりないようだ。
ちなみに、私自身で戦うという事は話していない。
余計な心配をかけるし止められるのを説得するのも煩わしい。
普段しないまとめ髪にしてもらうときにおさきは何かを察したようだが、黙っていてくれている。
彼女も今日は髪をポニーテールにして鉢巻きをつけてまるで部活女子である。
私もおさきも袴をつけて、何かあっても動ける格好だ。
本当は鎧兜つけたいけど、さすがの私もあんなの着けて動ける気がしない。
ああいうの着けて動くのも訓練が必要なんだよねえ。
しっかし髪をまとめる時に例のシリーズの看板セイバーさんの髪型にしてもらったけども、黒髪じゃなんか映えないねこれ。
私もレベルアップしてセイバーさんみたいに戦えるように、という気持ちを込めたつもりだけんども・・・なれるかなあ。
なれないんだろうなあ。
基本どんくさいからね私。
護衛は昨日と同じメンバーだ。
なんと慶次もニヤニヤ笑って何事もなかったかのように合流してきた。
「慶次はお医者様に診てもらってるんじゃないの?」
と聞くとわざとらしく
「これはしたり。濃姫様に忠を捧げた拙者の役目を果たさなくともよろしいので?」
と笑みを深める。
むむ、これが傾奇ムーブ。ちとかっこいいな。
今度真似しよう。
実際のところ、傷の後遺症も血を失ってふらふらするとかいう事もなく五体満足でぴんぴんしてるんだそうな。
薬がすごいのか慶次の体がおかしいのかは全然わからんとお医者さんはさじを投げたそうな。
薬の存在も疑われたらしい。
まあアレ一本しか出てないからしょうがないよね。
今日も出るといいんだけど。
そんで、信長はなんか長い大太刀?を背負ってる。
昨日の帰りに犬千代くんが引きずってた奴だ。
どうも大鬼がドロップしたものらしい。
私たちが慌てて帰ろうとしていたら大鬼が消えた跡に落ちてたそうだ。
あの非常時に冷静にドロップ品探して回収するなんて、なんて良い子なんだろう。
ワンコ属性強すぎん?
忠犬枠ケモミミショタ・・・いかんいかん。
とにかく、大鬼が落とした大太刀を信長が持っている。
どうしたの?と聞くと
「俺の力が強すぎて普通の刀や槍じゃすぐ折れちまうんだ。犬千代が持って帰ったこれが案外ちょうどよくてな。なまくらだが、小鬼や大鬼ならこれで殴れば十分殺せる。」
と笑う。
そういえば昨日も大鬼に刺したときに刀が折れてたね。
普通の戦国武器じゃそれなりの魔物には通用しないってことなんだろうなあ。
良い武器も研究しないといけないんだろうな。
武器の作り方なんか知らないんですけども!
「帰蝶、固くなるなとは言えんが、肩の力を抜け。」
・・・わかっちゃうのかあ。
今日、私は迷宮で魔物を殺す。
昨日信長の前で気合を入れたけれど、正直怖い。
私、前世から虫も殺したことないんだよ。
ゴ〇ブリとかクモが出てもワーワーわめいて泣いてるだけのポンコツっぷりだった。
帰蝶になってからも、料理もほとんどしたことないし、魚をさばいたこともない。
姫様の仕事じゃないからだ。
でも私は今日魔物を殺す。
よく考えたらビビり散らかして動けなくなりそうだったから余所事ばかり考えてたけど、信長にはお見通しかあ。
まだ顔合わせてそんなに経ってないんだけど、なんでわかるんだろうね。
そんなにわかりやすいのかな。
「安心しろ。すぐ傍に俺がいる。絶対にお前に傷一つつけさせん。」
頭に掌をポンと乗せて言ってくれる。
・・・腹をくくろう。
今日の迷宮行きの目的が何なのか、皆には伝わっているようだ。
おさきの目が鋭い。ごめんよおさき。でも私がやらなきゃいけないんだ。
護衛の3名は昨日より気合が入っているように見える。
そうして迷宮に入り、ほの明るい中を昨日と同じような隊形で歩いていく。
道の先に、小鬼が2匹。
心臓がドクンと跳ねて、バクバクと鼓動を打つ。
なぎなたを握った掌がじっとりと汗ばみ、視界が狭まった。
息が苦しく感じる。
完全に固まっている私の頭に、やさしく掌が乗せられた。
信長だ。
「いきなり2匹は戦わせたりさせねえよ。今はよく見ておけ。」
「あ、う、うん。」
息が楽になった。
まだ私は殺さなくていいらしい。
こんなことでいいんだろうか。
そうしているうちに慶次と犬千代くんが小鬼に駆け寄り、有無を言わせず倒してしまった。
「姫様、あいつらは何も持ってなかったぜ・・・です!」
犬千代くんはとても良い子だ。
そして魔物を殺せる。
こんな子供でも殺し殺されが当たり前の戦場にでなきゃいけないなんて、というのは前世の私のおごりなんだろうか。
その後も、小鬼を見つけては護衛が倒して回る。
ドロップ品も結構出て、今日はポーションが2本も出た。
持ち帰っていろいろ試してみるらしい。
今日はもう終わりかな、というところで、小鬼が1匹だけでいるのを見つけた。
「帰蝶、いけるか。」
信長が言う。
私は固まった。
ついにこの時が来てしまった。
「はひっ!」
裏返った声で返事をして、なぎなたを構え前に出る。
小鬼がこちらに気付いたようだ。
「ギャッギャッ」となにかわめきながら手に持ったこん棒をふりあげてこちらに向かってくる。
遅い。
でも怖い。
私はなぎなたを突き出して小鬼を近づけないようけん制する。
おさきに特訓してもらっておいてよかった。
子供のころから練習していたのは無駄じゃなかった。動けてはいる。
でも本当に怖い。
「ギャッギャッ」
小鬼は私を憎々し気に睨みながらこん棒を振っている。
感情が読めないのがなおさら恐怖を煽る。
そして小鬼がこん棒で私のなぎなたを払いのけようとした時、私はすっと薙刀を引いて空振りさせる。
何度も練習した技だ。
空振りした小鬼の無防備な体に渾身の力を込めてなぎなたを突き込む。
が、私のなぎなたは空を切った。
私は不器用だ。
なんでか振ったり突いたなぎなたは巻き藁になかなか当たらなかったことを唐突に思い出す。
なんとか最近は当たるようになってきていたのに。
おさきもとりあえず合格と言ってくれたのに。
だから私は小鬼を殺すって決めたのに。
まさかここで、致命的な失敗になるなんて。
たたらを踏んだ私はゴブリンの目前で無防備な体を晒しており、ゴブリンがこん棒を振り上げてニヤリと笑ったような気がした。
続く衝撃に備えて、私はぎゅっと目をつぶった。
「そこまでだ。あぶねえなあ。」
衝撃は来なかった。
目を開けると、信長が小鬼のこん棒を持った手を握り、止めている。
万力のような腕力で拘束され、小鬼は動けないようだった。
「あ、の、ノッブ、私・・・」
「どうする。やめるか?俺がコイツをやってもいい。」
小鬼はわめいている。
「あ、あう、その」
「帰蝶。別にお前がやらなくてもいいんだぜ。殺しはお前には似合わねえよ。」
やさしい声。私を思いやって言ってくれてるとわかる。
でも。私は。
信長は続ける。
「だが、それでも、こっちに来たいっていうなら。
俺の後ろでなく、隣に立ち続けたいと言うならば。
お前がやれ。お前が、お前の意思で、お前の手で、こいつを殺せ。
・・・できるか?」
厳しい声。
これが、織田信長。
史実で魔王とまで呼ばれた男。
でも私はこの人が優しい人だと知っている。
きっと、裏切りに次ぐ裏切りに、疲弊したんだろう。
苛烈でなければ、人はついてこないと思ってしまったんじゃないか。
そんなのは嫌だ。そんな風になったこの人を見たくない。
だから私は、この人の隣に立つと決めた。
そう決めたんだ。
私は信長に拘束された小鬼の前に立ち、その胸になぎなたの切っ先を突きつける。
小鬼は動けない。相変わらず憎々し気にこちらを見て、ギャッギャッとわめいている。
それが私には、
「やめてくれ」
「ころさないで」
「ゴブゴブ、ぼくわるいごぶりんじゃないゴブ」
と言っているように聞こえる。
私は、それらを振り切って、小鬼に刃を突き刺していく。
粘土に棒を突っ込んでいくような感触。
私は息をするのも忘れている。
そして小鬼はひどく耳障りな悲鳴を上げて。
音もなく消えた。
<大鬼の大太刀>
迷宮に出現する大鬼が稀に携える大太刀。
人の手には余る重量を持つが、折れず、曲がらず、ただ重い。
斬るというより、叩き潰すための刃。
迷宮産の鉄は不思議と強靭で、故にこれは人外を屠りうる。
武器とは、結局のところ、殺せればそれでよい。
今話も最後までお目通しいただき、ありがとうございました。




