第20話「蒼いくすり」
いつも見に来ていただきありがとうございます。
昨日はお休みしたのでちょっと増量の第20話です。
その小鬼は珍しく短めの両刃剣を持っていて、数匹の小鬼を従えているように見えた。
しかし小鬼は小鬼でしかなく、護衛の皆にあっさりと切り捨てられた。
そしてそれまでとは違う、カツン、というか、コン、という音が、やけに耳に大きく響いた気がする。
ドロップ品を探して拾って私のところに持ってくる犬千代くん。
今のところこの仕事は彼のもの、という形に落ち着いている。
犬耳とブンブン揺れる犬のしっぽを幻視してしまうのは私がショタコンだからではない。
断じてそうではない。
ケモミミショタ・・・いや犬千代君がそれを持ってきたとき、私は震える手でそれを受け取った。
透明なガラスの小瓶に、金属っぽい蓋がついてる。
中身はなんか青くて、前世のコンビニで売ってた(そしてすぐ消えた)コラボ製品のポーションそっくりだ。ラベルはついていない。
あれおいしくなかったなぁ。消えてよかったよ。
定番化したら私は日本人の味覚をおかしいと思わざるを得ないところだった。
私の様子がおかしいのに気づいた信長が訝しげに見たとき。
私は小瓶を勢いよく開けて飲もうとした。
開かない。なんでだよ!こういうのコルク栓とかじゃないの!?
よく見たら蓋にギザギザがついてて、ひねって回す例のあの蓋だと分かった。
・・・いやこの瓶の大きさじゃリポ〇タンDじゃんかよう。
信長は驚いて私からリポDを奪い取ると、しかりつけた。
「何をしている帰蝶!こんなわけわからんもの飲もうとするな!毒だったらどうする!」
「つい、いや、その・・・興奮してしまって、すみません・・・」
しょぼくれる私を前に、信長は大きくため息をつく。
この様子に気づいた慶次がやってきて言った。
「姫さん、それも俺が毒見しようか?美味かったら役得だしな。」
ほほう、さすが大柄で胃が強い(自称)前田慶次。
かぶいておる
とてもかぶいておる。
そうなの?じゃあよろしく、と言おうとしたら信長に止められた。
「いいやだめだ。こんなわけわからんもの慶次になめさせられるか。
なんだこの瓶は。美しいが、中身の色がとても飲み物には見えねえよ。
帰ってから犬かネズミにでも舐めさせてからでもいいだろうよ。」
犬になめさせる、と聞いた犬千代君がなんだかうれしそうだ。
しっぽがブンブン揺れている幻が見える。
だが君じゃない。座っていたまえ。
しかし動物実験か・・・さすが信長、頭がさえている。
さすノブ。
どうですこのイケメンすごいでしょう。私の旦那です。
それはさておき確かにいきなり飲むのも問題だね。
ポーションとさっきから言ってるけど毒だったらどうする。
飲んだら男の子になってしまう薬とかだったらさすがの帰蝶ちゃんも姫様でいられなくなってしまう。
それは困る。
というわけで信長に同意し、今日のところは帰ろう、謎の小瓶の中身も早く調べたいし。という事になった。
迷宮の出口へ向かう道すがら、信長に聞かれる
「んで、お前にはあの小瓶は何に見えてるんだ?」
「うーん、とっても便利なものだよ。私の思ったとおりだったら、人死にを減らせるかも。」
「ふーん、もしかして薬か?」
「そんな感じ。今ある薬よりはとてもよく効く、と思う。調べないとわかんないけど。」
「帰蝶が思ったとおりだったら相当ヤバいな。すぐに調べようぜ。」
「そだね。あー、興奮したけどやっぱり疲れるや。もっとお稽古頑張らないと。」
なぎなたや短刀のお稽古だ。大嫌いだけど、ランニングもした方が良いかもしれない。
でも姫様やってると走らせてくれないんだよなぁ。
誰に言ったらいいんだろう。土田御前?あの人なんかこわいんだよなぁ。
全然話してないや。姑コワイ。ジッサイコワイ!
とか思ってた時だった。
「!? 慶次、気をつけろ!何かいるぞ!」
信長が先頭を歩く慶次に大声を発した。
慶次はちょうど曲がり角へ差し掛かったところで。
無骨な、大きな鉈のようなものに、切り倒された。
どうと倒れこむ慶次。
吹き出た血が赤い。
そういえば、小鬼を倒してた時に血が出てないな、と今更になって思った。
慶次の様子はうかがえない。
大鬼が、いた。
「ちっ!久助、女子を守れ!犬千代もだ!」
「殿!」
久助と犬千代に指示を飛ばした信長は、矢のように飛び出した。
腰から抜いた太刀を突き出し、凄まじい速さで大鬼を串刺しにし、壁に縫い付ける。
刀が折れたが、構わず大鬼を殴り続けている。
大鬼は、やがて消えた。
ごとんと、鈍い音が響いた気がする。
私は、その音を認識した瞬間、慶次に駆け寄った。
「慶次!!」
慶次は真っ青な顔で倒れ伏している。
あのニヤリとした笑いも今は無い。
「油断したぜ・・・姫さん、心配かけてすまねえ・・・」
「しゃべらないで!」
手や着物が汚れるのも構わず、傷を抑える。
右胸からわき腹にかけて大きく開いた傷からは、どくどくと血が流れ続ける。
・・・このままじゃ、死んでしまう。
「慶次!これは・・・」
信長が駆け寄ってきて、慶次の様子を見て息をのむ。
わかるんだ。信長には。
私にだってわかるんだもの。
これは、助からない傷だ。
でも、助からない傷も助かるかもしれない。
「おさき!おさあああき!!あの瓶!あの小瓶持ってきて!早く!急いで!!」
おさきがはじかれたようにこちらを向き、ぶら下げていた小袋から慌てて瓶を取り出して私に渡す。
私が瓶を開けようとするのを見て、信長が肩をつかんで止めた。
「何をしている帰蝶!それはまだ何かも・・・」
「黙っててノッブ!今使わなきゃ絶対後悔するの!」
「ひ、姫さん、旦那のいうこたぁ、聞いた方がいいぜ、俺ぁもうだめだ。犬千代、いぬちよを・・・」
「うっさいだまれ!!まだ早い!あきらめるのはまだ早い!私はこういうのが嫌だからナーロッパ作るって決めたんだ!だから黙ってみてて!慶次も!遺言なら後でやれ!!」
信長を振り払い、小瓶を開け放つ。
甘いような、青臭いような、嗅いだことのない臭いがした。
そして青い、蒼い液体を、慶次の傷に振りかけた。
まず、血が止まった。
ゆっくりと傷が動き始める。
ゆっくりと、だが確実に傷が逆再生するかのように塞がっていく。
慶次の周りに立つ皆の驚いた声が聞こえる。
「な、なんと、こんなことが・・・!!」
「ひ、姫様、これは一体・・・あの小瓶の中身は、薬、なのですか?」
「慶次、しなねえのか?・・・それはよかった、あ、よかったです!」
私は黙って傷が治るのを観察している。
信長は目を見開いて見ている。
たぶん、信長はこれの危険性を十分わかっていると思う。
お米や麦、砂糖や塩でもまずいとすぐわかった人だもん。
分らないはずがない。
さすが私の旦那さま。しゅきぃ・・・!
傷が消えるまでに結構時間がかかったように思う。
慶次は、まるで何事もなかったかのように立ち上がり、腕をぐるぐると回し、目をぱちくりとさせると。
真顔になって、私に跪いた。
「姫さん、いや濃姫様。・・・どうやら俺は貴女に命を助けられたらしい。
・・・この前田慶次郎利益、貴女様に生涯の忠をささげまする。」
・・・濃姫?そういえば史実で帰蝶は濃姫ってよばれてたなぁ。
美濃から来た姫って意味だって呼んだことがある。
そっか、家臣だから帰蝶って呼ぶのは畏れ多いとかそんな感じか。
信長の事も家臣が信長って呼んだらあんまり失礼でイヤー!グワー!ってされてもしょうがないもんね。
つまりあだ名みたいなもんか。
ところでこういうのいいのかしら。
生涯の忠って。私信長の嫁なんだけども。
もしかしてマジでモテ期なんだろうか。
いやあ確かにポーション使った私はまるで聖女であったわけなんだけども!
いやーまいっちゃいますねえ!
でも私人妻だからなあ!
お姫様の専属護衛とかあの花の慶次にさせちゃうのもなぁ!
確か慶次は前田家の跡取りになるために養子になったとかなんとか読んだことがあるんだけども!お家の事はいいのかしら?
帰蝶ちゃん美少女だからよくわかんない!
こういう時どういう顔したらいいの信長!?
血まみれの手をプラプラさせながらボケっと慶次を眺めていると、信長が助け舟を出してくれた。
「あー、帰蝶。慶次はお前の麾下に置く。それでいいな、慶次?」
「はっ!この身に変えても濃姫様をお守りします!」
「ああ、頼んだぞ慶次。・・・励めよ。」
ふおお、信長の「励めよ」いただきました!
戦国モノでこれ読んだ時すげえ萌えました!
かっこよ!これはノブ×慶次来たか?
とか久々の腐妄なことを考えていると、信長ため息をついてから私に言う。
「はあ・・・つまり、あれは傷をすぐさま治す神薬だったわけだ。ありがとな帰蝶。お前のおかげで慶次を失わずに済んだ。」
「へ、あ、ううん。いいんだよ。あはは、あー、もしあれが毒だったらどうしようって、今更怖くなってきた。良かったぁ治って。慶次、もう痛くない?苦しかったりだるかったりしない?」
「大丈夫です濃姫様。むしろ腹が減りましたな!そろそろ帰って飯にしましょうぜ。」
「あはは、その様子なら大丈夫だね。さ、帰ろうかノッブ。慶次の傷がほんとに治ったかお医者様に見せなきゃ。」
「そうだな。・・・それと皆、わかってると思うが今日の事はすべて口外法度だ。口を滑らせてくれるなよ。俺はお前らを斬りたくないからな。」
皆は頷いて、私たちはまた出口に向かうのだったのだが、
「・・・あれ、犬千代くんは?」
犬千代くんがいないな?と思ったら、なんか長い棒みたいなのを引きずって後ろを付いてきていた。
それは、長く大きく、何より大雑把すぎた。
それはまさに鉄塊だった。
キミ、よくそんなもん引きずって歩けるね?
9歳の子供でしょうよ。
私と目が合った犬千代くんは、フリスビー取ってきたから誉めろと言わんばかりのわんこのようににっこり笑った。
私はショタコンではない。
断じてそうではない。(2回目)
〇蒼い小瓶
迷宮内で組頭格の小鬼がまれに落とす小瓶。
中の液体を使うと傷が回復する。
この日、前田慶次、蒼薬を浴び命を繋ぐ。
以後、この霊薬は織田家の軍制を一変せしめ、
征魔体制確立の礎となる。
当時、これを奇貨と見抜きしは帰蝶のみであったという。
『信長公斬魔録』巻四より
まあこんな感じです。
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