第14話「血濡れの英雄」
土曜日なので第14話です。
まあ帰蝶ちゃんは今は美少女なのでそれでよいではないか、という事で話を続ける。
「とにかくね、私は500年後の世界で事務・・・そうだねえ、勘定方?のような仕事をしている普通の・・・普通じゃねえな。まあ、そういう仕事をしていた女でした!」
「そんな、姫様のような者でも勤まる仕事などあるのですか。500年後の日ノ本はすごいのですね。」
「うっさいわ!おさきさぁ!前から思ってたけど辛辣すぎ!もう少しやさしくして!帰蝶ちゃんは褒められて伸びるタイプなの!褒めて!」
「タイプがどういう意味か分かりかねますが、それは姫むうぶがうまくなってからとお方様と決めましたので。」
「ぐぬぬ、母ちゃんを出されるとぐうの音も出ない・・・」
「それで、その勘定方だった帰蝶はどうしてなあろっぱとやらを作りたいんだ?」
「あうう・・・えーとね、私はその未来で、その、なんて言ったらいいんだろう。
そう、物語!源氏物語とかあるでしょ?未来ではああいう物語がたくさんたくさんあるの!そういうのを特に好んで読んだり書いたり語り合ったりする、そういう愛好家だったのね?」
「ふむ・・・数寄者、のようなものか?」
「そうそうそれそれ!そんな感じの人だったのね。そんで、そういう人らが自分で書いた想像の世界の・・・ええと、軍記物とか、御伽草子?のようなものがいろんな人に読まれているの。」
「想像の世界・・・かぐや姫や桃太郎のような?」
「いい線行ってるよおさき。そうだね、欧州・・・南蛮の国のような世界とか、明のような世界とか、本当にいろいろあった。そこで書かれているものに、今の日ノ本に現れている鬼とかに似たものが、よく書かれていたの。それはもう、判で押したみたいに。
もちろん細かなところはそれぞれのお話で違うんだけど、昨日見た小鬼は、そういう物語でいう「ゴブリン」っていう魔物、人に仇なすバケモノに、よく似ていた。
そして、大鬼。あれは「オーガ」っていう、まあ日ノ本でいう鬼だよね。あれに似てた。」
「しかし500年後なのだろう?
今小鬼や大鬼がいるのだから、そういうものが物語に出るのは当然なのではないか?」
「・・・ほんといい線行ってるよノッブ。
さすが尾張の英雄。
でもね、私はそういう事じゃないと思う。」
「どういう意味だ?」
「私のいた500年後の日ノ本では、「小鬼」も「大鬼」も、空想のものでしかなかった。実在した証拠はなかった。
そしてね、実はノッブ・・・織田信長は私の知ってる歴史にも登場するの。
帰蝶もそう。斎藤道三も、今川義元も、みんなみんなちゃんと歴史に残ってる。
でも、私の知ってる歴史上、「鬼があふれて関東が壊滅した」とか「熱田から鬼があふれて尾張の半分が壊滅した」なんて歴史は無かった。
だから、この戦国日本は「私のいた500年後の日ノ本の過去じゃない」、そう思ってる。」
きょとんとした顔の二人。そうだよねえ、世界線理論なんてわかんないよねえ。
ちなみに私もよくわかってない。私の頭脳はオカリンにもかなわない程度でしかないのだ。
「まあ簡単にいうとさ、昨日の襲撃で私が死んじゃった未来と、死ななかった未来が、それぞれ別々に枝分かれしてそのまま続いてる、みたいに考えてみてよ。」
「姫様!そんな縁起でもないこと言わないでください!」
「たとえ話なんだよぉ。極端な例の方がわかりやすいでしょ?」
「・・・帰蝶がいた500年後の日ノ本は、妖どもが現れずにそのまま続いたもので、こことは違う・・・ということか?」
「そうそう、そんな風に私は理解してる。私の知ってる歴史のノッブはすっごいんだかんね。いっぱいいっぱいかっこいいノッブの物語が作られてたんだから!」
「そう・・・かぁ。帰蝶の知ってる歴史上の俺はどんな・・・いや、それは後でじっくり聞こうか。それで?」
「まあ私の予想でしかない話なんだけどねぇ。そういうお話もたくさん読んだからさ。
もう今の日ノ本はなんかおかしいよね、だから、私の知ってる形にしたらどうかなぁ?お話の中だけど、なんだかうまく回ってたしなあ、というのが「ナーロッパ」なわけです。」
「それだけではあるまい?」
鋭いねえノッブ。
「君のような勘のいいガキはきらいだよ・・・うそうそうそ!大好きノッブ!好きな物語で似たようなやり取りがあってつい出ちゃったのごめんなさいきらいにならなひでへぇえええ」
「・・・妙な物語ばかり読んだからこんな残念なことになってしまったのですねえ。」
しみじみ言うなよう!泣くぞ私は!
「うぉっほん。私も伊達や酔狂でナーロッパとか言ってるわけじゃないのです。
とても重大な問題に気づいてしまいまして・・・」
「重大な問題?」
そして私は、ナーロッパ化が必要な最大の理由を説明する覚悟を決めた。
だがその前に、仮説に確信が欲しい。
おそらく戦国日本で一番鬼を斬ったであろう、目の前のこの人に、話を聞きたい。
「それの説明の前に・・・ねえノッブ。
ノッブってすっごく強いよね。
おかげで私もおさきも助かったんだけど・・・
ノッブって、もともとあんなに強かったの?
もしかしてだけど、妖が出るようになって、小鬼を倒したりしてたらあんなことができるようになったりしなかった?」
「・・・なぜわかる?」
「とっても大事なことなの。熱田から噴出が起きた時の事、ノッブが自分の目で見たことを詳しく教えてほしい。」
「そうなのか。そうだな・・・
妖どもが噴出し、熱田が襲撃されていると知らせがあったんだ。
俺はすぐさま人を集め、熱田へ向かうことにした。
小鬼どもは弱く、統率も取れていない烏合の衆だ。
俺も槍を持って多くを討ち取ったよ。
そうして熱田に到着し、小鬼どもが熱田神宮から溢れていることに気が付き、境内に入ると本殿の前に巨大な洞穴が空いていて、小鬼どもはその穴から出てきているのを見た。
俺は、隊の者を率いて穴に押し入り、小鬼どもを根切りにするつもりだったが・・・
待て帰蝶、まさか・・・」
「多分ノッブが考えてるとおりだと思う。でも確認のため、熱田の穴から帰ってくるまでおしえて?」
「わ、わかった。
穴の中に入った俺たちは目を疑った。
中は明かりもないのに明るく、石造りの狭い通路が奥へ延びていた。
熱田神宮にこんな場所があるなんて知らなかったと言いながら進むと、分かれ道が続き、俺たちはすべてを右側を選んで進むことにした。
あれだけ外にいた小鬼はほとんどおらず、1~5匹程度がたまに出る程度だった。
正直俺たちの敵ではなかったが。
ある程度進んだところで、広い部屋があって、その奥に階段を見つけた。
下に続くものだったが、その前に、大鬼が2匹、たむろしていたのだ。」
「大鬼・・・」
おさきがゴクリ、と息をのむ。
私も正直おっかない。昨日のクソでか赤ターミネーターを思い出して少し震えた。
漏らしてないからな。
「100名で侵入した俺たちの隊列は伸びきっており、数の有利を生かせなんだ。
昨日の権三郎殿の方陣は見事だったよな。
最初に大鬼に行き会ったとき、俺たちは各個撃破されるに任せるままだった。」
「えっ、あっさり倒したんじゃ・・・」
聞いてた話と違う。噂はあてにならない。
「まさか。
俺の隊100名のうち、63名が死んだ。
みんないい奴だったんだ。バカだけど、俺を慕ってくれてな。
あんなむごい死に方をしていい奴らじゃなかった!
でもあいつら、殿軍になるから俺は逃げろって・・・
俺は逃げた!逃げたんだ!!
背中にあいつらの断末魔を受けながら!
俺は・・・おれは・・・!!」
「ノッブ・・・」
こぶしを握り締めて絞り出すようにいう信長に、私は何も言えない。
悲しいけども。とっても悲しいけれど。
私の予想が正しければ。
真の英雄は、その63名の兵士たちだと言える。
ちょっとして、落ち着きを取り戻した信長は、続けて語りだした。
「・・・俺は半分以下になった隊の連中と一緒に外に出た。大鬼が追ってこなかったのは幸いだった。
悔しさに任せて、熱田の町を蹂躙する小鬼どもを斬って斬って、斬りまくった。
隊が壊滅してるとかは関係なかった。槍が使い物にならなければ刀、刀が使い物にならなくなればその辺の木や石を握って小鬼どもを殴り殺した。
そうして信秀が軍を引き連れて現れて、俺は、俺たちは小鬼どもが居なくなっていることに気づいた。」
「・・・」
どうしよう。思った以上に重い話が出てきたぞ。どうしようこの空気。
さすがの帰蝶ちゃんも茶化すようなオタクムーブはできないよ。
英雄は血濡れだとどっかで読んだ気がするが、まさにそれじゃないか。
そして信長は語る。これが核心だ。
「信秀たちが来たのは二日後だった。
俺たちは、2日間、飲まず食わず、休まず眠らずで戦い続けた。
誰もそれに疑問を覚えなかった。
そして俺たちは信秀から補給を受け、一休みした後。
あいつらの仇を取りに、穴に飛び込んだ。
怒りのままにな。
敵わないまでも遺品はもちかえろうとな。
そして大鬼の前までたどり着いた俺たちは、
・・・その前の虐殺が噓のように、大鬼を容易く討ち取った。」
目をつぶって大きくため息をつく信長。そして。
「そういう事なんだな、帰蝶。鬼を、妖を殺し続けると、人は強くなるんだな。」
私は、大きくうなずいた。
「ステータス」でウインドウが出るような優しい仕様はございません。




