第10話「なでなではイケメンの特権」
そんなこんなで第10話です。
盛大にひとりナーロッパ建国宣言をかました私だったが、考えてみれば輿入れの途中だった。
「姫様、お目覚めならばお声をかけていただければ良いのですよ。」
おさきさん!また変なテンションになってんなコイツめんどくせえと顔に書いてあるよ!
「それとここは尾張の重要地津島です。勝手になあろっぱに改名してはいけませんよ?」
そういう事じゃないんだがまあ勘違いされたままでも別に良いので姫ムーブで謝罪しておく。
そのうちナーロッパ化した尾張で「さすきちょ(さすが帰蝶さまかわいいし最高!の意)」しか言えない体にしてやっかんな!
ナーロッパ建国計画(仮)はもっとこう、上から始めないといけないんだ。
最初に持ち掛けるなら、信長しかいない。
お湯で濡らした手ぬぐいで体を拭かれ、髪を梳かれる。
風呂がないんだよなぁこの時代。燃料が木に頼ってる以上無理もないんだけども。
石鹸もない。ぬかで汚れ落とすんだけど臭いし髪乾かすの時間かかるんで週1で洗えれば清潔な方。
正直現代人の記憶がある私にはつらい。
これもナーロッパ化したい理由の一つだ。
清潔にすることで病気の発生も抑えられるし、何より産業が生まれる。
人の動きが活発になる。
これは魔物退治の強力な動機になりうる。人類は欲深いのだ。
でも野放図にレベルアップさせては封建社会が崩れる。
大企業がすべてを支配するディストピアとかゾッとしない。
現状のまま場当たり的に対応していけば、社会が残ってもそうなるだろう。
お金の力はすごいものだ。
誰でも力を得られる社会でもお金で人を動かせる人間は最強だ。
今の尾張周辺の状況を考えるに、今一番力を持つのは米を抱えてる大名と、次いで商人だろう。
商人は利に聡い。
レベルアップの仕組みに最初に気づき、利用しようとするのもこの層だと思う。
だとすると、大名は商人の下につかざるを得ないだろう。武力も財力も消えて権威しか持たないものがどうなるか、この戦国の世でも理解している人はいるはず。
大名に武力と財力を集めなければならない。
奇しくも史実で織田家がやろうとしたことをトレースしている私であった。
磨き上げられた私は、津島神社の中で信光おじとご挨拶をしている。
信秀は現在織田家の中枢本部と化している那古野城で到着を待っているそうだ。
正装なのに相変わらず(昨日の夜あったばかりだけど)の山のような筋肉を隠せない信光おじ(オジノッブ)は快活な笑みを見せながら言う。
「嫁御殿。昨日はよく眠れたかな?輿入れ行列が襲われ怖い思いをしたそうだが。三郎が間に合ってよかったよかった。」
「はい。初めて戦を見て興奮のあまり眠れないかと思いましたが、ぐっすりと眠れましたわ。案外、父の血は私にも色濃いようで。」
マムシの娘だから全然平気だったよアピールしとく。
こういうので父ちゃんの評価が上がる世の中なので名前を売れるときには売るのだ。
「そうかそうか!嫁御殿は豪胆であるな!いやはやさすがは山城守さまの娘である!聞けば、戦の最中も取り乱さず兵を鼓舞されたとか。三郎もよい嫁をもらったものじゃ!おっと、祝言はまだで御座ったな。」
おおう、そういう話になってるのか。
実際は怖くて固まって棒立ちしてただけなんだけども、強い嫁が来たって方がみんなが喜んでくれればそのほうが良いじゃんね。
やさしい嘘は大事なのだ。
「いえ、わたくしは精強な兵を信じていただけですわ。本当は怖くてたまりませんでしたの。三郎さまが来てくださったあとは大いに取り乱して、大変お恥ずかしい姿をさらしてしまいました。三郎さまに呆れられていないか心配ですわ・・・」
昨日の信長の呆れた目が忘れられない。
パニくったとはいえ最悪の第一印象になっただろう。
でもしょうがないじゃん!怖すぎるよあんなの!漏らさなかっただけでも褒めていただきたい!!
帰蝶ちゃんは褒められて伸びる子なんです!
「いやいや、三郎も可憐な姫に心奪われたようであるぞ。間に合って本当に良かったと安堵しておったからな。取り乱された様子を見て、夫となる覚悟を決めた様子であった。だから気にしてはならぬぞ。あやつはうつけだが気は優しい男であるからな。」
優しく慰めてくれるマッチョ系イケおじ。
もっと言ってもっと言って!帰蝶やさしくされるの好き!
ここは憂い顔でもう一声優しい声をかけてもらうターン!
「そうであればよいのですが・・・」
「憂いなさるな嫁御殿。三郎は照れ屋なのでな。昨日は何も話さなかったのだろう?あれはな、いつも言葉が足らんのよ。そこに照れが入って何も言葉が出なかっただけよ。
そんな事ではいかんと叱っておいたからな。安心なされよ。
三郎が嫁御殿を悲しませるならば、この叔父が代わりに叱ってやろう。尾張での兄とも父とも思ってくれて良いのだ。安心して嫁いでくれてよい!
この織田孫三郎信光が請け負う!」
どんと胸をたたく。やだイケメン・・・!
帰蝶ちゃん信長も推しだけど信光おじも推すぅ!
この人もナーロッパ建国のキーマンだから、ここまで好意的なのは大変よろしい。
というか史実の織田家は美男美女ばかりとかいう話があったけどホントなんだな。
前世で信長と信秀以外はパッとしねえな織田家とか思っててすまん。
美男美女は国の宝!
来世があったら私は織田家を盛大に持ち上げることに決めた。
「叔父上、俺の嫁を口説くのはやめてくれんか?」
はわわ!信長が来た!やっぱ声がいいし顔もいい。
輿入れ行列を急遽成婚パレードみたいにする準備が終わったことを信光おじと話している。とても気やすい間柄のようだ。
史実で家督相続後にかなり擁護してくれていた有力親族だった、というのは本当のようだ。
私はおさきに促され、信長の前に歩み出る。昨日の礼を正式にするのだ。
でも声が出ない。顔が赤くなり、心臓が16ビートを刻む。
なんか言わなきゃ!昨日の第一印象を塗り替える渾身の姫ムーブを!
「あ、な、の、ののののノッブ!ききききの、昨日はあ、ああありがとととおおおお?フ、フヒ、フヒョホホホホ!」
あかんこれ何語だよ。
帰蝶ちゃんは姫ムーブをファンブルした!
姫ムーブどころか推しの握手会に初めて参加したキモヲタだこれ。
終わった・・・これあれだ、史実どおりなんかフェードアウトするやつだ。
やらかした自覚と恥ずかしさで顔を真っ赤にしてうつむく私。
おさきはマジかよコイツ、という表情で大きなためいきを吐く。
見なくてもわかんだよ。
前世からさんざんこういうの経験してっからさ。
あーあ。やっぱただのオタに姫様なんか無理なんだよー。
ごめん父ちゃん母ちゃん、やっぱ私にはナーロッパ建国なんて無理だった。
信長からの印象は最悪だろう。
美濃に帰れまであるかもしれない。
そうなりゃ戦争だ。小鬼も大鬼も一蹴する信長に美濃が叶うわけがない。
父ちゃん土下座すれば許してくれるかなぁ?
切腹はいたそうだから、なんかこううまいこと処してくれると嬉しいなぁ。
そうやって意識がマイナス方向に全速力を出す私を。
信長は。
ニヤリと笑ってやさしく頭を撫でたのだった。
ナーロッパをコミュ障オタクが作る?できるわきゃねえだろうがぁ!
だから、協力者は必須なんです。




