七月、縁日だけを受ける
七月に入ると、話の重さが変わった。
仕出しの口が、一気に増える。人数も多い。
日にちも詰まっている。
せやけど、博之は首を振った。
「夏の仕出は、受けません」
理由を聞かれる前に、はっきり言う。
「暑い」「持たへん」「何かあったら、取り返しつかん」
火を入れて、詰めて、運んで、配る。
どれか一つ狂えば、腹を壊す者が出る。
それが一人でも出たら、店は終わる。
「今は、まだ背負われへん」そう言うて、全部断った。
案の定、町はざわつく。「ええ話、断るらしいで」
「もう余裕なんちゃうか」「前は違ったのに」
弁当売りの子が、気まずそうに言う。
「ちょっと、噂になってます」
博之は、その夜、静かに考えた。
全部断るのは、筋が冷たい。
でも、仕出は重すぎる。
そこで出た答えが、縁日やった。
「縁日の出店なら、受ける」
二日だけ。数も限定。鍋も、普段の延長。
持ち帰らせへん。その場で出す。
火を切らさへん。これなら、危険は抑えられる。
縁日は、遊びや。腹いっぱいにする場やない。
一杯飲んで、笑って帰る。それが、夏向きや。
当日、鍋の前には人が集まった。
「今日は出してくれるんやな」
「縁日だけ、って聞いたで」
博之は、笑って答える。
「夏はな、これぐらいがちょうどええ」
二日間、忙しかったが、無理はなかった。
誰も倒れず、誰も怒らず、
ただ「うまかった」で終わった。
噂の向きも、少し変わる。
「断る店やけど、理由がちゃんとしてる」
「夏は怖いって、よう分かってる」
博之は、それでええと思った。
仕出は、まだ早い。縁日は、今の器。
七月は稼ぐ月やない。信用を減らさへん月や。
そう腹に落としたまま、博之は次の季節を見る。




