仕出しの仕事が、まとめて来る
声がかかったのは、忙しさが一段落した頃やった。
仕入れ先の一人が、帳場で茶をすすりながら、何気ない調子で言う。
「今度な、寄合があんねん」「人数、ちょっと多い」「……いけるか?」
博之は、即答せえへん。一瞬だけ、頭の中で数を回す。
鍋はいくつ使えるか。火は足りるか。
給仕の動線はどうなるか。弁当売りを何人回せるか。
——できる。でも、無理をしたら歪みが出る。
「内容、聞かせてください」数を聞いて、もう一度だけ考える。
四軒分の力を集めたら、確かに届く。けど、これはいつもの店売りと違う。
仕出しは、失敗が許されへん。味も、段取りも、時間も。一つ狂ったら、全部が崩れる。
「引き受けます」
そう言うてから、博之は一気に動いた。
まず、人を集める。給仕の配置を決め、
弁当売りには別口の仕事を振る。仕込みは前倒し。
鍋は店ごとに役割を分ける。「今日は、店やなくて、一つの現場や」
そう言われて、皆の顔が引き締まる。
当日。朝から火を入れ、味を確かめ、数を数える。
普段より声は少ない。無駄な動きもない。
仕出し先では、誰も派手に褒めへん。せやけど、不満も出えへん。
それが一番ええ。すべて終わったあと、戻ってきた鍋は空っぽやった。
湯気も消えた鍋を前に、誰かがぽつりと言う。
「……できましたな」博之は、黙って頷く。
派手さはない。でも、確かな手応えがあった。
これは、数をこなした喜びやない。四軒が、一つの仕事を
一つの呼吸で終えた、という感覚や。
「次も、来るかもしれん」
そう言われたとき、博之は浮かれへんかった。
「来ても、同じようには受けません」
「その時、その時で考えます」
無理に広げたら、今まで積み上げてきたものが壊れる。
仕出しは、仕事の“量”やなく、店の“深さ”を試す仕事や。
この日を越えて、博之は確信する。
四軒は、ようやく一つになった。でも、まだ余裕はない。
だから、急がへん。欲張らへん。
今日できたことを、明日もできるようにする。
それだけで、今は十分やった。




