結果で黙らせる
三軒目が動き出して、最初に音を立てたのは、給仕やった。
「なんで私がそこまで言われなあかんのですか」
帳場の端で、給仕の女が声を荒らげた。相手は、さきちゃん。
言葉は抑えているが、譲らない。
「ここは三軒目や」「一軒目と同じ動きしたら、回らへん」
女は腕を組む。「でも、今までそれで売れてきましたよね」
その言葉に、周りの空気が揺れた。別の日には、弁当売りとも揉めた。
売り子の一人が言う。「最近、口うるさないですか」
「前はもっと自由やったのに」
さきちゃんは、即答せんかった。一拍置いてから、言う。
「自由やったのは、店が小さかったからや」
その場は、それで終わった。納得した顔やない。
夜、帳場でのぶが言う。「反発、出てきましたな」
博之は、湯をすすりながら答える。「想定内や」
「締めたら、必ず揉める」「問題は、その後や」
さきちゃんは、悩んでいた。注意しても、言うことは聞く。
でも、腹には落ちてへん。せやから、やり方を変えた。
言葉で詰めるのをやめた。結果を先に出した。
忙しい日に、人を入れ替えた。動きの悪い者は外し、
言われた通りに動いた者を前に出す。その日、回転が違った。
客の滞りが消え、クレームも減った。
弁当も同じや。段取りを変え、戻りを待たず、次へ回す。
売上は、数字で出た。
数日後、例の給仕が言う。「……あの動き、楽でした」
弁当売りも、ぽつりと漏らす。「売れ残り、減りましたね」
さきちゃんは、頷いただけや。
その夜、博之が言う。「よう、我慢したな」
「言い負かす必要はない」「結果が出たら、勝手に黙る」
のぶが、苦笑いする。「でも、この先は一人じゃ無理ですな」
博之も、それは分かっていた。三軒目までなら、
給仕頭一人で回る。せやけど、四軒、五軒となったら、
相談役が要る。「古参やな」博之が言う。
「現場を知っとる奴らで、一段上の話をする」
さきちゃんは、静かに答えた。
「その時は、私一人で決めません」
「みんなで考えます」
博之は、満足そうに湯呑みを置いた。
店は、大きくなる。せやけど、
人の数だけ、正解が増える。
締める役、受け止める役、考える役。
それが揃わんと、どれだけ売れても、先はない。
三軒目の灯りは、その夜も消えへんかった。
けど、その奥では、次の段を考える時間が、
静かに始まっていた。




