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縁日の鍋が空になってからー町のひととのやりとりー

鍋が空になり、火を落とした頃には、境内のざわめきも少し落ち着いていた。

湯気の消えた鍋を覗き込み、博之は、ほっと息を吐いた。

「よう出たな」誰に言うでもなく、そう呟いた。

そこへ、さっきまで汁を飲んでいた町の男が声をかけてくる。

「兄ちゃん、羽振りええなあ」博之は、思わず苦笑した。

「たまたまですわ」「いやいや、たまたまにしては、ええ汁やったで」

別の男が割り込む。「なあ、あんたとこの店、また行かしてもらうわ」

「縁日のあれ、遊びやけど、味は本気やな」「ああいうの、嫌いやないで」

博之は、頭を下げる。

「ありがとうございます。普段は、もう少し静かな店ですけど」

「それがええねん」「毎日騒がしいんは、しんどい」

そんな会話の端で、年嵩の女が口を挟んだ。

「なあ、あんたのとこ、人、足りてへんのちゃう?」

博之は、少し驚いた顔をする。「よう分かりますね」

「鍋の回し方見たらな。あれは人増やす前の手つきや」

別の若い娘が、控えめに続く。「……あの、お給仕とか、探してはります?」

博之は一瞬言葉に詰まり、正直に答えた。

「今すぐやないですけど、これから増やすつもりはあります」

「そうなんですか」娘は少し顔を明るくする。「もし、話あったら……」

そのやりとりを見て、別の料理人風の男が笑った。

「兄ちゃん、あんまり目立つと、変なんも寄ってくるで」

「腕ある言うて、勝手なこと言う奴もな」

博之は、うなずく。「そこは、気ぃつけます」

すると、最初に声をかけてきた男が言った。「けどな、縁談は話が別や」

「本人が嫌なら無理にせえへん」

「せやけど、町の娘や料理人で、ええ縁ありそうなんは、いくらでもおる」

博之は、慌てて手を振った。「いやいや、俺は……」「分かってる、分かってる」

男は笑う。「今は店やろ」「せやけど、話だけでも回しといたるわ」

周りが、どっと笑った。

気がつけば、鍋は空やのに、人はまだ残っている。

博之は、その輪を見渡して思った。

――ああ、今日は汁を売ったんやないな。

――顔を覚えてもろたんや。

夜風が冷たい。

けれど、先ほどまでの湯気が、まだ胸の奥に残っていた。

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