三つ目の灯り
三件目は、想像以上に滑り出しがよかった。
朝の立ち上がりも、悪くない。
昼の顔も、ちゃんとできる。
夜も、空席が続く時間は短い。
「二軒やってる」その事実が、効いている。
それに――弁当売りの女の子たちや。
「三軒目、できました」そう言って回ってくれるだけで、足は自然と流れる。
ここに通う足が、このまま根付くかどうかは、まだ分からん。
せやけど、立ち上がりは、二件目とほぼ同じ。
博之は、それを**「数が増えたことの効果」**やと受け取った。
仕入れにも、変化が出始める。
味噌卸しの男が、ぽつりと言う。
「これくらい使うなら」「ちょっとくらい、割引いときますわ」
弁当箱の問屋も言う。
「こんだけ出してくれるなら」
「単価、下げてもええですよ」
今までなら、ありえへん話や。
勢いがある。そう見られてる。
(……こういうもんか)
博之は、内心でそう思う。
手のひらを返された気がせんでもない。
せやけど、勢いがあるというのは、
そういうことも含むんやろう。
浮かれたら、足元をすくわれる。
博之は、改めて気を引き締める。
問題は、次や。弁当売りの数を、どうするか。
今は、足りている。
せやけど、九軒を見据えるなら、足りへん。
女の子を、少しずつ増やす。
それは、もう決まっている。
せやけど、どこを回らせるか。
今の筋だけやと、限界がある。
別の筋にも、アンテナを張らなあかん。
「情報も、拾わなあかんな」
博之は、そう考える。
弁当売りは、売るだけやない。町を見る目でもある。
人の流れ。昼と夜の差。買う人と、買わへん人。
それを、自然に拾って帰ってくる。
「回す、いうのは」博之は思う。
「店を回すことやのうて」「町を回すことかもしれんな」
三つ目の灯りは、ちゃんと点いた。
次は、どこに灯りを置くか。博之は、帳場で帳面を閉じる。
まだ、勢いに乗るには早い。
せやけど、立ち止まる理由も、もうない。




