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五縁の日が回り始める


最初の五縁の日は、正直なところ、静かやった。

暖簾に小さく「五縁の日」と貼っただけ。

博之は、特に声を張らん。値段も、聞かれたら答えるだけや。

「今日は五縁の日です」

そう言うと、客が一瞬、顔を上げる。

「……なんや、それ」「五の付く日です」「縁を担ぐ日でして」

笑う者もおれば、首をかしげる者もいる。

せやけど、汁を一口すすったら、話は早い。

「安いな」「いや、これ普通にうまいな」

その日は、いつもより少しだけ客が多かった。

大繁盛でもない。せやけど、帳面は崩れへん。

博之は、それで十分やと思った。

二回目の五縁の日は、様子が変わった。

昼前、暖簾を出した途端、顔を覚えとる男が入ってくる。

「お、今日やろ」「五縁の日」

博之は、思わず笑った。「お前、この日しか来へんな」

「せや」「せやけどな」「この日に来たら、ええもん食えるやろ」

その後も、同じ顔がぽつぽつ現れる。「また来たな」「またや」

店の中で、そんなやりとりが増えた。五縁の日は、安い日やない。

顔が集まる日になり始めていた。

三回目。もう、説明はいらんかった。

「今日は五縁の日やろ」「弁当、五文引きやな」「汁もか」

言われる前に、博之が椀を出す。「せや」

その日は、初めて来る客も混じった。隣の客が、教える。

「ここな、変な企画ちょこちょこやる店や」「けど、味は外してへん」

「今日は、ええ日や」

その言葉を聞いて、博之は鍋を見た。

――ああ、伝わり始めたな。そう思った。

五縁の日が、一ヶ月で三回来た。毎回、同じ顔が何人か来る。

「この日だけの客」が、確かにおる。

帳面を閉じて、博之はのぶに言った。

「三軒目、いけるな」

のぶは即答せん。数字を一度見てから、うなずいた。

「人、増やしましょう」さきちゃんも言う。

「給仕、もう一人あっても回りますね」

その晩、博之は暖簾を下ろすと、そのまま口入屋の方へ足を向けた。

「人を、探してほしい」「小間使い一人」「給仕の女の子、一人」

口入屋は、目を細めた。「また店、増やすんですか」

博之は、首を振った。「いや」「増える準備や」

路地裏の灯りは、まだ二つ。せやけど、五縁の日は、

三つ目の場所を、もう照らし始めていた。

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