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さきちゃん、動く。

翌朝。

さきちゃんは、店を開ける前に外へ出た。

向かったのは、路地の角の団子屋。

「串、いらんです」

親父が、一瞬だけ首をかしげる。

「弁当と一緒に配るんで」

それだけ言う。

親父は、黙って包みを替えた。

袋の中には、串なし団子。

甘い匂いが、ほんのりする。

「これ、ええな」

次は、近所の大工。

朝から、木屑の匂い。

「おはようございます」

「弁当屋です」

「これ、よかったら」

団子を一つ、手渡す。

「ええん?」

「はい」

「昼、お腹すくでしょ」

それだけ。

昼。

弁当は、

いつもより早く出た。

買うのは、顔なじみ。

せやけど、手が止まらん。

「団子、うまかったで」

そんな声が、混じる。

夕方。

さきちゃんは、張り紙を書く。

「五つ買うたら、一つただ」

どこかで見た、やり方。

通りがかりの客が、立ち止まる。

「ほんま?」

「今日だけです」

五つ。また五つ。

値は、下げてへん。

せやけど、数が動く。

夜を待たずして

弁当箱は、きれいにはけた。

一つも、残らん。

博之は、その様子をさきちゃんが

話してくれるのを聞き終わり、さきちゃんを見る。

少し疲れとる。でも、笑っとる。

「これでええ」

「とりあえず、弁当ははける」

路地裏の灯りは、その夜、

少しだけ強なった。

派手やない。

せやけど、腹に入った団子と弁当が、

確かに明日を連れてくる。

商いは、こうして、人の手を渡りながら、

形になっていった。


ところ変わってある日の夕方。

さきちゃんは、店の前で立ち止まった。

通りは細い。人は流れるけど、足は止まらん。

「見る理由が、足りへんな」

そう呟いて、紙を一枚出す。

張り紙を書く。「弁当あります」

「五つ買うたら、一つただ」

字は少し丸い。目線の高さに貼る。

それから、外の売り子を呼んだ。

「声、出して」

売り子が戸惑う。

「値段、言わんでええ」

「まず、あるって言うて」

さきちゃんは、見本を見せる。

「弁当ありますー」

「今日、

 五つで一つただですよー」

声は、張りすぎへん。

通りに、置く感じ。

最初の一人が、振り返る。

「え?」「今から、すぐ出せます」

それだけ。二人目。三人目。

張り紙を見る。声を聞く。

足が、一瞬止まる。

「五つって、多ない?」

「ご近所で分けてもらっても、ええですよ」

売り子が、そう返す。

箱が、一段減る。また一段。

値は、下げてへん。

せやけど、数が動く。

夜。

弁当置き場は、きれいに空になった。

売り子は、少し照れた顔をしとる。

博之は、離れたとこから見て、一言だけ言う。

「声が、看板になっとるな」

さきちゃんは、小さく笑った。

「外は、話しかけたもん勝ちですね」

路地裏の灯りは、その夜、一段、外へにじんだ。

張り紙と声が、弁当を連れ出した。

商いは、こうして、待たずに、迎えに行く形を

一つ覚えた。

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