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二軒目開店。のぶに授ける博之の秘策

二軒目は、のぶに任せた。

「腕は足りとる」

「足らんのは、場や」

博之はそう言って、

一軒目に腰を据えた。

火は自分が守る。二軒目は、人に任せる。

分けたのは店やない。責任や。

問題は、最初から分かっとった。

二軒目は、客が読めへん。

場所も違う。顔も違う。通りも違う。

帳面の上では、数字は立つ。

せやけど、商いは帳面どおりには来ぃひん。


夜、三人で座った。

三井の小間使い。のぶ。博之。

鍋は火を落とし、惣菜だけが残っとる。

「完璧は、目指さん」博之が先に言う。

「売り切らんでもええ」

「捨てん形を作ればええ」

目標は、静かに決めた。

豚汁 二十。

鳥汁 二十。

弁当も、30文の普段の弁当とだし巻き卵を二十ずつ。

「全部は無理や」「半分出たら合格や」

のぶに、そう伝える。

策は、三つ。

一つ。五人来たら、一人無料。

「誰か連れて来たらええ」

「店に理由を作る」

二つ。惣菜の試し食べ。

「味は嘘つかん」

「腹に入ったら、財布は緩む」

三つ。一日十人限定の値下げ。

「急がせる」「悩ません」

「客の入りに応じて、やり」

博之はそう言って、小さな袋を出した。

一両分。四千文。

「これは仕入れや」「給金とは別や」

「足らんかったら、恥かかん程度に使え」

「余ったら、別に回せ」

のぶは、一礼した。

「背負わせすぎやないですか」

三井の小間使いは言う。

博之は笑う。

「背負わせんと、店は人にならん」

「潰れる重さは、こっちで持つ」

その夜、二軒目に灯りが入った。

少し暗い。少し静か。

せやけど、

鍋の匂いは同じや。

路地の奥で、

のぶが声を出す。

「今日は、試しでやっとります」

最初の客は、値段を聞いて、首をかしげ。

惣菜を一口食べて、

黙って椀を持った。

完璧やない。

せやけど、止まらん。

二つの灯りは、

その夜、確かに揺れながらも

消えずに残った。

博之は一軒目で、帳面をつけながら、

ふっと息を吐く。

「これでええ」

商いは、広げるもんやない。

続けられる形に、割るもんや。

路地裏の夜は、いつの間にか、

二軒分の時間で流れ始めていた。

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