賃の決めどころ
暖簾を下ろし、
昼の仕込みが一段落したところで、
博之、のぶ、三井の者、ユキの四人が集まった。
博之が、帳面を指で叩きながら言う。
「雇い賃の線は、ここで決めてまおう」
「あとから揺れると、人も店も落ち着かん」
のぶがうなずく。
「まず、料理人ですが」
「いきなり一人前やのうて、下働き上がりで四両」
「弁当を一通り回せて、鍋にも手を出せそうなら、
五両まで上げる」
ユキが、軽く口を挟む。
「無理のない線やな」
「腕が上がった分だけ、賃も上がる」
三井の者も静かにうなずいた。
「育てる前提なら、妥当です」
博之は続ける。
「下働きの女の子は、二両」
「条件は一つ」
「愛想がええこと」
「掃除や配膳は後でええ」
「客に一声かけられるか、それだけで店の空気は変わる」
ユキが笑う。
「それは間違いない」
「腕より顔、言い方悪いけど、商いでは大事や」
「弁当売りは」
と、博之。
のぶが即座に答える。
「昼の二刻(二時間)だけ」
「固定で二百文」
「それに、弁当一組につき十文」
「出来高を足す」
ユキが指を折って計算する。
「十組売れたら、百文上乗せやな」
「娘さんでも、十分うまみがある」
博之はうなずく。
「売り歩きやすい方がええ」
「背負わせる量も、無理させん」
三井の者が、少し視線を上げて言う。
「狙いは?」
博之は、少し考えてから答えた。
「二店舗の間」
「それと、大阪から出入りする商人衆」
「昼の差し入れ、道中の腹ごしらえ」
ヒロが笑う。
「それなら」
「愛想のええ子やな」
「話しかけやすくて、呼び止めやすい」
のぶも言う。
「商いの顔になります」
「年季で縛らず、続くなら続く、でええ」
博之は、帳面を閉じた。
「これでいこ」
「料理人は四両から」
「上が見えたら五両」
「下働きは二両」
「弁当は二百文+出来高」
「欲張らん」
「せやけど、ケチらん」
四人の間に、
納得の間が落ちた。
この店は、
大きな看板は背負わない。
だが、
人の賃と役目だけは、
最初からきっちり決めていた。




